サティで学ぶ兵器 4限目 「名前も大切」



もう30分以上になるだろうか、フェミリアは政治家達からの愛撫をじっとこらえていた。

「んっ…、もうやめてください」
「ぐへへへへ、女じゃないって聞いた時はびっくりしたけどこれはこれでそそるねえ」

これまでも接待中にこうして身体を触られる事はよくあった、その度マッハ親子や
ライブが止めてくれたのだが―。

「やめて、服の中はやめてください」
「もうフェミリアちゃんを守るのはだーれもいないよ。観念するんだね」
「思いきって脱ぐと楽なものさ、おじさん達に任せなさい」

一人か二人のただの暴漢が相手なら力づくで振り払う事もできる、
だが彼らは全員で10人近く、それもこれまで自分と父に支援をしてくれた人達だ。
怪我をさせるわけにはいかなかった。

「ほうら、さっさとオチンチンみせておくれよ。カマロカちゃんは君よりずっとサービスよかったよ」
「…えっ!?」

フェミリアは自分の耳を疑った。彼女の知るカマロカと言えば一人しかいない。
何故恩師の家にいた少女の名前がこんな所で。

「オッサン口を滑らせないでよ、もっと盛り上がってから入りたかったのにさ」

秘密倶楽部の扉が開き、フェミリアは信じがたいものを目にする。
黒髪金眼、とても19歳には見えない小柄でスレンダーすぎる肉体、
一糸纏わぬカマロカがそこに存在していた。

「カマロカちゃん!何でこんな所に」
「何でって?フフフ、本当にウブなんだね。バッタものとはいえ聖女名乗ってただけあるわね
フェミリアお姉ちゃん。見ての通り、今お姉ちゃんが思ってる事そのままだよ」

ぺたりぺたりと裸足で迫るカマロカはまるでここが自分の家であるかのように
この場所になじんでいる。つまりはそういう事なのだろう。
カマロカは自分よりも前から自分以上の『サービス』を彼らに行ってきていた。
先程の政治家の言葉と合わせるとこの答えで間違いない、その事実がフェミリアに
判断力を失わせていた。


気が付くと、カマロカの足が自分の股間に振りおろされていた。

「ぎゃひい!」

急所に容赦なくカマロカの体重が預けられ激痛に顔を歪める。

「顔はかわいいのになんだってこんなのが付いてるのかな?お前みたいな気持ち悪い奴が
ガンダーラに気にいられるとでも思ってたの?カマやろうが」
「いだぁぁぁい!やめてぇぇぇぇぇ!!」

股間だけでなく全身に激痛を感じ、そこでフェミリアは目を覚ました。
電気を付け、そこが秘密倶楽部ではなく自宅の寝室である事に胸を撫で下ろす。

「夢か〜、でも随分リアルな夢だったわね。いやいやいや、あんなのリアルでも何でもないし」

自分の言葉に即座に突っ込みを入れる。そう、フェミリアにとってはあれは現実とは程遠い夢だ。
支援者達に服の上からセクハラされた事はたびたびあるが、秘密倶楽部なんて場所に連れ込まれた事は無いし、

「それにカマロカちゃんはあんな事言わない」

カマロカともしばらくは会ってはいないがフェミリアの記憶では良くも悪くも普通のお嬢様だった。
あんな夢を見たのは昨日カマロカと年の変わらないアナンドにチョップしたからだろう。
そう思う事にした。


「っとと、いけないもうこんな時間!」

時計を見ると自宅を出なければならない時間だった。
髪型を整える為に洗面所に向かい、


「ぎゃぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

絶叫。
昨日、全身のリンパ液の流れを無理に操作したのが祟って体中に吹き出物が発生していた。
痛みの正体はこれだったのだ。




【問題】
名前で性能が変わる事が無いにも関わらず機体にとってネーミングは非常に重要とされている。
その理由を考えられる限り述べよ。


「ハイ、今日のテーマはこちら」
「せんせー、質問よ」
「何ですかサティさん?」
「その格好は」
「気にしないでね」

上は鼻の下、下は足首まで包帯グルグル巻きで教壇に立つフェミリア。
市販品を使わず肌荒れ程度でもきっちり医療品で治すというのが彼女の主義なのだが
サティ達はそのミイラっぷりが気になってしょうがなかった。

