ドーム内を包み込んだ熱気。『君とにゃんにゃん』に席巻された観客は未だその熱を忘れられない。
対戦相手が誰だったか記憶させられないほどに、彼らは熱に浮かされていた。
そんな灼熱の坩堝の外側では、夜も更け込み冷たい風が吹きすさんでいた。
「寒いの?」
そう尋ねる女性の声は下から聞こえてくる。少年はその顔を正視できず、視線をそらした。
彼のリーゲル・カノーネは露出したまま。この状態では体温が奪われる一方なのに、彼は寒さを感じてなぞいなかった。
彼女の体温を、温かさを、こんなに間近で感じているのだ。寒くなろうはずがない。
ではどうして、彼女は「寒いの?」と尋ねたか。
「でも震えてるよ」
少年は怯えていた。この真新しい感覚に。綺麗な女性の痴態に。
彼がよく知る女性とは大きく異なる。真面目で知的だけど、今目の前にいる人に負けないくらい温かな彼女とは。
この人は少年をつぶさに観察している。
彼が笛を吹いたような声を挙げるたび、苦悶の表情を浮かべるたび、目元がほっこりとゆるむ。
それに呼応するがごとく、彼を包み込む仕草はより一層求めるようになってきた。
近い。さっきまでより彼女が近い。今までに感じたことのない感覚が込み上げてくる。
もしこんな所を他人に見られたらどうなるだろう。その危惧が彼に強いブレーキを踏ませていた。
一方で、誰かにこの緊縛を、得体の知れない温かさを打ち消してもらえたら。そう考えてもいる。
矛盾した想い。だが彼は、自らの痴態を晒す事になってもこの状況が終わることを、心のどこかで願ってはいないか。
このまま続けば、自分がどうにかなってしまいそうだから……。
いたいけな少年を心も虚しく、辺りには人の気配など微塵も無い。それもそのはず。
ヘレナがこんなに美味しそうなショタっ子を食いっぱぐれる愚を犯すはずが無い。
さり気無く人通りが少ない、いや、全く人が来ず音も聴かれない場所に少年を誘い込んだのだから。
また執拗に、ヘレナはリーゲル・カノーネに舌を這わせ、ねぶる。
ねぶる。ねぶる。書くだけで卑猥な響きだ。辞書を開いてこの語に赤ペンでチェックをつけている人がいたらその人は変態だろう。
試しに辞書を引いてみたら、載っていなかった。
方言だ古語だ、共通語だと言われるこの言葉は、中世の書物にも姿を現す。
けど別に物語には関係無い。
物陰で進行する秘め事を尻目に、ドーム内の熱も冷めてきた頃……。
会場に備え付けられた巨大スクリーンに、審査委員長ユリウスとテッシンの姿が映し出された。
第三話「この捏造は別に続けなくてよかったんだよね? だよね?」
怒号かと思わんばかりの歓声が再び会場を揺らす。揺らす。揺れるのはおっぱいだけでいいのに。
ユリウスとテッシンの二人がスクリーンに映ったのを見ると、観客は待っていましたと言わんばかりにボルテージを上げた。
次の試合。次のヒロイン。次の熱狂。
ユリウス 「皆の者、待たせたな」
テッシン 「これより一回戦第三試合を開始する!!」
テッシンの宣言。観衆の視線は一斉に舞台へ注がれる。
だがどうしたことだろう。舞台の中央では黒子たちがせっせと、何やら高級そうな機材(もったいつけるように布を被せている)を運んでいる。
テッシン 「ぬぬう? 殿下、あの者たちは?」
ユリウス 「見ての通り、舞台設営の黒子だ。
転移装置を使えばいいと言いたいのだろうが、今回はそうもいかぬ」
ユリウスはマイクを片手に立ち上がった。
ユリウス 「第三試合の種目を発表する。
それは… 『学園式・告 白 対 決』 だっ!!」
どよ――どよ――どよ――
歓声はどよめき声に変わった。
学園。それは甘酸っぱき青春の場。
告白。男が一度は――否、女性になら何度でも告白されたいが、多くの人間にとってみれば「そんなのあるの?」ぐらいの珍事かもしれぬこと。
それを以って――凶刃と為す
だが観客のボルテージははっきり言って微妙だった。
無理も無い。第一試合が『おっぱいマッサージ』、第二試合では『侵略系アイドル』の爆撃を体験した彼らにとって、
刺激が 足 り な い と思うのも無理からぬことだった。
テッシン 「しかし解せませんな。告白対決にあれほどの機材……。
それも人手で運ぶということは、よほどデリケートな物と思われますが」
ユリウス 「試合が始まれば分かることよ。さあ、ガラガラ君を持てぃ。決闘者を選出する」
テッシン 「然らば」
二人の前にガラガラ君が引き据えられ、ぐるぐると回転を始める。
そして弾き出される玉。控え室では選手たちがモニターを睨みつける。
ユリウス 「一人目は……蓮見恭子!!」
テッシン 「こちらは……むむっ、マリアンニュ・ランスロッドじゃ!!」
ワッ――――――
ドォォォォォォォ!!
