Rコロシアム 第五試合〜獄闘〜



スタジアムは、熱気(狂気)と焼き焦げた異臭が立ちこめる。
前の試(死)合でサンキスト”熱情(ヘルファイア)”が使用した
火炎殺法(メイア・ルーア・ジ・サンキスト・ミンストレルソング)により
リング内が炎で包まれていたからである。

暫くインターバルを取り、リング内に残った火の消火活動と
意識を失った、サンキスト”熱情(ヘルファイア)”を運び出す作業に入る。

この“インターバルに我慢できない”観客達(クレージーども)は口々に叫ぶ。

「防災訓練はいいから早くしろよゥ!」

「爆散するとこ見てえええぇぇぇ〜〜〜!!」

「さっさと死合を開始やがれェェェ〜〜〜!!!」

リングアナのロバート・チェンは、マイクを手に取りそんな観客達(クレージーども)をなだめる。

「お待ち下さい!お待ち下さい!
 もう少しの時間でリング内の“整備と清掃”が終了致しますッ!!」

だが猛獣使い(ロバート・チェン)の鞭(言葉)に、観客達(クレージーども)は耳を貸さない。
死臭ただよう“地獄絵図”が一刻も早く見たいからである。

我慢できない観客達(クレージーども)は叫びだした!

            「 地 獄 を 見 せ ろ ッ ! 」

           「「 地 獄 を 見 せ ろ ッ ! 」」

          「「「 地 獄 を 見 せ ろ ッ ! 」」」

ロバート・チェンは半ばムキになってマイクを握り締めて叫んだ。

「お待ち下さいィッ!!!場内は“静粛”に!
“静粛”にお願いしますッ!!!すぐにリング内の“整備と清掃”が終了致しますゥッ!!!
 場内のお客様は“静粛”に!何卒“静粛”にお願い致しますッッ!!!」

だが、観客達(クレージーども)は“雄叫び”を止めない。

            「 地 獄 を 見 せ ろ ッ ! 」

           「「 地 獄 を 見 せ ろ ッ ! 」」

          「「「 地 獄 を 見 せ ろ ッ ! 」」」

科学者“R”は、この“雄叫び”を聞き…
つかつかとリングアナであるロバート・チェンの元へと歩み寄った

「あの…何か?」

ロバート・チェンの問いに対し…科学者“R”は

「貸せ…」

と言うや否や、即座にマイクを奪い取った。

「あっ…!」



「ご来場の皆さん…『『『静粛』』』に。」



科学者“R”は『静かに叫んだ』。

               「………………」
              「「………………」」
             「「「………………」」」

即座に球場の“騒音”は静まった。
四つの死合で興奮していた観客達(ビーストども)は
“R”の静かな威圧感を感じ、押し黙ってしまったのだ。
まさにベテランの猛獣使いの如き扱いである。
続けざまにベテランの猛獣使い(科学者“R”)は静かにこう言った。



           「もう…“既に試合は始まっておる”。」



              ????????????

球場内の観客達(ビーストども)は“R”の言った意味が分からなかった。
科学者“R”は構わずに続けた。

「清掃員と救護員(スタッフの諸君)…
 その“殺しの舞台”から退きたまえ。君達も死にたくはないだろう?」

「へっ?」

リング内を掃除するスタッフとサンキスト”熱情(ヘルファイア)”運び出そうとしたスタッフは疑問に思った。
それを見てマイクを奪われ暫く放心状態だったロバート・チェンは言った。

「何故ですか…?」

「クックックッ…」

ロバート・チェンの問いに、科学者“R”はただ静かに笑うだけであった。

…とその時であるッ!

“二つの影”がスタジアム内に現れた!



            ギ"ギ"ギ"ィ"ィ"ィ"ン"ッ"!!!!!!!!



…ッと交わるはッ!!“二つの白刃”ッ!!!
だが姿が見えない…見えないのである。

「み、見えねェ…ぞ???」

「な、な、なんなんだ…」

「鉄と鉄がぶつかり合う音しか聞こえネェ…?!」

観客達(クレージーども)は、何が何やら全くもって分からなかった。
その状況下の中、観客席に一人の老人がいた。
老人は“尋常じゃない”手をしている。
何度も爪を剥がして重ね鍛え上げた、板のように厚みのある爪…

それは、まるで人の手ではなかった…

           まるで『猛禽類』ッッ!!!!!!

