Rコロシアム 第一試合〜剣士哀愁〜
ドン!ドドン!ドン!ドドン!
スタジアムに響き渡るのは和太鼓(ジャパニーズドラム)
これから行われる残酷ショー開始の合図である。
「皆さん大変お待たせ致しました!これよりRコロシアム第一試合を始めます!」
金網(ケージ)の直径は70フィート(約21メートル)
フェンスの高さは60フィート(約18メートル)
この巨大な金網の試合場中心でマイクを持つ
タキシード姿が不似合いの東洋系男は、リングアナのロバート・チェン。
ウオオオオオオオオ―――――――――ッッッ!!!
クレイジーな観客の雄叫び!
ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!
クレイジーな観客の地団駄!
早く試合を始めろと言わんばかりである!
スゥ…
チェンは息を吸い込み…
吐き出した。
「まさかこの男が非合法バトルに来てくるとは…」
「『Gladiator フリー競技』チャンプ!」
「レオポルド・ジェラン選手の入場ですッッッ!」
そう言い述べると…
レフト側ブルペンより…
一人の男が出てきた!
中年の男である!
髭を蓄えている!
髪はオールバックにきめている!
彼こそが興行格闘技団体『ORGOGLIO』の傘下団体
※『Gladiator フリー競技』での現役チャンピオンであるッッッ!!!
【Gladiator】
選手は安全の為、特殊吸収材で作られた『アーマー』と呼ばれる防具を装着した修斗に乗り込み
刃引した※剣(ソード)で戦う『現代騎士の決闘』と総称されるスポーツマシン競技!
ルールは“いかに先にヒットをさせるか”のポイント制!
制限時間内(3分3ラウンド)に多くポイントを稼いだほうの勝ちとする!
※但し、現在はマンネリ化を防ぐために
槍(スピア)・斧(アクス)・小剣(レイピア)・フリー(どの獲物を使ってもよいが飛び道具は禁止)の5種目が追加された。
この内もっともベルトを取るのが難しいと言われるのが『フリー競技』である。
ざわ…ざわ…ざわ…
「あんな大物が何故…金か?」
「どうやってこの大会を知ったんだよ!」
「Gladiator?あんな“スポーティ”で“レベルが低い競技の選手”で大丈夫なのか?」
「あんなロートルでいいんですか〜!?実行委員長〜!」
観客がもらす驚きと落胆の声…
それもそのはず『Gladiator』は、かつてヨーロッパ圏を中心に人気を博し
試合は連日連夜の大盛況であった。
だが、現在は一流選手やスター選手の離脱により人気とレベルが低下。
試合場は、伝説のロッテオリオンズの本拠地『川崎球場』並の閑古鳥。
観客席からは汚い野次とアルコールの匂いしかしない。
主な原因は二つ…
一つは、アムステラの地球侵攻により
有望な選手が戦争に駆り出されたためである。
そして、もう一つは“剣士狩り”…
だが、“剣士狩り”の説明は後に記したいと思う。
元々ジェランもかつてスター選手で、何度かチャンピオンになった強豪であったが
30代後半に体力の衰えを感じ引退を表明。
その後、ジムを開設し後進の育成に努めていたが、団体の人気低下に歯止めをかけるため
団体側の強い希望で人気のあるジェランの復帰が決まった。
無論、客寄せパンダ的なものである。
体力は衰えたといえども、老練なジェランの技と経験により
今の技術の乏しいGladiatorの選手は倒され
再びチャンピオンの座を手に入れているのは予定調和であった。
「…………」
ジェランが無言のまま乗り込むは、こげ茶色(ダークブラウン)の騎士(ナイト)修斗。
『Gladiator』の選手が試合で使う修斗であるが、防具である『アーマー』を取り外している。
それはこの試合は“普段の試合”とは違う何よりの証拠であろう。
武器するその手には、右に片手槍(ランサー)左に剣(ソード)の異様な変則二刀流…
若き日は剣一本の剛剣で幾多の勝利に輝いて来たが、体力の衰えにより全盛期の力が出せず悩みに悩んだ挙句
出した結論…
それは…
“変則スタイル”という“技巧派に転身”したのであった。
これが衰えたジェランが試合で使う“正当な戦闘スタイル”である。
チェンは再び(その対戦相手を)
コール(紹介)する。
「続きましては…」
「イタリア邪剣!」
「ヴィート・ムッソ選手の入場ですッッッ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!???
