Rコロシアム 第二試合〜白蒼の戦士〜
リングアナ、ロビート・チェンはリング中央に立ち、マイクを握りしめている。
間もなく、第二試合が始まろうとしているのだ。
チェンは観客席に一礼した後、マイクのスイッチをオンにし
一呼吸入れてからこう述べた。
「大変お待たせ致しました!
これより…
第二試合を始めたいと思いますッッッ!!!!!!」
ウオオオオオオオオ―――――――――ッッッ!!!
第一試合で興奮した観客達の一部が雄叫びを上げる。
その興奮の雄叫びの後、チェンは絶叫するッ!
「地球侵略を企むアムステラ神聖帝国ッ!
そのにっくき敵対惑星の“元軍人”が今大会に参戦だッッッ!」
「『フリーファイター(現在求職中の傭兵)』!」
「デーニッツ選手の入場ですッッッ!」
一人の男が出てくる…
あのヴィート・ムッソのような長身で優男であるが
ムッソと比べると“アダルト(歳を喰っている)”のようだ。
おそらく三十代だろうか。
服装は“蒼い”空のように“蒼い”。
目は鋭い、その鋭い目は狼のように何か獲物に狙いを定めているようだ。
数多くの戦場(リアルな実戦)で修羅場をくぐり抜けている証であろう。
その男が乗る修斗は、服装と同じく空のように“蒼い”カラーリングである。
また腰に刺した剣は白銀に輝き、月夜の狼が牙を輝かせているようであった。
どよ…どよ…どよ…と場内は響めいている。それもそのはずだ。
この国…いや全世界各国の『共通の敵』である、“アムステラ人(インベーダー)”であるという選手が登場したのだ。
“アムステラ人(インベーダー)”と言っても、ORGOGLIOのような
闘技エンターテイメントでは“ギミック”として承認され、もちろん観客は“本気”にはしていないのだ。
なので、以前日本で行われたORGOGLIOの大会で選手の一人が
“ギミック”ではなく“本物”のアムステラ人ということが判明し大混乱が起きた。
だが、この大会は“まとも”なものではない。
一回戦のヴィート・ムッソのような殺人鬼が出たように登場する選手が
何者であろうと不思議ではないのだ。
「うっへー!アムステラ人だってよ!スッゲー!」
「ウホッ!いい男。」
「さっさと対戦相手出しやがれ〜」
…故に、観客達は最初は戸惑いを覚えたものの、この男が『どのような戦いぶりを見せるか』
『どのように対戦相手を血祭りにあげるのか』という興味にすぐに移り変わっていった。
リングアナである、ロバート・チェンは観客の反応とは関係なく
仕事(コール)に取り掛かる。
「続きましては…」
「古武道(オールド・マーシャルアーツ)である
不動流柔術(ジュージュツ・フドウスタイル)の使い手(ファイター)!」
「鬼塚 英美(ヒデミ・オニヅカ)選手の入場ですッッッ!」
そのコールと共に一人の日本人(ジャパニーズ)がレフト側のブルペンより登場した。
顔の彫りが深く、日本人でありながらアングロ・サクソンのような顔つきであった。
髪は肩まで伸ばしており、眼光が鋭く手には拳ダコで過剰に膨らんでいる。
背は190センチを越えようか…とにかく大きい。
また胸板は厚く、腕も足も水牛のように太い。まさに“鬼の如き”体格であった。
その“鬼”が乗る修斗は、これまた“鬼のように真っ赤”なカラーリングである。
両手には手甲を装備し、黒の道着には赤文字で『不動流』の一文が刺繍されている。
それによりどこか滑稽ではあるが、そのようなものを吹き飛ばすかのような“威圧感”が滲み出ていた。
これなるは“鬼”…
そう!“鬼”なのであるッッッ!!!
Rコロシアム 第二試合
デーニッツ(傭兵)
30歳 国籍:アムステラ神聖帝国
VS
鬼塚 英美(不動流柔術)
33歳 国籍:日本
「フム…強いな」
鬼(鬼塚)の佇まいを一目見てデーニッツは相手の力量が分かった。
強い、この男は強い…
古今東西…いずれの時代に一流武術家(スーパーファイター)は
相手の構えを一目見るだけで力量が分かるものなのだ。
「分かりますかね…私の強さを」
鬼(鬼塚)が口を開いた。
そして……
「“炎駒の剣士殿。”」
ドンッッッッ!!!!!!
