プロトスリー物語 第二話 「小十朗さんマジ天才」



少年はインドの山奥に住んでいた。大きな湖以外何も無い村。
少年の家は代々湖で芸をして見せて観光客からお金をもらい過ごしていた。
きっと自分もそうやってこの村に留まり生涯を過ごすのだと思っており、
その事に不満は無かった。

そんな人生に大きな変化が起こったのは19歳の時の事、機械工学の勉強をしに
イスラエルに行っていた友人が帰って来て早々少年の部屋に乗り込んできてこう言った。

「ボンちゃんただいま!アレまだ持ってる!?」
「あ、うん」

勉強机の二段目にしまっておいたそれを友人に手渡す。
それはドロドロに溶け、黒いゴミの塊の様になった金属片だった。
少年が初めて素潜りで湖の底まで行った時に拾ってきた宝物である。
友人は金属片を握りしめグッとガッツポーズをしながら衝撃的事実を発する。

「湖の地質調査の結果、この金属片が出てきたのはおよそ千年前の地層である事が
判明したのです!ハイ拍手!」
「わあい(パチパチパチ)」

言われた通り拍手をしたが少年はまだ何が凄いのか理解していない。
その事は友人も気付いており、すぐさま言葉の補足をしていく。

「いい、ボンちゃん?千年前の地層が底にあるって事はあの湖は千年前に出来たって事。
そして見つかった金属片。この金属片も炭素の状態から経過年数を推測すると
千年前のモノだと分かる」
「うんうん。でも千年前にこんな金属あったの?」
「この金属の精製工程が不明だからそれは分からない。でも、千年前この山が崩れて
そこにこの金属片が刺さってから雨水が溜まり湖が出来たってのは推測できる?」
「うん」
「つまり、真実はこう。この村から数キロいった所にガンダーラという仏像を
祭った小さな寺院がある。実はその仏像は千年前に宇宙からやって来た巨大ロボで
他のロボットとの戦闘中に仏像ロボビームでこの山の側面を破壊したという寸法だ。
つまりこの金属片は敵ロボットの部品の成れの果てなんだよ!」

友人の説明が終わり少年はようやく衝撃的事実とは何かを理解する。
大学の勉強が難しすぎたせいで友人は壊れてしまい、故郷へ逃げてきたのだと。

「ライ兄ちゃん、大変だったんだね。今日はうちでゆっくり休んでいきなよ。
今布団敷くから」
「何で同情的な目でボクを見るんだ―!違うだろボンちゃん!これからボク達は
寺院の巨大ロボを手に入れていずれは世界を征服する。その為の計画を二人で練るんだ」
「はいはい、明日病院に行こうね」

それから20数年、結局仏像は動かなかったし二人は世界の支配者にもなれなかった。

(ああ、あの頃は楽しかったなあ…)
「室長!戻ってこーい!」

前回ラストのアイアンクローで絶賛臨死体験中のライブをスガタは必死に
この世に呼び戻している。頑張れスガタ、失敗したらこの話EX確定だ。



ライブ=ハーゼン殺人未遂事件から4日後―、

「室長さんよ、これは何なのさ」
「お待ちかねの3型試作機のパーツが入ったボックスじゃあないか。
なのになんだ、君のその不満げな顔は」
「ボディ、追加装甲、近接武器のナイフ、ライフル、サブマシンガン…」

届いたパーツを一個ずつ読み上げていくスガタ。最後の一つになった所で言葉が止まる。

「で、これは何」
「予備パーツ名称スク水、それも旧タイプのスク水だな」
「なんだってンなものが最新機体のパーツに入ってるんだよ!!」
「やれやれ、叩き上げの軍人は頭が固いものだね。マニュアルすら読まずに
このスク水が意味不明だとぬかす。いいかい中尉、昔っからこういう一見変わった
パーツが世界を変えるのがお約束だろう?じゃあ、マニュアルを読んでみようか」

『ハーゼン先輩とインドのパイロットへ、
プロトスリーはその運動性と人間に近い精密動作により2型より遥かに高い
バリエーションを得る事に成功しました。適正が高いパイロットが操作すれば
スク水だった着られちゃいます。付属のスク水を着せるのに成功したら是非写真を
私の研究室にお送りください。
追伸・麻雀の負け代そろそろ払って欲しいので今度会う時には全額用意しておいて
ください。それと、人の発明の特許権を勝手に持っていくのは止めてください。
                         極東支部研究所 岩倉小十朗』

