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プロトスリー物語 第八話 「魔槍」



ザッ…ザッ…ザッ…

ロシア陸軍の機動マシン達が雪を踏みしめ南下する。
本日は晴天なり、ただし積雪20p。
昨晩からの溶けずに残った雪を踏みしめながら、乱れぬ陣形を組み先頭を行くのは
アレクサンダーが乗るゴーリキー。

そしてそのすぐ後ろにぴったりと続くのが、

ピンクの機体、スガタ=オードリーの『プロトスリー・パールヴァディー』

赤茶色の機体、春南龍の『餓狼』

緑の頭部と黄色の胴体の機体、ブレイブ=レベルワンの『プロトスリー・プレイアデス』

















炎のごとく赤い機体、ブライアン=バーンズの『プロトスリー・プロメテウス』


「くっくっくっく、中々の光景だな。この雪原にてゴーリキーの歩みについて来るとは
中々の機動力ではないか」
「大将閣下ー、ブライアンのやつ後方の2型の集団に埋もれてます」
「マジで?」

マジだった。


スガタの報告直後ゴーリキーの首を後ろにやると、砲撃支援の為10メートル以上離れて
陣形を組み移動する2型の中にブライアンが駆るプロメテウスの存在が確認された。


「むっ確かに。くぉらぁアメリカ人!今日は敵さんへの新型のお披露目会なんじゃから
ワシの後ろにぴったりついてこんかい!」
「どうしたブライアン、お前もOSのエラーじゃないだろうな?」
「いんや、コイツが原因だ」


ブライアンはプロメテウスの腕を曲げ、ちょいちょいと機体の肩の上を指す。
プロメテウスの両肩にセットされているその装備、『ハングオーバーキャノン』は
1型の主砲に匹敵する威力を持ちながらその重量を半分以下にする事に成功した
画期的な武器パーツである。


「これを両肩に背負った途端、機動力が2型並みに落ちてよお」
「1型の主砲の半分の重さを2門背負ったら、それは1型の主砲背負ってるのと
変わらねーだろ!バカかお前らアメリカ人は!!頑張ってもう少し軽くしとけよ!」
「なんだと、テメーのブレードだって量産機向きに見えねーからお互い様だ!」
「私のはこう見えても結構簡単に振りまわせる仕組みなんだよ!!」
「二人ともその辺にしとけ。今は作戦中じゃぞ。で、同志ブライアンよもう少し早く
歩く事は無理なのか?」
「あー、やろうと思えば無理じゃないですが…」


ブライアンはそう言いながらプロメテウスのモニターを凝視する。
先頭集団に遅れている原因は移動力の低下もあるが、雪に足を取られている事も
大きな要因である。なので、隊列からはみ出る事無く雪の少ない道を選択して
移動させればもう少し早く動く事が出来る。

「…ん?」

プロメテウスはそのハングオーバーキャノン故に、各種性能も長距離射程向きと
なっている。当然モニターも広範囲を見渡せるようカスタマイズされており、
この事と先程の命令によりモニターを注視していた事、これがブライアンに最初に『それ』を気付かせた。


「アレクサンダー大将、ナンバーグラン基地までの距離は分かりますかい?」
「このペースで歩けば後20分でナンバーグラン基地で籠城するアムステラ部隊との
決戦じゃな。もし奴らが北上してワシらと基地の外で勝負しようというのなら
もうそろそろゴーリキーのセンサーで感知できとるはずじゃ」
「…どうやら、この部隊の中で一番策敵範囲が広いのは俺の機体みたいですね。
アムステラの奴らと思われるのがこれから攻める基地のちょい北に10ちょい」

ブライアンの敵機発見の言葉に部隊全体の空気が変わる。
籠城戦という有利を避けた敵の意図は分からないが、決戦の時が前倒しに
なったのは確かな様だ。


「全軍、前進やめい。音を立てるな」

アレクサンダーの命令を受けスガタ以下50名余りの混合軍が足を止める。
慣れないブレイブが多少もたついたが、スガタと南龍に倣い無事停止させた。


「ブライアン少尉、間違いないのか?ならば撃て、見えるという事は届くのだろう?
一番手は同志に譲ってやろう」
「降伏勧告とかはいいんですか?」
「既に占領された後ナンバーグラン基地の回線で何度か勧告しとるが、
ぜーんぶ無視されたわい。かまわんから先手必勝じゃ」
「了解っ、スガタ、ナンロン、ブレイブ、ちょっと横にどいててくれよ!!」

微かなモーター音と共に両肩から伸びるハングオーバーキャノンが水平になり
前方に狙いを付ける。

「適正射程距離から50メートルオーバーってところか…、まっ、遮蔽物もないし
相手は固まって棒立ちだし誰か当たるだろう」

両足を通常の直立より気持ち開き重心を下げバランスをとる。


「5秒前」

…4
…3
…2
…1

「ファイヤー!」

ドォン!

