『彼女の信じた二つの伝説』
こつり、こつり、こつり、足音が聞こえてくる。
「来るぞ、ヘレナ」
数分前にどっかに行った相方を呼ぶ、だがやはり答えは無い。もう彼女の援護は期待しないでおく。
一人きりでも門番など生前何度もある。今回も大丈夫と思いたかった。しかし相手は、
そう彼女が戦う事が決定している相手はあの伝説の―「黒兎」。
生前、サイボーグとなり門番の役目を背負った日からあの最後の日までの間マハンは何度も聞かされていた。
(ふむ、黒兎か…もしそれが量産のあかつきにはQX団などものの数では無い事態に陥るだろう!)
(や、やめてくださいよマハンさん。俺の科学(メンタル)はデリケートなんですから。黒兎?考えたくもない)
(ヒョホホホホエエエー!ワシの口からは何も語れぬ!!故に伝説よ!伝説に対策などないわ)
(ピエトーソ【哀れ】としか言いようがない。もちろん、最初に相対するであろう君の断末魔、そしてそれを聞く小生が)
(シークレットペニース)
(何それ?チョーヤバインですけどー?ってゆーかアタシも何も知らないけどみんながヤバイっていってるしー)
仲間達の口から語り方は違えど答えは同じ。いるかどうかも分からんが最悪だと。
そんな話を聞いてるうちにマハン自身もその伝説の語り手の一人となっていたのは昔の話。
伝説は実在した。まだ気配しか感じぬが、いや気配を知ってしまったという事実が理解をしてしまう。
黒兎の気配はこう伝えているのだ!
『本来なら気配すら悟らせずお前を倒す事など簡単だ。
でも演出にのっとり戦いに見えるよう準備する時間は与えてやる。失望させるなよ』
逃げようとしたり助けを呼ぼうと声をあげれば、その瞬間失望した黒兎に倒される事は必至。
マハンに出来る事、それは向こうが悠々と登場し名乗り上げる時まで構え続け祈る事のみ。
彼女は祈る。もしこれが生前の事ならば祈る事などしなかった、あるいはQX団のクイーンを祈りの
対象としていただろう。組織という枠から自由な幽霊となった彼女が心の中で助けを求めたものの名は―、
祖国インドの守護神ガンダーラ。
心の中でその名を呟いてからハッと思いだす。そういえばかつて自分もガンダーラに祈りを捧げる少女であった事を。
それは、彼女がQX団のサイボーグとなりマハン=ガンを名乗る事になるよりも前。
後にマハンと名乗る事になる少女は父から、友人から、そして職場の上司からいつもある伝説を聞かせれていた。
(この地に祭られている守護神ガンダーラ、それはかつて1000年もの昔実際に動き外敵を撃退した)
(もし、その伝承が誇張もなく全て事実ならば今こそ蘇ってもらいたいものだ)
(その時は、私達もガンダーラと共に戦おう。祖国の平和の為に)
まだ、インドがアムステラに攻められるよりも前の事である。いささか急ぎ過ぎたかのような彼らの発言だが
それは確かにガンダーラという伝説を信じているからこそであり、それを聞くマハンもガンダーラを信じていた。
「ああ、今日は最高の日か」
今日の門番の仕事の間にマハンは出会い、そして聞いていた。ガンダーラは蘇り、再び戦っているという事実。
そして今日の大会で操兵技術を競う勝負が選ばれた時の為地下に搬入されていったスーパーロボットの中に
確かにガンダーラがあった事。そのパイロットは父でも友人でもない見知らぬ少女だったが
間違いなくその姿は人々の祈りを受け戦う決意を秘めた聖女だった事を。
「そうだ、今日は最高の日」
マハンの体から震えが消える。最高の日と言いきったそれは決して虚勢ではない。生前自分が教えられてきた
二つの伝説、そのどちらもが実在した事を知る事が出来た。今はただ、もう一つの伝説である黒兎との邂逅を
今か今かと待っていた。ガンダーラに夢を抱いていた少女の様に。
