【 ※ 注 記 ! ! 】

  この『カラクリオー最萌トーナメント』は、本編『超鋼戦機カラクリオー』等のキャラを使った番外編SSシリーズです。
  従って、キャラクターの性格や行動が本編とかなり異なる部分もあります。読者の方々、重々ご了承下さい。

「・・・って。『何を今更』って気がするでござるよ?」と、前々回の【あらすじ】から絶賛行方不明中のファントムがツッコミを入れる。

黙れ、変態忍者。それはそうだが、今回も少々はっちゃけ過ぎたからなぁ。たまには注釈入れた方が良かろうと思ったまでよ。

では、【あらすじ】から始めるとしよう!

「ちょっと! 拙者の出番これだけ? おーぃ……」



〜 前回までのあらすじ 〜


ハイヌウェレ隊とは一体、どういう部隊なのか。
それは、幾多の謎を秘めた科学者、アドニス・アハレイによって創造された人工生命体・ネフィリムの姉妹のみで構成された部隊である。
同じ血、同じ顔、同じ筋肉を持つ彼女らは、飛んでくる銃弾を視認し、更にはそれを素手で止める事も可能という脅威の身体能力を誇る。

そしてその肉体と精神は、常人には耐え切れぬ苦痛ですら凌いでしまう位に強靭だ・・・が、しかし。
果たして、激しい『苦痛』に耐えるが如く、めくるめく『快楽』にも耐えられるのか?!・・・その保障は、無い。

ましてや、その『快楽』がこの最萌トーナメントにおいて『エロ宰相』補正が掛かっているユリウス・アムステラの絶技だとすればッッ!!


『 ア ム ス テ ラ 静 心 流 ・ 房 中 絶 技  ” 宰 ・ 相 ・ だ ・ か ・ ら  ” ッ ッ ッ ! ! ! 』


  覇” 亞” 亞” 亞” 亞”亞”亞”亞”亞”亞”亞”亞”亞 亞 ・・・ ・ ・ ” ” 皇 ” ――― ッッッ ! ! !


 ・・・到底、耐え切れるワケが無い。


ちなみにネフィリムとして生まれた彼女らに備わった能力の一つに『脳波収束意識集域』というものがある。テレパシーの一種とでも言おうか。
この能力によって意識が統合されたハイヌウェレ達は『集団という名の個体』又は、『個体という名の集団』にもなれるのである。
強制的にその能力を逆用され、『快楽』によって意識を統合されたハイヌウェレ達は全員、その時に居た場所で甘美なる放心を味わっていた。


 『快楽』の受信者であり、発信源でもある長女・ティカは、猫耳カチューシャに裸エプロンという姿でユリウス殿下に抱かれつつ。

 チャモワン役をサボってたにも関わらず、ちゃっかり萌えトー出場を果たしてた十七女・ヘレナはウルスラとジゼルに支えられつつ。

 多くのハイヌウェレ達は、次の試合の準備をしている最中に倒れ・・・


 そして四女・クロトは。蛇に睨まれた蛙の様なウドランに対し、ティカよりも優しい笑顔でもって待機を指示している最中に・・・倒れた。

「・・・? な、何だぁこのアマ。いきなり倒れ・・・ッ!! よく判らんが、逃げるなら今しか無ぇっ!!」

『死に戻り』の体に鞭打って、ウドランの巨体は通路の奥へと消えていく・・・果たして何処へ行く気なのか・・・?





 第八話「不思議の国のアリスゲーム 〜 予想外? 想定外?! そんなの関係無ぇ! 〜」





「・・・それでは、第八試合の選手を選出するっ!!」【石橋を叩いて砕く男】テッシンが、何事も無かったかの様に会場の面々に宣言する。
「第八試合か・・・次の勝負の種目は何だ?」と、【ドーナツに魂を売った男】デーニッツ(@外見はユリウス殿下)が問う。
(「・・・待て。何だ、その煽り文句は!」「いや、ギャグ成分を少々…」「要らんっ! そういうのは私のキャラではない!!」)

「第八試合はと・・・ほぉ?『ファンタジー』対決となって居りますな」
「『ファンタジー』対決か。で、舞台設定はどうなっている?」
「そこは第三試合で用いた機材を使う予定でしてな。まずは抽選クジから・・・むぅっ?!!」

会場の入り口から、本大会7度目(ほら、第七試合では使ってないから)の『新井式廻轉抽籤器』(ガラガラくん)が運ばれて来た。
だが。いつもとは違い、テッシン達は怪訝な顔から険悪な表情に変わり、男の観客達はブーイングの雨あられを浴びせる。


賢明なる読者諸君は、既にその原因にお気づきであろう。運び手のハイヌウェレ達が、謎の現象(笑)によって行動不能となったからである。


当然、ガラガラくんの運び手も代役を立てる必要があり・・・白羽の矢が立ったのが、エドウィン・ランカスター卿の部下である八旗兵達。
同じ服、同じ覆面、同じ師匠を持つ彼らは、(選手なのでココには居ないパンを除き)汗の臭いをプンプン撒き散らす格闘家達である。


・・・そりゃあ、ハイヌウェレ達の姿態を期待していた男の観客達は、怒って物でも投げるわな。誰だってそうする。俺だってそうする。


「痛っ! イタタッ!!」「何でこんな目に・・・」「・・・って、テッシン様! テーブルを投げようとするのはお止め下さい!!」

忌々しげに舌打ちして、頭上に掲げていたテーブルを戻すテッシン。そして仏頂面のまま、設置されたガラガラくんを乱暴に回し・・・

「・・・おぉっ!」

一転して、慈父を思わせるにこやかな表情に。彼が引いた選手は、ヒルデガード・アムステラだったのだ!!


