プロトスリー物語 第五話 「スガタ有頂天」
@ 立ち上がり両手を広げ、
「タカ!」
A 両手を前に出し素早く四足の体制に、
「トラ!」
B 膝をつき腕を折り曲げ姿勢を低く、
「バッタ!」
@→A→B→@→A→B…
「タカトラバッタ!タットッバッ!タトバ!タトバッ、タットッバッ!」
スガタの操るプロトスリーが流れるようにポーズを変えていく。
「タ・ト・バ!タ・ト・バ!」
動きのチェックを完了。システムオールグリーン、駆動部に異常や異音は
見られなかったのを指さし確認しスガタは次のテストに移行する。
「スガタ中尉、プロトスリーで出撃するぜ!」
マシンガンを両腕で抱えながら気持ち前傾姿勢で演習場を駆ける。
岩壁や高所に陣取った2型が大型キャノンをプロトスリーに向けて発射するが
その全てが高速移動に対応できず狙いが外れていく。
「ヘイヘイ、どうしたお前ら!ちゃんと狙って来いよ!このプロトスリーを
ぶっ壊す気でぶつかってこい!」
近接し、マシンガンと高周波ナイフで一機ずつ2型に乗る同僚を退けながら
スガタは今までに無い移動速度と攻撃速度と回避性能に興奮を覚えていた。
(この速度、羅甲と変わらないじゃねえか。これなら正面切って戦える。
なんせ2型じゃあこいつらがしている様に、いい場所陣取って一発撃ったら後退
するのが一番マシな戦術だった。つーか、今まで私は何て弱い機体で戦ってたんだ!)
「よーし、そこまで。スガタ中尉、一旦降りて来なさい」
強化ガラス越しに成果を観察していたライブからストップがかかる。
「ふうっ」
コックピットから降り、ヘルメットを外して整備士から渡されたタオルで顔を拭く。
「どうだね、2型に比べ何か不便な所とかあったら遠慮せずにいいなさい」
「無い、むしろ2型の不便さに色々と気付かされたね」
「本当か?君の意見で量産機の精度が違ってくるから何でも気付いたらすぐに
言いなさい。何せ4人のテストパイロットがいるとはいえ、君の2型経験時間は
他の3人を大きく凌駕している。参考になる部分は多い」
「…まーね、誰かさんのせいで今まで色が違うだけの2型にずーっと乗せられてたからな」
「うむ、感謝しなさい」
「アイアンクローするぞコノヤロウ」
と、口では4度目のアイアンクローで脅していたがスガタは今回はそれ程怒っては
いなかった。
(この私がナンロンやブライアンより上の評価を受けるなんてな。
良い時代になったもんだ。っていうか、これって本当の英雄になる大チャンスだろ!!)
アムステラ侵攻以来劣勢が続く地球において英雄は2種類存在する。
ドイツのレオンハルトやロシアのゴーリキーのパイロットの様に自然と英雄視されたもの、
もう一つは彼らの活躍にあやかり、各国のエースを英雄の様に呼んでいるもの。
地球側も士気を維持する為色々と必死なのだ。
スガタは後者に当たる。インドにおいての活躍は目まぐるしいものはあったが、
それでも彼らと比較するとその戦果は小さいと言わざるを得ない。
(だが今の私には力がある。このプロトスリーがあればオードリー=スガタの名は
歴史に残るかも知れない。
『戦場を駆ける女中尉スガタ、彼女の活躍により戦争は地球連合の勝利に終わった』
なんてな、フフフ)
ガッシャーン!
「んあっ!!?」
格納庫からの大きな音で妄想から現実に引き戻される。
何事かと思い音の聞こえた方を見ると、自分が降りて無人となっているプロトスリーに
整備士が何かを付けていた。それは最初に届いたどのパーツでもないし、もちろん
スク水でも無い。
それは二本のブレード。プロトスリーの両手の上から肘にかけて腕と一体と
なる様にブレードが装着されていた。
「ライブ室長」
「ああ、私だ。あれは小十朗のではない、私の作った武器だああいだだだだだだ!」
「はい、今回のアイアンクローターイム。何勝手に私のプロトスリーに手を加えてんだよ」
「離せー!作ったのは私だがこれは小十朗とちゃんと話し合った結果の装備、
つまりこれを加えてようやく君の愛機完成となるのだぁあいだだだだだだ」
ライブの事は全く信頼していないが『世界の小十朗』の発案ならそれは有意義なもの
だろうと判断し、スガタはアイアンクロー解除。尻餅をついたライブは尻をさすりながら
彼女に弁解する。
「開発の際、3型には人間並みの機動力の他に状況に応じた武器装備変更も要求された。
なのでパイロットの4人にはそれぞれ別の追加武装で実戦に出てもらう事になった。
そこで武術家の生まれで白兵戦を希望していたスガタ中尉にはこのブレードをと言う事に」
「ふーん。他のパイロットは?」
「春大尉は彼の専用機に似た装備、対地ミサイルと盾を使った強襲モデル。
ブライアン少尉には彼の射撃の才とアメリカの巨砲主義的開発を活かす支援モデル。
未知数なレベルワン軍曹は扱いやすい斧と装甲を追加しての重装モデル」
ライブの口から他国の追加武装が淀みなく語られる。
自分の装備をプロトスリーに付けてみたいが為の口からの出まかせではなさそうだった。
「どうやらマジみたいだな」
「たまには私を信じたまえ」
「で、装備変更したこいつの名前は?4人が実質別の機体に乗るんだから、
名称はプロトスリーのままじゃないんだろ?」
「ほう、よく気付いた。では発表しよう。このブレードを装着しスク水を脱ぐ事で
完全な状態となった君の為の試作機。その名は―」
白衣を翻し、悪の科学者的ポーズを決めながらライブは産声を上げたばかりのそれの名を叫ぶ。
「『P―3パールヴァディー』だ!」
「パールヴァディー…」
その名を聞き脳内で反芻する。やがてスガタは思った通り正直に感想を述べた。
「試作機に神様の名前って、ちょっとやり過ぎじゃねえか?」
しかもネーミング時に悪の科学者ポーズ付きである。これにはさっきまで有頂天に
なってたスガタもさすがに冷める。
「自分の国からテストパイロットが出た事に舞い上がった結果、
オーストラリアの博士が自国のプロトスリーに大層な名前を付けてしまって
他国の対抗する様に続き、結果4機とも神の名がついてしまった」
「ハッ、4人揃って何かの宣伝でもやるのかよ」
「まだ伝えてないのによくわかったな。そうだともスガタ中尉はこのパールヴァディーの
運転を迅速にマスターし、他国のプロトスリーと共にロシアにて任務に参加して欲しい」
いつかは実戦に出さなければならないのは分かっていたが、あまりにも唐突な任務宣言。
だがスガタはそれよりもしっくりこないものがあった。
「パールヴァディー、パールヴァディーねえ…」
これに乗り続ける限り出撃の度この名を皆に聞こえる様に叫ばねばならないと思うと
少しブルーなスガタだった。
一方オーストラリア・アメリカ・韓国では―、
「ブレイブ=レベルワンはプレイアデスで出撃します!」
「ブライアン=バーンズ、プロメテウス出撃だ!」
「いよっしゃー!春南龍ペルセポネーで出るぜ!」
オトコノコ達はネーミングにノリノリだった。スガタが悩んでいる間にも3人は成長していく。
(続く)