鬼塚は素早い踏み込みと共に逆突きを放った。
「ッッ???!!!」
デーニッツは左掌でなんとか受けとめたものの、あまりにもの衝撃で数メートル吹き飛ばされた。
鬼(鬼塚)は空手で言う『前羽の構え』を取りながら言い放った。
「…抜きなされ。」
「その白銀の剣を…」
「……貴公。」
輪ずかに残る左掌の痺れを覚えながら、デーニッツはガチャリと白銀の剣を抜刀し下段の構えを取った。
「下段の構え…防御の型ですかな?私と同じく…」
「質問に答えろ。何故“炎駒”のことを地球人である…」
質問を投げかけるデーニッツであるが…
「隙が出きましたな。」
鬼(鬼塚)はその質問を無視し、懐に飛び込み左で白銀の剣を払い
掌底で左頬を薙ぎ払った。
「グウッ……!!」
凄まじいばかりの衝撃により躰が
崩れ落ちかけるもののデーニッツはなんとか持ちこたえた。
「流石は…」
鬼(鬼塚)は残心を取りながら賞賛し…
「その方のことは『ベセルク殿』から聞き及んだことがある。」
と言った。
!
!!
!!!
!!!!
!!!!!
!!!!!!
デーニッツに衝撃が走る……ッッ!!!
「ベ、ベセルク……“断罪”ベセルク・D・ドヴォルスのことかッッ!!!」
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― 数年前
ここは惑星『コランダム』
外銀河に数多ある惑星の一つで希少金属(レアメタル)が多く出土される
統治者はスターム=ルガー将軍、『独裁者』である。
この惑星では戦争が“起きていた”。
宇宙最強の軍団、神聖アムステラ帝国が侵攻して来たのだ。
「この程度かコランダム…もう少し骨のある相手と思ったが。」
落胆の声を漏らすは貴族(ノーブル)はオーデッド=カユゥーレ。
その愛機は銃威、二丁拳銃での射撃を得意としている。
「ともあれこの蛮星の民に『 自 由 』が与えられるのはたしかだ。
『 ア ム ス テ ラ の 威 光 』によってな。」
コランダム軍はアムステラの圧倒的な戦力により大敗した。
辺りは焼けた土と機体の残骸のみである、
また、ここに一つアムステラの属星が増えたのだ。
戦後、生き延びたスターム=ルガー将軍は
極秘に惑星から逃げ出そうとしたが、怒れる民衆にみつかり殺害された。
今まで民を抑制し、あらゆる暴虐と快楽の限りを尽くした男の亡骸は
一週間以上も路上で放置されたという。哀れなものである。
「……たしかにこの星の長は独裁者じゃった。
自らに逆らうもの、批判するものは尽く処刑し暴虐の限りを尽くした。
だが、ワシらは決して『正義の騎士』ではないことを忘れてはならんぞ。」
オーデッドにもの申すこの老剣士は『第六十五機動隊“炎駒”の隊長 ボクデン大佐』である。
センゴク星に伝わる、源当流の使い手で火器を一切装備せず、羅甲のヒートソード一本で武功を上げてきた武人である。
「それもそうだが、ボクデン殿。我らアムステラが蛮族を導くことによって
『自由と教養』を彼らに与えたのもまた確かではないのかね…?」
「……青いの。」
そう答えてボクデンの羅甲はヒートソードを鞘に納めた…
「コランダム軍に『智将』と呼ばれ、どんな劣勢にも勝利を納めた
デネル=スコーという優秀な指揮官がいたと聞き及びましたが…この程度だったのでしょうか?」
士官学校を卒業したばかりのデーニッツは一人の男に尋ねる。
その男の名はグラウクス、ボクデンの右腕である。
また、デーニッツに『高速斬撃術』を教えており、剣術における師匠のような存在であった。
「くくく…!デネル=スコーがこの程度のわけがなかろう。
たった数日で落とされるほどのバカ采配をするはずがない。
指揮していたのは無能な将校だろうて。」
「……と言いますと?」
「やつは開戦前に死んだよ。いや“暗殺された”のほうが妥当か。」
「えっ!?」
この戦争、開戦前『デネルさえいなければ三日と経たずに落とせる星』との言葉で始まり
