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SPEEEED KiNG Act1


最悪の目覚めだ。
 女に振られて自棄酒しちまって、潰れるように寝ちまった、ヨシャバテ(くそったれ)!!
 おかげでほとんど手持ちのねえ金がなくなっちまって、今日からの飯代にも困る有様だ、ついてねえ。

 そんな最悪の状態だってのに、表の扉からはどんどんと叩きまくる轟音が鳴り響いてやがるんだ、うるさくて仕方が無いぜ。
 ああくそ、頭に響くんだよ……ッ!

 だが俺の苛立ちはよそに、そのドンドンは止まない。
 糞ッ垂れめ、今すぐカッ出てその脳天に鉛玉でもぶちかましてやろうか。そう思うも、目覚めてすぐは億劫でぴくりともしない。
 ありていに言えばあれだ、めんどくさい。余りのやかましさに腹はたつんだが、体がだるくて言う事を聞いてくれない。……二日酔いじゃねーからな、俺酒に強いし。

 ま、なに、無理して動かなくてもほっとけばそのうち帰るだろう。ほっとけ、ほっとけ。今しばらくの辛抱だ、何も問題はないさ。
 どうせ家賃の催促か、隣の豪邸もちのいけ好かない色男からの苦情だろ。出るだけ無駄、というやつだ。

 ――ぐう。

 ……腹の音が鳴った。そういえば、昨日は飲んでばかりで何も腹に入れちゃいなかったか。そりゃ腹も減るわな……。
 ああ、くそっ! 飯のことなんか考えたからさらに空腹感がましたじゃねーか。胃がぐるぐると物欲しそうな音色を響かせてやがる。だめだ、はらぺこだ。視界がぐるぐる歪みやがるぜ。

 もそもそと、寝床代わりのソファーから爬虫類のように這い出す。身を起こす力がないからな、膝をついた四足歩行、というよりかはほとんど蛇みたいに這ってるわけだが、このほうが楽だ。楽な気がする、といったほうが正しい気もするが。
 そんなわけで、おれはべたりと這いずり回りながら、しかし物音は立てないように細心の注意を払って進む。外の奴に気取られたくないからな、下手に空腹なこの状態で怒鳴りちなされてみろ、相手に噛み付きかねんぜ。

 恐る恐る部屋の中を進む。とりあえず喉が渇いたから、冷蔵庫からミネラルウォーターでも取り出そう。いや、もしかしたら無いかもしれんな、俺今びんぼーだし。 もしそうなら水道水で我慢するか。それで喉を潤してから、部屋の中に残ってるかもしれない保存食食うなり、外のやつが立ち去ってから飯を買いに行くなりしよう、そうしよう。

 そーっとそーっと冷蔵庫にたどり着く。最小限の力で物音を立てずに、慎重に開く。
 やった、水がまだ残ってやがるぜ。指二本でべきっと飲み口をこじ開け、直接口をつけて飲み下す。

 その瞬間! 突然鳴り響く轟音!
 余りに予想外すぎたその酷い音に思わず口に含んだ水を噴出しちまった、キタネェ!


……なんなんだよ、なんなんだよ今の音は。どうにも俺の事務所兼自宅であるこの家の、入り口付近の扉あたりからきこえたんじゃあありませんかねえ?
 恐る恐る、首だけで振り返ってみる。酒ッ気の抜け切れない俺の目には少々まぶしすぎる日の光が痛いが、眼を細めて我慢しておく。
 黒い影。足が四本ある。四本? なるほど、二人か。いやまあ俺が知らないだけで、四本足の人間だっているのかもしれねえが、少なくともそんな知り合いをもった覚えはねえな、うん。

 視線をつつつ……と上に向けてりゃ、黒いスーツに黒い手袋黒い拳銃、とまあ黒尽くめだ。だが髪の毛だけはよく櫛でといたさらさらの金髪。いけすかねえな、こーゆー野郎は。
 ……っておい、まてよ。拳銃だと?