マハン=ガン覚悟完了
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同日同所、別室・・・ちょっぴり時間は遡る
『カラクリオー最萌トーナメント!』会場である東京ドームの地下六階、その一角にある控え室の1つで2人のゴーグル男が…
「小生をあの『被りキャラ』めと一緒にするとは言語道断ッッッ! ラメンタービレ(悲壮的)な目に合わせてやろぉぉぉか!!」
・・・失敬。生前はQX団の誇るサイボーグであった『教授(EEE)』と『邪曲家(ダークフーゴー)』が…
「オーストリアの作曲は世界一イイイイイイイイィィィィィィィィィィィィィ―――ッッッ!!!」
・・・あの、ナレーションに割り込まないで。お願いだから。
「己(オレ)の科学(シナプスアイ)は完璧です・・・完璧ですから、ねっ? だからそんな科学(ブースト)しなくても…」
「黙あぁぁまらっしゃい! この『被りキャラ』めがっ! プレスティッシモ(じたばたせず)にベーゼ(接吻)を受け入れるのである!」
彼らの脇で、唇を突き出して恥ずかしげな表情を浮かべる女性…
「そりゃあ科学(セックス)的にはそう分類されますが、言葉で誤魔化してもこれはッッ!」・・・だから、ナレーションに割り込むな。
お察しの通り。その女性・・・いや、ババアは『魔妖香酋長(プカハンタ)』。毒物を扱わせれば…「世界一イイイィィィ――ッッッ!!」
・・・もういい。何も言うまい。
「ヒヒヒヒヒケケケェーーーーーッッ!!! ワシも後10歳は若ければ『萌えトー』にエントリーしとったんじゃがのォ!」
「止めて下さい。その科学(ビジュアル)で参加された…(ドガッ!)・・・ムグッ!」
思わずツッコむ教授(EEE)を、邪曲家(フーゴー)は『7位入賞レベルのオリンピック選手3人分位』の力でもって蹴り飛ばしイィ〜ッ!
それによって若い男女が曲がり角でぶつかった時には生じる必然の現象! 甘い…「いいえ、これは科学(バッドドリーム)です」
「唇から摂取した毒物は、一種の科学(ステロイド)・・・副作用は『痺れ』と『嫌悪感』、効能『視力の強… ゲホッ! ガフッ!!」
「・・・魔妖香酋長(プカハンタ)よ、ちょっと毒がアジタート(強烈)すぎたか?」
「んん〜っ、間違えたかのぅ?」
「まぁ良い。ここで小生が技術者達にお願い(脅迫&恫喝)して造り上げたシステムが役に立つ」
邪曲家(フーゴー)はそう言って、モニターの付いた怪しげな機械を持ち出してきた。その機械の端からは数本のコードが延びている。
そして悶絶している教授(EEE)のゴーグルへと手際よくコードを接続(コネクト)、次いで教授(EEE)の頭に斜め45度のチョップ!
「ぶはっ! 己(オレ)の科学(ヘッド)を何だと思ってるんです!」
教授(EEE)は鼻から科学(オイル)を噴出しつつ、邪曲家(フーゴー)に抗議する。
「古いテレビならコレで直るのである!」「己(オレ)の科学(ブレイン)はテレビじゃありません!」
「キーッヒャヒャヒャ!・・・見るが良いわ、綺麗に写っておる。教授(EEE)っ! お主の出歯亀能力の出番じゃて。ヒヒヒケケェー!!」
彼らが怪しげな機械のモニターに目を転じると、そこに映るは教授(EEE)の視界! もちろん、自動録画機能も搭載だ!
「プレスッッティッッシモ(すぐ)に刺激的(R−18)なシーンでも探してこんか、こンの『被りキャラ』めがっっ!」ゴシカァン!
「痛っ! 己(オレ)の科学(シナプスアイ)をそんな事で…」
「・・・好き者(エロい奴)め、もう視線が動いておるわ。ケーッヒャヒャ!」
そして視線だけで会場を彷徨う教授(EEE)が見出したものは、欲望を剥き出しにした人! 人! 人! 人外!