あまりにも衝撃に観客達は声が出ない!
その驚愕はッ!!!
『Gladiator』現役チャンピオンが入場した以上であるッッッ!
冷静さを取り戻した、観客(クレージー)達が漏らすその声はッ!!!
「殺人鬼じゃねーか!」
「国際指名手配犯だけどいいのかよ!」
「どうやって連れてきたんだよ?!」
一人の男が入場する!
長身!(おそらく180p後半か!?)
亜麻色の髪!
首にはロザリオを掛け!
優男である!
その顔立ちは!
よく整った『イケメン』である!
「彼、よく見たらいい男じゃない?」
「ホント。」
電光掲示板のオーロラビジョンに映し出される男の顔を見て、ビッチどもが言った。
男の口元は微かに微笑んでいる。
その笑みが表すのものは!
『絶対的な己の勝利の確信である!』
男は水色(アクアブルー)の修斗に乗り込む!
その武装は!右に騎士剣!左に小盾!
オーソドックスな西洋剣士である!
その男ムッソは、不気味な笑みを浮かべたままリングイン!
対するジェランは険しい顔つきである!
そして、ついに!
“ロートル”と言われた『Gladiator フリー競技』の現役チャンプと!
“殺人鬼”と言われたイケメン男が!
殺戮の舞台に相対!
ドンッ!!!
和太鼓(ジャパニーズドラム)が試合の開始を合図し!!!
開始まったのであるッッッ!!!!!!
Rコロシアム 第一試合
レオポルド・ジェラン(『Gladiator フリー競技』チャンピオン)
50歳 国籍:フランス
VS
ヴィート・ムッソ(イタリア邪剣)
26歳 国籍:イタリア
「会いたかったぞ…」
さっきまで無言だったジェランが第一声を発した。
「貴様の“剣士狩り”の犠牲になった…」
ジェランの顔がどんどん紅潮していく!
「我が息子の敵だァッ!!!」
吼えた!ジェランが吼えた!
もっともベルトを取るのが難しい『Gladiator フリー競技』の現役チャンプが吠えた!
「おや……」
イケメンのムッソもしゃべった!
「あなたの息子さんは、ボクの剣の犠牲になったのですか…」
俯きながらそう呟く。
だが、すぐ顔を上げ!
「ならば誇りに思うといいですよ。」
こう言った!
「ボクの剣の犠牲になるということは…
“一流剣士の仲間入り”という証であるからさッ!
ハッハッハッハッハッハッ!!!」
笑った!
だがその笑いは漫才や落語を見ての“純粋な笑い”ではない!
邪悪な…
邪悪な笑いである!!!
「“剣士狩り”…
そういえば犯人はあの男だったな。」
観客の一人、アメリカ上院議員ミッキー・ホフマン氏はボソリと言った。
読者諸君は“剣士狩り”とは何かさっぱり分からないであろう。
では、お待たせした!
上記にもあった“剣士狩り”の説明をしよう!
【剣士狩り】
イタリア・フランス・スペイン・日本・中国の5カ国で起こった連続殺人事件のことである!
犠牲になったのは何れも高名な剣客!
イタリアでは、Gladiatorの選手1名!聖堂騎士2名!
フランスでは、フェンシング・フランス代表の金メダリスト1名!Gladiatorの選手2名!
スペインでは、Gladiatorの選手1名!
日本では、剣道家1名!居合道家1名!Gladiatorの選手1名!
中国では、刀術使い1名!
計11名もの猛者達が殺されたのである!
取り分け犠牲者で目立のは『Gladiator』の選手達!
その中にレオポルド・ジェランの息子がいたのである!
犯人は、“聖堂騎士であった”このヴィート・ムッソその人である!
だが、その所在は本国イタリア警察では捕らえることが出来ず、海外逃亡をされたのである。
そのためイタリア政府は、1万ユーロ(約162万円)の懸賞金を掛けて『国際指名手配犯』に指定した!
― イタリア・ローマ
かの、イタリア・ローマ教皇庁聖堂騎士フェルディナンド・サルディーニ(29歳)は語る!
