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金色の宇宙1.1 〜我ら竜騎兵隊〜

シーン5



 カナダ統合軍特殊作戦執行部。それはカナダ軍の中で次世代兵器の開発と試験・実戦を行うために設立された機関で、優れた兵士と技術者、豊富な物資を要する。彼らの戦果がデータとなり、引いてはカナダ軍全体を成長させる。
 今、夜明けの風を切り裂いて進み行く彼らは、同組織の中でも試作機や先行量産機で編成された試作起動兵器実験中隊である。アムステラの大部隊が基地に接近していると知らせを受け、先制攻撃をかけるために基地を飛び出した。

『各小隊、問題ないか?』
『第二小隊、各機異常無し』
『第三小隊、全員付いて来ています』
『第一小隊は?』

 中隊長の点呼に一人返事が無い。通信に間が空いた。

『リニア=ヒュカイン少佐?』
「異常無し。考え事をしていた」
『ああ、例の物か?』
「一応私も関わっていたから。中途半端なままで戦場に出て大丈夫かどうか……」
『それでも使うしかあるまい。そうしなければ、アムステラには対抗できないかもしれない』

 戦場には似つかわしくない、まだ子供の少佐殿である。だが"シャープフォックス"の呼び名が示すとおり、相当な切れ者だった。呼び名には少なからぬ揶揄が込められているが、試作機のアンセス、ディセンダント、彼女の乗機ディセンダント・リニアル、全て彼女が開発したものである。
 そのディセンダントが、分厚い鋼の隊列を組んでリニアの後に付き従っている。

『すぐにアムステラとの戦闘になる。貴官のディセンダント・リニアルは我らの切り札の一つだ。余計なことは考えず、戦いだけに集中してくれ』
「……了解」
『トービノ中尉、彼女を頼むぞ』
『はいはい、任せてください』

 第一小隊の副隊長ユイマ=トービノ中尉が、慣れたものとでも言うように答えた。実際、管理者としては彼の方がより信頼を置かれている。それが分かっていて、リニアは不満そうに声を上げた。

「私は問題無い。お前の世話にはならないよ!」
『そう言うなって。今度の敵はけっこうな規模だぜ、俺が見守っててやるから』
「いらない!」

 気の抜ける会話が回線を占領してしまった。部下たちはまた始まったと呆れつつも、アムステラという大敵を前に、揺るぎを見せない上官に頼もしさを覚えた。


「北極圏……と言うのかな。この地域は朝が美しい気がする」

 アミの率直な感想だ。緯度の高い地域は厳しい環境で生き物に迫るが、うっすらとした陽光に照らされて、手付かずの自然が生き生きとして見える。風が吹けば粉雪が舞い上がり、これがまたキラキラと光を反射するので美しい。
 そんな他愛もないことに関心が持てるほど、まだ彼らには余裕があった。
 アムステラ軍は部隊を三つに分けて侵攻している。竜騎兵隊は操兵運搬用の小型陸上艇で南に迂回し、頃合を見て別働隊と本隊が攻撃を開始する。そのラグはおよそ二時間。本隊は更に時間差をつけて動く。つまり、その間に竜騎兵隊は地球軍を引き付けなければ作戦の意味が無くなる。せいぜい派手に暴れてやらねば。

「マッシーモ、敵との予測接触時間は?」
『十五分後に第一の防衛線とぶつかるでしょう。更に第二、第三の防衛線。それらを突破してようやく基地に近づけます』
『めんどっちいな、おい』
「フランチェスコ、怖気付いたか?」
『バカ言うな!』

 元気はありそうだと、アミは確認した。彼女が隊長となった新体制では、初めての大規模な作戦となる。緊張の色は少なくない。だが、それを部下に気取られたくは無い。

「敵の武装は報告があったな。戦車に固定砲がほとんどか……」
『近くの航空基地から増援も来るでしょう。しかし、そんな奴らに構ってはいられません、防衛線を突破して、基地まで侵入しましょう』
『そうしようぜ』
「うむ。だが作戦が第一だ。別働隊との連絡は密にしておけ」
『了解』