一度対戦者が決まればこの盛り上がりようである。やはり貴様らは男だ。
女性の声援も高まった辺り、マリアンヌに対する女性人気の高さであろうか。フンドシはあげない。
ユリウス 「組み合わせが決まった。しかし、もう少しセッティングに時間がかかる。
その間、指を咥えつつシークレットペニスしているのも辛かろう。
控え室に人を寄こした、ヒロインたちの試合前の様子でも堪能しているがよい!」
ユリウスがスクリーンを指差すと、『マットの魂』等でお馴染み、唐川ユミの姿が映し出された。
ユリウス 「む……なんだと、確かか?」
テッシン 「いかがしました殿下?」
ユリウス 「ちょっとしたアクシデントだ。だが余のほうで何とかする」
―控え室―
東京ドーム内に設けられた選手控え室。そこでは、既に終了した試合のVTRを見ながら、各選手が思い思いに過ごしていた。
ある者は鏡に向かって入念にメイク。
ある者は友人と談笑しながらリラックスしている一方で、緊張に顔を強張らせる者も。
そして……試合に敗れ失意に佇む者。
シギー 「元気出しなよ、かつみん。出れただけでも奇跡なんだからさ」
勝美 「お前……慰めてないだろ」
シギー 「そんなこと無いってば♪」
勝美 「それにしても、ゼロコマって……あれは無いだろ」
シギー 「仕方ないじゃない、かつみんだし」
その時、テレビから審査委員たちの声が聞こえてきた。『次の対戦は、蓮見恭子 対 マリアンヌ・ランスロット』である、と。
勝美 「告白対決? くそぅこれならまだ勝負になったのに」
シギー 「あんまり変わらないと思うけど。そっかマリアンヌ出るんだね。応援しにいこっか」
勝美 「余裕だな、ったく」
悪態をつきながらも、敗者にはもうやることが無いため、結局勝美もマリアンヌの下へ向かった。
そこでは……。
リチャード 「マリアンヌ! 告白だぞ告白、お兄ちゃん以外にしたことあるか!?」
マリアンヌ (ウザイ……)
マリアンヌが兄リチャード・ランスロッドの熱い激励を受けていた。
マリアンヌ 「告白なんて……したことありませんよ。審査員を見てから考えれば何とかなるんじゃないですか?」
リチャード 「この強者たち相手にそんな考えが通用すると思っているのくゎっ!?