「ムッソが仲間である聖堂騎士2名を殺害し、法王様の命令で行方を追って
一度は見つけて捕縛しようとしたんですがね…
でも後一押しで仕留めることが出来ませんでした。」
「え?」
「『なんで仕留めることが出来なかった』かって?」
「それを聞かれるのは心苦しいですね…」
サルディーニ氏は申し訳なさそうに呟き
こう言った。
「それは、彼が『一流のディフェンダー』だからです。」
― M州D市 某球場
ダンッ!!!
ジェランは踏み込んだ!
「何故殺したァッ!」
右手の片手槍(ランサー)を素早く突き出しながら尋ねた!
先制攻撃である!
「“何故”かって…?」
それを小盾で弾きながらムッソは答える!
「“習い覚えた技”は“実際に使いたくなるもの”でしょ?
それに…
どこを斬ったらどんな血の出方がするとか…
どういう風に人が死んじゃうとかさ〜!
知りたいじゃないか!
毎日毎日…
“神への祈り”なんかに“飽きちゃった”ところだしさ〜!」
残酷な笑みを浮かべながら、敵(ジェラン)のQ(クエッション)に自分(ムッソ)はA(アンサー)し!
ヒュン!と騎士剣を左横に薙いだ!
スパ…
ジェランの騎士修斗の右脇腹を軽く裂き…
わずかに短絡(ショート)した。
― イタリア・ローマ
「受けが上手いんですよ。これがなかなか。
日本の武術で言う“後の先”とか“受太刀が上手い”ってやつです。
ムッソのディフェンステクニックは相当なものです。これは以外でした。
普段の稽古では、いつも先輩聖堂騎士に一方的にやられていたんですがね。
あんな実力を隠し持っていたなんて…」
まだ信じられないかのような口調で語る。
「彼の基本的戦法は
『相手が何度も斬り込み、体力が消耗したところを斬る!』
なかなか『サディスティックな剣法』ですよ。
子供が虫を殺すように、体力が消耗した相手をジワジワと嬲り殺す…
故に彼の剣は『邪剣』。我々神に仕える聖堂騎士がやってはならぬ戦法なのです。」
ため息混じりに、サルディーニ氏は続けざまに述べた。
「フゥ…長期戦に縺れてしまいましてね。
こちらのスタミナが先にキレかけてしまったんですよ。
まぁ…相手も相当な疲労でしたがね。
エンツォやエリンシアが助太刀に来てくれなかったら…
ひょっとしたら殺されていたのかもしれませんね。
無論、私が最初から本気で立ち会えば勝つことは出来たんですが…
ああ、負け惜しみじゃないですよ?
彼の腕前を侮ったのが敗因ってやつですよ。」
― M州D市 某球場
「これは挨拶代わりです、チャンプ。邪剣と呼ばれる、ボクの殺法(テクニック)を見せてあげますよ。」
水色(アクアブルー)の修斗は、小盾を前にした左半身の構えをとった。
防御の姿勢である。
オオオオオオオオ――――――ッッッ!!!
時間にして、僅か数秒の出来事に観客は歓声をあげた。
「…………」
無言のままチャンプは構えを取り直した…
※ペインセンサーからの痛みがジェランの右脇腹に伝わる。
【ペインセンサー】
競技用の修斗に取り付けられたセンサー。
外部から受けた衝撃(ダメージ)をセンサーが感じ取り、そのまま操縦者に伝える。
『ORGOGLIO』では選手の安全のため、致死量にまで値しない衝撃に抑えているが
“今大会”では、より現実(リアル)により死傷者が出やすくするため
受けた衝撃(ダメージ)の100%を操縦者に伝えている!!!
よって激痛によるショック死などの確率が大きいということである!!!!!!