「ミスター・ベイリ。ご商談にうかがわせて頂きました。宜しければ早急に商売の話に移りたいのですが、お時間は頂けますかな?」

 なんだ、そのやけにとってつけたような丁寧口調は。銃を構えながらいうもんじゃねえだろ、おい。脅してやがんのか、あ?
 開けっ放しにしてた冷蔵庫をべちっと閉めて、ため息一つだ、ケッ。

「なんだかワカンネーケド、とりあえずそのブッソーなモンをしまっちゃくれねーかね」

「おや、これは失礼いたしました。何せいくら呼びかけましても中々出てくださらなかったもので……強硬手段に出させていただきました」

 だからといって銃でドアのカギをぶっとばすなよ、おい。見かけによらず、こいつ短気だな。
 何者かしらねーけど、まー穏便にしていただきたいものだなぁ……。
 とりあえず、扉の修理代は請求しておこう。きっちりとな。

 まあ、立ち話もなんだからと部屋の中に誘う。玄関口で拳銃突きつけられながら商談をするなんてゆー、奇妙な趣味は俺には無い。
 テーブルの上に転がってる箱だのチラシだのをざっと横に避けて、ついでにソファーに置きっぱなしだったジャケットと毛布を取り除ける。うむ、おもてなしの準備は完了だ。

「わるいが、茶だの茶菓子だのといった気の利いたものはないからな。飲み物ほしかったら水でものめや、水」

「……いえ、結構ですよ。貴方の事はよく知ってますし、こういう対応をされるのは予想範囲内です。ですので、どうぞお構いなく。それよりも、商談の件に移りたいのですが、宜しいでしょうか?」

 ――ぐきゅるるる。


文句混じりの返事をする前に、腹の虫が不満の声をあげた。ああくそ、なんだその間は。気にしてんじゃねえよ、俺の顔見ながら笑いをこらえてんじゃねえよ、そこの後ろにいるクソガキが。
 二人目のガキ……こいつは、俺に話しかけてきた金髪野郎の後ろにいたせいであんまり気にしちゃなかったんだが、なんだよこいつ。俺のことをまるでゴミのような目で見下してやがる。ああはいはい、こんな俺様のことなんざ、蔑んで育ってきたってか、ああ?

 あーもう、腹がへってると腹が立つ! 腹ペコだと立つものも立たないんじゃねえか、とかふと思ったが、洒落じゃねえぞ洒落じゃ。
 ハァ、しゃあねえ。今の音はなかったことにしておこう。居直りだ居直り。
 ……恥ずかしい訳じゃないやい、話をちゃっちゃと終わらせたいだけだい。

「んで、商談って何さ。俺今スゲーあんたらにムカついてるから、正直受ける可能性は高くないだろうネェ……」

「それはそれはとんだご心配をおかけいたしました。申し訳ありません。ですが、そうですね……私たちも使いを果たせないと大変困った事になります。ですので……そうですね。相場の倍、いえ三倍払いましょう」

「謹んでお受けさせていただきますッ」

 即答。うん即答。
 金がないときにこの好都合なお仕事は、めちゃくちゃ嬉しい。つーかあれだな、失恋の悲しみを癒してくれるのは、いつだって仕事だぜ。
 ……って、大層昔にみた映像映画の主人公がいってた気がする。うん、今の俺にはぴったりだな。

 趣味と仕事が一体化してる俺には、ほんとぴったりだろう。
 なあ、そう思うだろ『オペル』。

「……ええと、決断が早くて何よりです。まあ、貴方の直接の依頼主には、どうやら"貸し"があるとのことで、どちらにしろお受けしていただく事になりましたが」

「あーそーなの。貸しねぇ……つーことはあの人の依頼か。あのじーさん、まだ生きてるのか。いや今は女の体だっけか。どうでもいいか。ま、知り合いでも金は三倍だかんな、そこんとこわすれんじゃねーぞ。着替えてくるから待ってろ」