“老人”は静かに語る。

「『隆玄』…『甚左』…存分に“戯れ”よ。
 今宵は互いに存分に“殺し合え”。
それがあんたらの“任務”じゃてェ。
 ウヒャヒャヒャヒャ〜〜〜〜〜〜!!!」



この老人こそ『甲賀モクモク衆』頭目…



            マスター貞松であるッッッ!!!











Rコロシアム 第五試合

隆玄(甲賀モクモク流)
38歳 国籍:日本

VS

甚左(甲賀モクモク流)
38歳 国籍:日本





球場内には、刃と刃が交わる音しか聞こえない…
だが“確かに戦っているのだ”。
それ故に観客達(クレージーども)はがなり立てた。

「さっぱりわかんねぇ…!!」

「どうなっちまってんだよゥ?!」

「“R”さんよ!説明してくれやァッ?!」

これに対し…科学者“R”は!

「クックックッ…」

さきほどと同じく…ただ静かに笑うだけであった。
そんな科学者“R”の姿を見て救護員であるスタッフが小さく言った。

「あ、あの…」

科学者“R”は『先制』してこう言った!

「さきほどもいったはずだ…“早く退散したまえ”。
 君達の生命が危ない……」



                 ?


スタッフはただただ困惑するだけだった。
その時である…

「ううっ……」

微かに喘ぎながら、動くものがあった。
サンキスト”熱情(ヘルファイア)”の”熱情(ファイヤーパターン)”な修斗である。
この状況下の中で意識を取り戻したのである。
それに気づいた救護員が語りかけた。

「う、動けるか…?」

サンキスト”熱情(ヘルファイア)”は小さく答える。

「ボ、ボクは…とっても強い(サルーイン)な…」



サンキスト”熱情(ヘルファイア)”の状態を見て、もう一人の救護員が呟く。

「……早急な手当てが必要だな。」





              ダダダンッ!!!!!!



それは“突然”であったッ!



              !!!!!!??????



その光景に唖然とする観客達(クレージーども)ッ!



無数の“苦無”が…ッ!!!



       ”熱情(ファイヤーパターン)”な修斗に突き刺さっていたからであるッ!!!



                  無論これにより!

          サンキスト”熱情(ヘルファイア)”は…『死亡』…ッ!



「は、はへ…」

「あ、あががが…?!」

困惑するはリング内にいたスタッフ!

                  そして…現れたッ!

                 やっと姿が見えたッ!!



                   それは………

            鎖帷子に身を包みし…“深緑の修斗”であった。

      双方共に刃毀れが激しい忍者刀を右手に持ち、左手には飛び苦無を携えていた。


一人の観客(クレージー)が呟いた。

「N、NINJA…?」



その隣にいた、マスター貞松は“アヒャアヒャ”しながら言った。

「“早駆けの術”…まァ簡単に言えば高速の歩法術ですわ。」

観客(クレージー)は、そんなマスター貞松の解説を聞いて言った。

「あ、あんたは……」

マスター貞松は急に“無表情”となってこう答えた。

「あんたは知らんでもええ。」



2機の忍者修斗は、この特殊な歩法術で“高速の戦闘”を行っていた。
哀れにもサンキスト”熱情(ヘルファイア)”はこの戦闘に巻き込まれ、無念の死を遂げたのであった。

                 そして…!!

             両者は再び姿を消した……!!!

「ひ、ひえ〜?!」

「科学者“R”…!!」

驚き騒ぐは…獣の檻(試(死)合場)に取り残された大会スタッフ!



              科学者“R”は………ッ!!

            『“冷たい眼”で見て言ったッ!』

「だから言ったのだ…『退け』と。」

「た、助け…」

「自分の身は自分で何とかしろ。」

助け(ヘルプ)を懇願する大会スタッフに“R”は冷たく切り捨てた。
科学者“R”は更に続ける。

「ほれ…ボヤボヤしている内に…」

                 「?!」

               ……………………



             科学者“R”が言った刹那…

         清掃員(大会スタッフ)が乗る修斗の一つが…

                 無惨にも…

               真っ二つとなり……

             爆散したのであった………

「…ひぎィ?!」

傍にいた救護員(大会スタッフ)が恐怖する…直ちに逃げ出そうとするも!

                ダダンッ!!

無残にも…“飛び苦無”がコクピットに深々と突き刺さった…



          それは無差別…!『無差別』であったッ!!

次々に破壊(殺)されていく大会スタッフ!
ある者は恐怖し!ある者は怯え!ある者は狂乱しながら!