『デネルさえいなければ軍議なしでもいけるのに…』で終わった軍議で
上層部が頭を悩ませたというのに、開戦前にその足枷となっていたデネルが死んだというのだ。
それも暗殺と言う形で……
「軍上層部のバカどもは『裏技』を使ったか…
“闇夜八行衆(アンノーセス)”を…
物量で押し切れば落とせる星だというに全く…」
小声で述べるがグラウクスだが、デーニッツの耳にはしっかりと入っていた。
「“闇夜八行衆”……!?」
デーニッツは部隊の名前に戦慄を覚えた。
いつか聞いたことがある…
死刑囚達で構成されている特殊暗殺部隊…
『闇夜八行衆』が存在すると。
司令官は“断罪”の二つ名を持つ。
『ベセルク・D・ドヴォルス』
アムステラ監獄管理者にして死刑執行者であるという…
数々のアムステラの栄光を影で支えながらも…
その名前は決して“表”に出ることはない…
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― M州D市 某球場
「何故、貴様のような地球人がそれを…!」
デーニッツが叫んだ。鬼は一歩間合いを詰めこう言った。
「私は“ブラッククロス”の一員でしてな。
地球の裏組織とアムステラの裏組織が自然に繋がるは至極当然のこと…
色々な面におきましてな…」
「貴様…」
デーニッツは腰を落とし脇構えをとり…
「“ブラッククロス”の者だったのか…」
と呟いた。
クックックックッ…
死神が魂を抜き取るが如く笑うは大会実行委員長である科学者“R”。
「アムステラの裏切り者と地球の裏切り者…
これほど面白いカードはない。」
科学者“R”はさらに続ける。
「オニヅカよ。
ブラッククロスの裏切り者である私の誘いに快く乗ってくれた男…
貴殿は『組織の一員』である前に
『一人の武術家』だったッ!!
この“R”嬉しく思うぞッ!!!
さぁ!見せてくれッッッ!!!!
その戦いぶりをデータに残す為に!!!!!
『以下にして一流の剣客の斬撃に対向するか!』をッッッ!!!!!!
対百文字(ジ・ハンドレッド)に為に研究開発中の『格闘技(マーシャルアーツ)』
『バトルシューティング』を完成させる為にッッッッッッ!!!!!!!
クックックックック……ッ!
ク ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ! ! !」
「左様…私は如何にも『ブラッククロス』のメンバー…
肩書きは“戦闘兵”とでも言っておきますかな。」
口元を緩ませながら、ゆるりと前に詰める鬼(鬼塚)。
【ブラッククロス】
地球の親アムステラ秘密結社
世界各地に支部を持ついわゆる「悪の組織」に近い
ドドンッ!!
額に汗を滲ませてる白蒼の戦士(デーニッツ)ッ!!!
(何という“圧力”…ッ!!)
数ある戦場で自分の倍の背丈と力を持つ相手と死合って来たデーニッツではあるが
“今宵の対戦相手は今までの相手とは一味も二味も違った。”
ズズン…
そう…この得も言えぬ『圧力』!
圧倒される『威圧感』!
こうなれば、弱者(格下)が取る行動は一つしかなくなる…
ヒュンッ!!
デーニッツは脇構えから横に剣を薙ぎ払った。
『無意味な攻撃』である。
その『無意味な攻撃』を鬼(鬼塚)は手甲で
『空手』や『拳法』で言うところの『十字受け』で受け止めた。
ドン…ッ
そして…それと同時に強烈な前蹴りを放った。
“受即攻”が伴った見事な攻撃である。
「ガハッ…!?」
デーニッツは吐瀉物を吐きながら前屈みに倒れこむ。
「呆気ないものですな…」
鬼(鬼塚)はその光景を見ながらも笑みを絶やさない。
「では止めを…」
足底で顔面を踏み砕かんばかりに足を高く上げる鬼(鬼塚)。
ズドンッ!!!
大地が真っ赤な修斗の足型に大きく陥没した。
『流石に試合終了』であろう…と観客達は思った。
「ハァハァ……」
だが、デーニッツは瞬時に避け飛び退いていたのである。
“間一髪”である。
オオオオオオオオオオ―――ッッッ!!!