「ええ、お約束はお守り致します。ところで、依頼内容はお聞きせずに宜しいのですか?」

「……どうせあの人の依頼だ、ろくでもねーんだろうし、俺に頼むってことはこの俺の『オペル』目当てってことだろ? だったら聞くまでもねえ、"荷物"の受け取り場所に向かう間に話とくれや」

 背中でかしこまりましただの、流石はだのぶつぶつとした文句を受けながら、俺は空きっ腹をさすりつつ隣の部屋に行く。
 ったく、アハレイのやつ。何時まで俺から借りを払わせるつもりだっつーの。老い先短そうだったから安請け合いしたけど、なんつーか高い買い物させられた気分だぜ。
 ま、その分の価値はあったんだから、別段いーけどな。今回みてーにドア壊されるのはイヤだが。

 ごそごそと、寝巻きとしてつかってたボロいシャツを脱ぎ捨てて、だがここで自分がかなり酒と汗の混じった臭いを出してる事に気づきため息。
 ま、シャワーくらいなら浴びてもいいか。うん、つかあいつらも滑走機に乗ってるときに隣に臭気の塊みたいな俺が座ってたら嫌だろ。気にせずにバスタブに突入しよう。

 着替えの下着とタオルを片手に俺は浴室に向かう。全身をくまなく洗うだけはしておこうと扉に手をかけたが、耳朶の内部に移植されたある"機能"が隣の……つまり応接間兼俺の寝床であるさっきの部屋の音を拾う。
 音……つーか声だな、うん。聞きなれない声だから、多分もう一匹ついてきてたガキのほうだろう。
 ナマイキそうな声だし、多分間違いない。

(なんで、あんなろくでもない人間にこんな重要な仕事を任せたりするんですか! どこの馬の骨だか知りませんが、僕は信頼できませんね、あんな男!)

(まあまあ、ボレロ君。そう非難することはないよ。彼だってプロだ、仕事はする。と、いうか今回の仕事は彼が最も適任だし、アドニス女史の推薦でもあるからね。私もあの人と同じく、彼しかいないと思っているよ)

(そうはいいますけど主任ッ……僕は、僕はあんな小汚い男は……)

 うるせえ、好きで小汚いわけじゃねーよガキが。芸術家でもないくせに美醜感覚で仕事を選ぶな。
 人がいないからって、好き放題いいまくる姿に腹が立つやらぐるぐる鳴るやら。あーもう、なんかすっげーやる気そがれるぜガキのせいで。あんま俺をキレさせんなよな。
 安物の浴室だが、汗を流すのが好きなんでメンテナンスは欠かしていない。俺が入った瞬間に自動的に蒸気を噴出し、体をやんわりとあっためてくる。それを全身に受けながらまずは冷水を浴びる。ひゃあ、冷てぇ!


隣の部屋の文句はまだ続いてるが、聞いてるとむかつく内容だしうっちゃっておくか。
 そう思ってたが。

(――君は知らないんですね、この『ランナーズ・ハイ』を。『オペル』の存在を)

(……知りませんし、知りたくもありませんね。あんな五流以下の"運び屋"のことなんて)

 なんだなんだ、俺様の身の上話でもするつもりか?
 くだらねえくだらねえ、他人の評価なんざどうだっていいだろ。

 自分を認めてやるのは、俺と『オペル』だけでいい。

(彼の経営するこの運び屋事務所『ランナーズ・ハイ』……それは運び屋はおろかある種の人間にとっては伝説とも呼ぶべき――"怪物"なんですよ)

(かい……ぶつ……?)

