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プロトスリー物語 第六話 「出航」



【現代・オーストラリア】

―貴方は、この国が貴方を受け入れるに至った下地を知らなければならない。
ぴちゃ。

―貴方には退屈な話かもしれないが是非聞いて欲しい。
ぴちゃぴちゃ。

―あれは僕が未熟だった時、確か4型…いや3型の試作機に乗った時だ。
ぴちゃ。

―当時試作機のノウハウが不足していた為パイロットは全員別の国から選ばれた。
ぴちゃぴちゃぴっちゃ。

―ストップ。ゲオルグさん蜜アリストップ。
ぴちゃ?

―ゲオルグさんにもちょっとだけ関係あるお話だから食べずに聞いてください。
…。

―そう、当時の僕は ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ。

―その蜜アリ気に入ったんですか? 
「うまい!もっとないのかブレイブ二等兵?」

―この話全部聞いたら販売店教えてあげます。 
「よし聞こう」

【そして、時は再び3型の時代へと遡る】


「行けブレイブ、これが最後のテストじゃ!これに合格すればお前も一人前の
人型パイロットじゃ!」
「はい」

相変わらず中世の王様の様に語りかける博士に対しブレイブもいつも通り
最小の受け答えで返す。

「ブレイブ=レベルワン、プレイアデスで出ます」

日本の開発者小十朗他数名によって開発された4体の3型試作機はそれぞれ別の
追加パーツを装着する事で完全体となる。
ブレイブ機の追加パーツは手斧と増加装甲。
ルーキーである彼の為に用意された操作難度の低く防御重視の兵装であり、
またこの斧装備はアムステラの羅甲を参考にしたものでもある。
この機体で羅甲と対等に戦えれば地球の技術が相手に追いついた事の証明ともなるのだ。

「一つ、二つ、三つ、四つ」

抑揚のない声で事務的にブレイブはカウントする。
その度プレイアデスの右腕に装備された斧が振るわれ、敵の代わりに設置された
鉄板が切り裂かれていく。

「敵殲滅完了です」
「うむっ合格じゃ!ブレイブ=レベルワン軍曹は本日をもって正式なパイロットじゃ!
そして我が国が誇るパイロットよ!国連軍より要請が来ておる、明日よりロシアに向かい
そこで行われるナンバーグラン基地奪還作戦に参加するのじゃ!」
「はい」
「よい返事じゃ!では今日はゆっくり休むがよい!」

軍人になったばかりの若者が明日危険な任務へと旅立つのである。
この日ブレイブが実家に戻るのを止めるものは誰もいなかった。


「ただいま」
「おおっ、ブレイブどうしたんだ!?」

突然連絡も無しに実家に戻ってきたブレイブに父のポカパマズは喜びながらも
やはり多少驚いて彼を出迎えた。軍を辞めたのではと心配するポカパマズにブレイブは
今日までにあった事を話す。もちろん軍事機密部分は除いてだ。

「そうか、新兵器に乗って戦場に行く事になったんだな」
「うん、どんなマシーンかは言えないけどとにかく凄いんだよ」
「頑張れよ、お前は外では人見知りして口数が減るところがあるけれど、
嫌なものは嫌って言うんだぞ。軍が嫌になったら何時だって帰ってこいよ」
「大丈夫大丈夫。僕も今の状況を楽しんでいるしオーストラリア軍も博士も
結構高い評価を受けているって聞いてるよ」

そして、これは軍事機密に当たるのでポカパマズには言えないが、ブレイブが
明日からの任務を無事に終えたら今後オーストラリア軍にもロボット兵器への
高額の予算が組まれる可能性もあると聞かされている。
順調に行けばいずれはオーストラリア独自の機動マシン部隊が誕生し、ブレイブは
その部隊の中心人物となるという事もありえる。