狂気の歓声が球場を包み込む。
鬼(鬼塚)は口にした。
「飛燕の動きですな…いや“ハエ”か…」
白蒼の戦士(デーニッツ)はそれに応じる。
「“ハエ”で結構。“堕ちた身”に相応しい言葉だ。」
そう…デーニッツは“堕ちた将校”である。
元々アムステラ神聖帝国軍の軍人であり
家は武門の名家であり、貴族の生まれの男。
言わば『上流階級』
このような場におらず、本来ならば
アムステラの一部隊を率いてもおかしくないのだ。
…が。
“諸所の事情”で軍を退役。
家からは絶縁状態となっている。
だが…
…元来、自分は“サラブレット”ではないのだ。
元より“落ちこぼれ”として生まれた…
そう…
一族の中で、自分だけ“平民”の血が混じっているからだ。
母は“平民”…
それだけで自分は一族の中から“阻害”を受けていた。
元より“絶縁状態”のようなものだ…
…そんな中で
一族の中で自分と母を愛してくれたのは、“父”だけだった。
武門の家柄である一族の中では、決して優秀な軍人ではなかった。
むしろ、文化人とも言える教養のある人物で大凡戦場で“勇ましく指揮”をとれるような
“立派な職業軍人”ではないのだ。
そんな父は常々言っていた。
「貴族や平民を分ける今の制度は間違っている。
人間に『貴族』も『平民』もあるものか。生物は皆平等だ。」
と…
だが“斬新な発想”ほど時の権力者に摘まれるものだ。
そう…いつの時代も…
デーニッツが15歳の頃、父は“反政府結社に加担した”とされ連行された。
何の証拠も提示されないままに…
それ以後、父との連絡はつかなくなった。
精神的な支えを失ったは母はそれで……
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いや…止そう“あの時の母の姿”は思い出したくない…
そのような状況で困っている時に会われたのが
父の友人であった、貴族の名門グランディエ家の当主
『シルヴァン・ラ・グランディエ12世』であった。
彼は一族からも嫌厭され、路頭に迷った私を哀れみ
士官学校への入学に必要な費用を全額を出してくれたのだ。
彼のお陰で無事に入学を果たした私はそこで
彼の息子である『シルヴァン・ラ・グランディエ13世』と出会った。
私と彼はすぐに意気投合し『親友同士』となった。
そこで、彼はある時こんな言葉を言っていた…
「デーニッツ…“名門貴族”なんて耳障りの良い言葉だが
実質はただの“勲章”と同じさ。
父上は慈善事業なんかに手を出して聖人君子としているが
軍人として何の勲功も上げずに、コネだけで成り上がった人だ。
周りのヤツらが父上の事を影でなんて言っている知っているか?
『アクセサリー将軍』
だとさ。」
『アクセサリー将軍』…?
「そうさ。
“名門貴族”というアクセサリーを付けただけで
少将に成れた“能なし軍人”という意味さ。
お似合いだろ…?」
…………
「だがな…私は父上とは違う。
私は必ず実力で“成り上がって”みせるさ。
いずれ“大元帥”まで駆け上ってやる…!」
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― M州D市 某球場
「何を考えておられる…炎駒の剣士殿。」
「ッ!!」
“過去”から“今”に戻された、白蒼の戦士(デーニッツ)
そう…今自分はこの“鬼”と戦っているのだ。
「すまんな…少し考え事をな。」
「いけませんな…戦いの中で…」
「…一つ質問する。
“お前は何故戦う?”」
「これはおかしな事を…
貴方こそ何故?」
「質問を質問で答えるのか?」
「ハハ…そうですな。
では簡単に答えますと…
『戦士として最高の死に場所を得る為』
これが目的で、この大会に参加致しました。
…ブラッククロスの裏切り者“R”の誘いを受けてね。」
「“裏切り者”…?」
「貴方には関係の無いこと…
では次に貴方の番ですぞ。斯様な質問をなされる貴方こそ何故戦いまするか?
このような狂気が包む中で…」
このような話し合い(やり取り)が続き暫しの沈黙が続いた。
そして…
“白蒼の戦士”は言った。
「私は“生きている確証”が欲しいからだ…」
そう述べ白銀の剣を鞘に納め“無構え”を取った。
捨て身の技法である。
次に鬼(鬼塚)が言う。
「“無構え”…何を企んでおりまする。
抜刀術か何かですかな?