(ええ、怪物です。いえむしろ『狂人』とでも形容した方が正しいのかもしれませんが、どちらにしろ彼は恐れられています。――誰にも真似が出来ない、真の『速度狂』という名で)

 温度調節、ぬるめのお湯っと。これで冷えた体を温めなおしたら、薬湯を浴びて全身の汚れをおとすのが俺の好みだ。
 んで、さらにその後には湯と水を交互に浴びつつ蒸気を増やして蒸し釜状態にし、ゆっくりと全身の筋肉をほぐすのが日課だが、まあこれは省いていいだろ。腹へるし、時間かかるしな。

(君も知っていると思うけどね、我々の宙間ワープ航法にはいくつかの欠点がある。例えば特定の場所では亜空間に潜り超スピードを出せないとか、星の磁場や重力、太陽風に宇宙塵の影響下を受けるとかね。だから、いくつかのポイントではこのワープ航法は使えないし、星の近くでは使用できない……というより亜空間へのトンネルが開けない)

(なんですか今更。そんな復習みたいなこと言い出して)

 薬湯で肌がぴりぴりする。この刺激が堪らなく好きだな、俺は。何種類かブレンドして俺語のみに調節してあるこれは、何かの花っぽい香りがする専用薬剤だ。浴室のシステム自体は安物だが、こいつには金を惜しまず使っている。
 何せ俺の二番目の趣味だしな。いや、趣味じゃなくて好みって言えばいいのかこれは? それにによく考えたら食う事も飲む事も好きだし、順番付けできるもんじゃ無ぇか。

(だから我々一般人は、精々光速の数パーセントといった速度で艦隊を動かし、ワープ可能な地点へたどり着いたらワープ装置を起動する形をとっている。他の運び屋とかも例外がないよ。だが、彼は少し違う。というか、色々と規格外だ。
 彼はね、優に光速の二十七倍以上で移動するバケモノを飼っている)

(……は?)

(私も君くらいの頃に一度だけ、彼の起動兵器を見たことがある。あれは……そう、本当にすごかった。誰にも真似出来ない、誰にも凌駕されない、最速最強の超々光速起動兵器だ。しかもそれが本当に恐ろしいのは……)

(――信じれません)

 あいつら、まだグダグダ話してやがるのか。湯で全身をベタベタにしていた薬湯を洗い流しながら、俺はへっと鼻で笑ってやる。
 俺に言わせりゃ、他の連中の覚悟が足りないだけだ。もっとこう、痺れるような速度を求めて求めて求め続けた結果、今の俺があるわけ。他の連中には、そういう気概っつーか根性が足りねーのよ。
 ま、わかるわけねえか。あいつら"凡人"じゃあな。

(光速の二十七倍、というかそもそも光速すら慣性制御装置で無効化しきれません。加速度がどれほどかは知りませんが、確実にパイロットが加圧に耐え切れずに……死にます)

(だから、言ってるだろ? それができるから怪物であり『狂人』なんだって。それに、彼の恐ろしい事はそれがただの一能力に過ぎないってことさ。
 ここだけの話、彼は一度敵星の依頼でアムステラから起動兵器一式を盗み出したことがあるんだがね、鮮やかなものだよ。なにせ一度として交戦すらさせずに、目的のものだけを盗み取って逃げていった。追っ手を差し向けたものの追いつけるわけもないし、ほんと散々な結果だったとかね。流石に二十年ほど前の話だから、私も記録でしか知っていないが。
 さて、君は、我々の所属しているこのアムステラの情報力を疑うのかね? この宇宙最強にして最大の、アムステラを)

(……けど、それでも……)

(ツァラ星への補給、私たちには小規模にして少量の物資しか送れない。だが彼なら、我々の半分以下、いや十分の一ほどの時間で何十倍もの物資を安全に届ける事ができる。何せ速度が違いすぎるから、例の超々距離砲台による狙撃すら不可能。だから、彼こそが適任――)


