ウルトラマサイ 第1話


コマンタレヴ・ラプソディ、それはアフリカの小国に一日で起きた大いなる変革。
白人優位の社会から平等へ、そしてアムステラへ対する戦闘国家への変貌は
殆どの国民に支持された。閉鎖的状況が一変し、職を、そして英雄となるチャンスを求めて
この国にアフリカ各地から性別・年齢を問わず人が集まった。

だが、そんな日にレゼルヴェを出ていく男が一人。

「みょぉぉぉぉん!!!!!!!!!!!!!!」

みょん、いや、妙な悲鳴を上げながら逃げるようにレゼルヴェ国から出ていく男。
事実彼は逃げていた。後方からボロを身に纏った黒人達が石を持って彼を追っている。

「待ちやがれ白んぼ野郎!ツケ払え!」
「出ていく前にオラの家の落書き消してけ!」
「オラん家への立ちションも謝れ!」
「いっつもピンポンダッシュしやがって!」

何ともしょっぱい悪戯である。普通なら立ち止まって謝れば許してもらえそうな罪なのだが、
今日の被害者達は白い男がいつも馬鹿にしていた彼らとは様子が違っていた。
革命の熱気にあてられたのだろうか明らかに目がヤバイ。
今捕まったら死ぬ、そう思わせる雰囲気。

「「「「頭下げてけっ、なあっ、頭下げてけって、謝ってけよっ」」」」
「首置いてけな感じで言われてハイそうですかって止まれるわけない!
うわーん、ほとぼりが冷めるまで亡命するんだみょーん!」

白い男だった。白いおかっぱの髪、白い肌、白銀の眼、輝く白い歯。
ジュダ・ミョンウェーはかつてのレゼルヴェの体制『白い方が黒い方よりエライ制度』
に胡座をかいて色々と調子乗っていた軍人だった。
ところが今日突然に首都が占拠されて『人類平等倒せアムステラ』である。
予告もなしに今までの悪事に利子つけて返すときが来たのだ。


ジュダにとって防衛戦に参加すら出来なかったのは幸運と言えただろう。
革命を起こした巨人は今の彼の技量では逆立ちしたって勝てる相手ではなかったのだから。

(いつも、いつもそうだ。私は人生上手くいってると思った途端にこれだ)

逃げながらジュダはこれまでの人生を振り返る。

17歳、国際フェンシング大会の場で相手選手に八百長を持ちかける所を
後輩に見られる。口論の最中誤って階段から突き落としてしまったその後輩の名は
レックス・バガーノ。いずれフェンシング王者になることが期待されていた彼は
この時の怪我が元でマトモに対戦相手を見ることすら出来なくなり、
ジュダは八百長の発覚と将来有望だった芽を踏み潰した事によりフェンシング界を追放される。

20歳、親のコネでフランス空軍に入り好き勝手していたものの、自分が駄目にしてしまった
レックスとその妹レナスが入ってきた事で立場が一変。レナスの工作により次第に周りから
白い目で見られ逃げるように退職する。

21歳、元フランス空軍のエース、ヴァルルからの誘いを受けレゼルヴェに移住。
フランス空軍にいた知識を活かしアロンズィS06のメンテナンス係に任命されるが、
これは名目上のものでありブラックボックス扱いとされているその機体には触らせてももらえなかった。
ジュダの実際の仕事はモーター音の検査のみとされ、毎日15分形だけの仕事をして
残りの時間は黒人街でヴァルルの威光を借りて遊び回っていた。

そして22歳、ジュダは革命によりまたもや居場所を失っていた。
いずれの時も他人の力で得た居場所であり、しかもそれを維持する努力もしてこなかった故に
この結末は当然の事なのだが、ジュダ本人だけは自分が何故こうなったかまるで理解できないでいた。

「みょぉぉぉぉん!私は真面目に生きてるのに何でいつもこうなるのぉー!」

◇◇◇

【そして現在】

「ジュダ、いいニュースと悪いニュースがある」
「いいニュースから」
「今朝体を調べたら、二人とも脈も熱も正常。俺達はゼロに戻った」
「そうか、それは良かったな」
「これもあの日ジュダが俺の家来てくれたおかげ」