「えぇい、裸(ヌード)が映っておらんではないか! 早く裸(ヌード)を映せ!」
「・・・あ"」「グヒャヒャ・・・逞しいのぉ!」
その時。教授(EEE)の何物をも見通す視界に入ったのは『銀装隠密(オレグレイ・カレロフ)』っっ!!
全裸(マッパ)でヒロイン達を鑑賞している彼の砲門は、ジジの巨砲(リーゲル・カノーネ)に及ばぬとはいえ、その屹立具合は勇壮の一言!
教授(EEE)を除けばまず見通せぬ、その完全隠蔽! 故に衆人環視の中でも隠遁的陰部(シークレット・ペニス)は不要!!
それはまさに邪曲家(フーゴー)の希望通り! 刺激的(R−18)で裸(ヌード)が映った光景・・・断言しよう。モザイク必須だっっ!!
「アジタート(ぷっつん)したぜ・・・ジャガるぴょん」こめかみに青筋を浮かべ、邪曲家(フーゴー)が両腕を掲げる。
「ちょっ! 邪曲家(フーゴー)さん!! ソレ、科学(キャラ)が違いますっ!!!」
プツッ・・・銀装隠密(オレグレイ)の恍惚とした笑み(イッたフェイス)を映したままのモニターが暗転する。
お見苦しいものをお見せしました・・・外伝に戻ろう。
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外伝2 「『彼女の信じた二つの伝説』のシリアス路線は何処いった? そしてジジの運命は・・・中継のファントムさんお願いします」
こつり こつり こつり ・・・規則正しい足音が、死を刻む様にマハン=ガンの方へと向かってくる。
その黒い人影は咥え煙草の紫煙を燻らせながら、悠然とマハンに近づいてくる。頭には黒いウサミミ、服装は黒を基調としたゴスロリ風メイド服。
つい先程終了した第四試合に出場してれば良かったろうにと思わせる格好だが、その不敵な表情はそれを否定している。
そして彼女の視線がマハンが掛けてるたすき、でかでかと『チャモワン』と書かれたソレに向けられる。
「・・・『殺しはタブー』って言われてるけどね」煙草の煙を吐き出しつつ、『黒兎』こと『蹂躙のミミー』が第一声を放つ。
「でもこのSSって、ギャグ補正入ってるから死なないよ。だから安心して死にな」「・・・メタ発言自重」
身も蓋も無いミミーの一言に、思わずツッコミを入れるマハン。同時に放つは必殺の剣、柔剣斬刃(ジェル・ブレイド)ッッ!!
・・・ピタッ!
案の定と言うべきか? 優雅に掲げたミミーの左手が、その刃を止めた・・・それもたった2本の指・・・しかも、親指と小指でっ!!
「知ってるかい? 古の貴族達は当時、貴金属並みに貴重だった香辛料(スパイス)を節約するため、この様につまむのがマナーだったってさ」
そんな薀蓄に耳を傾ける余裕も無く。瞬時にマハンが選んだ形態変化はっ! 『完全防御・型(タイプ)』
絶対的戦力差。殺戮ゴーレム(デスロイド)をすら凌駕する脅威と認め、この形態を選択した。
しかし彼女の脳裏に浮かぶは恐怖に非ず。その証拠に、液体金属の鎧が模した形はインドの守護神・ガンダーラ!
「・・・アンタの覚悟には敬意を表するよ。でもさ、今アタシは怒ってるんだ。何故だか判るかい?」ミミーが静かに尋ねる。
「?・・・判らない。何故?」
「アタシを止めるのに、たった一人しか寄越してないからさ。屋上へ行こうぜ・・・久しぶりに・・・キレちまったわよ・・・」
その言葉と共にミミーの脚が高々と跳ね上がり、マハンの顎を捉えたのは強烈な蹴り上げ!
角度が良ければ、おみ足とその奥まで見えるハイキック(教授(EEE)の視界録画に期待)が、重量級装甲のマハンを高々と打ち上げ・・・
ドカッッ!!