        ケージ(金網)内は宛ら“地獄絵図”と化していた…



闘う術すら持たない者を“残酷無残”に屠り去る『殺戮ショー』を見て
興奮するは観客達(クズども)であった。

「ひィハハッハッ!爆散ッ爆散ッ〜♪」

「“R”の忠告をすぐにでも聞いておけばねぇ(笑)」

「阿鼻叫喚サイッコーッ!」



            『 ま さ に 外 道 』



老若男女問わず…この殺戮の舞台を観戦する者達に『人の心』など到底持ちようもなく…





   「「「阿” 鼻” 叫” 喚” サ” イ” ッ” コ” ー” !”」」」





球場内の観客達(クレージーども)は大きく叫んだ。



「狂ってる…」

その観客席で一人呟くは、アメリカ上院議員ミッキー・ホフマン氏の女性秘書である。
それにすぐさま嫌悪感を滲み出て反論するは、世間では“善良な政治家”で知れ渡っているミッキー・ホフマン。

「何を言っているのかね?“最高(グレート)”じゃないか…!
 君もこの“人の命が散る瞬間”を見て興奮しないのかね…?」

………………

女性秘書は何も言わなかった…『サイコ野郎』に何を言っても無駄だと…
この獣(男)の秘書になってことを激しく後悔していた。
そして、この殺戮ショーに来てしまった自分を…





試(死)合場は、巻き添えをくらい破壊された修斗の瓦礫の山と化し床には数本の飛び苦無が突き刺さっていた。
それでも…それでも“高速化”での試(死)合は続く。
観客達(クレージーども)は、この“見えない死闘(戦い)”に興奮していた。

                   そして……



                『 バ” キ” ン” 』



…と両者の忍者刀はへし折れ、投げる飛び苦無は無くなったのである。
両雄ともに歩みを止め、その姿を素人(観客)でも肉眼で確認することが出来た。



「ウヒャヒャ…」

独特の笑い声を出すは、マスター貞松。
貞松は懐から“大麻”を取り出して吸煙し始めながら言った

「忍法体術か…指拳で“抉る”か…
 それとも圧拳で“撃ち殺す”か…ウヒャヒャ〜」

いい状態に“ラリって来た”のか…貞松は“ウヒャウヒャ”としながら更に続ける。

「甲賀モクモク衆の“秘宝”である『煙者の巻物』を盗まれた責任はお前ら二人じゃ…
 その責任…“両者”とも取らねばなァ…ウヒャウヒャヒャ〜〜〜
 存分に殺り合えよ、そして死ぬがいいわ。」

無表情であったが、貞松の眼から怒りの感情が見て取れた…



2機の忍者修斗は、斬り合いから殴り合い(肉弾)での戦いへと変貌する。
その戦いぶりはまさに“飛燕”…素人では捉えられないほどの速さであった。

              『隆玄』

              『甚左』

ここで両雄の風体を紹介しよう…

隆玄は髭面で堂々とした筋肉質な肉体を持つが『一切の無駄な贅肉(肉)』がなかった。
一方の甚左は頬がこけ、華奢な体格でまるで『剣劇役者』のようであったが『一切の無駄な筋肉(肉)』がなかった。

両雄ともに38歳…上忍。心技体供に円熟の境地へと到達している。
その死闘(殺し)合いは血生臭さを感じさせながらも、一つの『芸術』を見ているかのようであった。

         「美しい(ビューティフル)…!」

科学者“R”は感嘆しながら呟いた。



             しかし、何故…


 “何故、甲賀モクモク流の者同士が死闘(殺し)合わなければならないのか?”



           話は数か月前までに遡る…



    だが、その前に『忍者』について説明したいと思う。



               『忍者』



鎌倉時代から江戸時代…各藩の大名や領主に仕え

              “諜報活動”

              “破壊活動”

              “浸透戦術”

               “暗殺”

…となどの隠密行動を生業とする闇の集団である。

しかし、日本が幕末に入り、徳川幕府から明治新政府へと権力が移り変わると
欧米諸国を参考に近代化を果たし、警察、軍隊が創設されると同時にその役目も終え
歴史からその存在が消えることとなり“絶滅”したのである。

そして今日、文献や創作の世界などでしか彼らの存在は知ることは出来なくなってしまった。



              かに思われたが…

       それはあくまでも世間一般の認識にしか過ぎない。

         世間が知る由もない『裏の世界』で彼らは…



今日も生き続けていたのである…!



           その“生き残り”の一つに…



          甲賀モクモク衆がいたのであるッ!








