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超鋼戦機カラクリオー異聞 一話



その機動兵器は一言で言うなら――そう、鎧だった。

やや大型で背部に大型のブースターを備えているが、鈍重としか見えない機体。



だが――実際は違う。



脚部装甲内、そして肩部装甲内部に大型のバーニアスラスターを備え、全身に姿勢制御と機敏な行動を可能にするアポジ・モーター。
その身を覆う装甲は堅牢と言う文字を体現しているかの様に分厚く、多少の攻撃程度では撃墜はおろか、傷一つ付ける事も難しい。
全身に備えられたアポジ・モーター、そして肩と脚の装甲内部に内蔵された大型のバーニアスラスターによって実現した高い機動力。
鈍重な機体を問題なく動かし、全身に備えられた推力機関を遺憾無く稼動させ、その能力を遺憾無く発揮出来るだけの出力―――。

ここまでならば何ら問題は無い、誰もが夢見る『完璧な機動兵器』その物だろう。

だが、この機体には最大の欠点が存在し、それが『完璧な機動兵器』と言う言葉から自身を遠ざけていた。





武器が無い




それが戦闘を目的とされていない、只の作業用の重機であれば何の問題も無かっただろう。
しかし、この機体は完全な戦闘用として設計・開発された物であり、武器や武装を何一つ持っていないと言うのは大問題である。
……だが、コレにはちゃんとした問題があって、然るべき事態によってこの様な前代未聞の問題に直面していた。
高すぎる本体出力に耐え切れず、ジェネレーター直結式のライフル類は銃身・砲身が灼き溶けてしまい、使い捨ての武器となる。
ならば実弾を使用した物はどうかと、実弾式の武器を持たせたら……今度は本体の機動力に耐え切れずに不具合が発生した。
では近接兵器はどうだと、この世界で一般的に流通している剣や槍を持たせてみたら、機体の超出力に耐え切れない。
攻撃すると――剣ならば刀身が圧し折れ、槍ならば長い柄の部分が思い切り折れ曲がると言う事態が発生し、開発陣は苦悩する。


どうすれば、この機体で扱える武器が造り出せるのか?

古今東西のありとあらゆる武器の資料を漁り、コレはと思った物を全て試した。

武器の素材にも着目し、本体の機動力と出力に負けず、攻撃時に破損する事無く敵を打倒可能な得物を作れる素材にも着手する。


開発陣の執念によって新たな素材――非常に硬度の高い、新たな素材の開発には成功した物の、この機体に合う武器は見つからない。
大型の武器にすれば敵を一撃で破壊できる攻撃力、なにより機体の出力と超機動力に耐え切れるのだが――機動力を損なう。
かと言って小型の物にすれば、先程も述べたとおり出力に耐え切れずに武器が破損なり、何らかの不具合が発生してしまうのだ。
開発陣も苦悩に苦悩を重ね、試行錯誤を繰り返してこの機体のポテンシャルを十二分に発揮出来る武器を作り出そうと躍起になるが
どうしても問題を克服できず、徒手空拳で戦わせる様に改修し直すしかないのかと疑問が生まれ始めた頃――『ソレ』に出会う。



精錬に精錬を重ねた鉄を鍛え上げる事で唯一無二の刃とした武器。


『叩き潰す』や『突く』では無く――『斬る』為だけに特化したその剣。


如何なる刃よりも鋭利極まりない、触れる物全てを『絶つ』刃を備えた刀剣。



日本刀と呼ばれた剣に出会い、開発陣達は最後の気力――否、怨念じみた執念を体の奥底から立ち上らせ、唯一絶対の刃を造り出す。
超硬度の新素材を妄執で叩き上げ、形にした刀身を執念で鍛え上げ、狂気とも取れる思考の果てに一振りの刃、断絶の剣は生まれた。
試行錯誤の果てに辿り着いた剣は――開発陣の執念を体現したかの様に折れず、曲がらず、欠けず、そして対象を斬り飛ばした。
……この機体に心血注いだ者達は狂喜し、完成を向かえる事となる。

機体と言うハードは完成した、だがパイロットと言う『ソフト面』ではどうだろう?