マハンの上半身が通路の天井板をブチ抜いて埋まり、出ているのは腰から下、2本の脚のみ。さながら逆スケキヨ(@犬神家の一族)の様相。
ふわり・・・と浮いたスカートを調えつつ、何故かやや苦しげな表情になったミミーがそれを眺める。
「チッ、冥王星まで蹴っ飛ばしてやるつもりだったけど。月のものが邪魔したわね」
ふわっ・・・っと。主を喪った(いや、『死んで』は無いが)『チャモワン』たすきが落ち、一陣の風に煽られて通路の奥へと飛んでゆく。
・・・ガシッ!!
だが、そのたすきを握った者が居る! 実用性を保持しつつ『萌え』をも追求した、機能美と萌えの融合(コラボレーション)とでも言おうか。
先程の第四試合にて、そして『黒兎』によっても実証される、憧れの対象とも言えるその姿は・・・『メイド服』ッッ!!!
そしてそのメイド服姿の人物は、『チャモワン』たすきを掛けつつ高らかに宣言する。
「聞きたまえ、黒兎(蹂躙のミミー)ッ! 私は、企業(『カラクリオー最萌トーナメント!』)に仇為す者を許さないッッ!!」
「そして君には、是非にとも、このセリフを言って貰うとしようッッ!!」
「『連邦(QX団@萌えトーでバイト中)の企業戦機(メイドさん)は化け物か』となッッ!!!」
「・・・そんなデカいメイドが居るか」メイド服姿で現れた企業戦機(ジャック・ダグラス)に、ミミーのツッコミが炸裂する。
「君には判らないのかい? ふっ・・・嬢やだからさ。(意訳:女性中心のイベントなので、TPOに合わせて女装しました)」
〜 一方その頃、別室でも 〜
「駄目ですから、それぇぇえええええーーーー!!!?」思わず教授(EEE)もツッコむ。何が駄目かは良く判る。『兎に角ダメだ』
「そうじゃ、教授(EEE)〜〜! これが! そう、これこそが『魔妖香酋長の策謀』であるのじゃぁぁあああ〜〜〜!!」
「スピリトーゾ! コン・フオーコ!! (気合いを入れよ、烈火の如くッッ!!)」「意味判りません!!」
「あ、でもちょっと待って下さい! 今、企業戦機(ダグラス)さんが柔装甲(ジェルメイル)を使ったらマハンさん・・・」
「今回は生身が残ってるからな。小生が思うに、プレスティッシモ(すぐ)に全裸(マッパ)だ」
「(・・・ゴクリ)そ、それは科学(エロティック)ですね・・・」
〜カメラを現場に戻そう〜
「へぇ・・・本気でアタシを止められるとでも思って居るのかい?」ミミーは不敵に笑いながら、ポキポキと指を鳴らす。
「やらせはせん、やらせはせんぞっ!!」ダグラスが両腕を大きく広げて構えを取る。
プシュッ・・・
対峙する2人の横合いから突然響く、圧縮空気の炸裂音。麻酔銃を構えて通路の影から現れたのは・・・ッッ!!
『闘売女(バトルビッチ)・ズレアバーシャ』
「アタシ出番が少なかったしー(そもそも寝てるだけの役だ)。だから大物喰いして目立てばぁー、超うれPーって感じぃー?」
「今の麻酔弾、象でもイチコロって奴だからぁー。当たればおネンネ確実なのよねぇー♪」クルクルと銃を回しながらズレアバーシャが解説する。
「・・・誰が、おネンネ確実だって?」「えっ? うっそぉーっ! 何で起きてるのぉーっ!!」
囮役の企業戦機(ダグラス)と、奇襲を仕掛けた闘売女(ズレアバーシャ)が驚愕した事に、ミミーは麻酔弾を食らった風もなく立っている。
そこへ、スッ・・・と突き出されたミミーの細腕。その人差し指と中指の間に挟まれて居るのは注射器型の麻酔弾っ!!
「二指真空把・・・黒兎神拳(こくとしんけん)の前では、麻酔銃の弾など止まった注射器にしか過ぎない・・・返すぞ」ヒュッ!
「ちにゃっ!」戻って来た麻酔弾がクリーンヒットし、象をも眠らせる麻酔薬の効果で闘売女(ズレアバーシャ)、強制睡眠(リタイア)!!