「じゃ、父さんお休み」
「おう、しっかり寝ろよ」

明日から実戦へと向かうのにブレイブは恐怖によって眠りが浅くなる事も無く、
朝までぐっすりと眠った。彼の心に占めるのは人型で活躍する英雄への道ただ一本、
負ける事など想像もしてない。
今までの色違いの量産機から新型へと乗り換えたスガタでさえ気持ちが高ぶっていたのだ。
人型なぞ教本でしか見て無かったブレイブにいきなり与えられたプロトスリーは
まさに劇薬だった。

次の日、自宅の前まで迎えに来た軍のトラックに乗り込もうとするブレイブを
ポカパマズが呼びとめる。

「ブレイブ、これを持って行きなさい」

ポカパマズがブレイブに手渡したのは赤い半透明のプラスチック板。
チェーンが付けられ首から下げられる様になっているそれの中央には小学生が
書いた様な下手な字でブレイブの名前が書かれてあった。
いや、これは本当に小学生が書いた字だ。ブレイブはこのプラスチック板の正体に気付く。

「これ、僕の昔使っていた水鉄砲の名札?」
「おっ、よく覚えてたな。お守り代わりに持っていきなさい」

それはブレイブが子供の頃父に作ってもらった水鉄砲の名札をネームタグに
改造したものだった。オモチャ屋を営んでいる父の作る水鉄砲は地元の子供達に
人気の商品であり、ブレイブも小さい頃はこれでよく遊んでいた。

10歳を過ぎる頃に屋根裏にしまい込んでそれっきりだった水鉄砲の生まれ変わった
姿にブレイブは懐かしさを感じる。トラックで待つ上官に所持の許可をもらい、
軍から支給されている正規のネームタグの下に隠す様に父の作ったタグを装着する。

「ブレイブーっ、頑張れよー!!」

父の声援を受けながらトラックは走りだす。これで故郷とは一時の別れ、
真っ直ぐ空港に向かったトラックから軍用の輸送機に乗り換えブレイブは
プレイアデスと共にロシアへと旅立った。


【10時間後・ロシア】

「寒っ」

ロシアに着いて一番に思い口にしたのはいよいよ戦場となっている地に来た事への
昂り(たかぶり)―ではなく、人として当たり前の感情だった。
寒い。季節とか昼とか夜とかを超越して寒い。赤道からの距離はロシアも
オーストラリアもあんまり変わらないから問題ないだろうと思っていた自分が甘かった。

寒さに歯を鳴らしていると基地の方から真っ直ぐこちらに歩いてくる男に気付く。
大きい、190いや2メートルはあるだろうか。血の様に赤いボサボサの髪、
顔に刻まれた深い皺、だが肉体は鍛え上げられ軍服の上からでも力強さを感じさせる。
この男を一言で表すなら『ヴァイキングのよう』だとしかブレイブには表現出来なかった。

「よくぞ来たオーストラリアの同志よ!案内するからついて来い、既に他の3人は
機体と共に到着済みだぞ!」

ブレイブの想像通り、そして想像を超えてヴァイキングのごときだみ声で男は
語りかけてくる。男の威圧感に圧倒され思わず視線をそむけるブレイブ。
男の胸元の階級章が目に入った。大きな星を金色の葉が囲む大将の階級章。
ブレイブはロシアの陸軍大将が赤毛の大男だと言う事を思い出した。
だが、今目の前にいる老人はアムステラとの開戦時テレビで演説していた人物とは
あまりに雰囲気が違いすぎる。

「シュタインドルフ大将閣下…ですか?」

条件から考えて彼こそがロシアの大将なのだが思わず語尾が疑問形になってしまう。

「いかにも、ワシがロシア陸軍最高位にしてロシアの対アムステラ特殊部隊指揮官
アレクサンダー=シュタインドルフだ。さあ着いたぞ同志、後一時間程したら
また呼ぶからここで待っていなさい」

アレクサンダー(まごう事無き本物)の案内によって連れてこられた控室の
扉を開けるとロシア人には見えない3人の男女が席について彼を出迎えた。
バンダナとサングラスで顔の半分を隠したアメリカ人、
ピンク色のベストを着て緑色の短髪を七三に分けたインド人の女性、
長髪を後ろで縛ったロングブーツの東洋人、