― 日本・某地…甲賀モクモクの里にて

隆玄と甚左は、共にここモクモクの里で生まれた。
幼少時より互いに同じ飯を食い、研鑽し、そして成長した。

         だが、二人は決して“仲は良くなかった”。

特にこれと言う訳があるわけではないのだが…『馬が合わなかった』のである。
それは対照的な『風貌』からか?それとも『性格』からか?あるいは…

…お互いに歩み寄ることは決してなかった。
任務(仕事)で協力し合うことは、あるがそれはあくまでも『任務(仕事)』。
とても『冷めた(ドライ)』な関係であった。

そんな関係(中)、一つの事件が起きた。

甲賀モクモク衆の秘術“早駆けの術”が記された巻物…
『煙者の巻物』が盗まれたからである。

            下手人は『虎隠衆』…

忍者衆の中には生き残りを図るために“海を渡った集団”がいた。
虎隠衆はその内の一つであった。

異国の権力者達に自らの『術』を売り込み、歴史の裏舞台を支え続けた。
だが、多くの忍者衆は文化や言葉の壁、また『合理化』の名の下に消え
あるいは、その土地の情報機関や特殊部隊に人材ごと吸収されていき…

            泡の如く消えていった…

しかし、虎隠衆は権力者につかず“傭兵”という形をつくることで辛くも生き延びることが出来た。

だが、この忍者衆は“特殊”であった。
“他流の忍術技を盗み、その技を発展させることで栄華を極めた”からである。

今回の得物は“甲賀モクモク流の秘術とする、『煙隠の術』であった”。
この秘術は特殊な呼吸法と歩法で気配を消失し、あたかも『カメレオンが如き存在』となり
敵に察知されず行動することが出来るという、秘伝であった。
云わば、この秘術が甲賀モクモク衆の生命線であったからである。

その秘術が記された巻物が盗まれた…一大事であった。
何故、甲賀モクモク衆とあろうものが簡単に盗まれたのであろうか…?

           理由は『出世欲』である。

頭目である貞松の年齢のせいか、里では次に誰が甲賀モクモク衆の元締めになるか話題に上っていた。
その中に筆頭候補として、隆玄と甚左の名があったのである。
二人はその話題を聞いたとき、興味のなさそうな顔をしていた。

                が…

         その眼には野心の炎が宿っていた。

そして、両雄は行動に移した…

   「「秘術である『煙隠の術』を身につけば…ここの頭目になれるッ!!」」

二人は同様の想いにかられ、煙隠の術が記された煙者の巻物が眠る蔵へと忍び入った。
だが、同じ想いで忍び入った二人は出くわしてしまった…

その時に二人が起こした行動は…



             決闘であった…ッ!



数刻に渡る戦いの中、一進一退の攻防が続き両者は気づいた。



        「「『煙者の巻物』がないッ???!!!」」





― マスター貞松の屋敷にて…

「愚か者めェ…ッ!」

隆玄と甚左は、深々と…深々と頭を地につけていた。

         両者は“嵌められた”のである。

里に流れし『次の頭目である筆頭候補は隆玄と甚左』これは全くの嘘であった。
虎隠衆が流した偽の情報であったのである。
たしかに、忍法体術優れた両者であるが決定的に仇となるものがあった。
それは『過ぎた名誉欲』である。
そして、両雄が決して仲が良くなかったということも…

それに目を付けた、虎隠衆が偽の情報を流したのである。
目的は一つ…煙隠の術を覚えるためにどちらかが『煙者の巻物』が秘蔵されている蔵へと行くこと。
隙を見計らい、あるいは力尽くで『煙者の巻物』を盗み出すこと…この一点である。



貞松は唾を吐き捨てながら続ける。

「偽の情報を流すなど…基本中の基本の術に謀られよって。
 そもそも“煙隠の術”など“上忍や中忍”ならば誰でも覚えさせる術よ。」

二人は耳を疑った…“我々の位は上忍”ならば何故…

「ウヒャッ!お前さんらが“純粋な忍”ではないからじゃてェ〜!!」

二人の心理を読んでか貞松はこだまする様な大声で返答した。
貞松は更に指を差して言った。

「貴様らは“忍”ではなく“格闘者”だからよゥ〜!
 確かに貴様らの忍法体術は認めよう。ワシもそれを買って『下忍の実力しか持たぬ』貴様らを上忍にしてやった!
 
       ウヒャヒャ〜でもそれが“間違いじゃった”!

    忍具や暗殺術を使えるだけでは忍ではなァ〜〜〜いッ!!!