スク水に関する部分を読み終えたライブはマニュアルを閉じ何食わぬ顔で
スガタとの会話を再開する。

「と、言う訳でこのスク水は運動性テスト用オプションだったわけだ。
それとマニュアルには試作3型の事はプロトスリーと書かれてあったから今後は
これをプロトスリーと呼ぶ事にしよう。では始めるぞ、スク水試着開始だ」
「いやいやいやいやいやいやいやいや!!!!!!!!」

結構大切な部分を流そうとするライブをスガタは全力でストップさせる。

「スガタ中尉、私の前でスク水着るのは嫌かね」
「私本人が着るみたいに言うな、というか問題はソコじゃねえ。
特許盗んだってどういう事だよ、普通に重大な犯罪だろ」
「いや、それは誤解だ。小十朗は様々な人型ロボットの特許を持っており、
戦闘ロボットのマニュピレーターに関する特許も当然所持している。
で、彼に特許料払わずに私はある機体を制作してみた。ちょっと待ってなさい」

がさごそと研究室の金庫を漁り、引っ張り出した資料を広げる。
プロトスリーに比べるとスタイルはあまり良くない、むしろ2型に近い機体の
図面と生産予定が書かれていた。

「本来は極秘事項なのだが、私が犯罪者だと思われたままだと不味いから特別に教えよう。
これがガネーシャ、今年中に完成予定である我が国独自の量産計画機体だ」
「これが特許無視の人型戦闘機か」
「いーや、これは世界初の人型の消防車だ」
「コンボイぃ?」

スガタの脳内にトランス○ォーマーのテーマが流れる。



「残念ながら変形はできない。ただし、こいつを生産する際ライセンス料は
一切発生しないよ。なんせ小十朗は人型消防車の特許は申請してないからな!!
それなのに、計画が立ちあがってから特許料逃れだと非難してくるなんてセコイ奴め」
「セコイのはどっちだ」
「まあ消防車として申請したせいで戦争には使えなくなったわけなのだが些細な事だな」
「些細じゃねえだろ」
「正規軍人以外が消防作業中にやむを得ず軍隊と協力するという名目なら十分に
運用できる。じゃあ私の疑いも晴れた所で本来の予定、プロトスリーのテスト運転を、
そう、スク水着せを始めようか」

何時の間にやら、最初にスク水を着せるのは決定事項になってしまっている。
反論しても疲れるだけなのでスガタは観念し、パーツごとに分割されている
プロトスリーが組み上がるのをじっと待つ事にする。

待つ事しばし、プロトスリーはその完成された全身をスガタとライブの前に現わした。
着たばかりの新型であり、整備兵はマニュアルと睨みあいながら組み立てていたにも
関わらず2型とほぼ変わらない時間で組み上がった。
完成後その事実に気付き、研究所の面々は量産性速度自体の向上も上がっているのだと感心する。
かつて2型がインドに届いたばかりの頃は1型との根本的な違いに悪戦苦闘し、
最初の1機が組み上がるのに半日もかかっていた。
整備兵達の人型に対する知識の蓄積を加味してもこの差は大きい。

「スガタ中尉、コックピット内に異常はないか?」
「システムオールグリーン。いつも乗っている2型となんら変わりない。
このまま戦場にだっていけるぜ」
「まあ、いつも乗ってる2型だからな」

まずは比較実験、乗りなれた2型でスク水にチャレンジする。

「よっ、ほっ」

床にあるスク水を腕に引っかけ持ち上げる。右足の膝を曲げ底を床から50センチ程
浮かせたまま固定し足部分の通し穴を潜らせる。それと同時にスク水の上半分が
掛っている腕を持ち上げてびりびりびりー。

「破けた」
「ああ、やっぱり無理か。そもそもプロトスリーに合わせたサイズのスク水を
2型が着れるわけないんだよな」
「分かってるならやらせるなよ」

オードリー=スガタ、彼女はまだ絶望を知らない。
(続く)





「ちょっと待て!ここで切るって事は次回も冒頭からスク水!?」
うん。

(今度こそ続く)