 間もなく地球軍の防衛線がレーダーで確認された。その時点から陸上艇を降りて、操兵の足で雪上を進む。
 地球軍が遠方から第一射を放った。羅甲隊は盾を頭上に構えつつ左右に走る。そのまま砲弾の雨を潜り抜け、隙を見ては反撃した。
 先鋒はフランチェスコが務めた。緋弓爬]を中心に、カナダのポーキュパイン戦車部隊と乱戦を繰り広げる。荒武者のフランチェスコも、いきなり突進はしない。アミがそう命じてあった。戦車砲を避けながら時間を稼ぐうちに、後方で重装型羅甲の一隊が砲列を敷き、一斉攻撃をかける。レール砲の直撃を受け、戦車が数台宙を舞った。これで敵の攻撃力は激減する。
 フランチェスコが残りの戦車部隊を蹴散らすと、防衛線の塹壕やクリークに潜む敵兵に迫る。彼らの操兵に対し、固定砲台や迫撃砲の攻撃が集中したが、操兵の装甲を破るには力不足だった。対戦車ロケットを操兵の手足、装甲と装甲の間に狙いを定める兵士もいたが、彼らを別の砲弾が襲った。マッシーモがフランチェスコ隊の後方から援護射撃を放った。
 フランチェスコとマッシーモの連携はアミの予想を上回るデキだった。フランチェスコは頭の切れという点において問題がある。しかし、彼の豪快さは水面に石を投じるように、敵味方を揺り動かす。マッシーモはその間隙を突いて敵を切り崩すのが得意のようだ。他の分隊指揮官は凡庸か未熟者だが、この二人は他の部隊と比較しても遜色が無い。彼らの上に立つ以上、情けない様は見せられないとアミは自分を叱咤した。
 マッシーモとフランチェスコの前進は続く。第一防衛線を突破すると、瞬く間に次の防衛線を崩しにかかった。途中、重武装のヘリが空中に現れたが、アムステラの操兵部隊にとってこの程度は問題にならない。マシンガンとミサイルで叩き落す。
 第二防衛線が近づいてきた。今度は戦車やヘリだけでなく、人型兵器も配置されている。地球軍の5型と呼ばれる兵器だった。

「私がやる!」

 他の者に先んじてアミが突進した。幸い敵のマシンは銃火器を所持しておらず、アサルトライフルで迎撃してきた。しかし緋縅の装甲とスピードは止められない。後からマッシーモが援護射撃もくれている。
 全速力で接近し刀を抜き放った。相手の5型は腰を横なぎに斬られ二つに割れた。もう一機、うろたえている。これも容赦せず一太刀で戦闘不能に追い込む。
 背後に一機回り込んできた。生意気な。そう思っていると、その敵はフランチェスコの破砕球を喰らってひっくり返った。彼はすかさず大剣を構え、胴体に付きこむ。小さな爆発とともに5型は動かなくなった。

『後が留守だぜ隊長』
「これぐらいサポートできないようなら兵卒からやり直しだ」
『助けたのにそれかよぅ』


結局、第二防衛線も大した時間をかけず突破できた。しかしアミは、この手応えに違和感を覚えていた。

「マッシーモ。敵の備えが薄いと思わないか?」
『……? 我々が不意を付いたからでは?』

 アミには、そうは思えなかった。違和感がある。彼らは、地球人はこれほど弱いのか? 基地の戦力は少ないのか? そもそも、違和感の原因はそのことなのか?

『おそらく、最後の防衛線には増援も加えた部隊がいるでしょう。戦力を集中させる方が有利です』
『早く行こうぜ』
「……」

 心にしこりが残っている。

「マッシーモ、念のため本隊に連絡を入れて――」
『――! 緊急連絡が来ました!』

 マッシーモが緊張した声を発すると、部隊全体に緊張が伝播していった。

『こちら別働隊。予想よりも早く地球軍を発見。交戦に入る!』
『どういうことだ?』
『地球軍が基地から出てきていたんだ。奴ら、基地から打って出てきた』

 どうやら地球軍は、基地に立てこもるよりも積極的に攻撃するとこを選んだようだ。

『隊長よう、これが何か関係あるのかもな』
『戦力を今言っていた、基地から出る方に割いた分だけ守りが薄いのでしょうか?』

 アキナケスが考えを述べた。
 違う、とアミは思う。それは違和感の原因じゃない。違和感?