 冷静な行動をしてこそ忍者よ!忍者に格闘術はそれほど必要ないのだァ〜〜〜!!」

たしかに思い当たる節はあった…
いつも二人が与えられる任務は“破壊工作”や“暗殺”といった“簡単な任務”だったからである。
忍者の花形は“諜報活動”…忍法体術に重きを置く両者はその“基本”を忘れていたのである。
二人は体中という体から脂汗が流れてきた…このままでは『処罰』される…

だが、貞松は意外な『判決』を述べた。

「しかし、運がええのぅ〜〜〜お主ら。
 ワシの“古くからの友人”から頼みがあってのう。
 この任務を成功させれば許してやらんでもない。」

二人は必死になり“ シ ン ク ロ ”した!!



        「「それは…それは如何なるッ?!」」



貞松はニヤリとしながら、二人にその任務を伝えた。





         「お前ら“デスマッチ”せい。」



        「“生き残った者の罪を許そうぞ。”」



       「ウヒャウヒャヒャヒャヒャ〜〜〜!!!」












― M州D市 某球場

ダガガガガガガッ!
        ダガガガガガガッ!
                ダガガガガガガッ!

…ッと打ち合いが続く!

その拳の“形”は“異形”ッ!!

近代空手や拳法のような“圧拳”の“形”ではなく!

朝顔(アサガオ)の如く手を開き、猛獣の爪の如く指を立てた“形”や
ジャンケンのチョキの如く中指と人差し指を立てた“形”などを駆使していた。

そして…狙う個所(機体の位置)は両眼や首筋、恥骨といった急所ばかりであった。



        しかし、流石はお互いに『熟達者』である。

              互いの打拳を

               『捌き』

              『受け流し』

              『往なした』

              のであった。

客席に座るマスター貞松は…

(ウヒャヒャ…『 必 死 』じゃろうて。普段の倍の力を互いに出しておる。)

…とニヤリと笑う。

貞松の心の声に反応したか、大会主催者席にいる科学者“R”は

「その“必死”さが美しい(ビューティフル)。」

…と静かに言った。



攻防は…数十分にも及ぶ“飛燕の激闘”であったが…





           “未だ決着は付かず…ッ!!”





       『BOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!!』

いつしか“華麗な死闘”に目を奪われていた観客達(クレージーども)も
『飽きてきた』のか…“ブーイング”に変わっていった。

その光景を見て、マスター貞松は言った。

「そろそろ決着じゃよ…“あれだけとばせばなァ”。」



この言葉を言うや否や!2機の忍者修斗の動きは突然止まった。



             その理由は……ッ!



          『スタミナ切れ』であったッ!!



              故に……ッ!!!





      『両雄の動きはゼンマイが切れた人形の如く止まったッ!』



       『BOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!!』

膠着状態を嫌う観客達(クレージーども)は更なる罵声(ブーイング)を浴びせる。

両者の息使いは荒く…激闘に続く激闘で『疲れ』は見て取れた。
それもそのはず…自らの進退をうらなう一戦であり、その緊張感から『肉体的疲労』だけではなく
『精神的な疲労』も大きかったからである。

だが、“同じ流儀”で“幼少から同じ里(場所)で鍛練を積んでいた”為に
二人は互いの“手の内”や“癖”が分かる故に『仕留めきらず』にいた。



((忍刀は折れた…))

((忍具もない…))

((技は見切られている…))



((然らばッ!!))



((“切り札”を使うしかあるまいッ!))



…と!両雄は同じ思いにかられ“決着を付ける”事に決めたのであるッ!!



           その“切り札”とは!?



ビュババババババババッ!
           ビュババババババババッ!
                      ビュババババババババッ!

まず仕掛けたのは隆玄!
甲賀モクモク流の秘伝高速歩法術『早駆けの術』である!!

そしてッ!“当たらぬ間合い”で“打拳を仕掛けた”のであるッ!!

            血迷ったか隆玄!?

               否ッ!!

       両手から“固形の物体”が飛び出したッ!

         隠し武器の『寸鉄』であるッ!!


【寸鉄】

小さい刃物のこと。掌の中に隠し持って使う。
本来は中国武術や護身具として使われた我眉刺類の暗器のこと。


     だが、隆玄持ちし寸鉄は“ただの寸鉄”ではない!


             “ビッ…!”



      “飛び出したる”は『寸鉄の尖端部』のである!