「ふふっ…さぁチャンプ。“貴方の息子さんのようになます切り”にしてあげるよ♪」
防御の構えを取りながら挑発する、イタリア邪剣のムッソ。
「…!!!」
ジェランは抑えようもない怒りを押し殺している。
このような場合、相手の挑発に乗っては敵の思うつぼである。
そのことを百戦錬磨のジェランは百も承知であるが…
・
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― イタリア・パリ
「僕もやっと一人前の剣士になった気がするよ。」
『Gladiator クラス・ソード』のデビュー戦を白星で飾った青年。
レオポルド・ジェランの一人息子アンリである。
浮かれるアンリに、父は釘を刺す。
「デビュー戦を勝ったくらいで浮かれていてはダメだぞ。
たしかにお前は小技は上手いが、“気迫”が剣にこもっていない。」
一人前…いや一流の剣士にまず必要なのは“気迫”だ。」
「“気迫”か…」
アンリは、そのことを指摘され神妙な顔つきである。
『剣の達人への頂』は、まだまだ遠いことを改めて自覚していたからである。
「そう“気迫”だ。
ジャポンのイチモンジ・スタイルの剣術を見習え。あれが本当の剣術というものだ。
最近の選手は、たしかに技術レベルは高い。…がそれだけだ。
“気迫”こそ、勝負の土壇場で必要になってくる。
その点、父さんの時代の剣士は…」
アンリは話題を変えようと思った。
父が武者修行時代の話の一つである“イチモンジ・スタイル”の言葉が出たならば
これから1時間以上の説教と武勇伝を聞かされることは、幼い時より常だったからである。
「…それよりも父さん。」
「ん?」
「そのイチモンジ・スタイルの剣術っていえばさ。
昔父さんが、キサラギドウジョーで…」
「アンリ、その話はやめてくれ。ハァ…さっさと家に帰るか。」
案の定、レオポルドは『キサラギドウジョー』の言葉を聞き黙ってしまった。
若き日、“フランスNo.1の剣豪”と言われ天狗だったレオポルドはジャポンに渡り
イチモンジ・スタイルのキサラギドウジョーに挑戦した。
結果は『惨敗』“恥ずかしい思い出”であったのである。
「ま、待ってよ父さん!」
「なんだ?」
昔の思い出を思い出し、帰ろうとする父をアンリは呼び止めた。
「今日は僕のデビュー戦を白星で飾ったんだよ?
これから食事にでも行こうよ。母さんと三人でさ。」
「フ……お前の驕りならな。」
「ちゃっかりしてるな。父さんは。」
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「父さん、悪いけど先にジムに行ってくるよ。
1ヶ月後には、クラス・ソードのチャンピオンベルトをかけた大事な一戦だしね。」
「最近、オーバーワーク気味だぞ。本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ。」
「ならいいんだが…タイトル戦を前にケガでもしたら笑い話じゃすまないぞ。」
「だから分かってるってば。じゃあ、行ってくるよ。」
デビューから2年後…
レオポルドは『Gladiator クラス・ソード』のベルトに挑戦するまでに腕を上げていた。
私は「まだまだ修行が足りない。」と言いつつも、息子の剣士としての成長に素直に喜んでいた。
アンリならば、近い将来
『剣聖(ソードマスター)』と呼ばれる日が来るのかもしれない…
だが、それが父と息子の最後の会話だった…
・
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「!?」
レオポルドがジムに着いたとき、余りにもの光景に戦慄した!
アンリが血塗れに倒れていたのである。
「アンリ!大丈夫か!?」
「…………」
アンリの顔は青白く、すでに事切れていた…
かっと見開いた眼は何かを訴えているようであった…
そう無念さの…
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
レオポルドの両目からは止め処もなく涙が流れた…
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・
アンリの葬儀から2ヵ月後、団体から『現役復帰して欲しい。』との要請があった。
アムステラの地球侵攻と、例の“剣士狩り”により一流どころの選手が相次いで離脱。
それにより集客力が低下し、かつてスター選手だったレオポルド・ジェランを客寄せパンダとして使いたかったからである。
ジェランは最初は断るつもりであった。