「何と、ここで姫が出るとは・・・」ユリウス殿下(中の人はデーニッツ)が思わず、複雑な表情で呟く。
「そう! 『ファンタジー』と言えばやはり『姫』っ! 『姫』と言えば『ファンタジー』ッッ!! これぞ必然の選択! 勝利の方程式っ!!」

最適と思える舞台で『姫』を引いたテッシンのテンションが上昇しまくり、その歓喜の声は会場一杯に響くほど大きくなる。
しかし。その言動に呼応して、会場の一角から小さな波紋が・・・

(タッタッタッタッタッタッタ・・・)
「・・・これはもう勝負あったのぅ! 『姫』こそが絶対の勝者!! そして『姫様』と言えば、やはり『ヒルデガ…」バキィッ!!

「余を呼ぶ時に『姫』と言うのは止めいと、いつも言って居ろうが!」駆け寄って来たヒルデ様のダッシュ跳び膝蹴りが、テッシンに炸裂する。

「 ア ァ ー ー ッ ! ! 」 ド ガ ッ ッ ! ! 「ぬぉっ?!」「ぐあっ!!」

そのキレの良い跳び蹴りを食らったテッシンが軽々と吹き飛ぶ・・・八旗兵数名とガラガラくんを巻き込んで。

「・・・むうっ、これは・・・」「今のも良い蹴りですぞ! じゃが、今回はお忍びでは無…ぬおぉっ?!」

彼らが思わず絶句したのは何故か。それは、今の衝撃でガラガラくんから、更に2個の玉が転げ落ちていたからである。


(最初に出た玉)
・ヒルデガード・アムステラ

(今、転げ出た2個の玉)
・リニア・ヒュカイン
・メドゥーシア・アージェント


「ど…どどど、どうしましょう〜っ?!」「うろたえないっ! アムステラ軍人はうろたえないぃ〜っ!!」この事態に八旗兵達が慌てるが…
「・・・静まれ、八旗兵共。これも天の導きよ。今回は3名で競う事としよう」と、ユリウス殿下(inデーニッツ)が静かに宣言する。
「ならば舞台を整えます故。姫様、他2名の選手と一緒に準備なさって下され」その発言に呼応して、テッシンも指示を行う。
「あい判った。済まんの、テッシン。つい地球に居る時の気分でツッコミを入れてしもうた」

素直に引き下がるヒルデ様と、破損したガラガラくんを持ち去る八旗兵達を見送りつつ、ユリウス殿下(影武者)とテッシンは囁きあう。

「あのアクシデントに対して見事な采配じゃった。やはりワシの目に狂いは無かったのぉ」
「しかし、今回の題目『ファンタジー対決』をどう処理したものか・・・」
「心配無用じゃ。丁度、ある商人から仕入れた資料の中に『乙女達が真の乙女となる為、競い合う』というファンタジーがあっての」
「・・・著作権というか、元ネタ的に非常に危険な雰囲気を感じますが・・・それって大丈夫なんですか?」
「うむ。『幼膳命伝』(銀河☆宇宙丸・作)とかいう漫画じゃが・・・途中から少女達の百合展開がのぉ・・・グフフ・・・」
「お待ち下さいッ! そんな代物をッッ…」
「…姫様も出場するのに、使える訳が無いわいッ! じゃがその原典らしき小説の方も既に読破しておる。今回はそちらを用いる事に致そう」

そう言って胸を張るテッシンだが、今回の成り行きに又もや不安を感じてきたユリウス殿下(っぽいデーニッツ)が更に尋ねる。

「・・・本当に大丈夫なんですか、ソレ? 第一、その『商人』って…」
「む? 誰の紹介かと聞いたら、お主の名前を出しおったぞ?! 確か『ショウジ』とか言う商人だったのぅ」
「ッ!! お、叔父さん・・・勝手に人の名前を・・・」思わず頭を抱えるユリウス殿下(の格好をしたデーニッツ)であった。


「それでは皆の衆、会場の準備が整うまでしばし待たれよ!」短い打ち合わせを終え、テッシンが会場に向かってしばしの休憩を告げる。

テッシンの宣言が終わると同時に。会場に設置された大型モニターが、軽快な音楽と共にCM画像を映し出す。


 未知の星から未開の星まで、素敵なぁ〜武器を届けますぅ〜♪

 心やすらぐ支配の生活、デンワ(星間通信)一本、叶えますぅ〜♪

 プ〜レゼンタァ、プレゼンタァ〜♪

 武器のプレゼンタァ・ハワァドォ〜♪♪


「会場の皆さん、こんにちは。プレゼンター・ハワード、テレビショッピングのお時間です」

短髪グラサンで薄くヒゲを生やした、ビジネススーツ姿のナイスミドルがモニターに映る。

「アシスタントのレムです。本日は、皆様にとっておきの商品を数種類、ご紹介致しますわ」

同じくビジネススーツに身を固めた金髪の眼鏡美人が、その隣に映し出される。

「まず最初の商品は、多機能ゴーグルです。皆さん、暗闇の中で道に迷ったという経験はありませんか?…」


軍用(だろうが、会場のニーズに応えてか、覗き向きの機能と付属品が満載の)ゴーグルの説明を聞き流しながら、ユリウス殿下(偽)は思う。

(「・・・本物のユリウス殿下は、いつ帰って来るつもりおつもりなのだ?!」)