それとも貴方の剣技『飛太刀』の奥義か…?」
(ヒダチ…?)
(…………)
(そうか…)
(この剣技…)
(そういう名であったか…)
(グラウクス(あいつ)は何も教えてくれなかったからな…)
【飛太刀】
センゴク星に伝わる『高速斬撃術』
これを極めた達人は“一拍子で人や物体を多段に微塵に切り捨てる”と言われている。
そのコツは“柔軟な手首”“体幹の絶妙な操作”…そして“脱力”が必要とされている。
この剣技を極めるのには、相当な修行期間と習得の困難があり
本星ではあまり修行されずマイナーな部類に留めている。
(尚、本星でもっとも人気のある流派は“源当流”である。)
「俺は“剣”を使わん。これ(素手)を使う。」
「……ッ!?」
ざわざわざわざわ…
困惑のざわめきが響き渡る。
“剣”を捨てる…
それ即ち、『獣が爪や牙を捨てるも同意』だからである。
科学者“R”はボソリと述べる。
「“剣士”が“剣を捨てる”…面白い。」
鬼(鬼塚)から笑みが消える。
「正気ですかな…剣士が“専門外”の事をして…」
「…………」
デーニッツの目が“半眼”である。
集中しているのだ。
「耳には入りませんか…
では、この一撃で仕留めましょうぞ…」
鬼(鬼塚)は構える。
それは、少林寺拳法の体構えの一つ『仁王構え』に似ていた。
「これなるは、不動流の体位“『阿吽』”
言わば“絶対不動なる一撃”を繰り出す為の構え…
この一撃で葬って差し上げよう…ッ!!!」
噴………ッ!!!
鬼(鬼塚)は述べ、大きく踏み込んだ…
そう“鬼の形相”で…
“平拳”にて、鬼(鬼塚)が狙う箇所は……ッ!!
人体急所のうちの一つ…
その名も『下昆』!!!
【下昆(かこん)】
下唇と顎の間にある急所、強い外圧により
即死、あるいは顔面動脈神経機害が訪れると言われている。
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― 日本・O府 不動流道場
不動流柔術…数多ある日本の古武道流派の一つ。
江戸時代後期、渋川伴五郎義方が開いた渋川流を極めた
安芸藩範士、大野軟軒により創始された体術である。
最大の特徴は不動流では“鬼砕(おにくだき)”と呼ぶ
拳・肘・掌を主に用いた“当身技”である。
“柔術”と名は付くが、実体は“拳法”であった。
「鬼塚や…何故大会なんぞに出たんや?」
薄暗い道場内に、正座で対峙する白髪白髭の翁と大男。
鬼塚英美とその師匠である。
鬼塚はある小さな空手の大会に『流派未公表』として出場した。
結果は5位入賞であったが、どこでどう知ったか分からないが
そのことが師匠にバレてしまったのである。
「お言葉ですが…」
鬼塚は翁の顔を険しい顔付けで見る。
「不動流…いや…古武道全般の評価はお分かりですか?」
「…………」
「“型のみの非実戦的”“伝統芸能”など…
格闘技界の中での評価は著しく下に見られています。」
その言葉を聞き、翁は立ち上がり門弟達の名前が書いてある
名札のところへと行き、こう述べた。
「そんなもんわかっとる…
だがな、“格闘技”と“武術”を一緒にせんこっちゃ。
似とるようで全然別モン。
例えて言うなら、同じ野球の“硬式”と“軟式”みたいなもんや。」
「ですが同じ『戦う為の技術』ではありませんか。」
「そうは言うても違うモノは違うんや。まっ格闘技はあれはあれですごいもんや。
ワケのわからん武術雑誌に出とるようなエラソーな武術家は
『格闘技はスポーツ』とか言うけど、実際やったら何人勝てるんやろうな。
格闘家の人間の限界を超えた鍛錬の前じゃ…
やられるのがオチというパターンがほとんどやろうけど…
でもな…鬼塚…
あんさんは“形骸化しただけの武術家”やないんや。
もし手前が、この古武術(不動流)の技を使ってええ場合ちゅーのは…
“相手が自分に殺意を持っているとき”…
“愛する人を守るとき”や“無慈悲な戦場で戦うとき”くらいのもんや。
あんさんがいつ不動流の殺法を試合で使うか…
ワシは心配でならん…凶器(玩具)を使いたくなるのが人間の本能や。」