【サティの答え】
・アムステラ側と同じネーミングセンスだと敵に間違われるよ。
・かっこいい名前だとテンションあがるね。

【アナンドの答え】
・プロ野球団とか競走馬もそうだけど機体名でオーナーを示し宣伝効果が出せる。
・用途に合った名前でないと他国で運用方法を間違える恐れがある。

「今日は二人とも真面目に答えるじゃない」
「だってチョップ怖いね」
「だよなー」

お仕置きの効果は抜群、二人とも頑張っている様だし、怖がらせっぱなしも問題なので
フェミリアは今日は素直に褒めてみる事にした。

「うんっ、よく出来ました。サティさんもアナンド君も今回は大正解!
そう、名前の重要性としては『敵味方の区別』『部隊士気の維持・向上』『出資者の要求達成』『運用方提示の一手段』
どれも含まれるわ。でも、これだけが全てじゃないのよ」
「まだあるの?」
「ええ、二人ともテキストの機体名称の重要性のページを開いてね」





【一方その頃シンガポールでは】

居間のコタツにて5人の男女がヌクヌクとしていた。
シンガポール支部司令ニラーシャ、マチルダ仮面体型の研究者パラディン、アムステラのゲスト1号戦術指南役グーチェ、
ゲスト2号本日の主役リノア、最後に東アジア内の支部を統括する大幹部エクスダー。



「はー、やっぱコタツはいいよなー」
(注:作中時間は冬かもしれませんし冬じゃないかもしれません。
もし夏がふさわしいと思う場合は氷を入れた掘りコタツだと思ってください)


「よっし、そんじゃボチボチ始めますか。第一回チキチキ・リノアちゃんの機体名決定会議ー」
『オーッ!』
「…?」

会議のお題を読み上げるニラーシャ、ノリノリで追随する他のメンバー、
そして前もって内容を聞かされておらず一人取り残されるリノア。


「ニラーシャ、ちょっと君の言っている事の意味が分からないのだけど。
私の機体にはすでに『羅甲・B兵装試作型』という立派な名前があって―」
「立派な名前だって?ハッ、違うね!その名前は昨日付けで無くなったのさ!」


オスカーより届けられた重要任務の為の機体、それの名前を思いっきり否定されたリノアは
少しの間ポカンとし、そして激怒した。


「ニラーシャ!!あなたには助けてもらった恩も世話になっている恩もあるけれど
この発言ばかりは許せないわ!この機体はオスカー様より頂いたもの、地球人であるあなたには
それを変更する権利なぞあると思ってるの!?」
「ないんだな、これが。基地司令といえど俺には客人であるあんたの機体の名称変更権なんてない」
「そうでしょう、ならばこの様な無意味な悪ふざけはすぐにやめなさい!」
「あーわりい、ちょっとふざけ過ぎたか。気を落とさず聞いてくれよ、名称変更はそのオスカー様の命令なんだ」


そう言って、ニラーシャはコタツの上に書類を置く。


「その書類は、あんたが徹夜で試作機の調整してた時にカンシュタインから送られたものだ。
アムステラはあんたの機体をいらないって事がそこに書いてあるわよ」


それは責任者であるオスカーの他この書類伝達に関わったカンシュタイン達のサインも入った
まぎれも無いアムステラの軍事通達書類であり、そこにはリノアの乗る試作機をアムステラの機体登録から
除外する旨が書き記されていた。

そこまで目を通したリノアは目に涙を溜め、鼻声で叫んだ。

「私の仕事が私の知らない所で勝手に変更されているー!そんなぁ…オスカー様、私では駄目だというのですか」
「違う違う、ほらリノア涙拭いて。最後まで読めば分かるから」
「ありがどーぐーちぇ(チーン)」

隣から差し出されたハンカチで鼻を噛みリノアは落ち着いてもう一度書類に目を通す。
続きにはこうあった。アムステラへの忠誠の証としてブラッククロスは
リノアに機体を与え地球内での戦闘を行わせそのデータを提供せよと。

「つまりだ、向こうさんの方で方針の微調整がされたんだな。
新型量産機計画なんて無かった事にしたいんだよ。この星に先行試作型なんて送って無い、
あったとしてももう捨てたとさ。そこまでして本気出してないと主張したいのかねえ」
「ファファファ、ニラーシャよお前も年取れば分かるようになる」
「そんなわけでだ!ミス・リノアがこれまで乗っていた機体は大幹部エクスダー様と
ニラーシャ支部長の監修の元このボク、マスク・ド・サンキスト“パラディン”の手によって
作られたブラッククロスの兵器と言う事になったのさ!!キッスキッスキッス!」


リノアは自分がオスカーにもう用なしだと判断されたのではないと知らされ安堵する。
と、同時に機体に新しい名称を付けるというその理由も理解した。


「オッケー、パターン入ったわ。確かに、私の乗っている機体を『ブラッククロス製』とするのならば
『羅甲・B兵装試作型』などという名前はまずいわね。どう聞いてもアムステラの新型と受け止められるし」
「そゆこと、幸いその名で呼んでたのはまだ俺らだけだったし、地球上には書面も残って無いから
出撃までに改名しておくってわけよ。んじゃ当人が理解した所で命名大会始めましょかい」