〜 その頃、ユリウス殿下の私室では・・・ 〜

「・・・ユリウス殿下? そろそろ本会場に戻られた方が宜しいのでは?」猫耳カチューシャに裸エプロンという格好のティカが尋ねる。
「フムハハハハ・・・スウィート、スウィートッ! "練乳を一気飲み"したくらい甘いぞ、ティカァァ〜!!」とユリウス殿下が不気味に嗤う。

2人が居るのは大きなベッドの上。ユリウス殿下も上半身裸で、下半身にはシーツを掛けたのみという無防備な姿。
情事の後。心地良い脱力感を感じつつ、部屋の一角にあるモニターで会場の状況を確認している最中である。

「確かに前試合を見逃したのは惜しいが、今度の選手は少女ばかりでは無いか。私にロリコンの気は無いぞ!」と、ユリウス殿下は力説する。
「第一、選手の中には我が姪も居るのでな・・・姪に欲情する訳にもいくまい?」が、一転してしんみりした口調に。
「殿下・・・」「それにな、もう一つ行けぬ理由が出来た」「・・・それは一体?」

「 ラ ァ ア ウ ン ド ッ 、 ト ゥ ゥ ッ ッ ! ! 」その叫びと共に、ユリウス殿下の腰を覆うシーツの下から、砲台が首をもたげる。

「 さ ぁ あ ・・・ ど で か い " 狂 犬 " が 動 き 出 し た ぞ 、 テ ィ カ ァ ァ 〜 〜 ! ! 」


 バ サ ッ ! !


続けての科白と共に、ユリウス殿下は腰を覆っていたシーツを撥ね退け、ティカに覆い被さる・・・



〜 そして再び、試合会場に戻る 〜


会場と選手の準備、及びテレビショッピングも終わり、観衆達は期待に満ちた唸り声を響かせ始める。
しばしの間を置いて。会場の一角から、ドレス姿の少女を乗せた3台のオープンカーが現われ、各々会場の外周を巡り始める。


少女の一人は、赤い縁飾りとリボンが付いた薄墨色のドレスを纏い、にこやかに観客達へ手を振っている。

「ヒルデちゅわ〜ん!」「きゃっわいぃ〜っ!」「俺達がついてるぜ〜っ!」リーゼント、赤毛、チビグラサンの不良高校生三人組が叫ぶ。
「・・・おぉ、ヒデに要一、とん平か。お主らも来ておったのじゃな!」

「このグラナ! ヒルデ様ファンクラブ団長として、小僧共にゃあ負けられへん! 気張っていくで〜っ!」真紅の髪に灰色の瞳の若者も叫ぶ。
「 う お ぉ ぉ ぉ 〜 〜 っ ! ! L(エル) O(オー) V(ヴィ) E(イー) ヒ ル デ 様 ァ 〜 ッ ! ! 」


二人目の眼鏡少女もヒルデ様と同じ意匠だが、こちらはピンク色の縁取りとリボンが付いた白いドレス。
やや伏し目がちになった眼鏡越しの表情は見て取れないものの、どうも会場の雰囲気に飲まれている様子である。

「おっ、『馬子にも衣装』って言うけどホントだな!」「そんな事言っちゃ駄目よ、ユイマ」「やっ。冗談だよ、セシリア」

軽薄な口調の優男と、その隣で彼の軽口を柔らかくたしなめる女性。トービノ夫妻の声を耳にして、リニアの視線がそちらを向く。

「なぁ、それでお前はどう思う? シグ」そう言いつつ、ユイマは横に居た長身の青年の首を抱え込み、リニアの方を指差す。
「あ、あぁ・・・。似合ってる、な」・・・リニアを見ているシグが、何かどぎまぎしてる風に見えるのは気のせいだろうか?!
「リニアーっ! ボクの分も頑張ってねーっ!」そのシグの横で、大きく片手を振って応援しているシグニィ。しかしもう一方の手は・・・
「・・・アィタタタッ!!」シグの背後に回っており、その尻を思いっきりつねっている。

・・・その一連の反応を見たリニアは、思わず嬉しげな笑みが出そうになるのを堪えつつ、薄い胸を張る。

「ふふっ、馬鹿共めっ! モデルが良いんだ、似合ってるのは当然だろう?!」


そして三人目の少女。これまた先の2人と同じ意匠だが、やはり配色は違い、白い縁取りとリボンが付いた淡い青色のドレス。
さっきのリニアよりも緊張と怯えが入り混じった感じで、オープンカーの上で縮こまっている。

「・・・やれやれ。ちょっと緊張しすぎよ、メディ」「ッ?!」

聞き覚えのある声に驚きつつ、メディはこのオープンカーのドライバーを見る。運転中だから、すぐに見えるのは後頭部だけだが・・・
その制帽の下にある紅色の、ポニーテールっぽくも見える特徴的な髪型は・・・。

「ぁ…イェン…さん?」「ご名答♪」メディの方に顔を半分向け、"クイッ"と制帽を撥ね上げたイェン・マイザーがニヤリと笑う。

「ステラとエウから伝言。『2回戦で会ったら、手加減しない』ってさ。ステラならあの辺で、旦那と一緒に観てる筈よ」
「『2回戦』?! それって・・・」「んっ、そういう事よね。あぁ、エウもさっきトレーニング室から戻って来てた。何を訓練してたんだか」