「よーう4人目!ようやく俺より階級の低い奴が来てくれたか。
俺はブライアン=バーンズ。こん中じゃあ一番年長だが軍歴は3番目だ。
下っ端同志仲良くしようぜブラザー!」
「はい、宜しくお願いします」
「私はオードリー=スガタ。階級は中尉、でこっちのブライアンが少尉で
あっちのナンロンが大尉、さっきブライアンは階級低くて肩身が狭いふうに
言ってたけれど基本私達対等の付き合いだからそこのところ誤解するなよ。
ただしブレイブ軍曹、お前はタメ口禁止。流石に年も階級も軍歴も私らより
離れすぎだしな」
「はい、先輩方から一歩引いて接します」

二人の言葉に対し無難な受け答えをする。ふと昨日の父の言葉が頭をよぎった。
やはり自分は引っ込み思案かもしれないなと思うブレイブ。
その一瞬の間に最後の一人の顔が間近に迫っていた。

「なーなー、その首のネームタグなんで二枚あるのよ?」
「えっ?」
「スガタ、これ見てみなよ。手作りだぜこのネームタグ。いいわねー、
こーゆーの。これ作ったのブレイブ君の恋人?」

スリの達人もびっくりの早業、気付かないうちに父が作ってくれたネームタグの方
だけが首から抜き取られ南龍の手に握られていた。

「ちょ、ちょっと!返して下さいよ!それはお父さんが作ってくれたんです、
返して下さい」
「なんだ、ちゃんと喋れるじゃないの。いいかいボーイ、先輩が怖いからって
イエスマンでいちゃあ人生面白くないぜ」
「おいおいナンロン、それじゃあまるで俺達が悪者じゃねえか。なあスガタ?」
「私に振るなよ。いいからそれ返してやんな、ブレイブ君困ってるだろ」
「悪い悪い、ほら返すよ。ワーン・ツー・スリャー!」

抜き取られた時同様、ブレイブの気付かない間にネームタグは首に。
ここまで鮮やかだともう怒る気にもなれなかった。
目を白黒させながら戻ってきたネームタグに触れ感触を確かめる。
間違いなく父の作ってくれたネームタグだと確認して胸を撫で下ろす。

(言いたい事は言う、そして嫌な事は嫌と言う…か)

色々思う所は前からあった、だがきっかけは昨日のあれと今日のこれだった。
ブレイブはこの時、軍人になって以来初めて目上に自分の意見を出してみる事にした。

「―えーっと、一つ提案していいでしょうか?」
「何だ?」
「まだ時間ありますよね?だったら今の内にプロトスリーに乗った感想とか問題点とか
話し合いませんか?」
「問題点か、あー、あるある。俺やナンロンの機体は遠距離攻撃武器を追加武装に
しているんだが、逆に言えば『遠距離戦の通常武器が2型に比べ貧層になった気がする』」
「まーね、でもまあ仕方ない部分もあるわねそこは。軽量化に成功はしているが
動力自体はほとんど強化されていない。だからロケット砲等の重くかさばる武器は
余り有効に使えない。『基礎出力が向上すれば』何とかなりそうだけど」
「武器変更といえばバリエーションがまだ少ないというのもあるけれど、
私は『そもそも武装の換装に時間が掛る』のが気になったな。まあ、これは量産化の際に
改良されていくだろうけれど。で、言いだしっぺのブレイブ軍曹は何か意見は?」
「僕が練習中にちょっと思ったのは、これは僕が経験不足なのもありますが
同型に乗る味方がいないと不安だと言う事です。『同じ部隊に数人量産試作機乗りがいれば』
小隊での連携プレイの練習とかも出来て良いと思いました」

こうして、呼び出しが掛るまでの時間プロトスリーに関しての様々な意見が飛び交った。
この時重要な発言もいくつかあったのだが、結局彼らの誰もが別に必要ない事だと
その時は結論づけてこの会話は単なる暇つぶしで終わってしまった。

なぜなら3型で十分戦えると思っていたから、彼らはまだ絶望を知らなかったから。

(続く)