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黒の兄弟(幕間) 第8.5話



ここはアメリカはニューヨーク…の希少な都会化していない山奥。
オシリス社の私有地。
僕の故郷日本からも第二の故郷インドからも遠く離れた土地。

「んんんんんんんんんんんんんんんんんん」

鳥肉をつかみ、両手をクロスして息を大きく吸い、

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーー」

腕を広げて深呼吸しながら鳥の胸肉から皮を剥ぐ。ああ空気が旨い。
しかし、僕がこんなところに来たのは決していい空気を吸いに
旅行に来たわけではない。仕事でこちらに来たのだ。

もうすぐこの地で行われる修斗バトル。
そのメインイベントのタッグマッチで戦うファイターの一人が僕なわけで
現在本番に向けての打ち合わせやプロモーション映像作成中なのである。

人見知りな僕は早く終わらせて帰りたいという思いいっぱいで、
いや、そもそもこんな仕事受けたくなかった。
インドから近い体育館ぐらいの会場での塩試合がやりたいんだけど、

「短期で割のいい仕事だから行ってきなさーい
子供の面倒はおじいちゃんがみてくれますよー」

と妻が言うのだから仕方がない。
ま、確かにワンマッチ600万円相当は美味しい。
だが、これは僕個人への契約料なわけで当然僕より高いギャラの人も低い人もいる。

「スガタのおっちゃん、鳥肉バラし終わったかー?」
「余った皮はマルーが買う、ここに50円ある。あらゆる願いが叶う程の金額、マルーの全財産よ」

噂をすればギャラが一番高いのと低いのが登場。
高い方が今回の僕の対戦相手ガメラ勝毅君、低い方が僕のパートナー役のマルー君。
鳥肉の入ったバケツを渡すと、ガメラ君は少しこちらへ頭を下げてから家族の方へ走っていった。
あの鳥肉は今回の会場で限定販売する『ガメラ親子のハングリー弁当』に使われる。
パックから鳥肉を出し余計な皮を剥がすのと、低カロリーのビネガーソースを作るのと、
弁当容器への盛りつけは僕がやり、肉を串に刺して焼き、ソースを付ける所はガメラ親子。

百メートルほど向こうではガメラ君と彼の父、そして今大会での彼の相棒であるアルギルダスが
今さっき持っていった鳥肉を使って弁当を作る所を撮影している。

「ガメラ親子のハングリー弁当は俺とお父ちゃんが考えたオリジナル」
「ニューヨークドリームマッチ会場限定販売やで!」
「カロリーカットでビタミンプラス、俺達のファンの女の子にぜひ食べてもらいたい」

弁当の製作会議にも出席している僕の名前がどこにも無いのはおかしな話だが、
こうした方が売れるのだから仕方がない。

余談だが、この弁当は大会終了後に大人気と再販売希望者の声に応えて
『ガメラ親子のハングリー弁当・アルーガ版』が追加され、
ガメラ君かアルーガの片方を育成し、億の借金を背負う男マルー・ロディムと
その配下達を倒すアプリゲーのダウンロードコードが付けられて
日本とアメリカのコンビニで販売される予定となっている。

僕はそのゲームではオープニングで暴走したマルー君に殺されるだけの存在だ。
ちくしょう。

「スガタさん、スガタさん」

恨めしげな目で向こうを睨んでいる僕の袴を引っ張り現実に引戻してくれたのは
相方のマルー君だ。

「ああ、トリカワは捨てる予定だったからただで持っていっていいよ。
ちゃんと火は通して使ってね」
「それは嬉しいけど違う。ラジオの時間来てるからスタジオ入れって。
もうゲッパーとマミマミさんはスタンバイよ」

ああ、そうだった。
ガメラ君の事が羨ましかったけれど、僕には僕で長年やっている仕事があるんだった。
でも、僕のイメージが悪い方向で固まったのもこのラジオだし、
でも、あのラジオが無ければ無職同然だったし…。
あー、何歳まで僕はこのヒールキャラ続けるんだろう。

◇◇◇



チャーララララーチャーララーラララー

「…凄い漢だ」

勝利音風のギターBGMに合せセリフと共にポーズを決める。
僕が主役のラジオ番組『漢帝国』本日はニューヨーク大会直前記念
15分拡大スペシャルをゲストと共にオシリススタジオからお送りする。