クスクス笑いながら、そう伝えるイェン。メディの緊張もちょっとは解れた様だ。

「ほら、これから試合なんだから。しゃんとしなさい、『姫君』」「ほへ?!」唐突なイェンの科白に、メディが目をぱちくりさせる。
「も一つ伝言があるのよね。『これ終わったら、またカードゲームやろうぜ!』だってさ。第三試合の審査員やってたセルスとかいう子から」
「あ・・・」「そういう訳だから、彼にも良いトコ見せたげなさいな。『アスパラ姫』っ♪」「ッ!〜〜〜」

(ちなみに何故『アスパラ姫』なのかについては、SS作品「月下に盾を砂上に剣を」をご覧下さい)


〜 その頃、観客席の一角 〜

「良いですね〜。彼女達を見てると、己(オレ)の科学(ハート)が安らぎますよ」「・・・教授(EEE)、ロリコン?」
「ちっ、違いますよマハンさん! 別にそういうのじゃ無くてね。純真無垢(ピュア)な少女っていうのは、男なら慈しみたくなるというか…」

ゴーグルを付けた若い男(とはいえ、さっきのテレビショッピングの影響か。同じ様な格好をした連中が会場のそこらで見受けられる)と
褐色の肌をした、インド系らしき若い女性が話している。と、そこへ割り込む別の女性の声。

「だから貴方は、被りキャラ(チェリーボーイ)だと言うのよ。教授(EEE)」
「…って! 麗しき叡智(レディ・ミィラ)さん。いきなり何て科学(ショッキング)な事を言うんですか!」
「全く。『純真無垢』だなんて笑わせるわね。いい? 『女』ってのはね、自分が『女』だと認識した瞬間からもう、戦いは始まってるのよ」

話に割り込んで来たのは、ゆったりしたローブでも隠しきれない官能的なボディを、包帯で覆った謎の美女。
QX団随一の頭脳の持ち主、レディ・ミィラである。

だが彼女が軽く息を吸い、機関銃(マシンガン)の如く嫌味トークを吐き出そうとしたその刹那。柔装甲(マハン)が口を挟む。

「百文字(ハンドレッド)は?」「あらっ、鋭いわね」その一言で、レディの舌鋒の矛先が教授(EEE)から逸れる。

・・・いや、逸れるというか。その矛先にうっかり教授(EEE)が頭を突っ込んでただけの様な気もするが。

「さっき出演依頼が来てね。ホウ酸団子に誘き寄せられるゴキブリみたいに、ホイホイ引き受けたのよ、百文字(ハンドレッド)は」
「いくらシリアス路線の息抜きだからって、最近は私を差し置いて出演する回数が多すぎるとは思わない? 百文字(ハンドレッド)」
「その面体で幼女愛好趣味(ロリコン)だなんて。バレたら恥ずかしくて首を括るレベルの趣味だと思うわよ? 百文字(ハンドレッド)」
「今更、女に過度の幻想を抱く被りキャラ(青二才)じゃあるまいし。青いのは鷲鼻(バトゥロ)だけで充分なのよ、百文字(ハンドレッド)」

「・・・ソレ、数えませんよっ! それが計何文字の嫌味トークかを数える科学(タフ)さは、己(オレ)にはありませんから!」
「多分、百文字(ハンドレッド)なら聞いてる」「そりゃ、聞いてなきゃ言わないわよ。虚空に独り言を呟く趣味は無いもの」

「・・・どうやら試合が始まるらしいぞ」突如、新たな男の声がその虚空から響く。
「あら居たのね、銀装隠密(オレグレイ)」「来たの、気付けなかった」
「あぁ、先程からそこに…って、済みません。己(オレ)の科学(シナスプアイ)には見えてるんで、その…アレを…隠して貰えれば」
「オレは常に股間隠蔽(シークレットペニス)だ! 愛する者の前以外ではな」「いやソレ、科学(ステルス)で見えてないだけですって…」
「・・・超人間(ギガント・バディ)化してから、妙な自信が付いたみたいね?」「・・・一皮剥けた男?」


〜 またもや試合会場 〜

「それでは、『ファンタジー対決』のルールを説明するっ!」と、3人の少女が一堂に会した所で、進行役のテッシンが告げる。
「今回は、とあるファンタジー小説から舞台を抽出した。その世界に相応しい乙女が誰かなのを、審査員に判断して貰う事になる!」

「だが、難しく考える必要は無い。自分が思うまま、素直に行動すればそれで良い」ユリウス殿下(代役)がテッシンの科白を引き取る。
「これはファンタジー世界が舞台だ。多少の不条理はあるだろうが、それを乗り越えるヒロインならではの行動を期待しよう!」

3人の少女は『そこまでは理解した』という風に頷く。
事実、この3人。外見の幼さに似合わず、カラクリオー世界の登場人物(メタ表現済まぬ)中でも、その知能は上から数えた方が早い。
とはいえ・・・今回の『対決』で、その知能を活かせるのかというと非常に疑問である。対決の題材もそうだが、他にも要因が・・・


〜 ( 試合開始直前の打ち合わせ状況・・・ ) 〜

(「テッシン殿・・・今回の監修者、『うたのおねーさん』でしたか? 何と言うか・・・大丈夫ですか、アレで?!」)
(「地球の人気子供番組で司会しておるそうでな。だから細かい舞台設定を任せるのに最適な人材と思ったのじゃが・・・」)
(「しかし、あの配役にはかなり不安が・・・」「それを言うな。姫様なら、姫様ならきっと何とかしてくれる・・・」)


