プロトスリー物語 第九話 「想定外の事態がフタエノキワミアーッ」



「スガタ流戦闘術―、オニガワラ!」


不意打ちが不発に終わったスガタはパールヴァディーを一歩退かせ、体勢を戻し
再度突撃する。両腕から伸びるブレードの狙いは首の一点。
左のブレードが盾を押しのけ、右のブレードが頭部を破壊せんと迫る。
だが、その攻撃もグーチェには届く事は無かった。

「アムステラ銛術―、穴子裂き」

地に潜る穴子を捕るかのようにパールヴァディーの足元を槍が薙ぐ。
オニガワラとほぼ同時に放たれたこの攻撃を避けるためパールヴァディーの踏み込みが
止まる。結果、距離が足りずにブレードは盾をかすめるのが精一杯となった。


「チッ!」

舌打ちをしながら、相手の盾を蹴りつける。再度距離を取り、あわよくば
相手の盾を弾き飛ばす事も期待しての蹴り。だが、重量差もあってか敵は揺らぎもしない。

相手はゴーリキーにすら勝利している、槍の投擲の奇襲だけでなく白兵戦でも
一筋縄ではいかない事は分かっていた。それにもう一つ、スガタはこのグーチェに対し
ムカツク点があった。


「さて、次はこっちから行かせてもらうわ。アムステラ銛術―、ウツボ撃ち」
「…ッ、どこが『銛』術だ!どう見ても槍じゃねえかっ!」
「実家が漁師だからよ!」


納得した。しかし、こんな謎が解けた所で戦力差は埋まらない。
ブレードをクロスさせ槍の突きから胴体を守るが、衝撃を感じた瞬間
左のブレードが真ん中辺りからポキリと折れた。

「く、くそっ!」

接近戦では勝てない。慌てて、機銃での威嚇を行う。
失策だった。相手の追撃を防ぐための機銃、羅甲相手ならそれは正解であろう。
だが、ロイヤルナイツはこういう安い定石ならごり押しで突破が出来る。

「しまっ―」
「これで決める!!」

ボウッ!!
ロイヤルナイツが盾を構えながら急加速で体当たりしてくる。
足を止めて機銃での威嚇を選択してしまったスガタが反応出来ない。

不意打ちから2分足らず、インドの英雄とロイヤルナイツ一の槍使いの勝負は
グーチェの勝利に終わった。

(2機でゴーリキーと同等?んなもん、私が勝手にそう思っていただけじゃねえか。
ナンバーグラン基地の戦果がコイツのマックス、後は時間と共に弱くなってるハズ。
だからプロトスリーでいい勝負になるだなんて―)


勝算とまでは言わないがスガタには目論見があった。
仮に先月のゴーリキーとの勝負で力を温存していたのだとしても、
本隊との合流も出来ず敵地で留まり続けたのならば、時間と共に
性能が劣化しているに違いない。操兵というものはあらゆる部品が消耗品である。

1か月の孤立は、エース機を凡庸なレベル近くまで落とす。
スガタは経験上そうなる事を確信していた。なぜなら地球の操兵はアムステラの技術を
参考にしている。地球の操兵の非メンテナンス時の限界がアムステラ兵の地球上での
単独行動の限界でもあるのだと。

間近に迫るロイヤルナイツを見てスガタは自分の経験からの考えが半分は正解で
半分は間違っている事を知った。

(ああ、くそ。そういう事か)


グーチェのロイヤルナイツ羅甲、表面こそ連戦で傷だらけだがそのモーター音は、
その間接の滑らかさは、その頭部カメラの輝きはメンテナンスから間もないソレ。
失念していた。地球側からの視点のみで物事を考えていた。
『地球の操兵がアムステラの技術によって発展したもの』ならばその技術は
アムステラから見ても自分達に親しいものと言えるのではないか。

グーチェ達は占拠したナンバーグラン基地の施設でメンテナンスを実行していたのだ。
表面の塗装や、欠けた装飾の復元、OSの更新こそ無理だったが本来の性能の8割前後の
数値を維持するには十分。皮肉にも地球軍の成長ぶりがこの勝負では不利に働いた。