尖端部近くの柄にバネが仕掛けられていたのだ。
隆玄の“切り札”である。
この特別製の寸鉄は隆玄が製造を依頼し拵えた代物で『ホオジロ』と名付けていた。

そして、飛び出した寸鉄の尖端部は…甚左の忍者修斗の胸部を貫いた!



            …かに思われたが。



         「隆玄!かかりよったなッ!」



         「“それは残像なりッ”!!!」



そう上空から叫ぶは!仕留めたはずの甚左であった!!
故に『ホオジロ』の鋭利な穂先は虚空を貫いた…

甚左の“切り札”である。
これぞ甚左が編み出した技

         『鳶迎(とびむかえ)』である。

『早駆けの術』を応用し、歩行速度に緩急をつけることで
あたかもその場にいるかのように残像を残しその隙に、秘かに上空へと舞い上がる術である。



          「手刀滅把妖牙!!!」



        「!!!!!!??????」



そう叫ぶや甚左は、忍者修斗の右手から繰り出した貫手で胸部を貫いたのであった!!



           隆玄は…『死亡』ッ!



          『勝者』甚左であるッ!



      “オオオオオオオオオオオオ―――ッ!!!”



「ニンジャってサイコーッ!」

「まさに“サイレントキラー”ってカンジ!」

「ハードな攻防でお股が濡れ濡れだわん♪」

決着を確信し、球場内は観客達(クレージーども)の狂気(歓喜)に包まれる。



「か、勝った…!」

安堵の表情を浮かべる甚左。

「後は…」

…と急いで手を引き抜こうとした。



            その時である…!



         『 B O N ッ !! 』



         “甚左の忍者修斗は爆散した。”



       これにより…勝者である甚左も『死亡』ッ!



           「??????????」

          「「??????????」」

         「「「??????????」」」



狂気(歓喜)は一斉に静まった。突如、甚左の忍者修斗が爆散したからである。
科学者“R”は、この謎のトラブル?に“即座”に“冷静”に対処する。

「場内の皆様…機体のトラブルが発生した模様。
 原因は機体の整備不良か…それとも電子機器の故障かは分かりません。」

高級スーツに身を包んだ観客(クレージー)の一人が質問する。

「じゃあ、試(死)合の結果はどうなる?」

科学者“R”はQ(質問)にA(答える)。

「『勝者はMr.ジンザに変わりはない。』
 即座に、次の試(死)合に移りましょう。」



    “ウオオオオオオオオォォォォォォォォ―――!!!!!”



場内は狂気(歓喜)の渦に包まれる。
観客達(クレージーども)にとって“次の血肉湧き踊る死闘”が大事なのだ。



…狂気(歓喜)の渦の中、観客席にいるマスター貞松は無表情のままである。
『猛禽類』のような右手には“小型の爆破装置”を持っていた…



       (ウヒャヒャ…これで“完了”じゃ。)

    (どちらが“勝とう”とも“許す気はない”わいな!)

  (さて…“R”や約束通り『煙蜘蛛』とやらを渡してもらうぞ。)

      (期待の新星…“ケム蔵”にこれをやり…)

     (『煙者の巻物』を取り返してくれるわい…ッ!)

           (ウヒャヒャ…)

       (ウヒャヒャヒャヒャヒャ〜〜〜!!!)



マスター貞松は狂気の笑みを浮かび上がらせていた。





Rコロシアム 第五試合

隆玄(甲賀モクモク流)
38歳 国籍:日本

VS

甚左(甲賀モクモク流)
38歳 国籍:日本

勝者:甚左








第五試合の“爆惨”“悲惨”“無惨”という結末が終わりを告げ
更なる“死臭”“火薬臭”を求めるかのように、地獄の闘技場(球場)内は
再び観客達(クレージーども)の狂気と熱気に包まれている。

リングアナである、ロバート・チェンはマイクを手に取った。

ダン!
      ダン!
   ダン!
ダン!
      ダン!
   ダン!

オオオオオオ―――ッ!
          オオオオオオ―――ッ!
                    オオオオオオ―――ッ!

その姿を見て、観客達(クレージーども)は地団駄踏み雄たけびを上げた。

「『 そ れ で は ッ ! こ れ よ り ッ !! 』
 『 第 六 試 合 を … ッ !!! 』」

気合を入れロバート・チェンは叫び始めた。



           “それと同時に…ライト側ブルペンより”

              “一機の修斗が登場した”

                “その修斗は…”

       “『アンモナイト』を彷彿とさせる形状の頭部をしていた”



そのアンモナイト修斗の操縦者は、本来ならば最終である『第八試合』で登場する。

        『褐色』の闘士…“ノンクレジット(謎の男)”である。

“ざわざわ”と…球場内は騒ぎ始める。

「何事かね…?“ミスター”。」

科学者“R”は“ノンクレジット(男)”に冷たく問い詰めた。
それに対し“ノンクレジット(男)”は言った。



    「つまらぬ試(死)合は止めにしましょう。」



        ????????????