重装甲に高機動、更に装備している武器が言ってみれば『一振りの剣』のみと言う、汎用性と言う言葉を嘲笑っている様な機体。
とりあえずテストパイロットを選定し、乗せて、実機を動かして見たのだが――それはもう、酷い結果しか残らなかった。
機体の出力に振り回されて地面とキスする事数十回、機体の機動性に耐え切れずにパイロットの意識がブラックアウトする事数回。
他にも様々な散々たる結果を残してくれたのだが、一つも有用なデータは採取されず、当機は『最高の性能を持った鉄屑』となった。
なお、余談だがこの時テストパイロットを務めた人間は体調を崩して軍病院に三週間ほど入院したらしいが、割愛させて頂く。
それからも腕に覚えのあるパイロットや傭兵を連れてきてはテストパイロットとして放り込み、動かしてみたが……やはり碌な結果を
残す事が出来ず、そして何人もの人間を病院送りにして来ている事実が上層部に知れ渡り、この機体の凍結が決定されてしまう。
しかし、凍結が決定されたからと、そこで諦める様な開発陣では無かった。

あの機体に合うパイロットが『居ない』なら『作り出せば良い』

狂気に駆られた開発陣はあの機体のポテンシャルをフルに発揮し、己達が望んだ全てを再現出来る、その為だけの人形を創り出す。
遺伝子工学やクローニング技術、ありとあらゆる技術を駆使したプロジェクト、古に伝えられる妖刀の名を取った『村正計画』
を立ち上げ、開発陣は優秀な能力を持ったパイロット達の遺伝子をかき集め、何度も何度も何度も何度も何度も手を加え―――
機体の時と同じく、失敗や挫折を乗り越え、その果てに一人の人間――いや、人形を造り出した。
ここまで、そう此処までは開発陣の思うとおりだった――だが、彼等の夢が真に実現する一歩手前と言う所でそれは潰える。
凍結が決まった機体を持ち出し、更には倫理を逸脱して禁忌を犯して生命を造りだす……そんな計画が許される物では無い。
軍の上層部は開発陣全員を逮捕・更迭し、ただ一人残された人形……執念と妄執と怨念で鍛え上げられた鋼の鎧を操る。
その為だけの存在として造られた人形もまた、開発陣同様に捕われたのだが――彼はその際、拘束しに来た諜報部の人間に告げた。


俺に戦わせて欲しい、と―――。

あの機体で俺に戦わせて欲しい、と―――。

あの機体と俺ならどんな敵にも負けない、と―――。


そして後日、人形は忌まわしき鋼の鎧と共に軍で戦う事になる―――。












英雄達が空を、大地を駆け抜ける中――闇の中で刃を振るう者が居た。

誰に知られる訳でもない、誰から賞賛される訳でもない、ただ――己の存在意義を賭けて剣を振るう者が居た。

これはそんな――御伽噺。

歴史の影で戦う一人の人形の――英雄譚。










アムステラ神聖帝国軍―――。

外銀河全域を支配する超巨大宗教国家であり、地球を遥かに超えた科学技術を有し、数多の機動兵器を所持している。
その様な国が何故、このちっぽけな地球という星に侵略しに来たのかその理由は解らない、知り得る事はできない。
彼等は軍事拠点には苛烈な攻撃を仕掛け、制圧する物の非戦闘員―――所謂、一般人が住む居住区に攻撃する事はない
戦えない者に牙を向けないと言うクリーンな精神は賞賛できるだろう、しかし彼等の地球に対する侵略行為を見過ごす
事など到底できる物ではなく、世界各地で彼等に対する機動兵器が開発・運用され、日夜激しい戦闘が行われている。

地球を狙う侵略者と戦う輝かしいエース達。

その影に潜み、人知れず戦う存在が居た―――。


『こちら、第13部隊!突破されそうだ!直ちに援護を!!』

『畜生!援軍はまだか!!こっちはもう保たないぞ!!』

『うぅ――痛ぇ、痛ぇよぉ……』

『もう駄目だ!こちら、第43部隊!撤退の許可を!!』


戦場――日本防衛軍と帝国の機動兵器郡が接触し、交戦していたのだが……既に戦いと呼べる物では無くなっていた。
防衛軍は懸命に攻撃し、抵抗し、彼等の撃退を試みるが……それは叶わず、物量と機体の戦力差によって押されている。
後方に控える指揮車両には怒号の如く援護を求める声、救援を求める声が飛び込み、指揮官へ撤退許可を求めていた。


「――此処までか……。」


指揮車両の中、無数に並べられたモニターと、次々に撤退許可を求める声が吐き出される通信機の前に腰掛けていた男。
日本防衛軍・富士大隊司令官・ヨシアキ=サタケ大佐は呟き、全指揮車両に撤退を示す信号弾を発射する様に指示。
撤退すればまた一つ、基地を失うことになってしまうが――悪戯に兵士を死なせてしまうよりは良いだろう。
この事で恐らく軍法鍵にかけられ、マスコミに大バッシングを喰らって世間から何と言われるか解らないが……仕方無い。
願わくば、この状況を見て頭の中がお花畑、もしくはこの期に及んで『軍備縮小!』だとか喚くバカが改めて―――。