衝撃、そして爆音と気持ちの悪い浮遊感。攻撃を受けて機体が宙を舞っているという事は
理解できたが、スガタにはもうどうする事も出来ない。


揺れる画面にはこちらを見上げるロイヤルナイツが、その槍を―。


オードリー=スガタ、
彼女は、


絶望した。







【ナンバーグラン基地北門近く・羅甲対ゴーリキー他】

「ミンチクラーッシュ!」

ゴーリキーの撃ち下ろす拳が羅甲の腰を粉砕する。

「だっらー!力波動!」

餓狼の投げつけた地雷が羅甲の足元で炸裂し転倒させる。

「やあああああ!!!!」

プレイアデスが動きの鈍い羅甲を斧で打ち倒していく。

「イェヤァー!!!」

スガタの割り込みでロイヤルナイツの攻撃範囲から逃れる事が出来た
プロメテウスが2型と共に一斉射撃で羅甲を蜂の巣にする。

「弱い、弱すぎるぞ!まるで手ごたえが無い、病人を相手にしている様じゃ!!
こんな奴らにソコソコダー少佐は敗北したというのか!!」

ナンバーグラン基地が落とされた際のゴーリキーの操縦者の名を出し、
アレクサンダーは怒りと共に拳を叩きつける。
羅甲は防御も反撃もロクにせずフラフラと倒れ込んだ。
まだ立っている羅甲は2機残っていたが攻めるでもなく退くでもなく、
目の前に敵がいる事すら確認できないかの様にボンヤリとした状態だ。

ロイヤルナイツ2機が主力のとして秀でている部隊とはいえ、
これではまるで―、


「…」

違和感に気付いたアレクサンダーが倒した羅甲の両足を掴みゴーリキーのバカ力で
股裂きをしていく。
大量のネジやコードをまき散らしながら下から引き裂かれる羅甲。
ついにはコックピットまで砕け、シートやハンドルが内臓のごとくこぼれおちた。
そう、本物の血肉は全くこぼれなかった。


「フッ、なるほどなあ。行動を先行入力しておいた無人機か。そりゃあ病人みたいな
動きしかできんわけだ。フ・ふふふふ」

アレクサンダーは静かに笑い、

「ふぅぅぅぅざぁぁぁぁぁけるなぁぁぁぁぁぁっぁ!!!!!!!!!!!」

爆発した。近くにいた南龍・ブレイブ・ブライアンが腰を抜かす怒りの爆発だった。


「ワシはこんな事をする為に40年待ったのではない!
ビデオ店で500円のガチャポンに金を払い、カプセルを開ける。
中にはもちろん、エログッズ!!ワシにとってアムステラ人の命とはっ、羅甲とは
そういうものだ!それが『中に誰もいませんよ』ときたか!!
どこだっ、ワシの正義(エロス)と肉欲(ジャスティス)をぶつけるべき
存在はどこに行った!!」
「閣下、伏兵でアリマス!!」


アレクサンダーの心を読みとったかの如く、
ナイスタイミングで通信が入る。
声は本来のゴーリキーの操縦者であり、今回はモスクワ基地での留守部隊を預かっている
オイラー=ソコソコダー少佐のものだった。

「おおっ、中身発見かっ!?でかした同志よ、して伏兵はどこからワシらを狙っておるのだ?」
「い、いえっ!敵の狙いはこちらでアリマス!モスクワ基地近辺に突如騎士型の機体と
羅甲10数体が出現し、こちらへと突破をしてきます!自分が指揮を執り善処致しますが、
人型の半数以上が出撃しているので守りきるのは厳しいと言わざるをえませんでアリマス!」
「…何…じゃと…」





【モスクワ基地南側】

モスクワ基地前、2型と戦車隊が慌ただしく動き出し警報が鳴るのを聞き
リノアは自分達が発見された事を知った。


「気付かれた様ね…、まあここまで迫れたのなら十分」
「…おい、勝てんのか?」

後方の羅甲から男が問う。それは、間違いなく中に人がいる証である肉声。

「大丈夫、パターン入った。今ならここを突破して本隊に救助を要請できる。
でも一秒ごとに私達の、そしてグーチェの生還率は下がっていくわ。
全軍に命じます、このモスクワ基地の敵を蹴散らしつつここを突破するわ。
私が最初に飛びこむから、ボーゲン曹長は皆を率いるのを任せます」
「ヘッ、わーったよ。ここまで上手く行ったんだ、ちゃんとあんたに従ってやるよ。
この羅甲に乗ってるのは俺一人だけの命じゃねえからな。…それと、出撃前は悪かった。
あんたらならきっとまた返り咲けるさ」
「では前進開始、各自己の命とそのコックピット内のもう一人の命の為に!」


リノアの操るロイヤルナイツ羅甲に率いられるは病人を後部に乗せた多少窮屈な
12の羅甲。だが、操縦者達は生還の希望が見えてきた事で皆が気力に満ちていた。

(続く)