プロトスリー物語



プロローグ

地球とアムステラの戦争の主人公は誰か?
それについては諸説あるがこの戦争を題材にした物語の数だけヒーローは存在する。

地球側の切り札・極東の三人組。
戦場を舞う女指揮官と彼女を守る3人のナイト。
運命に翻弄された死刑囚。
アムステラの姫でありながら地球を愛した少女。
最強と恐れられし黒き悪魔。
数多の魂を背負うサイボーグ達。
義に生きる貴族。

これらはいずれも強く美しい物語。
大切なものを守ろうと歯を喰いしばった彼らが救われ平和を勝ち取る。

先に謝らねばなるまい、これから語る話は上記の英雄譚と違い読者が得られる

カタルシスなど微塵も無い。

あるのは見え見えのバッドエンドまでの一本のルートのみ。

さあ、無知と慢心と敗北と挫折の物語を始めよう。




第一話 「それは完成されたヒトの形をしていた」





その日もオードリー=スガタは不機嫌だった。
世界で最初に2型での敵機撃墜を申請した女でありその実力と気性の激しさから
『ヒマラヤの鬼姫』の異名を持つエースパイロット。

だが、これだけの評価にも関わらず現在も彼女が乗るのはその2型のままである。
エースの特権として機体をピンクに塗る事が許されてはいるものの、
希望していた専用機乗りへの異動は未だ果たされていない。
それ以前に、スガタの所属するインド国軍にはそもそも量産機以外のマシンが存在しない。

人類がアムステラの侵攻を受け始めて負けたり大敗したりたまに勝ったりではや1年近く、
地の利を十分に活かさんが為に各国で独自の人型や戦闘機が開発され配備されていく中、
インド兵器開発室はまだ何もしていかった。

「ロシアのゴーリキーみたいなスーパーロボットくれって言ってるんじゃねえ。
私が専用機を欲するのは仕事への正当な報酬さ、そうだろ!?」

任務後、帰還早々スガタは出迎えた整備士に愚痴を飛ばす。

「他国と共同作戦する度に情けない気分さ、向こうのエースは国の文化と
開発力を一身に背負った機体に乗ってるのにインドのエースは色塗った2型。
実績関係なくいつだってこっちが引き立て役の気分になっちまう」
「ただの新米整備士な俺に愚痴られても」
「これも整備の仕事の内だろ?私が軍人になったばかりの頃ここにいた
おっさんは音楽流しながら出迎えてくれたぜ」
「音楽ねえ…、ウォークマンならありますけど、どうですか?」

若い整備士はポケットから使い古したウォークマンを取り出しスガタに渡す。
スポーツドリンク片手に汗を拭きながら曲に耳を傾けると、戦争に向かう
兵士を応援する歌声が聞こえてきた。
今まさに一仕事終えたスガタにとって心を癒す曲ではあったのだが―、

「フェミリア=ハーゼンの新曲。ご感想は?」
「…ああ、なんか胸のムカムカが、止まらなくなってきた」

額に何本も血管を浮かばせるスガタの表情を見て整備士は己のミスに気付く。
この歌手の父ライブ=ハーゼンは兵器開発室のリーダーであり、スガタの怒りの
元凶である事を完全に失念していた。

「もう我慢ならねえ、今日こそはあのハゲ頭にアイアンクローを決めてやる!」

スガタは肩を怒らせ真っ直ぐに兵器開発室へと向かった。



「トゥース!ハゲ室長はどこだァ!」
「ハーゼン兵器開発室長だ。君も軍人なのだから正しく発言をしたまえ」

開発室の扉を乱暴に開けた彼女に応対したのはライブ=ハーゼンその人だった。
仕事の途中だったのだろう、その手には数枚の書類が握られている。

「ちょうど良かった。スガタ中尉、君に話したい事が―」
「初志貫徹、取りあえずアイアンクロー!」
「ぐはぁ!」

ライブの河童の様に禿げあがった頭に食い込むアイアンクロー。
スガタより小柄な体がゆっくりと持ち上げられていく。

「あだだだだ!離せっ、私は兵器開発室長だぞっ。この部屋では誰よりもエライんだぞっ」
「じゃかましい!兵器開発室長なら兵器作れ!作れないならこの仕事辞めろ!」
「どっちも無理だっ、私は他国の貴族や軍需企業やジェイコブ先生との強い
コネクションでこの地位にあるのだからな。私が辞めたら国連からの量産機譲渡に
伴い支払うライセンス料が数倍に跳ね上がって君の新型機の希望はますます遠のくぞ」
「自慢げに言うな!つーかジェイコブって誰だ!」
「ジェイコブ先生は私の師匠の様な方で、工学だけでなく考古学と精神感応学の
エキスパートなのだよ」
「今すぐその『ライブ=ハーゼン完全上位互換存在』をここに連れて来い!」
「無理っ、苦しいっ、先生はイスラエルの人っ、はなせっ!」

アイアンクローのダメージに耐えきれずライブの手から書類が落ちる。
ふと、それに目をやるスガタ。
書類に描かれたイラストに強く興味を惹かれアイアンクロー解除。
ライブはどすんと尻餅をついた。

「あんた今度はアニメ会社と提携結んだのか?」

ライブの落とした書類には人型のロボットの完成図と部品が書かれていた。
最近他国で構想が聞かれた人型と戦車が混じった形状のソレではなく、
2型よりもそしてアムステラ主力機の羅甲よりも人に近いフォルムのソレを
フィクションの存在だと判断したスガタは決して愚かではない。

「いや、それは正真正銘新型の人型兵器だよ」
「…マジか」
「マジだ。私達人類の英知がアムステラに追いついた証拠だよこれは」
「技術提供者の欄にはあんたの名前は無いみたいだけどな」
「没になっただけで、私だって国連にアイデア提供はしたんだぞ」

国連という単語が出てスガタは気付く。これは量産機の図面である事に。

「…マジか」

今日二度目の、より深い『マジか』。
世界中にこれが量産されてアムステラの羅甲と戦う、そうなったら負けるはずが無い。
図面を握りしめ震えるスガタに、(役立たずなくせに)偉そうに鼻を鳴らしライブが
声を掛ける。

「君に伝えたかったというのはこれの事だ。この機体、3型の試作機の
パイロットになりたくはないか?」
「なりたいに、―なりたいに決まってるじゃねえか。試作機って事は
事実上のワンオフ機だろ?それもこんなスマートな人型、誰もがうらやむマシンに
最初に乗るチャンス誰が手放すかよ」
「でも、開発室長の頭にアイアンクローする様な女は推薦したくないなー。
どうしよっかなー」
「そ、そんな頼むよ室長!」
「中尉、私はぶりっ子系アイドルが好きだ」

スガタの脳内の天秤で恥と名誉が揺れ動く。迷う事数秒、スガタは覚悟を決めた。

「スガタはですねー、ピンクが大好きなんですよー。
だから部屋の中はピンクグッズで溢れてるんですー。あははー」
「うわ、キモイ。ゴリラ女が自分の事名字で言ってるのがこんなにキモイとは新発見、
ウチの娘とは大違いだな」

本日二度目のアイアンクロー、本日二度目の絶叫。
スガタを止められる人物はこの時代この場所には誰もいなかった。

オードリー=スガタ、彼女はまだ絶望を知らない。

(続く)