お兄ちゃんで練習しろ、小さな頃に何回も『お兄ちゃん大好き!』って言っていたみたいに ぶ べ ら っ!?」
マリアンヌ 「東京の土になってください」
リチャード 「ぐうっ……マリアンヌが進む勝者のロードを舗装できるのなら、本望だ!」
勝美 「……」
シギー 「……影ながら応援しよっか」
結宇 「マリアンヌ……イギリスの若い子でしたっけ?」
恭子 「ちょっと、あたしたちだって若いでしょ! それと正確にはスコットランドね」
K.G.Fの三人娘たちは次の試合を迎えて意気込んでいた。主に恭子が。
対戦内容は告白と聞いて、彼女はこの勝負の勝機を見た気がした。
家事一切が苦手な彼女にしてみれば、料理対決でも指定された日には敗北必定だと心配していたのだ。
恭子 「17歳か……でも人生経験なら圧倒的に勝ってるわ。残念だけどスコットランドに帰ってもらうね♪」
結宇 「けど告白対決ってどうやるんでしょうね?」
摩弥 「審査員が誰になるかが鍵になりそうね。負けないでよ、代表なんだから」
その時、控え室のドアを誰かがノックした。
開けると、そこには見知った顔が、可那と凛にK.G.Fのスタッフ、それにシンが応援に来たのだった。
可那 「恭子さん頑張ってくださいね! マリアンヌちゃんには悪いけど、今回は恭子さんを応援するわ」
凛 「私たちと当たるまで負けないでくださいよ」
シン 「まーその……頑張れよ。観客席で見てっから」
トーナメントを戦うライバルとはいえ、試合でぶつかるまでは良き仲間である。
彼女たちの声援に、蓮見恭子24歳年女(?)は勇気付けられた。
そして、カラクリオーのヒーロー・オブ・ヒーローである荒沢シン。
恭子が弟のように、否、それ以上に気になる彼が駆けつけてくれたならば、この勝負はもう――
摩弥 「あら……シン君さっきまでいなかったかしら?」
恭子 「あれ……あれー?」
ユリウス 「さあっ! さあさあっ!! 用意が整ったぞ!」
テッシン 「対戦者の入場じゃ、まずは青竜の方角――K.G.Fのエッチなお姉さん蓮見ぃぃぃぃ恭子ぉぉぉ!!」
オ オ ォ ォ ォ ォ ォ ッ !!
ウ オ オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ッ !!!
ユリウス 「白虎の方角は、現役女子高生が来てくれた! マリアンニュ・ランスロッドォォォォォ!!」
マリアンヌ 「今噛んだ? 変なところで噛んだよね?」
二人の決闘者が舞台中央に進むと、セットを覆っていた布が取り払われた。
そこにあった物とは。
ユリウス 「これはアムステラの最新技術で造った超高性能『立体映像投影機』! 通称『うつすんです』である!!
これを使って告白に相応しいシチュエーションを完全再現するのだ!」
テッシン 「これはまた、変なところに金をかけましたな!」
ユリウス 「最高のヒロインを決めるためならば安い出費よ。さあ、注目の審査員を発表する。
今回は学園式故に年頃の男どもを集めた」
テッシン 「一人目は――ご存知グラニのパイロット、ハーレム系主人公のシグムンド・ハーケット、16歳!!」
シグ 「どうしてこんなことに……」
テッシン 「マッサージのような審査が良かったか?」
シグ 「い、いや、そういう意味じゃ」
シグが舞台に踏み入ると、恭子がさり気無くウィンクをした。年頃の健全な少年にはまず効果有り。
しかし、シグは気づかずに自分の席に着いた。
ユリウス 「フフッ、あの女。もう戦いが始まっていることを理解しておるわ。
二人目の審査員は、エジプトの元気少年セルス・イウサール、15歳だ!!」
コールを受けてセルスも舞台に進む。若々しい審査員たちに、会場の女の子たちは温かい視線を送る。
ある者たちはどちらが好みかヒソヒソと話し始めた。
セルス 「うわ……何か恥ずかしいっすねシグさん」
シグ 「けどこんな内容でよかったかもな。
少なくとも一試合目の審査委員長みたいなことにはならないだろう」
セルス 「あー黄金の左だけは勘弁してほしいっすよね」
ユリウス 「そして三人目、これで最後だ。早くもこの男が参戦する!」
テッシン 「カラクリオーのハーレムキング! キング・オブ・キングス!!
剣王機パイロット荒沢ぁぁぁぁぁシィィィィィン!!」
会場が一斉にどよめいた。係員たちが縄で縛ったシンを無理やり連れてくる。
シン 「おいっ、何だよこれ!? そんなの聞いてねえぞ!」
テッシン 「意外な人選ですな。蓮見恭子は彼のパートナーですぞ」
ユリウス 「それは既に一試合目でも同様だっただろう。
だがこれには事情がある。実はジジきゅんを呼ぶつもりでいたのだが、姿が見当たらなかった。
それで急遽シンに来てもらったというわけだ」
ではジジはどこへ行ったのか?