ニラーシャの号令で全員ペンを手にし次々と名前候補が浮かび上がる。

「メイア・ルーア改」
「ファファファ、見た目からして違いすぎだ。さすがにそれは偽名を疑われる」
「シシャモ!」
「それグーチェの今食べたい魚でしょ?」
「ギルガメッショというのはどうだろうか?」
「親父が飼ってるライオンの名前だよなそれ?ふざけんな」

あーだこーだと意見が飛び数時間、コタツに入りっぱなしで喉がカラカラになり
もう皆早く終わらせたいと思っていた時ようやくリノアがまあまあな名前を挙げた。

「ぎ…銀虎(ぎんこ)」

一瞬しんと静まり返るコタツの面々。リノアはまた駄目かと思ったが、

「ん、いいんじゃね」
「これまでで一番いい名前じゃないリノア」
「キィスト!ちょうどボク達の乗る幻狼(げんろう)や地王(ちおう)に語感が
似ているから関連機体としてモシャス(偽装)できそうだねぇ!」
「ファファファ、それでは全員一致と言う事でこれにて会議終了!
ではミネラルウォーターとミカンを持ってくるぞ」

無事に終わり、ミカンを乾いた喉に流し込みながらほっと息をつくリノア。
彼女が後悔したのは翌日、ペイントと装飾で虎っぽく偽装した試作機改め銀虎を見た時だった。

「こ…この見た目は!!」
「うん、これに乗るのは元オスカー様の直属として不味いんじゃない?
で、でもばれなきゃ大丈夫よたぶん。地球人には気付かれないと…思う」

青ざめた顔で呆然と銀虎を見上げるリノアとグーチェ。
アムステラにはロイヤルナイツ用羅甲と並ぶ最強と呼ばれる量産機が存在する。
それはリノア達が属していた派閥の逆側に立つ人物が指揮する部隊専用の、
そう、高品質な羅甲フレームに虎を足して完成するアレである。

「…色が赤じゃなくて本当によかった」
「赤だったら完全にアウトだろ」

【ビームセッターブラッククロスリノアの挑戦・新生編完】






「はーい、テキストを開きましたね」

二人が内容を確認している間にフェミリアは名称に関する重要性のまとめを黒板に書き記していく。

【フェミリアの用意した正解、今回はテキストそのまま丸映し版】
・機動マシンとはパイロットにとっては友、メカニックにとっては我が子、
出資者にとっては看板である。ゆえに機体名には彼らの魂が詰まっていなければならない。
・戦場において多国籍の編成となる場合、隣にいるパイロットの名前が分からない事もあるが
○○機のパイロットと呼ぶ事でコミュニケーションが可能とする事ができる。
・また修理・換装の際にも名称によって互換性を知る事でより効率的な対応を可能とする。
・そして、名称不明の敵機体についても仮称を統一する事で他国の味方と目標を同一とする事ができるのである。

「これが正解よ、二人解答で足りなかった部分が分かったかな?」
「うん、一番最後の敵機体に関しての部分だね」
「名前って俺達が思うよりもこんなにも重要だったんですね」
「ええ、いくら強い攻撃力を持っていても味方のそして敵の共通した名称を知らなければ
戦う態勢すら作れない。戦場も一つのコミュニケーションの場所だから自己紹介は重要って事ね」
「うーん…」


ここでまたアナンドが頭を捻るった。
また何か変な事思い付いたのだろうかとフェミリアが声を掛ける。


「アナンド君質問があるの?」
「はい、今ちょっと思ったんですけど…わざと機体名を変にする事で
運用目的や所属をごまかす事も可能なんすか?」
「それも可能ね、でも現在世界の人達は国の枠を越えて協力しなければならないから、
名前で偽装する事でのデメリットの方が大きいわね」
「よい子は真似するなって事ね?」
「サティさんのいう通り、機体の製造自体を秘密裏に行うのは良いけれど、
名前すら本来の目的から離れたものにするのは所謂信頼なんて元々無い組織のする事、
長い目でみれば悪手だと言わざるを得ないわ」

そう言って、締めくくる。皆も機体名は慎重にね!



【最終問題】
敗北条件を満たす事なく以下の勝利条件を満たせ。
(勝利条件:ラクシュミーの撃破)
(敗北条件:ガンダーラのHP50%以下)



放課後『机上の空論・実戦理論への昇華』に続く