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プロトスリー物語 第十話 「最終爆力泉」



オードリー=スガタ

34年前、ダッドリー=スガタと妻ユクリアの間に誕生。

5歳の頃から父と祖父によりスガタ流武術を仕込まれる。

15歳でインドジュニア格闘大会女子の部優勝。

19歳でインド陸軍に入隊、格闘と操縦において男顔負けの成果。

23歳の時、些細な口論から科学者のボディガードをしていたボン=マッハと喧嘩し敗北。
襟首掴んだら口からパパウパウパウと高水圧のカッター吹かれた。なんだこのオッサン。
以後、事あるごとに彼とその主人であるライブ相手に口喧嘩していた。

25歳、中国の武術大会にて中学生ぐらいの子供に負けていた春南龍、
そしてエキシビジョンマッチに参加していたブライアンと意気投合する。

20代最後の日、ボン=マッハ死亡。彼の葬儀の時にライブの娘フェミリアと出会う。
始めて会った時は「歌ってる暇あったら武器もって戦えよ」とあまり良い印象を
持ってはいなかった。なお、この時ライブ病に倒れる。

33歳、ボン=マッハ死後体調を崩し、自宅療養していたライブが研究室長に復帰。
以後スガタが彼に与えたアイアンクローは数え切れない。

数カ月後アムステラ戦争の開戦が正式に発表され、アメリカと韓国のエースになっていた
ブライアン達に戦場で再会する。

34歳、国連軍で開発されインドにも支給された1型及び2型での活躍で『ヒマラヤの鬼姫』
の異名で呼ばれる様になる。しかし、本人は専用機が無い事に文句を言っていた。

(ああ、これが走馬灯か)


ロイヤルナイツ羅甲によって空中に打ち上げられたスガタはその一瞬でこれまでの人生を
振り返っていた。


人生経験を思い出しスガタは確信した。自分の経験ではこのピンチを回避する手段は
何も無い。飛行能力も加速能力も無いパールヴァディーではこのまま真下の槍に串刺しに
されるのを待つしかない。ブレードや機銃で相手がひるまない事は先程実証済み、積んだ。
オードリー=スガタは完膚なきまでにグーチェに敗北したのだ。

だが、この事は連合部隊の敗北もスガタの命が失われる事も意味するのではない。
スガタ本人に助かる手段が無いというのなら、他の仲間が動けばいい。

「命令じゃ、耐えろ」

アレクサンダー=シュタイドルフ大将からの通信、
直後パールヴァディーの正面には





唸りをあげて飛ぶバズーカの玉!!


「う、うわあああっ!!」

ゴーリキーの砲撃を喰らい、爆音と煙をあげ横へ飛ぶパールヴァディー。
さながらビリヤードだった。

ロイヤルナイツからかなり離れた位置に墜落し、雪の上を2回バウンドした所で
撤退中の2型に受け止められて停止。
命は助かったし、パールヴァディーもまだ動ける状態だ。
とはいえ味方に横からバズーカで撃たれたという事実に対しスガタは倒れた機体を
起こしつつ抗議する。

「こ、殺す気かっあんた!!」
「殺す気なら耐えろだなんて通信せんわい。咄嗟の受け身ナイスじゃったぞ
『ヒマラヤの鬼姫』よ。だが、この場は同志には無理じゃろう。そこの2型達を
連れてモスクワの方を助けに行ってやれ」
「モスクワ?」
「同志は戦闘中で通信を聞いておらんだか。敵の殆どがモスクワ基地に
現れてピンチらしいぞ」
「なっ…!どういう事だ!」
「肉たたきヘッドォ!」

アレクサンダーからの答えは途切れた、既に彼はロイヤルナイツ羅甲との戦闘に
入っていたからだ。視界に頭から敵に突っ込むゴーリキーが映る。


「いいから行かんか!この女はワシ一人で嬲るのが最善じゃ!同志らの武器では
この装甲を通す事が出来ぬ以上はいるだけ無駄じゃ!大将命令だ、さっさと行けい!」

指令室ほっぽり出してここに来ているくせにこういう時だけ最高司令官らしい事を
いうのはどうかとも思ったが、スガタの攻撃が通じなかった以上、それ以下の
戦闘力しか持たないブレイブも2型の面々も論外、ならばハングオーバーキャノンを持つ
プロメテウスならどうかというと―、

「スガタ、ブレイブ軍曹、モスクワに戻るぞ!」

ナンバーグラン基地に行く時の倍近いスピードでプロメテウスが横切っていく。

「ブライアン、あんたの火力ならいけるんじゃないの?」
「ハングオーバーキャノンなんてとっくに全部撃ち切ったよ!おかげで機体が軽いがな!」

無人の羅甲相手に撃ち過ぎてこのざまである。
もちろん試験機にカートリッジなんて備えてはいない。
そうなるとやはり現状でアレに対抗できる装甲と火力を持つのはゴーリキーのみか。
いや、もう一人。