「いつまでうだうだ人の事はなしてるんだお前ら」

 話の長い奴らはコレだから嫌いだ。さっぱりと着替えを終わらせた俺は、扉から半分身を出して言ってやった。突然出てきたからびっくりしたのか、ガキのほうがあわてて居住まいを正しやがった。
 ケケ、ばっかやろうめ。今更そんな姿みせても俺っさまは全会話を聞いてたんだぜ、ムダムダよ、後の祭りよ。
 にやぁっと意地の悪い笑みを浮かべて、うきうきと近寄ってやる。ケケケ。嫌っそうな顔をしやがるぜ。

 どっかりと座り込もうとも思ったが、チンタラおっそい滑走機ン中で話せばいいことを思い出し、のけてたジャケットを手に取った。
 ほれ、いくぞとアゴでしゃくりながら。

 ……出て行くとき、ぶっこわれた扉を見てちょっと泣きそうになった。


 ツァラ星。確か森とと砂漠ばっかの星で、海が無いかわりにバカでかい湖がある星。今回の仕事がそこだと聞いたとき、思わず又かよと失言。
 ガキのほうに問い詰められて、ついこのあいだも密書だかなんだかを届けてきたばっかだと答えたら、アイツは今にも俺を絞め殺しそうな眼で見ていやがった。なんだよ、もう。
 ま、上司である金髪イケ好かない男のほうがいさめたから何とかなったけどな。守秘義務が云々とか言ってくれたんで、とりあえず拷問だけは免れそうだ。
 まったく、俺のドコが気に食わないんだか、このガキ生意気にもほどがあるぞ。

 はぁ……。とりあえず内容はよく判った。ようは荷物輸送を何とかして頼むってね。なんだ、簡単な仕事じゃねえか。
 そう言ってのけるのは宇宙広しといえど貴方くらいのものですよ、とは金髪の談。よく言うよ。

 まあいいさ、別に。俺はとにかく、仕事をきちんと終わらせて金をいただくことが目的なんだ、評価だの何だのは他人の好きにさせておくさ。
 後部座席にズンと居座りながら、俺はそう結論付けた。

 ちょいと以外だったというか驚いたのは、この金髪、俺に対して『オペル』はついてきてますか、と尋ねた事くらいだ。
 こいつ、思ってたより俺に関する情報を持っていやがる。まあそれも当然だろうが。
 何せ『オペル』を作ったのはこいつらの上司、アドニス=アハレイの旦那――今は女だが――だからな。あの人がつくった機体だってことは、内緒のままのよーだが。

 そんなこんなで、クソ楽しくも無い依頼内容の説明を終わらせて、宇宙ステーションに向かい、宇宙港へ乗客船をつかって移動。そこからこいつらが停泊しているドッグに向かい、依頼ブツの受け取りだ。
 なんだっけ、名前、われ、われ……われたん? 確かそんな名前の起動兵器を運べとな。へっへ、何百体だか何千体かはしらねーけど、頼まれた以上はきちんと送り届けるのが俺の流儀だ。
 相手がどんなクソ野郎でも、どんな星のやつらでも、金か酒か女をくれるならやってやるさ。

「んで、俺の運ぶもんはどこだよ」

「此方でございます、ミスター・ベイリ」

 まったく、嫌になるくらいに礼儀正しいヤツだ。もうちと楽にしようぜ楽に、とは口では言わないがな。キライだし、こーゆーやつ。
 てくてくと、やたらとでかい輸送戦艦の中を歩く。入るときに見たが、これが横並びに三つもあったんだ、相当な量を運ぶのは確定だな、こりゃ。
 腕が鳴る。一言でいえばそんな感情だろうか。久々の手ごたえがある仕事に、ワクワクとしている自分を抑えきれないでいる。へっへ、最ッ高に勃起モンだぜ。