「……その敵、何か作戦があるぞ」

 彼女は違和感の正体に気づいた。それは「頭を使っているかどうか」だ。アミは戦いに臨む時、実力とは別に計略で勝率を高めようと頭を働かせる。そのため、敵も何かしら知恵を絞ってくるだろうと考えがちになる。その知恵、計略が、防衛線の守備隊からは感じられなかった。
 だが敢えて基地を飛び出した敵部隊。これには思惟、狙いといった感情を感じる。

『作戦って何だよ?』
「分からない。だが、こちらが作戦を練ったように、敵も手を打ってきたのは間違いない。我々の単独行動は敵が守りに入った時に有効となるが、敵が逆の動きをしていては意味が無い」
『このまま基地に攻撃しても意味は無いのでしょうか?』
「数が少なすぎる、制圧できない。それよりも敵に切り札があった場合、本隊と別働隊が危険かもしれない」

 敵側の狙いは何か。確たる情報も無く、ただ予感だけで判断するべき状況ではない。アミは考えた末、命令を下した。

「全戦力を以って最後の防衛線を突破する。その後、マッシーモとフランチェスコの部隊は、私と共に別働隊を援護に向かう。残りの部隊は敵基地の様子を見て来い」
『様子を見て、どうするのですか?』
「判断はアキナケス、貴官等に任せる」
『えっ、そんな!?』
「つべこべ言ってないで、防衛線を破るぞ! ここに来る時乗っていた陸上艇を呼び戻しておけ!」


カナダ軍の牙がアムステラの別働隊を襲っていた。ディセンダントが火器を並べれば、同数の羅甲では持ちこたえられず、射程外からの砲撃に装甲を食い破られていく。ディセンダントのホバー走行は雪上の羅甲を運動性で上回る。そして射撃ポジションを取ると、レールカノンの雨を降らす。空戦型羅甲も地上部隊の支援に出撃したが、これにはグラニMが対応して好きにさせない。
 何よりリニアの、狐の牙がアムステラを近づかせなかった。

「喰らえ、愚図共!」

 ディセンダント・リニアルの火砲が空中の操兵をなぎ払う。レールカノンと、アムステラの『轟雷砲』を改造した轟雷砲・改。この機体に火力で勝るマシンは、戦場にはいなかった。彼女とディセンダント隊の進むところ、操兵たちは反撃もままならず打ち崩されていく。雪が彼等の足を取らなければ、もう少し別の結果になったかもしれないが。
 最初は一進一退だった戦闘は次第に地球側へ傾いていく。リニアの活躍でアムステラの空戦部隊が退くと、グラニ隊が前進する。それにより、空陸立体での攻撃が可能となり、アムステラの操兵隊を上下から狩り立てられる。

「バカなやつ等、私とリニアルの前に立って、生きていられると思ったか?」
『だが油断するなよリニア。戦いはまだまだ序盤だ、敵の後続がすぐに出てくるぞ』
「分かってる! そいつ等も私が消してやるさ!」
『頼もしいけど見守る俺の身にもなってね』

 空中のグラニ隊をまとめるユイマが彼女をたしなめた。
 アムステラは彼等に押され続けた。厳しい環境が兵士の士気を下げたか。機体が寒さに絡め取られているのか。それとも、これが彼女たちの実力か。ただ、数でアムステラが勝っていることは変えられない事実だ。
 リニアたちの前に更なる操兵隊が現れた。前衛部隊が蹴散らされている間に陣形を整えたようだ。砲戦型や重層型の羅甲が一斉に砲撃を始める。砲戦重視の布陣同士、ここにきてかち合う。

「奴ら……!」
『焦るんじゃないリニア、少し下がれ。俺たちはアムステラを基地に近づけなければいいんだ。それを忘れるな』

 言いながらユイマは、グラニ隊を上手くまとめて敵の射程外へと逃れた。
 ここで無理をする必要はない。そろそろ"アレ"の出番か。リニアは頭を切り替えると、部隊を一旦後退させ、回線を開いた。

「“トレバシェッター”の状況はどうなっている?」
『間もなく第一射が撃てます』
「なら戦況データを送る」

 場所は後方。カナダ軍基地の敷地から僅かに離れた広い空間に、多量のコンテナが集積されていた。
 その中、一際異質な物体が静かに佇んでいる。あれは機動兵器か? それとも巨大な戦車か? 30mを超えるその巨魁は背中に鉄塔のような物体を背負っていた。その鉄塔を、はるか東へ向けてゆっくり倒していく。あれは、砲台だ。