次の瞬間。企業戦機(ダグラス)は自らの顎に強烈なアッパーが叩き込まれると同時に、全身に強烈な衝撃波が流れるのを認識する。
彼が立っていた場所に居るのは、右腕をアッパーを振り抜いた構えで掲げ、目を閉じた格好で立つミミーの姿。
ミミーの背後には何故か宇宙空間が広がり、その虚空の中を顎を打ち抜かれ、服が破け散ってトランクス一丁になったダグラスが舞っている。
〜 別室の教授(EEE)視点 〜
「い、今の。背景が科学(プラネット)になってませんか?! 天井も無くなってるし!!」
「気にするでない、教授(EEE)〜〜! これが! そう、これこそが『車田効果』であるのじゃぁぁあああ〜〜〜!!」
「アパッシオナート(熱情でも良い)!! エネルジコ(だが、力強く生きよ)!!!」「もうワケ判りません!!」
〜再び、カメラを現場に戻そう〜
ドグシャアアァァァッッ!!
人間が(それがたとえサイボーグでも)発生させてはいけない嫌な音と共に、頭から床に落下する企業戦機(ダグラス)。
その頭部を中心に、夥しく飛び散ったのは大量の血液(オイル)。こんなダメージを受けて生きてる奴は居ない・・・てか、普通死ぬ。
「まだ終わっちゃ居ないぜ!」・・・前言撤回。そういやこういう世界でしたね。
よろよろと立ち上がった企業戦機(ダグラス)を見て、にやりと笑うミミー。そしてそのまま彼の方へ駆け寄って行く。
「衝撃のオォォォッッ!!」駆けながら右腕を引いて、強打を浴びせる構えを取るミミー。
「・・・デコピン」だが、企業戦機(ダグラス)に対して放つは、腕を一旦、手前で止めてからの優しいデコピン・・・
「おっぱぁお〜〜っ!」・・・の筈なんだが? 企業戦機(ダグラス)はもんどりうって通路の奥まで弾き飛ばされてしまった。
さしもの『24時間戦え!』のタフさを誇る企業戦機(ダグラス)といえど、伝説の『黒兎』相手は分が悪かった様で、もう立てない模様だ。
スッッ・・・
しかし、先程の『車田効果』にも奇跡的に耐え、今はダグラスの落下地点辺りに落ちていた『チャモワン』たすきを拾った者が居る。
「・・・アンタ誰だい?」
「ワシは『鋼の爪』っ! 『黒兎』よ、ワシと縞栗鼠隊の栄光を再び取り戻す為の糧となれいっ!!」
そう言うなり、スチャッ! と構えを取る『鋼の爪』だが。突き出した左手は何故か、人差し指のみを伸ばした格好である。
「・・・ほ〜ら。あなたは眠くな〜る、眠くな〜る・・・」そう言いながら、トンボでも捕る様に左手の指をぐるぐると回す『鋼の爪』
「・・・?!」「貰ったぁ!!」ミミーが催眠術でよろめいた隙に、右手で攻撃を仕掛ける『鋼の爪』だが、ミミーも左手でそれを受け止める。
ちなみに『鋼の爪』こと『ルン少佐』(但し、本人の前でこの名前を呼ぶのは禁物だ。可愛い名前だから気に入らないとの理由)と言えば。
かのギャラン・ハイドラゴンに 『アイアンクローで全てを破壊する男』と呼ばれるほどの驚異的な握力を持つ豪傑である。
その彼に握力勝負を挑んだ形になった訳だから、いくら『蹂躙のミミー』と言えども分が悪いと言わざるをえないのだ・・・が?!
「ぐぬっ?! ぬぬぬぬ・・・」何と、『鋼の爪』が押されている?!
「どうした? これはキサマの領域だろう」「〜〜〜ッッ!!」
しかし『鋼の爪』は、一旦劣勢になりつつも根性で耐える! 耐える!! 耐えるッッ!!!
多分、「ルンよ。『鋼の爪』の名を返上し・・・今一度、二等兵からやりなおせ」などと言われるのが嫌なのだろう。
「そぉいっ!!」そして何と! 根性でミミーの圧力を撥ね退け、そのまま合気道の投げの様な感じでミミーの身体を投げ飛ばす・・・が?