薄笑いを浮かべる俺を訝しげにみる視線。ケケ、俺をそんなに見るなよ。視姦される趣味は俺にはねーんだからさ。

「……それでは、この中のものを一式、それと隣の輸送艇"そのもの"を運んでくださいませ」

「おいおい、マジかよ? ずいぶんと、ずいぶんな量じゃねーかよ、上等」

 少しびっくりだ。戦艦、じゃなかった輸送艇まるごとを輸送たぁ、こいつは驚きだ。
 こういうびっくりな事はちょっと嬉しい。まだまだ俺にも驚けるものがあるもんだと、新鮮で面白いからだ。

 コキコキと、首の音を鳴らしながら準備をしている俺を、ガキの野郎が疑わしげに見てくる。手ぶらで来たと思ってるな、こいつ。
 ま、みときな。驚かせてやるよ。俺の『オペル』をお前に見せてやる。

 始めてください、その言葉と同時に俺は『呼んだ』――

 空間が爆ぜるように、強大な質量と爆風をもってそれは現れる。もちろん比喩だ、現実はそんなもんじゃない。
 眼に見えてないだけでこいつは何時だって俺のそばにあった。亜空間ワープか、などという戯言を吐いたそこの一般兵らしきやつ、俺の『オペル』を誤解してやがるな。

 『オペル』は本当に、眼に見えてないだけだ。なぜならそれは、眼に映らないほどの微細な気体や液体となって俺の周りを滞空している、超極少の素粒子機械だからだ。俺の脳の一部にちょいちょいっと埋め込んだ生体機械の命令によって、集結したり分散したり、あるいはその形を変えたりと自由自在に操作できる、俺だけの相棒だ。
 その気になれば呼吸器官か耳の穴あたりから敵の体内に侵入させて、内蔵破壊だってやってのけるスグレモノよお。どおだ、驚いたか野郎ども!

 高笑いをしながら、俺は『オペル』に次の命令、『捕食』だ。

 がぶり、金属製の爬虫類に似た姿をしている『オペル』がわれ、われ……なんだっけ? まあ、起動兵器に噛み付いてガリガリと分解していく。その光景に、後ろの奴らは頭を抱えて戸惑っている。
 無知な奴らだ。教育してやるか。

「安心しろ。俺の『オペル』は取り込んだものの情報くらい完全に記憶する。ああやって飲み込まれたら、吸収されて機体の一部と化しちまうが、後で分離して排出できる。だから心配すんな。いっしょごたに合体しちまったほうが輸送が便利だろ?」

 そう、この『捕食』行為には意味がある。『同化』によって機体の一部となった商品を自身の体として扱い、様々な形態に変化しながら移動することであらゆる障害を乗り越えることが出来る。それこそ、隕石群の中だろうとデブリの海だろうと、灼熱の太陽の真横だろうと平然と突き抜けることが出来る。
 何せ変化できるからな。あらゆる局面でもそれに耐えることが出来る機体に変化してしまえばいい。あらゆる地形に最高の適応力をもつが故に、俺様の『オペル』は無敵にして最速、何者にも抜き去ることが出来ない最強の機体だ!

 何せ敵のエネルギー攻撃を受けても半分ほどは自分の電力として吸収することができるし、実弾やら金属製の剣なんざも同化しちまうことで無力化できる。……というのはまあ、理論上の話だがな。
 実際は余りに大きすぎる質量はつらいし、一撃で消滅させられちまうくらいのエネルギー攻撃だとボロボロにされちまう。まあ、ようは一発じゃ落ちねー程度に、こっちも一杯『材料』を取り込んで巨大化しちまえばいいだけの話だけどな。


がりがりと、まだ俺の『オペル』は噛み付いてる。食べれば食べるほど消化し巨大化していくから、ペースもどんどん上昇していく。この調子で食べ終わらせるにゃ、多分一時間から二時間ってところか。
 とりあえず、『オペル』が『食事』を続けている間に、ここの宇宙港で一杯ひっかけつつ飯でも食うか。

 あっけに取られているガキやら一般兵士どもを無視して、俺は金髪野郎に伝えて出て行く。
 へっ。


 ――続く