レゼルヴェの国境付近スラム街に住む男、ブブラカ・モッチルタンガ(33歳)は
かつてイケナイ薬にハマっていた。何度もやめようと思ってはいたのだが、
禁断症状に耐え切れず服用を繰り返していた。
そんな彼が立ち直れたのはあのコマンタレブ・ラプソディの日。
首都から伝わった革命の呼び声を聞き自らも再スタートしようと誓い、さらに
この日ブブラカにとって薬絶ちの決め手となったのがジュダとの出会いである。

財布も持たずにコマンタレヴシティを逃げ出したジュダはブブラカの家に空き巣に入り、
彼の隠し持っていたイケナイ薬を見つけ一晩で全部使ってしまったのだ。
今回こそは薬を止めてやると誓ったブブラカが隠し場所に行くと薬物中毒で死にかけのジュダの姿が!
本来ならば即警察という場面だったが、ブブラカ自身薬物が抜けきっていない状態で
警察に会うのを嫌った事もあり共に薬が抜け切るまでこの家でお互いを見張りながら過ごす事になったのだ。

「で、悪いニュースはなんだブブラカ?」
「もう家に金もメシも無い、健康になったし働かないと」
「私、働きたくないでござる」
「ダメ、ジュダは俺より10も若い。首都なら働き口は十分ある」

そう言い、ブブラカは新聞の折り込みチラシを広げて見せる。
『きたれ、地球を守る兵士達!』というタイトルが書かれたそれはレゼルヴェ国の
兵士募集広告だった。

「ほー、年齢性別賞罰学歴職歴不問。試験期間中の衣食住保証。
パイロット試験合格者は傭兵部門と国防部門いずれかに配属。
不合格者も適正診断の結果に沿って別の職業を斡旋する、と」
「俺、バッドの車に乗せてもらってコマンタレヴに行く。試験受けてパイロットになる」

ブブラカの言うバッドという人物はこのスラムで唯一運転免許を持っている男であり、
この辺に住む人々は町を出る時は彼の運転するレンタカーを利用している。
自らを獅子鼻のバッドローと名乗り、五月蝿い上に鼻の穴がでかい変人だが、仕事には割と真面目だ。
少なくともジュダよりはずっと人間が出来ている。

「うん、頑張れ。私はこの家でゴロゴロしてるから仕送りヨロシク」
「ジュダもこれ受けてもう一回兵士なれ。このままじゃ駄目」
「イヤ、そう言われても。あー、そうだ。私まだ薬物のせいで幻覚が見えるんだ。
ホラ、窓の外にモヒカンの大男が〜〜〜〜」

働きたくない気分&首都に戻りたくない気分マックスなジュダは窓を指差し
薬が抜けてない演技をする。

「本当だ、窓にモヒカンの男、いる」
「ねっ、だから私は働けない訳で〜…みょん!?」

嘘から出た真、窓の外からモヒカンの大男がじっとこちらを見ていた。

「け、警察だ!麻薬所持の疑いでガサ入れに来たんだ!ブブラカ!早く逃げないと」
「落ち着けジュダ、上半身裸で巨大な槍を持った警察はアフリカにもいない」
「なーんだ、上半身裸で巨大な槍をもっただけのモヒカン…わーっ危険人物ダー!」

慌てて飛び跳ねて家を飛び出すジュダだったが、裏口も無いこの家から出ようとするなら
当然玄関から真っ直ぐでなければならない訳で、当然モヒカンの男の胸に飛び込む事になる。

「しまった、自分から野人の間合いに飛び込んでしまったみょん!グッバイマイライフ!」
「あのー、すみません」
「ヒィッ、やるなら痛くしないで一気にお願いするみょん!」
「俺、ムチャウ・ザイネンっていいます。レゼルヴェに行けば軍人になれるって
聞いて来たんですけど受付へはどういけばいいですか?」
「…へ?」

マサイの青年ムチャウ・ザイネン24歳、世紀末救世主並みの方向音痴の彼は
ようやくレゼルヴェの入口に着いたばかり。果たして道を聞いた相手とその家主は
パイロット試験の強敵となるのか、それとも友となるのか。
そして次回こそはパイロット試験がスタートするのか。
全てはまだ闇の中、アフリカの日差しは暑い。

(続く)