だが、息子を殺した犯人を見つけその手で敵を討つ…
少しでも、現役時代の試合勘を取り戻したい…
そう思い直したジェランは復帰を決めた。
それから暫くして、『Gladiator フリー競技』のチャンピオンベルトを手にした。
だが、依然として“剣士狩り”の犯人の行方を掴むことができなかったのである。
チャンピオンベルトを手にして3日後、科学者“R”なる人物が訪ねて来た。
「“剣士狩り”の犯人…ヴィート・ムッソに会いたくはないかね?」
「ヴィート・ムッソ…!?何者だそいつは???!!!」
その当時、国際指名手配犯として指定するまで
イタリア警察は面子を保つために犯人の名前と顔を発表せず、イタリア国内はもとより
異国であるフランスでそのことを知る術は全くもって無かったのである。
フランス国内に犯人がいるものと思い込んでいたジェランが
犯人の行方を掴むことが出来なかったのは当然であった。
また、ムッソの所属するローマ教皇庁はそのことを公にしたくなかったため
フェルディナンド・サルディーニなどを派遣し、ローマ教皇庁内で問題の解決を急いでいた。
犠牲者の聖堂騎士2名は、このときに派遣された者で返り討ちにあったのである。
「クックックッ…」
科学者“R”は冷たく笑う。
「そういきり立つな。まずはこれを渡そう。」
そう言うやいなや、科学者“R”は資料を手渡した。
「ローマ教皇庁とイタリア警察はつまらんプライドを守るために
犯人の顔と名前を公表していないが、こちら側で独自に調べ上げ
顔、名前、経歴が全て分かった。
それがその資料だ。居場所もこちらが突き止め確保している。詳しい話は1週間後に…」
言い終わると科学者“R”はいずこかへと去っていった…
ジェランは資料に目を通した。
ヴィート・ムッソ…顔立ちのよい青年だった。
歳は26…イタリア・ローマ出身。
父はイタリア陸軍の軍刀術の教官。
母は幼い時に亡くしている。
18歳の時、父の反対を押し切り、聖堂騎士の試験を受け合格。
剣と盾を使ったオーソドックスな戦法ではあるがディフェンスに定評があり…
ジェランは、それ以上資料に目を通すのをやめた。
息子アンリを殺した殺人犯のことなぞこれ以上知りたくもなかったからである。
…すでにその時は復讐の炎に燃え心の余裕がなかったのだ。
それから1週間後、約束通り科学者“R”は現れこの恐ろしい大会を知らされた。
そして、その対戦相手がヴィート・ムッソであることも…
「どうするかね?参加するもしないも君の意志次第だが…」
「無論だ…息子の無念を晴らす!」
「クックックッ…!それを聞いて安心した。」
・
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・
・
アンリは何故…
何故、殺された…!!!
何故、死ななければならなかったッ!!!!!!
― M州D市 某球場
「死亡遊戯(『Chevalier du mort vivant(シュヴァリエ・ドゥ・モルトヴィヴァン)』)!!!」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ジェランの咆哮と共に!観客席からも歓声があがる!!!
「出るか…レオポルド・ジェラン(チャンプ)の必殺技が。」
そう呟くは、大会実行委員長である科学者“R”。
ダッ!!!
ジェランが飛び出した!!!
シュッ!シャッ!シュッ!シャッ!シュッ!シャッ!シュッ!シャッ!シュッ!シャッ!シュッ!シャッ!
右の片手槍(ランサー)で無数の“点”を突き!左の剣(ソード)で“線”を多段に斬り込む!
“点と線の同時攻撃”である!!!
これが晩年のジェランが編み出した秘剣!
死亡遊戯(『Chevalier du mort vivant(シュヴァリエ・ドゥ・モルトヴィヴァン)』)である!!!!!!
並の剣士ならば、この猛攻を凌ぎきれず倒されるであろう。
そう…“並の剣士”ならば…
ガガン!と左の小盾で全ての突きを弾き!
ガギ!ギシン!と右の騎士剣で斬撃の全てを切り払い!また受け流した!
フフン…!とムッソは口元を緩ませる!
『飛んで火に入る夏の虫だよ、オッサン!』とでも言いたげな表情である!
そしてッ!!!!!!
水色(アクアブルー)の修斗は騎士修斗の左肩を『ドスリ』と突き刺したッ!
「むぐゥッ!?」
ジェランは左肩の激痛により飛び退いた!
「ハッハッハッハッハッハッ!ば〜かッ!
ロートル剣士の刺突や斬撃なんて遅すぎて見え見えなんだよ〜〜〜!」
大笑いするは!殺人鬼ヴィート・ムッソ!