〜 試合、開始! 〜

「・・・それでは試合開始じゃっ! 『うつすんです』起動ッ!」「っ?! 待て、テッシンッ! まだ3人共…」「あ"っ・・・」

テッシンの宣言と同時に、超高性能『立体映像投影機(通称・うつすんです)』が起動。3人の少女達をファンタジー(?)世界へと誘う。

「・・・試合は確か、一人ずつ行う筈では無かったか?」「むぅっ・・・」「・・・構わん。この際、このまま続行させよう」


〜 ファンタジー(?)世界 〜

「・・・あれっ? みんな一緒なんだ」「あのジイさん、ボケてんじゃないの?」「良いではないか。一緒に行く方が楽しいぞよ」

少女達は口々に話しながら、森の中へと続く小道を進んで行く。

「しかし爺も不親切よの。ルールを全部言う前に試合を始めおって」
「多分・・・色々アクシデントがあったみたいだから、うっかり忘れてたんじゃないかな?」
「おつむのネジが緩んでる、とも言うよね。アレは」

一応、試合で対決中というのに和気藹々な雰囲気の3人。それもその筈。第一、各々12歳、14歳、15歳という低年齢。
この萌えトーに出場してるのも、例えれば『家族が勝手に応募したら、審査に通っちゃいました』みたいな感覚である。
そんな元々『優勝しよう』という意欲がさして無い者同士が集まれば、こういう流れにもなるだろう。


〜 観客席 〜

観客達は、第三試合でも使ったゴーグル(及び、プレゼンター製品のゴーグルなど)を装着して少女達の様子を眺めている。
流石に今回の状況で、エロモードに入ってる奴はほとんど居ない。まぁ、前試合までの時点で賢者モードになった奴らが多い所為でもあるが。

そして今。観客達の目に映る光景は、少女達を少し離れた位置から眺めるもの。つまり映画を観てる気分で、この試合を観戦出来るのだ。

だから「え〜っ、おせんにキャラメル、美味しい団子はいらんかね〜」と、その雰囲気に乗じて会場内でおやつを売り歩くバンダナ男の姿も。

「あっ、サーガさん! 団子2皿とお茶2杯お願いします!」「どうも、お久しぶりです」
「キムにミンファンじゃないか! 元気にしてたか?! ・・・おやっ、アレクは?」
「あぁ、それはですね・・・」「この試合を観てれば判りますよ・・・ちぇっ、私も出たかったのになぁ〜」「ん???」


〜 ファンタジー(?)世界鑑賞中 〜

3人の少女達が居る小道の前方から、2人の男が話し合う声が聞こえて来た。どちらも『重低音』の響きを帯びた、壮年の男っぽい声である。

「先程のは、計240文字の嫌味トークであったな・・・」「む? 一体、何の話だピョン?!」
「気にするな、ちょっとした睦言(スキンシップ)だ。それよりも客人が3名、来た様だぞ」「おやっ、可愛らしいお嬢さん方だピョン」

前方の空き地にあるのは、優美な造りのテーブルと椅子。テーブルの上にはティーポットとカップ数個、マフィンの入った皿が載っている。
しかし・・・その紅茶が入った優美なカップを持つ2人の人物は・・・


一人は彫像の様な男。だが、その素材は滑らかな金属でも、柔らかな木や粘土でも無い。まるで灰色の岩を削って造ったが如き大男。
身に纏うは黒い帽子、黒いコート、黒いズボン。その全てが黒一色のいでたち。
彼の姿が大写しになると同時に、観客達のゴーグルには以下の様なテロップが映し出される。

〜 いかれ帽子屋(マッド・ハッター) 〜
(耐撃の百文字)

もう一人はウサギの頭を持つ人間(?)だ。こちらも又、どう見ても普通の人間では無い。ましてや普通の兎でも無い。
不敵な面構えをしたウサギの頭部、白い毛皮に覆われた筋骨隆々とした上半身、黒いタイツを履いた逞しい下半身を持つ偉丈夫だ。

〜 三月ウサギ(マーチ・ヘア) 〜
(ジークフリート=フォン=ラビット)


「・・・はて? これの何処がファンタジーかの?! 余には見当も付かぬぞ」「私も・・・」
「・・・これ、多分『不思議の国のアリス』の世界だね。だけど・・・これじゃあ『不気味の国』じゃないか!」

 外部の観客達もその意見に同意して、ざわめいている。

「ようこそ、不思議の国へ」外部からの雑音を完全に黙殺して、いかれ帽子屋(百文字)が重々しくゲームの開始を告げる。
「とにかく、気違いお茶会へようこそだピョン」そしてこの状況が当然かの様に、三月ウサギ(ジーク)はにこやかに少女らを歓迎する。

「・・・もうツッコむ気は失せたけどさ。お茶会って言うなら、まずはお茶でも勧めたら? 図体に比べて脳みそが足りないね、君ら」
「フフッ・・・これは失礼した。まずはマフィンでも如何かな?」
「頂こうかの!」「頂きます・・・」「・・・ちょっと! パサパサしてるよコレ!」
「ならお茶でも飲むピョン」「・・・ってあれ? そのポット、何か動いた?!」

