対決!秘剣vs妖拳〜後日談その1〜



その男は、灰色の部屋の中に居た。
何も無い殺風景な部屋。天井も、壁も、床も淡い灰色。気付けば見慣れてしまったその光景。
それを『見慣れた』という事に気付いて、男は思わず微苦笑を漏らす。
だが、時ならぬノックの音がその思索を断ち切った。

「ガミジン殿、お手数ですがご同行願います」


「・・・それで? これはどういう事だ、一体?!」

ガミジンがそう尋ねたのも無理はない。命令不服従、上官侮辱罪などで独房に収監されたのだ。今までの経験からして、釈放されるにはまだ、早すぎる筈。
それなのに、あっさりと独房の鍵を開けた男は「今回の件は不問に処す」と通達が下ったので釈放だと言う。一体、誰がそんな手配を? それと、こいつ誰だ?!

「自分も詳しい事は判りませんが、隊長がガミジン殿の保釈を手配された様です」
「・・・隊長?!」
「それと、隊長からガミジン殿に幾つか土産があるとの事です」

・・・思い出した。こいつは確か『水鋼獣』のパイロット・ルカスだ。ならば『隊長』とは奴の事か・・・と、なると。

「・・・貴様ら、シンと一戦交えて来たのか」
「生きて戻れただけ幸いでした。まさか、水鋼獣を真っ向から斬り倒すとは・・・奴の踏み込みが浅くて良かった。でなければ水鋼獣ごと真っ二つでした」
「・・・シンの奴、わざと踏み込みを浅くしたのかもな」
「は? 何か言われましたか?!」「いや、何でもない」

そして男が案内した先は、戦闘訓練室。模擬戦闘リングの上で待つ中肉中背の男は・・・やはり、特殊部隊の隊長。妖爪鬼の乗り手である。
片手に長さ90cm程の軟質ファイバーロッドを持ち、もう片手にはその半分程の長さのロッド2本を持っている。ガミジンが近付くと、その2本の棍を投げ渡す。

「・・・?」
「まずは、肩慣らしと行こうか」

そう言いつつ隊長は、手に持つ棒の端を片手で握り、半身の構えから連続で突きを繰り出した。ガミジンも両手の棍で攻撃を受け流すが、その眼がスッと細くなる。

「この剣技は、確か・・・」
「そうだ。銀騎士も、お前が以前闘った時より腕を上げてるのでは無いか?!」
「・・・まぁ、ちょっとは喰い応えが出て来た様だな」
「ふふっ、早く本題に入れと言いたげな顔をしてるな。ならば!」

隊長の構えが変わる。両手で棒を握り、青眼の構えに。それを見たガミジンの顔が引き締まったかと思うと、次の瞬間。ニヤリと笑みを浮かべた。

「どうやらシンの奴も、日増しに強くなってる様だな」
「・・・嬉しそうだな。だが、それが・・・自分に向けられる技であっても、か?」
「上手に料理してあればな。美味ければ喰ってやる」

隊長の問いに、更に笑みを広げるガミジン。
笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である。今のガミジンの笑みは、まさにそういう笑みであった。

「・・・ならば、行くぞ!」

隊長の猛攻が始まった。その太刀筋は、まさにシンと瓜二つ。次第に激しさを増し、並の者では太刀打ち出来ない程の打ち込みになって行くが、
ガミジンの表情は段々詰まらなさそうなものとなって行く。

「やれやれ・・・期待したんだがな。本物よりも切れが鈍い。所詮、物真似か」

そう言うなり、隊長が右手一本で放った袈裟斬りをギリギリで避ける。次の瞬間!
無造作に間合いを詰め、隊長の左首筋へと右手の棍を叩き込む!
棒を振り抜いた直後。しかも、この詰められた間合いでは腕が充分に伸ばせない為、切り返しは困難!

「だから、こうする!」「?!」

打撃に対して隊長は、上体を屈めつつ右足を曲げ、左足を後ろに引いて低い体勢を取る。
そして右手の棒は左の腰から後ろに突き出し、左手を腰の棒に添えた構え。これは、この構えは・・・居合い抜き!
電光石火の一閃が、逆にガミジンの右腕を断ち切る様に放たれる!

ガツッ!!

棒と棍が激しくぶつかる音。だが、棒と右手の棍が交差したのはガミジンの背中。
ガミジンの左手にある棍は、隊長の鳩尾に擬されている・・・これは一体?!

隊長の逆袈裟が鞘走る寸前に、ガミジンは右腕を引き戻して居たのである。
同時に左腕で突きを繰り出すが、それよりも早く隊長は引いた左足を踏み込んで、右下段から再び摺りあげの一閃・・・『双燕』を放って居た!!
しかしガミジンは、その隊長の二撃目を背中へ回した右の棍で受け止めたのだ!

「この剣技も止めたか・・・決まりやすい状況にしたつもりだがな」
「いや、貴様の踏み込みが一拍遅れた。今の技が完璧に入ってたら、相打ちにするのがやっとだな」
「そうか。今の剣技、『ソーエン』と言うらしい。どうだ、参考にはなったか?」
「あぁ。だが、流石は特殊部隊。剣技に精通しているのも必然という訳か」
「当たっている・・・半分はな!」「!!」

その言葉と共に、隊長の手から棒が放たれた!
槍の様に飛んだ棒は、リングの外にぶら下がって居るサンドバックを直撃!
そして、棒の後を追う様にサンドバックに駆け寄った隊長が繰り出す連続攻撃!
左右のパンチ・キックが打ち込まれる毎に鈍い音が響き、サンドバックが揺れる。

「特殊部隊の技は、戦場格闘技。剣だけではない・・・」

ドゴッ!! トドメの正拳がサンドバックの動きを止める。

「武芸全般に長ける」
「フッ、そうかよ・・・だがなっ!

ガミジンの手からも棍が放たれ、サンドバックに命中。
間髪入れず、隊長と寸分違わぬ連続攻撃がサンドバックに打ち込まれる!

「その程度、素で出来んだよっ!!」
「この男・・・譲らぬ!」
「それで?! 土産とやらは終わりか? なら、俺は帰るぜ」
「まぁ、待て。面白い情報を入手したのだ。お前も関わった事のある、な」


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