「た、大佐!」

「――何か起こったのかね?」

「此方に急速で接近する機影1!国連軍に登録されているナンバー、帝国のナンバーにも無い、謎の機体です!」

「敵の新型機と言う事は無いのかね?」

「い、いえ……それが……。」

「どうした?状況をきちんと報告しなさい。何かあったのかね?」

「は、ハイ!戦場に現れたアンノウンは―――」





「―――て、帝国の機体を攻撃しています……。」









一機の機動兵器――闇より深い漆黒と鮮血の様な赤で彩られ、手に『刀』を携えた機体が大地を翔ぶ。

凄まじい機動性で接敵を行い、そのまま刃による一撃を以って敵を両断し、返す刀でもう一機。

しかし――かの機体の攻撃は終わらない、止まらない。

轟音と爆音を撒き散らし、刃を振り上げて次々に帝国の機体へと襲いかかり、斬り滅ぼしていく。

かの機体が刃を振るう度に帝国の機体――羅甲達は何であれ解体され、何一つ行動できない鉄屑に成り果てる。
その反面、彼等が行う攻撃の数々はかの機体を傷つける事は愚か、行動を止める事すらも出来はしない。
生半可な攻撃など避ける必要すらないと言わんばかりに、真正面から突っ込んで一刀両断の下に斬り伏せていく。


「――敵戦力は10%減、こっちの損傷は……問題無い、行けるな。」


漆黒と真紅に彩られた禍々しい鎧、その全てを司るコクピットの中で青年は呟いた。
静かに呟きつつも自身が乗る機動兵器――狂気に呑まれた科学者達が作り上げ、その後に打ち立てられた忌まわしき計画。
『村正計画』によって作り出された自分にしか扱うことは愚か、満足に動かす事も出来ない呪われた鋼の鎧『鬼刃』
鬼の刃が握る刀、この機体が唯一扱い、そして振るい、敵を斬り散らす事が出来る剣『斬滅』を振り回し、敵を薙倒す。
高速で戦場を駆け抜け、並み居る羅甲達を両断し、微塵に斬り散らし、次の獲物を求めて大地を駆け抜けていく―――


『何だあの機体は……援軍か!?』

『そんな事より一次後退しろ、あの機動兵器が敵を引き付けている間に体勢を立て直すんだ!』

『りょ、了解!後退する!』


鬼刃が彼等の通信を傍受し、日本国防軍が後退を始めたのを一瞬だけ見た後、鬼刃は敵機の斬殺へと戻った。
……鬼刃が戦場に現れ、帝国軍の羅甲達を攻撃し始めて10分も立たない内に敵戦力の20%は彼一機に破壊されている。
百の攻撃を受け止め、一撃の刃を以って敵を斬り崩す。


「――む!」


センサーに反応。
鬼刃は敵を斬り捨てた後、後方へと跳び大地を踏み割りながら数mほど後ずさって停止。
瞬間、鬼刃が立っていた場所を砕きながら――敵大型機動兵器、鉄機蜘蛛と呼ばれている大型殲滅兵器が姿を現した。
現れた鉄機蜘蛛は鬼刃を確認すると、巨大な脚を薙ぎ払うように振り、そして頭部の無数の触手を伸ばして絡めとろうとする。


「その程度の攻撃で―――!」


横薙ぎに振るわれた脚部を肩部装甲内バーニアスラスター、背部大型ブースターを使って跳ぶ事で回避。


「この『鬼刃』が―――!」


間髪いれずに迫り来る無数の触手を全て、そう――全て斬滅による無数の斬撃により斬り落とした。


「取れると思うなッッ!!!!」


無数の触手を斬り落とし、無防備になった鉄機蜘蛛の頭頂部へと、大上段の構えで手に携えた斬滅を振り下ろす。
斬滅の刃と鉄機蜘蛛の頭頂部が触れるか否か、その刹那の瞬間に鬼刃は全身に備えられたアポジ・モーター。
そして両肩と背部の推力を解放して機体の重量、機体の速度を利用した一刀を繰り出し――強力極まりない敵機。
大型の殲滅兵器を苦も無く両断し、勢いを殺す事無く大地へと着地……と言うより落着する。
鬼刃の脚部が大地を踏み割ると同時に鉄機蜘蛛がズルリ、と滑り落ちる様に真っ二つに割れ、地面に横たわった。