HAAAAAA?!
           HAAAAAA?!
    HAAAAAA?!
                    HAAAAAA?!

    “ H A A A A A A ッ !!!??? ”



観客達(クレージーども)は怒りの声を上げる。

「ふっざけんじゃねぇゾ〜〜〜!!!」

「失せろッ!!」

「このFUCKアンモナイト野郎!これから良い所なんだろがッ!!」

「おめェは宣教師かよゥ〜〜〜!!!」



                Get out (帰れ)!
 Get out (帰れ)!
          Get out (帰れ)!
                        Get out (帰れ)!

        “ G e t o u t  (帰れ) ! ”

球場内は『Get out (帰れ)!』コールに包まれる!

ダン!
      ダン!
   ダン!
ダン!
      ダン!
   ダン!

…と“怒り”の地団駄を踏みつける!

オオオオオオ―――ッ!
          オオオオオオ―――ッ!
                    オオオオオオ―――ッ!

…と“怒り”の雄叫びを上げる!



              「静粛に!!」


              「………………」
             「「………………」」
            「「「………………」」」

科学者“R”の冷たい声に会場は一瞬で静まった。
そして…両手を広げ尋ねる。

「“ミスター”…どういう意味か説明願おうか。」

科学者“R”は“ノンクレジット(男)”に返答を迫った。
その言葉から『多少』であるが『怒り』が見て取れた。
私が用意したショーを侮辱するなと…邪魔をするなと…
“ノンクレジット(男)”はボソリと返答する。

「科学者“R”…何か勘違いしている。
 私は『このRコロシアムを終わらせろ!』と言っているわけではない。」

科学者“R”は静かに言った。

「…と言うと?」

“ノンクレジット(男)”は、待ってたかのようにすぐさま答えた。

「素晴らしい“ギミック”を思いついた。
 これから“グダグダと試(死)合を続ける”よりも…



     『古代ローマの剣闘士風にバトルロイヤル形式マッチ』に変更しないか?…と。」



              ド゛ド゛ド゛ド゛ド゛ド゛ン゛ッ゛!!!



                    それは衝撃!?

               衝 撃 で あ っ た ッ !?



                     否ッ!!



               驚 愕 で あ っ た ッ !!

               吉 兆 で あ っ た ッ !!



               その提案に科学者“R”はッ!!

                冷たい眼の瞳孔を広げッ!!!

               冷たい口元をニヤませてッ!!!

              こ う 言 い 放 っ た ッ !



             「確かに“ミスター”の言う通りッ!」

          「このまま“グダグダ”と続けても“飽きるだけ”ッ!」

           スゥーッと息を吸い…科学者“R”は咆哮を上げた!



        「よろしい!ならば…死臭漂う“獄闘(バトルロイヤル)”だッ!!」

         「会場の諸君はどうかね…?この良き提案(アイディア)を?!」

             これに対し…観客達(クレージーども)はッ!?



      YES!Dr.“R”ッ!!
                          YES!Dr.“R”ッ!!
               YES!Dr.“R”ッ!!
      YES!Dr.“R”ッ!!
                          YES!Dr.“R”ッ!!
               YES!Dr.“R”ッ!!

          “ Y E S ! D r . “R” ッ !! ”



     科学者“R”は羽織っているドラキュラの如きマントをバサリとなびかせ叫んだ!

         「では!急遽これより『残り試合の闘士』を集め…ッ!!!」
           
           「獄闘(バトルロイヤル形式)の試(死)合にするッ!!」



オオオオオオ―――ッ!
          オオオオオオ―――ッ!
                    オオオオオオ―――ッ!