心配は残るが、ともかく、これで舞台は整った。ユリウスが試合の流れを説明する。
ユリウス 「ルールは単純明快。三人の審査員一人ずつに、対戦者が好きなシチュエーションで告れ。
全て終わったあとに審査員の判定を下す」
テッシン 「告白は一人ずつ交互に行ってもらう。
さあ、どちらが先手を取る? 攻めに出るも良し、様子を見るも良し」
期せずして恭子とマリアンヌは視線を交わし、すぐに恭子が一歩進み出た。
ユリウス 「ふむ、度胸があるな。では先行、蓮見恭子。告白する相手を選べ」
恭子 「一人ずつに、違う告白の仕方をしていいのね?」
ユリウス 「無論だ。存分に告るがいい。その間に我々は……」
ユリウスはポケットからおもむろに、バイザーのようなものを取り出した。
ユリウス 「これをつけて観戦させてもらう」
マリアンヌ 「何ですそれ?」
ユリウス 「3Dバイザー。これをかけて映像を流せば、実物が立体的に飛び出してるように見えるのだ。
貴様らの恥ずかしく告白するいじらしい姿をたっぷり堪能させてもらおう、ククク……」
マリアンヌ 「メチャメチャ気持ち悪い!」
瞬間、マリアンヌがどこかから取り出した剣によって、アムステラが宰相閣下は膾切りにされた。服が。
快王の称号を持つユリウスが反応すら出来なかったその技は、ランスロッド家に伝わる抜剣術。
秒間数回という高速剣によってユリウスはパンツ一丁になった。
ユリウス 「フフッ、この女も中々やるではないか」
シグ&セルス (……すげえ怖えぇぇぇ)
かくして戦いは始まった。やっとです、はい。
恭子の指名した審査員はシグ。シチュエーションは 『誰もいない放課後の教室』 !!
その間、別の審査員は目隠しとヘッドホンをつけて告白内容が分からないようにする。
シン 「なあ、この流れてる曲なんだ?」
ユリウス 「余がプロデュースしたユニット『ハイヌレ22』が歌っている。ティカのソロパートいいだろう」
シン 「こんなところで嫁自慢かよエロ宰相」
テッシン 「シンならば誰をエロデュースする?」
シン 「変なこと聞くんじゃねえエロジイさん!」
セルスとシンが目隠しし終わると、恭子の待つ教室にシグが向かう。
教室のドアを開けると、そこは夕暮れに照らされた学び舎そのものだった。うつすんです高性能である。
恭子は背を向けて立っていた。数年ぶりの学生服に身を包んだその姿が夕日に照らされている。
思わずシグの心臓が、トクン、と鳴った。
恭子 「シグ君……来てくれたんだね。もしかしたら来ないかと心配しちゃった」
シグ 「そ、そんな。呼ばれたら無視なんかできないっすよ」
恭子 「フフ……あたしね、そういうシグ君の誠実な所が可愛いなって思ってたの。
入学した時からずっと見てたんだよ、気づいてた?」
恭子が背を向けたまま、顔だけ少しシグに向ける。
テッシン 「ぬううっ、あれは日本独特の美、『見返り美人』の形じゃ!!」
ユリウス 「テッシン落ち着け聞こえない」
とろんとした恭子の瞳がシグを見つめた。
シグは、これが試合でのことと分かっていても、視線を逸らすのは失礼だと感じ、真直ぐ恭子を見つめ返した。
恭子 「うふっ、綺麗な目。目だけじゃないわ、たくましい胸板や腕、シグ君って体おっきいよね」
シグ 「そんなこと……オレの国じゃ別に普通っすよ」
恭子 「その大きな体で――」
急に、それともようやくか、恭子が正面を向くと、シグが豆鉄砲を食らったように、呆気に取られた。
セーラー服とワイシャツのボタンが外されて、隙間から肌が露出しているではないか。
しかもブラジャーをつけていない!
ユリウス 「なんと……!?」
テッシン 「はふうぅ!!」
観客が徐々に熱を帯びてきた。咄嗟のことにシグはどうしていいか分からない。
いや、薄々これから起こることは想像できているが、その映像を受け入れることはある危険をはらんでいる。
シグ 「う、あ、あの。恭子さん何を……」
恭子 「わかってるんでしょう?」
蕩けるような声色で言うと、両手がす……とスカートの裾をつまみ、ゆっくり持ち上げていく。
シグはスレイプニルの警報ブザーが鳴るのを心の中で聞いた。
上がブラジャー無しならば……スカートの中は " は い て な い " に違いないのだ!