「ありゃダメだわ。オワタな!オワタオワタ!」
一人の“格闘通”を自称する観客は言い。
「きゃ〜!」
「ムッソ様〜!」
「とっととそのジジイを斬り殺して〜!」
数人のビッチどもは声援を送る。
― 選手控室
「キィィス キスキス サ ン キ ス ト ッッッ ! ! !」
奇妙な笑い声を上げる“ファイヤーパターン”のオーレンジな覆面の男。
第四試合で戦う、カポエイリスタのマスク・ド・サンキスト”熱情(ヘルファイア)”である。
「キィィィス キ ス キ ス ッ ! ! !
あのロートル、焼きオーレンジになると思うけど君はどう予想する?」
矢継ぎ早に話すマスク・ド・サンキスト”熱情”。
「デンデデッデデレデンデデッデ で ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー な展開になって欲しいよねェん♪」
オーレンジな覆面の男に話しかけられた岩のような体つきの男。
第六試合で戦う、“無頼”空手の大廣 憲幸である。
大廣は目を血走りながら豪快に言い放った。
「他人の試合なんぞどうでもいいわい!ワシゃあ、早く試合がしとうてたまらん!
“試合で人を殺しても良い…”こんな大会をワシゃあ待ち望んどったんじゃッ!!!」
この空手家もどうやらムッソと同じく『闇の住人』のようである。
読者の諸君には申し訳ないが、詳しい話は第六試合まで待ってもらいたい。
「…………」
無言で腕を組み戦況を見守るは、次の試合で戦う…
“元”アムステラ神聖帝国軍人で、現在はフリーの傭兵であるデーニッツ。
― M州D市 某球場
「ハァハァ…」
ジェランは息を切らしながら汗をにじませる。
「アハッ!どうやら『疲れてきた』ようだね〜♪」
ムッソはその息遣いを読み、相手のスタミナが切れかかっている事に気づき…
「本当はもうちょっと楽しみたいんだけど…」
と言いながら騎士剣を突き出す…
「次はコクピットを刺し貫いてあげるよ!それでアリーデヴェルチ(さよなら)さ!」
“刺突の予告宣言”である!そして、今度は一転として攻撃の構えで!
「若僧…
貴様にそれが出来るかな?」
「!」
ジェランが言葉を発した。
さっきの挑発のお返しである。
「何を言うかと思えば…息も絶え絶えのロートルが何をほざくんだい?」
動揺を見せるムッソ…さっきまでの余裕の表情が消えている。
『挑発はする』が『される』のは慣れていないようだ。
「さっきから何度も攻撃を受けて分かった。“お前の攻撃は甘い”。
攻撃の一つ一つに皮を斬らせる程度の攻撃力しかないんだ。
たしかにお前の受け(ディフェンステクニック)は一流クラスだが
攻めの技術が甘く、剣士として非常にバランスが欠けている。
要するにだ。坊や。
“お前は剣士として失格”だ。」
「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
・
・
・
・
・
・
― イタリア・ローマ
「お前は剣士として失格だ!」
辺りに怒号が木霊する。ムッソの父はイタリア陸軍の軍刀術の教官であるが
常日頃から、息子を軍人としてまた一流の剣士にするべく厳格すぎるほど厳格に育てていたのである。
「何故、攻撃を受けてばかりで攻めようとしない!
剣術の基本はまず“攻め”だ!このバカモノめが!お前の手筋の悪さにはがっかりだよ!」
父は木剣で打ちつけながらムッソにそう言い放った。
「きょ、教官!それ以上やったら死んでしまいます!」
兵卒風の若者が止めに入った。
どうやらこの男はムッソの父の部下であり、弟子であるらしい。
「お前は黙っていろ!」
ムッソの父は、その兵卒風の若者を睨みつけた。
「さぁ立て!立つんだヴィート!」
「…………」
ムッソは父を睨んでいる。心から憎しんでいる。
この男はいつもそうだった。『イタリア最高の軍人になれ!』と!『ヨーロッパ…いや世界一の剣士になれ!』と!
いつも自分を押さえつける。
玩具の一つでも買ってくれた試しが無い…
“優しさ”や“自由”を感じたことも一度足りとて無い…
その癖、父(こいつ)は家庭を顧みず。
毎日毎日愛人のところに行き、そのために母は心労で死んだのだ。
そうムッソは幼い頃から思ってきた。
「お前はイタリア最高の軍人になれ!世界一の剣士になれ!