爆発音と共にプロメテウスの2門のハングオーバーキャノンから砲弾が発射された。
1型の主砲に匹敵するという言葉通り、雪原の遥か先にて着弾し発光、一瞬遅れて
轟音が響き渡る。


「っしゃ!手ごたえあり!」
「よし、行くぞ同志諸君。慌てふためく奴らに突撃しその機体と血肉を引き裂いてやれ!」

号令共に、混成部隊が動き出す。いや、動き出そうとしていた。

―ぞくり。


「!!!???」

スガタは悪寒を感じ取った。モスクワの肌寒さでもインフルエンザでも無い、
今この突撃しようとしたタイミングでのこの全身が冷える様な悪寒。

何かがおかしい、そもそも何故彼らは基地の外に陣取っていたのか。
そして、アムステラの連中はこんなにも容易い奴らだったか?
否、彼らが定石を外して動く場合そこには意図があるはず。

スガタの悪寒はパールヴァディーの突撃を一歩だけ遅らせた。
この事はスガタにとって幸運である。そして後方の人間にとっては不幸であった。

「―な」

パールヴァディーの鼻先を腕程の長さの白い物体が空気を斬り高速で横切る。

「んだ」

通過したその物体は2型の集団の中に吸い込まれ、彼らの中の一体が音を立て倒れる。

「うわあああああ!!!!!!」

ロシア兵の悲鳴、倒れた機体の中心を飛来した物体が貫通しておりパイロットは即死、
機体も再起不能である事が容易に想像できる。

2型に刺さったままの飛行物体、それは白い長槍だった。
大きさからいって操兵の武器と考えて間違いないだろう。

「スガタさん敵です!」

今度は前からの悲鳴、ブレイブの言葉でスガタは我に返り振り向きざま戦闘態勢を―
取ろうとしたが、

「ブレイブ軍曹、邪魔だよ!」
「す、すみません!」

敵の出現に気圧され後ずさったブレイブと接触しそうになる。
そして、その隙をついて敵機が高速で横を通り抜ける。


「アハハ、アハハハハハ、取ったぞお〜」

2型に刺さった槍を抜きながら敵は笑っていた。
抜き取った槍を構える敵機を見てスガタはようやく理解する。
ブライアンがハングオーバーをぶっ放した直後、同じ様にこいつがここに向かって
あの槍を投げつけたのだと。

「白いナイト風の羅甲…、出撃前に聞いたエースのうちの一機か!」

スガタはこれの存在を前もって聞いていた。
当然、ロシアの面々もスガタ以外のゲストも敵に隊長格の機体が2機ある事は聞いてはいた。
聞いてはいたのだが。

「こんな無茶な戦い方をするなんて聞いてねえぞ!」


誰もが思った事を代表するかのように叫ぶスガタ。
それについてはアムステラ側にも事情があるのだがスガタ達はそれを知る由も無い。


「有効射程外だったけど、棒立ちで固まってるからね。当たるもんだ」

ブライアンと全く同じ事を言う騎士風の羅甲のパイロット。
確かに、条件は同じだった。だが、かたや長距離砲、かたや槍。
槍の投擲がハングオーバーキャノンと同じ距離まで届くものなのか?
届く、届くのだ。ロイヤルナイツの中でもこのグーチェに限って言うのなら届くのだ。


地球侵略の3年前、快王への道を志し、最も手っ取り早い手段を取ったグーチェに対して
快皇テッシンは鉄拳制裁の後評価を下した。

「槍の腕が自慢の様じゃが、このレベルの使い手なら快王にはざらにいる。
それ以外の技量は言わずもがな。小娘よ、若いとか女だからとか以前にお主には
決定的に修練が足りん」

鼻血と嘔吐物と折れた前歯の水たまりに沈みながらこの評価を聞いたグーチェは感謝する。
あの快皇テッシンが自分の槍は快王に迫る腕だと褒めてくれた!
しかもまだ伸びしろが十分にある!

以来槍の修練を積み続けたグーチェは『魔槍』の二つ名で呼ばれ、
槍術において近衛兵で並ぶもの無しとされた。
だが、そんな彼女は今ロシアにいる。




「スガタ!ブレイブ!普通の羅甲さんもきたわよ!」
「スガタ中尉、僕はどっちにいけば!?」

前方からは羅甲が7機、ブライアンが見つけた敵は10弱だから最初にぶっぱなした
キャノンはちゃんと戦果をあげていたということだろう。

そして自分の後方では2型の群れの中で暴れるロイヤルナイツのグーチェ。
中距離砲と機関砲は同士討ちの危険があり使えない。とはいえ2型の格闘じゃあ
触れる事さえ難しい。判断が遅れる度に2型が1機づつ倒れていく。

「ブレイブ軍曹は羅甲の相手だ!その重装甲でブライアンとナンロンを守ってやりな!
私はあっちを止めてくる!」

2型への誤射の心配が無い為、斧装備がメインのブレイブ機はどちらかと言えば
後方への助けに向いている。だが、正直に言ってルーキーには荷が重い。

ブレイブが羅甲の方へ向かったのと同時、スガタはパールヴァディーの
両腕内部のブレードを出し、2型を蹴散らすロイヤルナイツの背後から斬りかかる。
ちなみに、アレクサンダーはロイヤルナイツの突撃よりも早く敵陣に飛び込んでおり、
羅甲の一体がゴーリキーのパンチで真っ二つに裂けながら逆さまになって宙を舞っている。


「あぶなっ!」

寸前でグーチェは気付きブレードを盾で受け止める。
嫌な金属音を立ててブレードは盾の上を滑り、スガタの一撃はロイヤルナイツの盾に
新たな傷を作るに止まった。

「アムステラの武人、このスガタとパールヴァディーが相手するぜ!」
「不意打ちしといてからそういう事言う?まあいいや、私はグーチェ。
ヨロシク、そしてさようなら」

(続く)