サティで学ぶ兵器 2限目 「信頼性って何?解答編」
「いい?信頼性という言葉には色んな意味があるけれど、このテキストに
書いてある内容に従うならば―」
フェミリアはビリケンさんのイラストが書かれた軍事教本を開きながら説明を始める。
この表紙のビリケンさんは日本の偉い人らしいのだが今はそれはどうでもいい。
「信頼性というのは、第三者から見てそのマシンの性能に対して信頼できる情報が
多いほど高いものなのよ。事故率の低さと言ってもいいわ」
「…じゃあガンダーラが一番信頼性高いという答えあってるよ?
サティはガンダーラ一番信頼してるしガンダーラは頑丈ね」
「せんせー、強いマシン程信頼性が高いって事っすか?」
二人の認識に対しフェミリアは首を振りながら返答する。
「どうやら私が力不足だったみたいね。二人の意見はもっとも、
これは良く間違われる事だからもう一度最初から説明するわね」
【一方そのころシンガポールでは】
その羅甲には量産機の外見に似合わない程に立派なビームライフルが握られていた。
パイロットのリノアが5回続けてボタンを押すとマシンガンとは比べ物にならない
威力の射撃が5回行われ、そしてボタンの左にあるバッテリー切れのランプが点灯する。
「射撃テストにおいて異常無し、続いてカートリッジ交換による第二射開始」
ビームライフルのグリップから使い切ったバッテリーを取り出し予備と交換する。
再度発射ボタンを押し引き金を引かせるが、今度はビームが発射される事は無かった。
「カートリッジ交換による連射失敗。本日のテストはここまでにしておいた方がいいわね」
機体を降りるリノア、彼女に近づく同年代の女性がいた。このシンガポール基地
におけるもう一人のアムステラからの客人であり、リノアの親友でもあるグーチェである。
「今度はどこが駄目だったの?」
「銃身の冷却不足だと思うわ。ビームライフルの冷却装置がちょうど
バッテリー一本分しか耐えられない構造になっているのだと思う」
「あーあ、それじゃあまた本星から新しい部品が届くの待ち?」
「ええ、この件の報告後数日から2週間、冷却装置が優秀になるかあるいは
放熱による変形に強い銃身に改良したビームライフルが届くのを待たなきゃ
次のテストは無理ね。グーチェの方は最近どうなの?」
これだから『信頼性の低い』試作機は嫌だと思いながら、リノアは別の機体のテストを
している友人の調子を聞いてみた。対してグーチェは親指を立て絶好調である事を示す。
「私の乗ってるネオ・ペルセポネーは既に設計は1年前からあったものだからね。
『カスタム機だって信頼性は高くは無いけどリノアの試作機よりは全然マシよ』。
それに、『こちらのは何か異常があっても現地で即対応出来るからね。安心して
乗っていられるわけよ』」
「私もネオ・ペルセポネーの方が良かったな」
「リノア、頑張れ!これはあんたにしか出来ない重要な仕事だから!ね?」
「オスカー様…」
【ビームセッターブラッククロス・リノアの挑戦・苦難編完】
「現在のロボット兵器学でいう信頼性は大体こうね」
・古い量産機体は信頼性が高いと言える、既存の技術が使われトラブルが起こりにくく、
もし異常があっても解決済みの問題である事が多くすぐに対応が出来る。
・逆に新技術が使われ、パイロットやメカニックに一定の資質が必要とされるものは
信頼性が低いと言える。「こんなワケのわからんものに頼らなければならんですとー!?」
状態なのである。
・ガンダーラについては多少ややこしい事になる。マシン自体は昔からあったのだが、
マニュアルなぞ全く存在しない未知のスーパーロボットである。客観的に見て信頼性は
新技術による機体より低いと言わざるをえないだろう。
・リヒャルト?昨日のインドスポーツの三面記事で包帯巻いた右腕振り回しながら
「このリヒャルトカノンでアムステラの奴らぶちのめしてくれるわーフハハハハ」
と言ってた事をどう信じろと?
「なので正解がこちら」
【フェミリアの用意した正解】
A4型(システムか確立されており多くの軍人が実戦でしようした記録がある)
B6型(4型とほぼ同条件だが4型より実働記録が少ないので思わぬ欠陥が報告されるかも)
Cゴーリキー(アムステラ戦争初期の機体だがスーパーロボットであり絶対数が少ない)
Dウインドスラッシャー(割と最近の技術を多数使用し、パイロットも空戦エリートに限られる)
@ガンダーラ(活躍はまだ防衛戦数回とテスト動作のみ、何よりマニュアルが無いのが痛い)
Eリヒャルト・クラウス(実績無し=信頼性無し、万が一彼の言う性能が本物だったら凄いのだが)
「やった、俺の答えが非常に正解に近いぜ!」
「アナンドくん、適当に選択してたまたま正解に近かったからって喜ばないの。
さて、この答えを通じてサティさんがこれからやらなければならない事は何かな?」
サティは解答とテキストを見比べ首を捻りちょっと考え、そしてゆっくりと答えた。
「んーと、ガンダーラは現状では他の機体に比べ不安が多い?
サティが思う以上に、皆はハラハラして見てたね?」
「そういう事、だからなるべくシミュレーションを繰り返し行い
ガンダーラのデータを数値化して国連に提出したり、パイロットであるサティさんにも
しっかりとしてもらわないといけないの。私もなるべく協力するから一緒に頑張りましょうね」
「ハーイ…、あれ?アナンド兄ちゃんどしたね?」
アナンドはバンダナを手で揉みしだきながら何かを考え込んでいる。
「どうしたのアナンド君?」
「えーっと、ガンダーラは現時点で信頼性は低いって結論なんすよね?」
「ええ」
「んじゃ、その信頼性低いロボットを主軸に置いた軍備を敷いている
インドの国防能力って結構ヤバいんじゃあ」
「このままじゃヤバイわね」
「「マジで!?」」
正直なフェミリア、二人の生徒の声がハモった。
「だ、大丈夫よ。インドは『戦略的優先順位』が低いからサティさんと
ガンダーラが一人前になるまでの時間は残されてるわ」
「せんりゃくてきゆーせんじゅんい?」
「そうだ、次の問題はこれにしましょう」
フェミリアは黒板に問題文をガリガリと書いていく。
【問題】
現在地球上の全領土をかなりの割合を占めているにもかかわらず、
オーストラリアに敵が来る事は少ない。これはアムステラから見た
『戦略的優先順位が低いから』であると推測されているが、
オーストラリアの優先順位が低いとされる理由は何か。
また、オーストラリアとは別の理由でインドにも敵が来る事は今の所少ない。
こちらの理由も述べよ。
3限目『戦略的優先順位』に続く