「・・・酷いよ! 何で俺がこんな処に閉じ込められてなきゃならないのさ!」
「そういう配役だから、仕方ないピョン」「案ずるな。紅茶の入ったポットなら、こちらに用意してある」

三月ウサギ(ジーク)の持つポットの蓋を押し上げて出て来たのは、つやつやした毛並みの喋るネズミ。

〜 眠りヤマネ(ドー・マウス) 〜
(アレクサンダー)

「ほぅ、珍しいネズミじゃの」「わっ! 喋るネズミっ?! どんな技術を使ってるんだろ? ・・・ちょっと解剖してみたいな」
「ちょっ! やめて止めて!!」「・・・後でその子を改造した科学者さんを紹介するから。今は降ろしてあげて」

思わず配役も忘れ、興味津々に眠りヤマネ(アレク)を摘み上げるリニア。次いで少し鼻をひくつかせ、いかれ帽子屋(百文字)の方を見る。

「もしかして・・・キミもか?」「慧眼だな」「・・・何の話だピョン?」
「いや良いや。今する話でも無いし。(ゴクッ…)何コレッ? アバ茶?!」話を打ち切って紅茶を口に含んだ瞬間、又もリニアが文句を言う。

「どういう意味だピョン?」「つまりそこの令嬢(レディ)は、この温い紅茶が『馬の小…」「説明すんなっ!!」
「ふむ・・・これは、茶を喫する心得がなっておらんの。注ぎ置きが長すぎて、折角の茶が渋くなっておるわ」
「・・・ん〜、それなら淹れ直そう」目敏くティーセットを見つけたメディが、新しく紅茶を淹れ直す。

「はい、どうぞ」「・・・良い手並みだな」「美味しいピョン」「・・・ってか、君らが愚図すぎるんだ」
「これでお茶会らしくなったのぉ」「んっ、そうだね(ゴクゴク…モグモグ)」


「・・・馳走になったの。じゃが、この後は何をすれば良いのじゃ?」と、ヒルデ様がお茶会メンバーの3人(?!)に問う。
「(モグモグ…)ほほへろほょうぁはふんだひ(…ゴクゴク)もう先に進んで良いんじゃない?」と、眠りヤマネ(アレク)は言う。
「後は『赤の女王』に会えば良いピョン!」と、三月ウサギ(ジーク)が続ける。

 その『女王』の話題が出た瞬間! 突然、いかれ帽子屋(百文字)が立ち上がり、直立不動の体勢から右手を高々と上に突き上げ叫ぶッ!!


「 " Queen X " の "命" に よ り 、 全 て は "Q X 団 " の 名 の 下 に ッ ッ ! ! 」


「・・・くいーん、えっくす?」「・・・きゅーえっくす団?!」「・・・もう、ツッコまないよ」と、3人の少女は口々に言う。
「・・・コホン。条件反射(パブロフの犬)という奴である。詮索は無用だ」と、いかれ帽子屋(百文字)は目深に帽子を被って応える。

「それでは、先に進むとするかの」「そうだね。さっさと終わらせよう」「ご馳走様でした。それじゃ、またね」
「健闘を祈る」「考えるんじゃない、感じるんだピョン♪」「(ムグモグ…ゴクリ)又、今度ね〜」


3人の少女達は、お茶会の会場から離れ、小道の先へと進んでゆく。
ほどなくして現れたのは、チンドン屋(サンドイッチマン)の様に、体の前後をトランプの札で挟んだ強面の兵士。

「おい、お前達。大人しく同行して貰おうか!」
「無礼な奴じゃな・・・敵かの?」「敵で良いだろ? こんな奴」「一応、話ぐらいは聞いてみた方が良いかも・・・」

メディが一応、たしなめたものの・・・傷だらけの怖い顔をした兵士が凄むのを見て、敵だと判断するのは無理もなかろう。それ故・・・

「 先 手 必 勝 っ ! 覇 ア ァ ッ ッ ! ! 」 " 快 王 " の一人であるヒルデ様の渾身の蹴りが、トランプ兵に炸裂する。

「( ズ ガ ッ ! ) 何 の フ ラ グ だ あ ぁ 〜 っ ! ! ( … キ ラ ン ッ ☆ )」

〜 トランプ兵A(デッド・フラグマン) 〜 テロップ出現と同時に星と化す。・・・要は、ちょっぴり再起不能(リタイア)って事ね。

「んっ、悪は去ったぞよ!」「いいのかなぁ・・・」「別に良いよ。(ギャグ補正入ってるし)あの程度で死にゃしないだろ」


「フラグマンがやられた様ですね・・・逃げましょうか? お兄様」
「フフフ・・・問題無い、妹よ。彼は我らの中で最低の家柄・・・」
「あんなラ・フィユ(小娘)に一発でのされるとは、飛鮫騎士団の恥さらしですね」

「 そ こ っ ! 物 陰 で こ そ こ そ す る で な い っ ! 」 ド ゲ シ ッ ! !