観客達(クレージーども)は歓喜と狂気の歓声を上げた。
これにより、Rコロシアムは急遽バトルロイヤル形式の試(死)合と……



         「 待 て や ァ ――― ッ !!!!!! 」



ドスの効いた声がレフト側ブルペンから木霊した。
球場内はその大声に静まり返った…



          「おう!おう!!おおおゥゥゥうううッ!!!」



登場した男は、第六試合で登場するハズであった“無頼”空手の大廣憲幸である。
頭を丸刈りにし、岩石の様な筋肉質な体には刀傷と銃痕がおびただしくあった。
そして、空手家でありながら柔道のカラー柔道衣のような『青い道着』を着こみ
搭載する修斗もそれに合わせ同じ色の道着を着て、背中には大きく金字で “無頼” と書かれていた。

大廣の“無頼”修斗はずかずかと、アンモナイト修斗に近づいた。

「勝手にそんなことされたら困るんじゃいッ!
 わしゃ世話になっとる組の“あにい”から言われとるんじゃッ!!
 『“花岡”ちゅーやつを殴り叩き殺せ!』とのゥ〜〜〜ッ!!!」

“花岡”…本来ならばこの大廣と対戦する『寸止め不殺拳』の花岡冬之進のことである。

「そいつはのうッ!五人も組のやつを殺しとるんじゃいッ!!
 さっさと出せ!殴り殺してやるわいッ!!!
 それに待ち望んだ“直接打撃制(フルコン)の試合”じゃない
 “ホンマモンの『タイマン』デスバトル”を楽しめる機会やっちゅーのに!おおゥッ!!!???」

大廣はジャパニーズマフィア“ヤクザ”の用心棒であった。
元はインターハイで優勝するほどの柔道家であったが『人をぶん殴ってみたい』ということで
高校卒業後、空手に転向し、大手フルコンタクト空手団体『皇道会館』の重量級の選手として活躍したが
顔面なし、投げ・関節なし、急所攻撃なしなどのルールに不満を持ち始め『ホンマモンの喧嘩カラテ』を目指し脱退。
その後“喧嘩カラテ”“路上格闘技”を極める為に、暴力団『川口組』の用心棒となる。

彼の対戦相手である『花岡』なる男は、そこの組の暴力団員をささいな経緯で殺害してしまったのだ。
もっとも…悪いのは暴力団員ではあるが…

その後、制裁の為に4名もの者を送り込んだが悉く返り討ちにあってしまった。
そこで大廣を刺客として送り込むことになるが、科学者“R”の提案によりこのような形となったのだ。

まくし立てる大廣に“ノンクレジット(男)”は……

「Mr.ハナオカは、私が研究する“バトルシューティング”の
 特別コーチとして招く…彼がこの無駄な試(死)合に出ることはない。
 彼は君のように“短慮”ではない。“彼が君を殺害して気を病む”ような事をさせたくはないのだよ。
 準備運動でもしておきたまえ“マウンテンゴリラ君”。」



                ビキ…ビキィ…ッ!



大廣は“ビキビキ”と額から血管を浮かび上がらせている。
侮辱され『キレた』のだ。このような場合“次に起こす行動(パターン)”はお約束である。



         「 嘗 め と ん か い イ ィ ッ !! 」



“無頼”修斗は二本指を突き立て、“ノンクレジット(男)”が乗り込む修斗のメインカメラがある位置…



                  即 ち ッ !



           両眼目掛けて突き込んできたのであったッ!!



       『 こ れ が “無頼” 空 手 じ ゃ い ッ !!! 』



                 グ” ワ”
         オ”オ”オ”
                       オ”ォ”ォ”オ”
                 オ”
                           チ”イ”ッ”!!!

       『奇襲』ッ!それは『奇襲』であるッ!!

                        ホンマモンの『喧嘩カラテ』であるッ!

        ホンマモンの『闘争』であるッ!

                        ホンマモンの『路上格闘技』であるッ!



    『 こ れ が “無頼” 空 手 じ ゃ ア ア ア ァ ァ ァ い ッ !!! 』



                  メ”ギ”ャ”ッ”!



                   突き入れた!?



               “失明(メインカメラ破壊)”!?



       「 ぺ ギ に ゃ ア” あ” あ” 〜〜〜〜〜〜ッ !!!??? 」



……………………



ペインセンサーから伝わる痛みで悲鳴を上げるは“無頼”空手の大廣!
突き入れたはずの両指は“ぐにゃり”とあらぬ方向に“曲がっていたのだ”。
両指を入れようとした瞬間に“額で受け止めた”のだ。
大廣は苦悶の症状を浮かべ、額から脂汗が流れてきた。



「はぎィ…!はぎィイイイ!!お、おどりゃ……」



                  ガ”ゴ”ッ”!!



間髪入れず“ノンクレジット(男)”は
『キレのあるソバット』を大廣の“無頼”修斗の腹部に叩き込んだ。



― 続く