オオオオオォォォゥ!
ユリウス 「カメラッ、もっと下げろ下げろ!」
セルス 「地面揺れてるんだけど! いったい何が起きてんのさ!?」
スカートは太股の半ばまで引き上げられ、恭子は誘うような笑顔のまま近づいてきた。
恭子 「シグ君なら……好きにしていいよ」
シグ 「―――――(言葉にならない叫び)!!」
一歩。また一歩。これが戦闘ならラグナ・スパイドの射程に飛び込んで来たカモだが、この相手は強大すぎた。
スレイプニルのバトロイドモードを見る敵は、いつもこんな気持ちだったのだろうか。
そんなことを考えているシグに救いの手を差し伸べる者はいない。
テッシン 「グラニ1のパイロットが後退しておる! 朴念仁の彼が誘惑にうろたえておる!!
てかアレは告白でいいのか!?」
客席からは『脱ーげ!』コールの連呼。審査員席からは興奮した嬌声。その音という音を切り拓き、シグの耳にある声が届いた。
『僕のシグになにするのさーっ!!』
それを聞いた瞬間、シグはリボルビング・ビームライフルで撃たれた空戦型羅甲のように高速で教室を飛び出した。
後には恭子一人が残された。
ユリウス 「告り対決なんて言うからどんな戦いかと不安もあったが、こうなるとはな!」
テッシン 「恭子選手の直球勝負は見事であった。108種の魔球を究めることがくだらないほどに清々しい直球! 否、破城鎚だ!!」
ユリウス 「これはマリアンニュ選手にも期待させてもらえそうだな、ククク……」
シグ 「ハァ、ハァ……」
シン 「何があったんだ……?」
恭子の一回目の告白が終わり、後攻めのマリアンヌに番が回ってきた。
恭子が始める直前とは激変した会場の空気に、彼女は呑まれかかっている。
マリアンヌ 「ど、どうしよう。私もえ、えっちなことしたほうがいいのかな?」
リチャード 「マリアァァァァンヌ!」
客席の最前列にいつからいたのか、リチャードがドナテルロにまたがって駆けつけた。
マリアンヌ 「兄さん、まだ生きていたんですか!?」
リチャード 「いいか妹よ、惑わされるんじゃない。
逆に考えればいいんだ、別に脱がなくたって ユリウス「セコンドアウト、セコンドアウトー」
リチャード 「貴様ぁぁぁぁぁっ! お兄ちゃんのカッコイイ台詞を邪魔するなぁぁぁ!!」
マリアンヌ 「兄さん、大丈夫です通じました!」
激昂しかかったリチャードをマリアンヌが制した。凛とした姿に思わず溜息が漏れる。
マリアンヌ 「相手が脱いだからって関係ない、自分のやりかたを、私の騎士道を貫け。そういうことなのでしょう」
ユリウス 「いや、脱いでもいいんだぞ」
マリアンヌ 「それでは私も戦います。審査員はアラサワさんでお願いします」
後攻マリアンヌ。現役高校生が選んだシチュエーションは 『伝説の樹の下』。
審査員のシンは夕日を浴びながら、指定された場所に向かった。
待っていたマリアンヌは、シンの姿を認めるとニッコリ微笑んだ。
シン (いい足の形してる。ヤバイ、興奮してきた)
テッシン 「殿下、勝手にナレーションをつけると誤解が」
ユリウス 「良いではないか。シンならばもっと卑猥なことを考えているかもしれない」
マリアンヌ 「シン君……その……き、来てくれてありがとう」
シン 「……」
からくり工業高校のセーラー服に身を包んだマリアンヌが、口に手を当てて、恥ずかしがりながらシンを見つめる。
これだけで客席の男どもはニヤニヤが止まらない。
マリアンヌ 「……うん、私が口ごもるのって、らしくないよね。シン君、私ずっとあなたのこと好きだったの
同じクラスになって間もない時、シン君は戸惑ってる私に気軽に声かけてくれたよね。
誰とでも友達になれる明るさが……いつの間にか私の憧れになっていたの。
でも、シン君の周りって他にもたくさん可愛い女の子がいつもいて、この気持ちが伝わるか、相手にしてもらえるのか、
ずっと怖くて言えなかった」
ユリウス 「何かマジになってきてツマランから省略する」
マリアンヌ&
リチャード 『W ス ラ ッ シ ュ !!』
ユリウス 「さ゛い゛っし゛ょぉう゛!!」
恭子とマリアンヌは互いのやり方を貫いた。審査員に合わせて少しずつ方法を変え、ようやく計六回に渡るニヤニヤ告白合戦は幕を閉じた。
係員が審査表を回収し、あとは結果発表を待つのみだ。
テッシン 「……ふむ、結果が出たようじゃな。それでは皆の衆、発表いたす!」
ざわ… ざわ… ざわ…
テッシン 「審査員シグムンド……後攻・マリアンニュ選手!」
リチャード 「よっしゃぁぁぁぁ!」
まず一票、マリアンヌが先取した。ほっと胸をなでおろす彼女と対照的に、恭子の表情は徐々に硬直してきた。
恭子 (まさか、七つも下の子に?)