鬼塚は翁の方を見つめる。
「ですが、私は後悔はしておりません。
不動流…いえ、“古武道界の評価を変わらせる為”にこれからも…」
「ウソや…」
翁は、鬼塚の言葉を遮る。
「あんさんは身につけた凶器を使いたいだけや。
それも何れ“殺傷”に及ぶような危険な技を使いたいとな。
あんさん“ピットファイティング”に参加するんやろ?」
「…………!!」
鬼塚は見透かされていた。
参加した大会も、ルールに則り“あえて魔技を封印”したが
次に参加する、“ピットファイティング”で身につけた技を思う存分使いたいと…
【ピットファイティング】
賞金を出し、互いに金を賭けて素手の殴り合いの試合をさせる大会の総称。
アメリカでは州によっては禁止されている
翁は『鬼塚英美』と描かれた名札を取りこう述べた。
「…破門や。」
この一言で鬼塚は破門となった。
その後、出場したピットファイティングの大会で優勝を果たし
鬼塚は、その力を見込まれ『ブラッククロス』の戦闘兵としてスカウトされた。
そう…このピットファイティングの大会は
ブラッククロスが“戦闘兵を集める為に開催”したのものであったのだ。
戦闘兵としての鬼塚は、ブラッククロスに敵対する人間や
入団を拒んだ人間を“魔技”で消していった。
鬼塚は『鬼』になったのである。
肩書は“戦闘兵”だが“暗殺者”の方が近かったのである。
鬼塚は不満だった。
『この身につけた技力で“暗殺”する為に“ブラッククロスに入団した”のか…?』
『戦闘兵として入団したはずなのに、これでは“ただの殺し屋”ではないか…』
『思う存分強敵に、身につけた魔技を使いたいッ!!』
と…
そんなとき…
“裏切り者”として見つけた場合、即処刑するよう言われていた
科学者“R”が姿を見せたのである。
「オニヅカよ…私が主催する大会に参加しないか?
今の立場に不満なのであろう…?」
科学者“R”は鬼(鬼塚)の耳元で囁く。
「思う存分その魔技を使えるぞ!
そう『思う存分』だ!!」
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― M州D市 某球場
(“炎駒の剣士殿…”
この“魔技”にどう対処なさる…?
“剣士”である貴方が…
その“空拳”で……ッ!!)
「…………」
“白蒼の戦士”は…
鬼塚の魔技(それ)を…ッッ
(当たる瞬間だ…)
待つッッッ!!!
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― 20年前
デーニッツが誕生日で10歳になろうというときである。
町の郊外で“老人”と“拳闘士”が立ち合っていた。
『決闘』である。
拳闘士は、ナックルダスターを拳にはめて構えている。
だが、対する老人は“構えを取らない”。
拳闘士は言った。
「なんで構えを取らねぇんだ…?」
老人はそれに答える。
「“構えを取らぬのが構え”でな…」
「けっ…藤宮流には構えがねぇってのか?
所詮はセンゴク星のカビ臭ぇ武術だぜ。」
「…………」
拳闘士の挑発に、老人は些かも動揺を見せない。
「お若いの…質問だがワシを何故倒そうとする?」
「ああ…?そりゃ“有名になりたいから”に決まってんだろが。
俺は拳(こいつ)を出世する手段にしてーのよ。テッシンやギャランのようによ。
特にあんたは“藤宮流四天王”の一人…」
【藤宮流四天王】
当時の藤宮流門下には、“藤宮流四天王”と呼ばれる
4人の優れた使い手がいたとして、門人の間で語られていた。
一人は息子であり、後の毘沙門隊を創設する『ギャラン=ハイドラゴン』
もう一人は、その毘沙門隊の副隊長となる『セイザン』
3人目は武器術を得意とした『ピエトロ』
そして、最後はこの最古参の門人『ボーモン』である。
ボーモンは拳闘士に語りかける
「藤宮流の道場内に“竜虎”も“四天王”も存在しない。
下らぬ話を本気にするな。ワシはもうとっくに引退した身じゃ。」
「そうはいってもねぇボーモンさん。
“ネームバリュー”ってもんがあるでしょ?
