ウルトラマサイ プロローグ


数年前、アムステラバラエティTVにて―

「コブチ!(ムキィ!)」
「ティニーク!(メコォ!)」
「「マッスルショッピングゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!」」

肌の黒い二人のハイレベルマチョズムがポージングしながらテレビ画面を狭しと駆け回る。

「フン!フン!タァ!」
「オリャ!ソリャ!ドリャ!」

傭兵達の大食い王、コブチ。飯をたらふく食うことが生きがい。
傭兵達のトレーニング王、ティニーク。プロテインとジムには金を惜しまない。
そして傭兵という職業は収入が不安定、飯とプロテインに妥協出来なかったマチョズムズが
傭兵の仕事が取れなかった時に副業をするのは寧ろ当然である。
ホントはコブチはよく利用している食堂でのアルバイトがしたかったというのは秘密だ。

「コブチくん、腹筋を鍛えるのは大変だね。でも、誰もが僕達みたいに割れた腹筋が欲しいと思ってるんだ」
「ヌフフフフ、つまり今日はッ、簡単に腹筋を鍛えられる商品の登場と言うわけかティニークよ!」
「そのとおりッ、これさえ毎日使えば、例えば偶然パンチ力自慢ボクサーの2トンのパンチを
お腹に食らっても余裕で耐えられるのさぁ」

ティニークはそう言って一旦画面から消える。
数秒後スタジオを破壊しながら大型車がコブチに突っ込んできた。

「本日の腹筋トレーニングマッシーン、『2トン車』〜。これの衝突はゲーセンで2トンの記録を
たたき出せるボクサーのパンチに匹敵する、つまりこれを腹筋で止めれたらどんなパンチも怖くないっ!」

運転席から明らかに間違っている商品解説をするティニーク。
コブチは今日の最初の商品が何か聞いていなかった、この番組はいつもこんな調子である。
だが、コブチは逃げない。時速50キロ(ボクサーのストレートパンチとほぼ同じ)で迫るバンパーに
己の腹を真っ直ぐに突き出す。

「ヌオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」

ギャリギャリギャリギャリギャリ!!!!
靴裏から白煙を上げながらコブチは数メートル後退するものの見事2トン車の突撃を己の腹筋で受け止めた。
2トン車が止まった後、ティニークはゆっくりと降りてきて汗を流すコブチと共に再び番組の司会をする。

「これで毎日鍛えれば、腹筋パワーアップ間違いなしだねコブチくん!」
「ハアッハアッ、だが、腹筋ばかり鍛えていては腰痛の原因となる。
次は背筋も均等に鍛える為の商品を紹介しよう。ティニーク、少し待っているのだ」
「ああっ、こちらに背中を向けていればいいんだね?」

コブチが舞台袖へと去った後ティニークは彼の走っていった方へ背を向ける。
今度はコブチのターン。ティニークはコブチが持ってくる商品が何かは知らない。
やがて、ティニークが破壊したセットをさらなる重量で粉砕しながら巨大な影が現れる。

「上級者向け背筋トレーニングマッシーン『7トン車』〜』
「せ、せめてそこはっ」

ガッシャァァァァァン!!!!!!
受け止める覚悟も持てず、背を向けていた為逃げるのも遅れティニークは飛ぶ。

「5トンで来るべきでしょうがぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

(コブチWIN!なお今回紹介した商品は貨物運送にも利用できます。お電話はこちら)

オチが流れ番組が終了。
この時はまさかこのコントを見た貴族に気に入られ自分がロイヤルナイツ入りするとは
ティニークは夢にも思わなかった。
番組放送から一ヶ月した頃、様々な星の無名の人物をスカウトしている事で有名な
数寄物貴族サスーケ・フォーリーからロイヤルナイツの席を一つ用意してやるから
俺の直属の部下になれという連絡が入った。

「私は自分が好きな時好きな場所でメシを食いたのだッ!その誘いは断らせて頂く!!」

スカウトされたのはコブチの方だった。
そしてコブチが断った為に一緒にいたティニークを繰り上がりで、仕方なく、
すーんごく嫌そうな顔をしながらサスーケは引き入れたのだった。


そして現在―
ティニークはコブチが最後に戦った地アフリカに来ていた。

「シュポッポポポー!よく来てくれたね、フォーリー家のサスーケ君とその配下で構成される
ロイヤルナイツのグループ、その名も『三ボス同盟』!」
「『六魔人』です、そして今は『リノア隊』です」

司令官の貴族ジョークを右から左へ受け流しながらティニークは考える。
コブチが勝てなかった相手に自分がどこまで通用するのか。
三ボスで言えば自分は誰なのか。


◇◇◇


【一方その頃、アフリカのとあるサバンナでは】

「ヒャッハー!今日も人攫いは上手くいきそうだぜー!」
「楽してズルして身代金と奴隷代金頂きですねボス!ゲラゲラゲラ」

出たーっ、小悪党名物『登場と同時に自分の今やってる悪事の説明口調』だ!
モヒカンの集団の言葉通り、彼らの足元には縛られて猿轡を噛まされた罪なき人々が転がっている。