そうでなければ貴様は私の息子ではない!“ゴミクズ”だ!!!」
・
・
・
・
・
・
(ボクはゴミクズじゃない!!!)
「死ね!ロートル!!!」
騎士剣が突き出される!
そう余りにも『無造作』に…
故に…
ガキャ…
突きを左の剣(ソード)で受け流され…
ドシャッ!
「…!?」
そして勢いの余り体制が崩れ、右斜め前に倒れ込んだ。
「やはり…“剣士として失格”だ。」
それを見たジェランは、ムッソに吐き捨て。
「立て若僧。」
と言った。
「う…ぐ…!」
ムッソはすぐに立ち上がり。
飛び退いた。
間合いは遠目に置いている。
それを見てジェランが言った。
「…今度は私が予告しよう。
次はコクピットを刺し貫いてやろう!
それでオールヴォアール(さよなら)だ!」
片手槍(ランサー)を突き出しながらの“刺突の逆予告宣言”である。
「ハ…ハハハ…
ハッハッハッハッ…!!!
ハァーハッハッハッハッ!!!!!!
こいつは最高にバカだぜ!!!!!!
ボクの完璧な防御を見ていなかったのかい!!!!!!??????
来いよ!防いで見せてやるよ!!
そして、今度こそブチ殺…」
ダンッッッ!!!
ムッソの言葉が言い終わらないうちに、ジェランが大きく踏み込んだ。
繰り出されるは、疾風の如き片手槍(ランサー)の突き!
「ちィ…!!!!!!」
虚をつかれた感があるが、ムッソは左の小盾で
コクピットがある胸部をガッチリと守った。
(ま、間に合った…)
(小盾(こいつ)で突きを弾き…)
(確実に“突き殺す”…!)
ムッソの脳内は、既に自らの勝利のビジョンに埋め尽くされている。
(勝った!)
(ボクは一流の剣士さ…)
(そうなるために聖堂騎士になった!)
(血反吐が出るまでに鍛えて…)
(腕前も上げた!)
(“一流”と呼ばれる剣士を何人も殺れることが出来た!)
(あいつも…!)
(こいつも…!)
(やつの息子も!)
(惨たらしく殺すことが出来たんだ!)
(余裕でさ!)
(“防御”こそが剣術の極意だ!)
(攻撃なんて防いだ後の…)
(“一撃”だけで事足りる!)
(その流儀(やり方)で今まで勝ってきた!)
(『剣術の基本はまず“攻め”』なんて嘘っぱちさ!)
(ボクの流儀(やり方)で合っている!)
(それが父(あいつ)にしてやるッ!!!)
(“父(あいつ)の全否定”なのさッ!!!!!!)
グサッ!!!!!!
「痛ッ!!!???」
片手槍(ランサー)の穂先は、ムッソの水色(アクアブルー)の修斗の左大腿部を貫き
地面にまで深々と突き刺さっていた。
「すまんな、“ウソ”だ。」
“コクピットを刺し貫く”この言葉を聞かせ
防御をコクピットのある胸部に集中させる…
そしてッ!!!
下半身の防御への意識を低下させたのである!
俗に言う…
『足元がお留守ですよ。』の状態を作ったのであるッ!!!!!!
「お前が“若僧”で助かった。」
ムッソにそう語りかけ、右の片手槍(ランサー)を手放すも、攻撃の手を緩めない。
ドンッ!!!!!!
次に仕掛けたのは“体当たり”である。
その衝撃により、水色(アクアブルー)の修斗はケージ(金網)にまで飛ばされ…
ブチンッ!!!!!!
左大腿部を片手槍(ランサー)が貫き地面にまで突き刺さっている。
それが
“イエス・キリストが磔にされた際に手足に打ちつけられた釘の如く固定している”ため
衝撃で左足がもぎ取れてしまった。
そして、ケージ(金網)に叩きつけられ…
「うぐァ……ッ!!」
激痛に顔を歪ませるムッソ。
「いくぞ…」
左の剣(ソード)を両手に持ち直し、騎士修斗は俊馬の如くかけより!
上段の構えから…
「むん!!!」
気合の一閃で、水色(アクアブルー)の修斗の騎士剣を持つ右腕を斬り落としたのである。
「〜〜〜〜〜〜ッ!?」
ムッソにさらなる激痛が襲う!