引退したかどうかなんてカンケーないんだよ。
“名前があるヤツ”倒せばさ“それだけ俺の知名度もアップ”するんだよ。
特にアンタのような引退して数年が経ち、腕も落ちた人は『おいしい』ってわけ。
倒しやすいしね♪
もうね…
やめられないのよ。ボーモンさん。
『このバトル』…ッ!!」
一歩踏み込み、ボーモンの顎をめがけ突きを入れる拳闘士!
当たるッッ!!!
死ッッ!!!
否ッッ!!!!!!
ガッ!!!!!!!!
「…………」
拳闘士は頭を地面に叩きつけられていた…
「波返し…」
【波返し】
打撃と投げ技が一対となった藤宮流の技。
藤宮流2代目宗家『エイシュン=ハイドラゴン』により編み出された技の一つ。
打ちかかる敵の攻撃をギリギリまで待ち、その攻撃か当たるか否かの絶妙なタイミングで避け
次に一歩踏み込み掌底で顔面を打ち鷲掴みにし、そのまま相手の勢いを利用し頭を地面に叩きつける一種のカウンター技である。
「…………」
当時満10歳だったデーニッツはこの光景を目撃していた。
ボーモンは歩み寄り優しく語りかけた。
「坊ちゃん帰りましょうか。」
ボーモンは書画に優れており、画人として父に食客として招かれていた。
デーニッツにとって祖父のような存在でよく面倒を見てもらっていた。
この日は、デーニッツを連れ画材を買いに街に出る所を
この拳闘士に呼び止められたという訳である。
ボーモンはため息を吐き小さく呟いた。
「強いだの…弱いだの…“戦”より“和”じゃて…」
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― M州D市 某球場
ふと気づいたときには、鬼(鬼塚)が乗る深紅の修斗の頭部を地面に叩きつけていた…
『波返し』
選択した技は幼い頃の記憶の片隅にあった技。
形だけの真似た技…本来は使わない技…とっさに思いついた技…
“記憶”がこの技を自然と選択したのだ。
オオオオオオオオオオオオオオオオ―――ッッッ!!!
『勝負あり』である。
“白蒼の戦士”は、もはや残心を取る力もなく…
…その場に座り込んだ。
『トドメを刺せ!』だの『KILL!KILL!』だの
観客達は口々に言っているが耳には入らなかった。
…とその時である。
オオオオオオオオオオオオオオオオ―――ッッッ!!!???
場内は驚きと狂気の歓声に包まれたッッッ!!!!!!!!
鬼(鬼塚)が乗る深紅の修斗が“再び立ち上がった”からであるッ!!!
“白蒼の戦士”は呟く。
「甘くはないな…」
所詮は“見よう見まねの波返し(技)”…
“極め”が甘かったのである。
急いで鞘に手をかける…ッ!
しかし!“飛太刀”の“早技”といえども…ッ!!
このタイミングでは遅すぎる…ッ!!!???
ゴワッッッッッッ!!!!!!!!
鬼は哂うッ!鬼は拳を振り上げるッ!!鬼は打ちかかるッ!!!
万事休すッ!?絶体絶命ッ!?ジャンクの出来上がりッ!?
反撃出来るのか!?起死回生は!?一発逆転は!?
試合の結果(答え)はッ!意外ッ!!予想外ッ!!!
ドラ○エ風にいうならば!
“どこからともなく不思議な声が聞こえる”と表現かアアアァァァッ!?
“女”の声であるッ!!!
『 百 禍 、 乱 れ 咲 け 』
乱入者登場ッ!?どこからッ!?“それは誰にも分からなかった”ッ!!!
斬ッ!!!!!!!!!!!!
深紅の修斗の首は飛ばされていた。
勿論…
鬼(鬼塚)はペインセンサーの強烈なショックにより“死亡”…
さらに乱入者は華麗なる動きで鬼の躰を真っ二つにし…
深紅の修斗は、鬼(鬼塚)の亡骸と共に爆散した。
鬼(鬼塚)を屠った機体!
銀の鎧を纏った細身の女性フォルム!
太刀と小太刀の二刀流で舞うように動きは誠に“雅”!
それなるは…!!!
“白銀絡新婦”!