テッシン 「審査員セルスは……後攻・マリアンニュじゃ! この時点で第三試合はマリアンニュ・ランスロッドの勝利である!!」
ワアアアァァァ ァ ァ ァ ァ ッ !
一回戦第三試合・告白対決。勝者マリアンヌ・ランスロッド。
敗れた恭子はがっくりと崩れ落ちた……。
恭子 「ど、どうして……どうしてぇぇぇぇ」
リチャード 「よしよしよぉぉし、マリアンヌの勝ちだぁぁぁ!」
マリアンヌ 「気持ち悪いけど兄さんありがとう」
リチャード 「もっと気持ちを込めて『お兄ちゃんありがとう、だーいすき!』と言ってみなさい!」
マリアンヌ 「ドナテルロ、私が乗るからそのゴミ落として」
ドナテルロ 「ブルルッ」
リチャード 「うごげっ!!」
ユリウス 「意外な幕切れだったな。余であれば迷うことなく恭子に入れたのだが」
テッシン 「そこです、そこ。今回は審査員を若者に絞ったことが明暗を分けました」
ユリウス 「と言うと?」
テッシン 「あの大胆な告白に票を入れた場合、
明日から"このシクペニ(このシークレットペニス野郎)"の烙印を押されてしまうのじゃあ!」
ユリウス 「うっ、なるほど。未来多き少年たちが高校卒業までシクペニでは気の毒だ」
テッシン 「左様、彼らはそれを本能的に悟って評価基準からエロを外したのじゃ。
だがこれは、審査員をよく見て演技を行わなければならないということをも意味しておる。
よって勝者は間違いなくマリアンニュじゃ」
ユリウス 「ふむ、なるほど。そういえばシンは……」
審査表を見たユリウスは一瞬言葉を詰まらせた。
ユリウス 「この勝負……マリアンニュの圧勝かと思ったが。シンの判定は恭子だ!」
パッと恭子が顔を上げた。その視線の先ではシンが恥ずかしそうに頭をかいている。
シン 「その……恭子さんらしかったっていうか。いつも世話になってるしさ」
恭子 「シン君……シンくぅぅぅん!!」
シンの胸に飛び込み抱擁。敗れ去ってもこれだけで癒される瞬間。
恥ずかしがりながらもシンは拒むことなく彼女を抱きしめてあげた。
セルス 「シグさん、なんっっっっっすかあの役得……」
シグ 「これが……これがカラクリオー主役のパワーか……」
セルス 「これじゃ俺たちが噛ませのお利口さんみたいじゃないっすか」
シグ 「シギー怒ってるかなあ……」
彼らはこの日、「ヒーロートーナメントが開かれたときは、あの男を一番初めに潰さなければならない」
と心に刻み込んだのだった。
ユリウス 「さあ、第三試合の勝利者インタビューだ。
マリアンニュ選手よ、今の心境はどうだ?」
マリアンヌ 「わざとらしく噛まないで下さい。あと服着てください」
ユリウス 「ふむ、やはり厳しい戦いだったか。ところで次は脱いでもいいんだぞ」
マリアンヌ 「服着てって話してるんですけど」
ユリウス 「さあこれで一回戦も第四試合を迎える。
次はどんな対決を、誰の戦いが見られるか。楽しみにしていろ愚民ども!」
マリアンヌ 「話聞く気無いんですか?」
続く……