ジェランは、切っ先を水色(アクアブルー)の修斗の喉元に向けて言い放った。
「詰みだ。」
一方場内はこの激しい攻防により静寂に包まれていた…
が…
「ヒャッハー!流石チャンプだぜ!」
「KILL(殺せ)!!!」
「何が“イタリア邪剣”だよ…“イタリアじゃんけん”の間違いじゃないの〜!?」
「ムッソ『様』だなんて言ってバッカみたい!」
「ホントね!とっととそのダサ坊殺しちゃいな!」
期待が外れたのか、口々に勝手なことを口走る観客(下衆)達(ども)。
『KILL(殺せ)!KILL(殺せ)!KILL(殺せ)!KILL(殺せ)!KILL(殺せ)!KILL(殺せ)!』
いつの間にか、KILL(殺せ)コールに場内は包まれていた。
「フ…フフフ…殺せよ…」
ムッソは観念してたのか、そう言い放ち…
「息子の敵なんだろうッ!?殺せ!殺せよ―ッ!!!」
激痛に耐えながら絶叫した。
しかし、返答は意外なものであった。
「…私は“剣士”だ。“人斬り”じゃない。
貴様の薄汚い血で汚すことはできん。
自分の罪を背負い、懴悔に苦しみながら一生を暮らすんだな…」
そう言って、剣を収めた。
『BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!』
場内は今度、ブーイングに包まれた。
この観客達は勝敗なぞどうでもいいのだ。
ただ見たいのは、『人の死』あるいは『再起不能』だからである。
たしかにジェランは、復讐の鬼であった。
『必ず息子の敵を討つ。』そう心に決めていた。
だが、水色(アクアブルー)の修斗の姿を見て気づいたのだ。
私とムッソ(こいつ)の何が違う…
対戦相手を撫で斬りにし…心のどこかで、その絶叫する悲鳴を楽しんでいる…
私にムッソ(こいつ)を裁く権利は本当にあるのか…?
息子の敵と言うことを大義名分にしているだけで、
本当は一剣士としての強さを再確認したかっただけではないのか?
リアルな殺し合いを経験したかっただけじゃないのか?
「私の負けでも言い、実行委員長の判断に任せる。」
そう言い残すとブーイングが鳴り止まない中、リングアウトしようとした…
と…そのときである。
「ふッざけるなァァァァァァ!!!!!!」
ジェランはそれに驚き振り返った。
絶叫の主はヴィート・ムッソだった。その一声に驚き場内は再び静寂に包まれた。
「ボクも“剣士”だッ!!!
“負けた剣士”はこうなるッッッ!!!!!!
それくらい分かっているッッッッッッ!!!!!!!!」
水色(アクアブルー)の修斗の左腕が持ち上がる…
何も持っていないはずが、“何か”を取り出しているようだった。
ジェランも突然の出来事に何もすることができなった。
― 選手控室
「コクピット内で何かをしている!!!」
そう控え室で驚愕の表情を見せたのは、フリーの傭兵であるデーニッツ。
コクピット内で、ムッソは隠し持っていたナイフを取り出した。
それから手際よく…
ドス…!
心の臓を刺した…
「フ…フフ…これで…満足なんだ…ろ?」
それを言い終えると、ヴィート・ムッソは静かに事切れた…
………………………………
全ての時が止まったような静けさだった。
パチパチパチ……
突如、拍手が響いた。とても乾いた拍手である。
その拍手の主は、科学者“R”であった。
「おめでとうチャンプ。君の勝利だ。
これで“君の息子の魂は救われた”のだ。本当におめでとう。」
マイクを持ち、科学者“R”はそう言った。
パチパチパチパチパチパチ!
場内の観客達もつられて“祝福の拍手”をし始めた。
オオオオオオオオオオ―――ッッッ!!!
そして、歓声をあげた…
ジェランは結果として息子の敵討ちに成功したのである。
だが…
「…救われた?救われたのか本当に…」
レオポルド・ジェランは苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
Rコロシアム 第一試合
レオポルド・ジェラン(『Gladiator フリー競技』チャンピオン)
50歳 国籍:フランス
VS
ヴィート・ムッソ(イタリア邪剣)
26歳 国籍:イタリア
勝者:レオポルド・ジェラン
― 続く