パイロットは…
闇夜八行衆(アンノーセス)の一人ッ!
優れたボディスタイルを持つ、銀色のロングヘアーの美女ッ!!
胸の部分が大きくはだけた妖艶でエロティックな格好ッ!!!
“舞首姫”『ミヤビ・シュンオウ』であるッ!!!!!!!!!!
「…お久しぶりどす。」
「…………」
絡新婦(ミヤビ)は笑顔で白蒼の戦士(デーニッツ)に語りかけた。
この二人…以前“死合った間”なのだ。
過去、ミヤビは花街に来る金持ちを対象に“狩って”いた。
殺害現場を目撃したデーニッツを口封じの為殺害しようとし、二人は交戦したのだ。
「旦はんの専門は“剣術”…
“体術”なんて似合わへんえ。剣(これ)が一番どす。」
「誰だ…貴様?目的は…?」
「あの“楽しい時間”をもう忘れはったん…?」
「…私の質問に答えろ。」
「ほんま…キツイお人…
うちは“ブラッククロスの依頼”でオニヅカちゅうお人を殺しに来んどす。
何でも『Rの誘いに乗ってどうたらこうたら…』
ベセルクはんが受けた依頼やからよー分からんけど…
まぁ…ほんでここへ来たときに旦はんらしき声が聞こえて。
見たら殺されそうやったから、
『うち以外のお人に殺されるのは許せまへんえ』
“仕事”ついでに“始末”したんどす。」
「…………」
「次はうちの番。旦はんは“あの時のこと”を忘れはったん?」
「知らんな…人違いだ。」
「嫌やあわぁ…うちはしっかりと覚えているのに…
その為に“前以上に技を磨いて来た”んどす。
まぁ…旦はんの名前は後で知ったことどすけど…」
このようなやり取りが行われている中
突然の乱入者で球場はざわめき混乱が生じた。
その時である…大会主催者である科学者“R”は叫んだ。
「試合は“無効試合(ノーコンテスト)”とする!」
辺りは静寂に包まれる。
科学者“R”は再びマイクを握り締め、絡新婦(ミヤビ)に語りかける。
「何者かは知らぬが“退場”して頂こう。
…それとも『ブラッククロス』の依頼で私も始末しに来たのかね?」
「いえ…」
はんなりと絡新婦(ミヤビ)は答えた。
「うちは“オニヅカを始末しろ”との命令しか聞いておりまへんえ。
それに…
無駄に戦ってヘンな騒ぎは起こしたくありまへん。」
試合場の周りに、科学者“R”の護衛の為についた
“O社お抱えの傭兵隊”が6型に乗り込み8機いた。
傭兵達は“アサルトライフル”の銃口を“白銀絡新婦”に突きつけている。
そして、次の“第三試合”で戦う闘士が二人…
イスラエル軍人のボアエル・オズとバレン・レザルトが
“軍用修斗”に既に乗り込んでおり、両者とも『いつでも殺り合える』ように構えていた。
科学者“R”は言う。
「では、退場して頂こうか。
私としても『騒ぎを起こしたくない』のでね。」
絡新婦(ミヤビ)は微笑む。
「へぇ。」
そして…
「旦はん…またいずれ…」
と言った。
白蒼の戦士(デーニッツ)は呼び止める。
「名を…聞こう。」
絡新婦(ミヤビ)は二対の刀を鞘に収め…
「うちの名はミヤビ…
ミヤビ・シュンオウ。」
そう告げて、漆黒の闇へと消えた。
瞬時の事である。
『一流マジシャンのマジックショー』のようであった。
“O社お抱えの傭兵隊”の部隊長(35歳・元ゲリラ兵)は冷や汗を流す…
(あの女は“殺しのエキスパート”…!
問答無用で撃てばこちらが殺されていた…ッ!!)
場内からまたざわめき始めた。
観客(クレージー)達は、この奇術(イリュージョン)のような出来事に戸惑っているのだ。
科学者“R”は再び宣言する。
「試合は“無効試合(ノーコンテスト)”とする!」
Rコロシアム 第二試合
デーニッツ(傭兵)
30歳 国籍:アムステラ神聖帝国
VS
鬼塚 英美(不動流柔術)
33歳 国籍:日本
“無効試合(ノーコンテスト)”
― 続く