「 う き ゃ あ ぁ っ ! 」「 う そ 〜 ん ! 」「 イ デ ィ オ 〜 ッ ト ! ! (馬鹿なアァ〜ッ!!)」

ヒルデ様が放った問答無用の蹴りは、登場準備中だった3名をまとめて退場させてしまった・・・って、テロップ出す前に終わってるじゃん。

〜【故】トランプ兵B 〜(レナス・バガーノ)
〜【故】トランプ兵C 〜(レックス・バガーノ)
〜【故】トランプの王様 〜(アンドレ・ボンヴジュターヌ)

「え、えーっと・・・」「・・・まっ、そろそろ話の終盤だからって事で良いんじゃない?」「余はいつでもクライマックスじゃぞ!」


「頼むから俺を蹴り飛ばさないで! バクシーシぷりーずっ!」
「・・・レイギダダジグゼッズレバ、ダイジョウブダロ。(礼儀正しく接すれば、大丈夫だろ)」
「元気の良い娘さん達ですねー。元気がある子って、スガタは好きですよー」

そして又、新たに現れたトランプ兵達。今度のは白旗振ってる若い奴と、しわがれ声の壮年と、ピンク色づくめの女性トランプ兵。

〜 トランプ兵D 〜(アナンド)
〜 トランプ兵E 〜(マニ・パージャ)
〜 トランプ兵ピンク 〜(オードリー・スガタ)

「あの・・・(これ以上被害を増やす前に)『赤の女王』って方に会いたいんですけど」と、メディがおずおずと尋ねる。
「どうぞどうぞ」「ソレジャ、ミュージッグ・ズダ…」「あ、ちょっと待ってマニ。オーディオ機器は外したからー」「ハァッ?」

女王の登場合図を出そうとしたトランプ兵Eを遮って、トランプ兵ピンクが発言する。

「ナラオメェ、ドーズンダヨ。ドウジョウエンジュヅバ。(ならお前、どうするんだよ。登場演出は)」
「大丈夫ですよー。最高の機器役が見つかりましたから」そう言って、手を掲げて合図するトランプ兵ピンク。


その合図と共に、周囲がいきなり薄暗くなる。それと同時に、誰も聞いた事が無い荘厳な音楽が何処からか響き始める。

「ほぉ・・・なかなかやるではないか」「変わった曲だね・・・聴いた事ある?」「ん〜・・・私も初めて聴く曲だよ」
「良い感じですねー」「とっつぁん、この曲は何てぇの?」「オレモジラン。(俺も知らん)」

「・・・ぬはははははっ! 知らぬのも道理っ! この曲は小生のオリジナルであるっ!」

両眼はスコープ、体躯は楽器という異形の男が現れ、奇妙なポーズを取った姿で高らかに叫ぶ。

「この度は特別だっ! 一般市民の為に(=破壊音波無しで)、アフェットゥオーゾ(優しく、愛情を込め)で弾き語ってくれようぞ!」

そして未知の音楽が鳴り響くのに合わせて、周囲に立ち込めるのは七色の靄(もや)!

「 極 彩 色 ( レ イ ン ボ ー カ ラ ー )の 過 剰 演 出 ( オ ー バ ー ド ラ イ ブ ) ッ ! 」

その不思議な靄の発生源は、小柄な老婆。

「ケーヒャヒャッヒャ! 毒物と出番は、無ければ生成(つく)れば良いのじゃよ!(もちろん、この靄に関しては人畜無害じゃぞ!)」

更には七色の靄を切り裂く様に乱舞する光の渦が、周囲に設置されたスポットライトから放たれる。

「・・・ジョドマデ! ゾンナニデンリョクアッダガ?(ちょっと待て! そんなに電力あったか?)」と、トランプ兵Eが驚くが・・・
「我が体内発電をもってすれば、あと10年は賄える!」だが、それに応える力強い男の声!

声の方を向くと。ビジネススーツを着こなし、爽やかな笑顔を見せた大柄な男が居る。ただ、角の様に飛び出した異様な髪型が少し気になる。
まぁそれ以前に。そんなサラリーマンみたいな格好でこの場に居る事自体が、既に異様とも言うのだが。

「・・・あのさ、普通の設備を使えば良いんじゃね?」「エコだよ、これは!」

呆気に取られたトランプ兵Dのツッコミも、自信満々の企業戦機(@今回は裏方)の前には通用しなかった!

ふと気付けば音楽も佳境に入り、七色の靄を切り裂く光が一点に集中してゆく。その光の中心、薄れ行く靄の中から現れた人影はっ!!


〜 赤の女王 〜
(フェミリア・ハーゼン)

「よく来たわね、お嬢さん達」と、ハスキーな声で赤の女王が語りかける。
「今までの行動で、審査の結果は出てるわよ。まずは改めて、審査員を紹介するわね」

 その科白と共に、少女達の後方から審査席セットが出現する。座ってるのは当然、いかれ帽子屋、三月ウサギ、眠りヤマネの3名である。

「では審査の発表をしましょうか・・・それじゃ、いかれ帽子屋さんから」黒尽くめの帽子屋が挙げたのは・・・リニア・ヒュカイン!
「うむ。物怖じせぬ態度に感銘した」「ちょ〜っと口は悪かったけどね」「もし男だったら、ジャガってたピョン」

「はい次、三月ウサギさん」続いてマッチョウサギが挙げたのは・・・ヒルデガード・アムステラ!
「元気がある子は好きだピョン!」「うん、太陽みたいに明るいもんね」「闇に慣れた眼には眩し過ぎるがな・・・」

「ラスト、眠りヤマネさん」最後に、小さなヤマネ(役のネズミ)が挙げたのは・・・メドゥーシア・アージェント!
「メディは優しいからね」「月見草の様な娘だな」「もうちょっと鍛えれば良いと思うピョン」