人攫い、それはこのアフリカではかつては外道共の常套ビジネスであったが、その数自体は徐々に
減少傾向になりつつある業種だ。そりゃまあ、いくら甘い商売とはいえいずれは各国が対策に動く。
二番煎じ三番煎じでやる弱小経営の人攫い組織は
大手に吸収されるか警察に引っ立てられる事となるのは当然の事。

しかし、このいかにも頭の悪そうかつボス自ら実行犯をやるほどの少数でのモヒカン人攫い集団は
そんな情勢の変化にも関わらず今日も人攫いを続け一定の成功を収めていた。
彼らが上手くやっていける理由、それは営業エリアにある。

「それにしてもボス、この場所を受け渡し場所にして以来上手く行き過ぎですぜ!」
「へっへっへ、なんせここはあの有名な人食い族の住んでいるとされる土地!
本当はもうちょっと西の方が奴らの住居なんだが、近隣の国は人食い族が怖くて
踏み込めないし、人食い族も最近は大人しいからこの場所は俺達が自由に使い放題と言うわけよ!
おまけに行方不明の理由も人食い族に擦り付けれるしな!」

そう!このモヒカンどもは司法の目が届かない場所を偶然見つけ利用していたのだ。卑劣なり!

「ヒャッハー!笑いが止まんねえなあ。ここには正義の味方なんて絶対にこないんだからな―」
「ここに居るぞ!」
「なにぃ!」

突然の声に振り向くモヒカンども。まさか、彼らの神様が祈祷師ごとまっ二つにされて以来
目撃情報の無い人食い族がこの場にやってきたのか。いや、違う。声を掛けた青年は
服は腰蓑一丁、白い穂先と銀色の棒で構成された槍を持ちモヒカン人攫いどもよりも立派なモヒカンを持つ現地人だが、
悪いモヒカン達が知る人食い族はもっと肌が黒かったはずだ。

「排他的だが地球の為に戦ったメハメハコンマ族を利用し罪を擦り付け人攫いを行う奴らめ、ゆ゛る゛さ゛ん゛!」
「なんだてめえはよぉ!」
「通りすがりの…迷子のマサイだ!レゼルヴェの軍人になりたくて試験を受けに出かけたらこんな所に来てしまった!」

良いモヒカンの現地人、台詞の最後の方は涙声である。
悪いモヒカン一味は、現地の人間でも迷子になるんだなー、そうだよなーサバンナって目印なにもないもんなー
とちょっとだけ同情してから自分達と相手の立場関係を思い出し、銃を構えて囲む。

「けっ、それじゃあ明日からはあの世で迷ってるんだな!」

モヒカン(悪)達の銃口が一斉に火を噴く、正にその直前だった。

「マー!サー!イー!」

モヒカン(善、迷子)が持っている槍の先端を外し、自身の顔にかざしつつ大声で叫んだ。
その瞬間、モヒカンの現地人の肉体に変化が起こる。
顔にかざした槍の刃物部分が膨張し仮面となり顔を覆う。
残った槍の棒状の部分が一瞬ではじけ飛び幾千もの銀の繊維となり全身を覆う。

「ウオオオオオオ!!!!」

銀色の怪物へと変身を終えたマサイの戦士だった男は撃ち込まれた銃弾をものともせず
モヒカンのリーダーへと飛びかかり腕を振るう。

バキィィィ!

「ん…なんで、背中が前にある…んだ…?」

首が180度回転し、モヒカン人攫い団のボスは白目を剥いて倒れる。
それを見て子分達は勇猛果敢に銃を撃ち続ける、などと言うことは無く、

「ひゃい〜、パワードスーツなんて聞いてねえぞ!」
「お、俺はここが安全だから従ってただけだ見逃してくれ〜」
「こんにゃろー、人食い族の神様といい、この辺の文明と兵器のバランスはどうなってやがる!」

全員捨て台詞を吐き、散り散りに逃げ出していった。
元々この場所がなければ悪事を成せないでいた奴らだ、後は自然淘汰されるだろうし
一人一人追いかけて叩きのめす体力も時間も勿体ない。
そう判断し、変身を解除する。全身の銀色の毛が抜け集まって棒状になり、
仮面が外れて槍の穂先に変形し棒と一体となる。
変身の時と同じく、あっという間の出来事だった。

マサイの男は攫われた人達の縄を解き、猿轡を外し声を掛ける。

「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。なんてお礼を言ったらいいか…」
「礼はレゼルヴェへの道案内でいい」
「迷子って冗談じゃなかったんですか」
「うん」


マサイの青年ムチャウ・ザイネン24歳、彼の持つパワードスーツは一体何なのか、
彼は何故レゼルヴェで軍人になろうとしているのか、
そして彼はパイロット試験に合格出来るのか、
全てはまだ闇の中。アフリカの日差しは暑い。

プロローグ完

(第1話へ続く)