「だっらー!」

スガタ達が戦場を去るとほぼ同時、
アレクサンダーとグーチェの間に割って入ったのは南龍の餓狼。
ロイヤルナイツの顔面に強弱を織り交ぜた連打を叩きこむ。

「キイたか、おい!通じたかぁ!?」
「ああ、『ちょっとは通じたわ』」

グーチェからの返事と同時に、餓狼の顔にお返しとばかりに槍の腹が叩きつけられる。

「っとアブねっ!」
「何をしとる、お前も早くモスクワを助けにいかんか!」
「あんた一人でもこいつは荷が重いだろ!つーか、モスクワ基地と同じぐらい
あんたも重要だしモスクワの敵達を倒すのにはゴーリキーが要るだろ。だからここは
俺が止めるのが最善なんだよ」
「…ぐうぅ」

南龍の言葉にアレクサンダーが冷静な感情を取り戻し、彼に残酷な二択が与えられた。
自分がここに残れば対アムステラ特殊部隊全滅の可能性すらある、
自分が離脱すれば他国の英雄を死地に残す事になる。
無論、『二人ともここから脱出する』『二人でグーチェを倒す』という選択は
決して選んではいけない。

どちらか一人が足どめしないと移動力に劣る2型が一機ずつ後ろから落とされ、
グーチェのロイヤルナイツまでモスクワ基地に同時に到着してしまう。
それでは意味が無い。

かといって、弾切れのプロメテウスや武器の破損したパールヴァディーだけが
モスクワの救援をしても戦力的に不安が残る。

やや考えて、アレクサンダーはより多くの命を選んだ。
モスクワに残った対アムステラ特殊部隊、そして今グーチェから逃走している奴らの
気力を再度奮い立たせる役目、これは余所者の南龍には出来ない。

アレクサンダーは痰を切るように大きく咳払いをしてからただこう言った。

「同志、ここは頼む」
「まっ、頑張るさ。ところで大将」

アレクサンダーは雪原ならば現時点地球最強であるとの自負がある。
だからロイヤルナイツ羅甲が相手でも一騎打ちをやろうとした。
その一方、南龍がエースと言えども、ほぼ同ランクであるスガタが完敗した相手との
一騎打ちで勝てるはずが無い。

だが、このここで死ねと言われたのと同義の命令を出された南龍は―

「足どめするのはいいけど、別にあの女を倒しちゃってもいいんだろ?」

―背を向けてここを去るアレクサンダーに事も無げにそう言った。
無論南龍は知っている、自分では決して目の前の相手に勝つ事が出来ない事を。


「さあて、邪魔なジジイも去った事だし始めるわよ。お嬢さん、お入んなさい」
「茶番ね、さっさと終わらせてやるわ」
「そう言うなよ、こういうのも結構オツなものですよっと!」

言葉のキャッチボールをしないグーチェにスノーボールが投げつけられる。
何時の間に足元の雪を握ったのか、それは餓狼の手から投擲された。

「バカにしているの?こんなものでっ!」

グーチェは無造作に雪玉を払う、雪玉は容易く割れその中から何かが転がり落ちた。
それをマトモに凝視していたグーチェの眼に光が飛び込む。

「・・・っ、閃光弾か!」
「ベタな手段だがどうだい俺からのプレゼントは?そこらの夜景より綺麗だろ?」
「くそっ!」

真っ白な視界、迫る餓狼の足音。グーチェは音の方に狙いを付けて槍で突きまくる。
何度目かに手ごたえ、やがて視界が明けると―

「ハーイ」

餓狼がそこにあった。正面から槍で突かれてはいるが、機体もパイロットもまだ
死んではいない。そして、この距離はお互いに必殺!

「悪いね、マトモにヨーイドンで戦ったらまずあんたが勝つ勝負だった。
でも今日は負けてもらうわよ。まっ、勝ち負けで言えば俺も負けだけど」


餓狼の手にはいくつもの対操兵地雷が握られている。それをロイヤルナイツのボディに
押し付け、地雷の底部を最後の力を振り絞り殴りつけた。

「これが春南龍最後の一撃だ!うおおおー!最終ゥ爆力泉!!」

ナンバーグラン基地周辺に爆音が鳴り響き、ロイヤルナイツと餓狼を炎の柱が包む。
周囲の雪は瞬く間に溶け、爆炎と共に水蒸気が中心地を覆い隠した。



「なっ、何ださっきの爆音は!?」
「…スガタ、南龍の奴の機体信号が消えやがった。騎士型羅甲と一緒にな」




ロイヤルナイツ羅甲、餓狼、この戦いの主力ともいえる両機が同時に燃え尽きたその頃、
モスクワ基地では一人の男が決断を迫られていた。
ロシア陸軍対アムステラ特殊部隊戦闘隊長にしてゴーリキーの正パイロット・
ソコソコダー少佐、操兵格納庫で彼はこれから乗ろうとする機体を見上げていた。

「無いゴーリキーに乗る事は出来ぬ、2型では勝てる相手ではない。
つまり、自分にはこれしかないでアリマスが…」

南龍は言った、『結局動かなかった、だから餓狼に乗って来た』と。
動きはしないが、ロシアに運んではきていたのだ。
そして、ピーキーな調整や複雑な装備で動かなくなったのならその理由を取り払えばいい。
後に残ったのは、マシンガンとナイフで武装した追加パーツの一切無いプロトスリー。
それはさながら大盛りご飯の半ライスといったところか。

「プロトスリー・ペルセポネー完全版とでも言うところでアリマスか、いや
あえて言おう!ただの3型だと!!」

しかり、後に世界中で正式採用された3型はこの様な形をしていた。


(続く)