ふわっ・・・っ!
羽毛の如く宙を舞ったミミーが、『鋼の爪』に肩車して貰う様な格好で着地する。
通常なら『鋼の爪』の反撃チャンスに転じても良い状況だが・・・ちょっと考えてもみて欲しい。両頬を挟んでるのは『ナマの太腿』なのだ。
スカートに隠れて見えない、膝上と腰の間のいわゆる絶対領域。ガーターベルトが触れる違和感も背徳感を醸し出す要因と化す訳で。
如何におん年62歳になるルン(「だからその名で呼ぶな!」)・・・失敬、『鋼の爪』と言えども、男の性(さが)に逆らえようか?!
・・・無理だな。しかし、あのテッシン老にも無理だったのだ。ここで屈しても決して恥では無いぞ!! まぁ自慢して言える事でも無いが。
「御免あそばせ♪(コキャ♪)」 ミミーが腰を捻ると、『鋼の爪』の首が『コキッ』っと軽快な音を発しつつ真横を向く。
そしてミミーが肩から飛び降りると同時に、『我が人生に悔い無し!!』とでも言わんばかりの満足げな表情で『鋼の爪』が倒れる。
どどどどど・・・
そこへ小走りでやってきた数名の男達。しかし今度は赤十字マークなどを付けた、いわゆる作業班(非戦闘員)の模様。
ある者は床の掃除や壁の修復、他の者は担架に負傷者を載せる作業などに従事している。
だが、その中で特に異彩を放つ者が居た。何故か中華服に身を包んだ恰幅の良い黒人。額に『王』という文字が入ってるのも妙に気に掛かる。
「・・・おい、フランチェスコ。お前の格好は一体何なんだ?!」そう問い掛けたのは、同行していた眼光鋭いやせぎすの男。
「知らん。『お前にピッタリの役がある』とか言われて着てるだけだ。追加で食事が出るらしいからな、引き受けた」
「・・・また食い物に釣られたのか。お前、栄えある竜騎兵隊の一員って自覚はあるのか?!」
「細かい事言うなよ、マッシーモ。アミ隊長が『萌えトー』に出てないからって八つ当たりは無しだぜ」「違うっ!!」
これで素性は判った。この2人はアムステラ国教騎士団・竜騎兵隊所属のマッシーモとフランチェスコだ。
しかし判らないのは、フランチェスコが何故そんな似合わない格好をしてるかの方なのだが・・・?!
「・・・おっと。仕事だ、仕事」そう言うなり、フランチェスコは担架に寝かされた4人の方へ向かう。
そして麻酔薬の効果で寝ている闘売女(ズレアバーシャ)以外の3名に対しては、しばし様子を見てから一言。重々しく告げる。
『死亡確認!』・・・『死亡確認っ!』・・・『死亡確認ッ!!』
そして遺体(?!)を載せた担架は、そのまま通路の彼方へと運ばれて行ってしまった。
「・・・おいフランチェスコ! お前、その役はヒゲしか合ってないじゃないか!!」
「俺が知るか。そういうのは俺に言うな、俺に」
「大体だな、そういう役は中国のゴーグル兄弟にでもやらせ・・・待てよ。そうか、そういう事か。クソッ!!」
マッシーモは何かに気付いた様な顔になり、突然『鋼の爪』宜しくフランチェスコの腹にアイアンクローをめり込ませる。
「・・・『脂肪確認ッ!!』 ダイエットしろ、このデブッ!!」
こうして、『チャモワン』の受難は終わった。だが、安心してはいけない。まだ第二、第三の『チャモワン』が居るかもしれないのだから。
そして脅威の『黒兎』が向かう先は? 葬られた(でも、男塾的に生存確定)『チャモワン』達の再起はあるのか?!
そして実況のファントムさ〜ん、尿意を堪えつつ(ピー)する準備はOK?
こうして数々の(解決しなくても良い)謎を残しつつ、この外伝は終わる・・・。
冒頭部『彼女の信じた二つの伝説』:フィールさん
本編執筆:春休戦さん
続く