「――敵大型殲滅兵器沈黙――敵勢力はまだまだ健在……ならば!」


血糊を吹き払う様に斬滅を振るった後、両手で構え直し、まだまだ数多く存在している敵機達へと襲い掛かる鬼刃。


「このまま、一機残らず斬り滅ぼすまでだ!」


漆黒と真紅の呪われた鎧は嬉々として――帝国の残存兵力へと向かい、剣の攻撃範囲に入った者から斬り散らしていく――。










「――何者だ、彼は?」


サタケ大佐はモニターで繰り広げられる戦闘――いや、一方的な蹂躙劇を見て戦慄し、そして歯噛みした。
禍々しい機動兵器が刃一つで恐るべき帝国軍を打倒し、蹂躙している様子に恐怖を覚えると同時に思う。
日本防衛軍にこれ程の力があればどれだけの兵士が死なずに済んだか、基地を失わずに済んだのか、と――。


「た、大佐!」

「どうした?敵の新手か?」

「いえ、敵戦力――60%消滅!残存勢力が撤退していして行きます!」

「なん―――だと。」


富士にある基地の全戦力を投入しても歯が立たなかった帝国軍の機動兵器達。
それをたった一機の機動兵器が全戦力の60%を壊滅させ、あまつさえ大型殲滅兵器まで撃破している状態である。


「……君。」

「ハッ!」

「アンノウンと通信がしたい、繋げてくれんか?」

「は……ハッ!了解しました!」


サタケ大佐は『頼む』と短く呟いた後、軍備を拡張しなければならない事を確信していた。
今回は偶然……いや、奇跡的にあの漆黒と真紅に彩られた禍々しい鎧が援軍として来てくれたから全滅という目に遭わずに済んだ。
だが、あの禍々しい鎧――パイロットだろう青年が叫んでいた『鬼刃』と言う機動兵器が現れなかったら、間違いなく全滅だろう。
如何に旧式を近代化させたと言っても限界はある、実例が無いと言えば今回の戦闘結果を叩き付けてやろう。

だから――何としても帝国軍と戦えるだけの機動兵器を用意しなければ。

これ以上――戦いにならない戦いを強いて、無駄な死人を出さない為に……!


「サタケ大佐!」

「――ん?ああ、済まないな。で、通信は繋がったのかね?」

「ハッ、ではモニターに写します。」

「ああ、頼む」


管制官が手元のパネルを操作し、指揮車両のモニターにアンノウン――鬼刃のパイロットの顔が映し出された。
年齢は20代前半、ややボサボサ気味の白い髪に闇を映し出したかのような黒眼。
パイロットスーツ代わりの黒い野戦服に身を包んだ青年の姿、黒と白のコントラストを見たサタケは青年をこう思う。

まるで――刀の様だ、と。


「――私は今作戦の指揮官、富士大隊のヨシアキ=サタケ大佐である。
 貴君の援護により我が大隊は全滅と言う憂いを見ずに済んだ、感謝の意を送りたい。」

『――気にしないで頂きたい、俺――小官は自分に与えられた任務を全うしたまでです、大佐殿。』

「そう言って貰えると助かる。もし、貴君が富士基地に立ち寄る事があれば是非、私を訪ねて欲しい。
 今回の礼も兼ねて歓迎させて貰おう。」

『了解しました、その時はお願い致します。』


そう言うと相手――鬼刃から通信が切られたのだろう、通常のモニター画面に戻り、飛び去ろうとしている鬼刃が写る。


「――富士大隊全員に通達、怪我人以外は全員機体の外に出て、我が大隊の危機を救ってくれた英雄に敬礼せよ!」







鬼刃のブースター類を展開し、自分が所属する基地へと戻ろうとした時――青年はモニターの端にある物を捕らえる。
機体から次々に人間……富士大隊の人間なのだろう、彼等が急いで降りてきては此方へと向き、敬礼をしていた。
――自分は感謝される為でもない、人類の為に戦っている訳でもない、ただ自分の為だけに戦っているのに……。



だが――不思議と悪い気はしない。



名前も無い、ただ鬼刃を駆り敵を滅ぼすだけしか出来ない、許されない存在である自分。

しかし、戦う事で誰かを守れるなら……それはそれで良いのかも知れない。

ならば――俺はこの呪われた漆黒の鎧を駆り、英雄達の影を守り、戦おう。




いつか――自分がしがらみから解放される時まで。








超鋼戦機カラクリオー・異聞    了



続く