「・・・あらまぁ。各々1票ずつ入ったみたいね。だったら私の票で決まりって事よね」と、赤の女王は3人の少女を見回して言う。

「まずは貴方。自覚はあると思うけど、その舌鋒はファンタジーよりもハードボイルドに適してるわね」
「次に貴方。その行動力と鷹揚さはファンタジーにも合うけど、むしろ英雄譚向きって感じよね」
「最後に貴方。その謙虚な姿勢はまさに、ファンタジーの主役向きね。保護欲をそそられる辺りが良いわぁ〜」

と、順番にリニア、ヒルデ様、メディを評価する赤の女王。

「・・・なんと! それでは・・・」成り行きを見守っていたテッシンの、驚愕した声が虚空に響く。
「えぇ、そうね。今回の試合は折角だから、私はこの青い子…もとい、メドゥーシア・アージェントを選ばせて貰うわ!」

 その宣言を受けた会場からの歓声と共に、第八試合の終了が告げられる・・・。


〜 試合後・司会席 〜

がっくりと肩を落としたテッシンと、何とも言えぬ顔をしたユリウス殿下(代役)が居る司会席へ、ヒルデ様がにこやかな顔をして向かう。

「じい。今の試合、なかなか楽しかったぞよ」「姫様・・・」
「何をしょげておる。余は満足しておるのじゃ、それで良いではないか。それではこの後の進行も頼むぞ。テッシン、影武者殿」
「なっ?! ひ、姫様!」「っ?!」
「・・・たわけ。余が叔父上を見分けられぬとでも思うたか?」ヒルデ様は、呆れた様に軽く溜息をつく。

「どうせ審査委員長をするのに飽きて、何処かで遊び呆けておるのであろう? 余も責務は果たした故、しばし散策させて貰うかの」
「・・・姫様? よもや、それが目的で…」「馬鹿を申すでない! 試合は素でやっておったわ!」「…むぅ、失礼仕った」
「では、後は任せたぞよ。影武者殿にも苦労を掛けるのう」「姫君。お気遣い戴き、感謝致します」


〜 試合後・観客席 〜

「良いツッコミだったぞ、リニア」「お疲れ様、リニア」「う〜ん、惜しかったね!」戻って来たリニアへ、口々に労いの言葉が掛けられる。

だがリニアが真っ先に向かったのは、その集団の中で頭一つ高い青年の元。

「負けちゃったよ・・・」「・・・あ、あぁ?」「それで、私が負けてどう思った?」「ッ?!?」

ドレス姿のままのリニアから、いきなりそんな事を聞かれて目を白黒させるシグ。

「・・・あ〜・・・うん。お前らしいんじゃないか?」「私らしいだと?!」「わっ! いや、良い子ぶってないと言うか…」「〜〜〜ッ!」

ふくれっ面でポカポカと拳で殴りかかって来たリニアをなだめるべく、シグは慌てて言葉を継ぐ。

「うん、お前はよく頑張った! だからさ、オレがメシおごってやるから。機嫌を直してくれ〜っ!」
「・・・本当かい? なら、このドレスに見合った場所を選んで貰うよ」一転してニンマリとした表情になったリニアが、満足げに言う。

「あっ! リニアずる〜い! シグ、そういう事ならボクの分もおごってよ!」そのやりとりを横で聞いていたシグニィも、負けじと叫ぶ。

「おいシグ! 私も負けてるぞ。おごれ!」更にその尻馬に乗るのは勝美。

「・・・あのな、年下にたかるな。みっともない。その位は俺がおごってやる」溜息をつきつつ、ジルが勝美に言う。

「サンキュー、ジルのおっさ…」「…倍額でお前のツケにしてやろうか、シグ?」「それは勘弁して・・・」


〜 試合後・控え室 〜

「あは、あはは・・・勝っちゃった」未だにこの事態を信じられず、呆然としたまま笑いを漏らすメディ。
「まずはおめでとう、メディ」「僕からもおめでとうと言わせて貰うよ」「凄いじゃない、メディ! あたしも負けられないわねっ!」

そんなメディを取り囲み、姉妹達とライグ=イア=エッジワース(ステラの旦那)は祝福を浴びせる。
だが、そんな彼らの背筋をぞっとさせる音が部屋の片隅で聞こえた・・・

「(…キュポンッ!)さて、と。それじゃ前祝いに・・・」脇に居たイェンが持つ酒瓶から、芳醇なワインの香りが・・・
「・・・あっ、イェン? 私はこの後の試合の準備があるから・・・先に失礼するわね」「う、うん。僕もステラの付き添いにね・・・」
「あ、あたしも試合の特訓をしてこようかな!」

口々にそう言いつつ、そそくさと控え室から立ち去る3人。
イェンは酒が入ると、一緒に酒を飲む者全てを酔い潰さずにはいられない大酒乱だと知っているだけに、3人の退避行動は迅速であった。

「・・・ったく、あいつら〜。後で付き合わせるから覚悟しときなさいよ。(キュッ、キュッ)」クスクス笑いながら酒瓶に栓をするイェン。
「あ、あの〜・・・私、お酒はまだ・・・」
「んっ? あぁ、アンタには『王子様』がお待ちかねよ。邪魔者は消えるから、安心して次の試合まで遊んでなさい」
「ほへ? ・・・あっ!」

そう言うなりイェンは酒瓶を抱えたまま、鼻歌混じりに控え室から出て行く。
すれ違いざま、カードの山を抱えて所在無げに入口の脇に立っていたセルスを、控え室へと蹴り込みつつ。



一回戦・第九試合に続く