『トレバシェッターを使うぞ! マスドライバーを倒せ! 角度合わせ!』
『データ来ました。味方は敵の操兵隊に足止めされています』
『こいつの出番だな





 トレバシェッターと呼ばれたマシン。あまりに長すぎるその『マスドライバー』はレールガンと同じ原理で、電磁誘導によって物体を加速させ、飛ばす。これは宇宙開発のために試作品として造られた小型のマスドライバーだが、アムステラの襲来によって宇宙開発事業そのものが凍結されてしまった。それを買い取り、兵器に転用、設計したのがこのトレバシェッターだった。
 弾頭は何でもいい。今回は爆薬を満載したコンテナを用意した。マスドライバーの動きが止まり、機体に電力が満ちる。

『発射!』

 号令と共にコンテナが宙を舞った。


「艦長、地球軍の基地から飛来物です」

 観測手がレーダーを見て、状況を伝えた。艦長は中距離ミサイルかと思ったが、今更になって撃つのも妙である。もし本艦を狙ったものならば、打ち落とせばいい。

「はっ、速い!?」

 観測手の声が裏返った。コンテナは圧倒的な速度で飛び、前衛の操兵隊のすぐ側に落下した。瞬間、爆薬が炸裂して当たり一帯が火の海となる。

「何だ? 何が起きた!?」

 長距離からのレールガン爆撃。ミサイルよりも観測が遅れる危険な代物だ。だが艦長はその正体すら知ることができない。
 ミサイル以外の長距離兵器とあれば、その大きさは隠すのが難しいはずと艦長は思う。基地の地下に格納するとしても、そのための工事は時間がかかる。だが偵察部隊からの、ここ数ヶ月の報告には、そんな情報は含まれていなかった。
 移動可能な兵器を持ち込んだということか? 艦長は地球軍が保有するという緑色の怪物について思い出していた。まさか、無い。

「前衛部隊はどうなった!?」
「確認中です……。地球軍の攻撃を受けています! 壊滅状態です!」
「まさか……!?」

 こんなものを地球人が使ってくるとは。アムステラは大規模破壊兵器の使用を避けて、主に操兵での地球侵攻を行ってきた。最初は、それだけで事足りた。
 だが今や、地球人は強力なマシンを何体も戦場に送り込み、アムステラとハンデ付きながら拮抗していた。
 今回の作戦でも、基地を離れたところからミサイルで殲滅する手はあった。しかし、それでは周囲の自然も壊滅するだろう。間違いがあれば、民間人にも被害は出かねない。その枷が、逆に彼らを苦しめる。地球に来てからよく見られることだ。本作戦の司令官ボイヤーも操兵に頼りやすい点で凡将だった。
 操兵隊が突破された。後衛の操兵隊が防衛に当たるが、先ほどのように遠方から攻撃されかねないだろう。そしてその次は、本艦が狙われるかもしれない。

「ほ、本隊は? 救援は求められないか?」
「本隊は作戦通りの行動を取っていました……。我々も、先刻までは互角でしたから、本来の作戦を続行しているのでしょう」

 士官の言葉に艦長は色を失った。本隊はこの敵を知らない。別働隊の次は本隊が、この長距離爆撃にさらされる。いや、その前に自分たちのことを考えなければ。

「操兵隊を全て出撃させろ! 他の部隊に救援要請を出せ!」

 命令を出した直後、艦のすぐ側に流れ弾が飛んで来て、乗員はひやっとした。地球軍が潮のごとく迫ってきている。



『こちら竜騎兵隊。応答願う。今そちらに向かっているところだ、今なら敵を挟み撃ちにできる。それまで持ちこたえてくれ、以上』

 アミの予感は悪いことに当たっていた。最後の防衛線も突破できたが、その先にはカナダ軍基地の更に厚い守りが待ち受けていた。竜騎兵隊単独でできることはここまでで、アミは宣言どおり引き返すことにした。それでも、間に合うかどうか。
 アキナケスたちを基地への牽制に残し、アミは別働隊を救出するため雪原を駆け抜けてていった。



続く