「漢帝国臣民よ拙のラジオを聞くが良い」

一人称は拙(せつ)、ナルシストで傲慢だが奥さんに頭が上がらないヒール。
それがリングとラジオの時の僕の設定だ。というか、ラジオで知れ渡ったこの
芸風でしかタニヤマさんに試合出させてもらえない。
本来の僕とは奥さんに弱い点しか一致していないこの設定だが、
長年続けているせいでそのうちこっちが本性になるんじゃないかとも思えてくる。

「どうも、本日お招きしてもらったマミッタ・マミッタでーす」
「同じくゲストのアトランタ・ゲッパーだぜ」
「今日はスペシャルということでこの二人のコーナーも用意してある。
が!まずはいつも通り拙のお便りコーナーからだ」

ブー!  ブー!

「五月蝿いぞギャラリー、では漢帝国おハガキのコーナー『漢通信』」


【漢通信】

・私をもう一回試合に出しやがれ(ルルミー・ハイドラゴン、アムステラ人)
このたわけが、貴様の悪名は既に世界に広まっておる。
やりすぎって事であの後タニヤマさんがボスに凄く怒られていたぞ。
よって貴様は番組で本名晒しで無期限出場停止の上、試合会場には私服入場義務の刑に処す。

・たまに持ってるあのでっかい下敷きは何なの?教えてバクシーシ(レスキュー隊員、インド)
拙がたまに持ってるあれは下敷きでもセロハンテープでもなく水色のクリアファイルだ。
試合前やこのラジオで女性アナウンサーや美人ゲストが来たときにここに拙のサインを入れ
プレゼントしたり逆に女性タレントにサインしてもらったりしている。
と言うわけでマミマミよ、拙のサイン入りクリアファイルをくれてやろう。
いらんだと?じゃあせめてそなたのサインバクシーシ。

・青の魔女ベルンシュガーこと佐藤トシオにはもう戻らないのですか?
それと、赤の魔女ベアトナンロンの腰つきが忘れられないのでビデオあったらください(オペレーター、日本)
旧リングネームにも旧姓にも戻らん、いや戻れん。
まだ結婚もせずタニヤマさんと出会い肉体改造する前、
モヤシ野郎だった拙をレスラーの道に誘ったのは中学生ぐらいの子供に負けて
ガチの世界で見向きもされなくなった先輩だった。先輩の元カノ(今の妻)と
付き合い始めてた拙に断れる道理も無く、男の娘レスラートリオが誕生。

青の魔女ベルンシュガーこと拙、
赤の魔女ベアトナンロンこと先輩、
超パーの魔女ラムダアトラことゲッパー。

皆雀の涙のギャラで、先輩が韓国軍のロボット乗りに
なるまでの短い間のチームだったけれどあの頃が一番楽しかった。
永遠のロリ体型のゲッパーや当時骨と皮だけだった拙と違い一番色気と人気があったのは
化粧しないと普通の男だった先輩であった。今思い出してもあの人の化け方が凄い。
そんなわけでベアトナンロンの映像記録は拙がオカズとして使っていたところを
妻に見つかって拙ともども木っ端微塵にされたのでウチには残っておらずすまぬ。

・シュガー、お前が出る時点でこの大会はヤオ確定だな(ラジオネーム・ニラーシャ、シンガポール)
だ・か・ら!旧リングネームで呼ぶなと…
ガチだガチだガチだガチだガチだ(残響音含む)
うおおおおおおお!貴様のハガキに反応してボスが目覚めてしまったではないか!
よってこんな手紙を送った貴様はボスの機嫌が収まるまで毎日牛乳飲んでジョギング、
読み上げた拙はボスに土下座。


4通目を終えたところでディレクターからゲストへのおハガキへ移るよう指示がでる。

「むむ、旧リングネーム時代の話が長かったか。今週はここまで。
一旦CMを挟んでゲストへのおハガキだ」

チャーララララーチャーララーラララー

「…凄い漢だ。さて、それではゲスト二人にバトンタッチしよう」

キャーキャー

「ラジオブース外のギャラリー。その声援を拙にも半分よこさんか」

ブーブー


【悪魔のアトランタ】

・だおっっっ、30過ぎのオサーンなのにスク水が似合うってとんでもねーですね。
スレンダー体型の秘訣をぜひ。それとそもそも何でスク水?(体型気になる乙女、日本)
俺の故郷では体質的に12歳ぐらいで外面の成長が止まる人が多くてね、
1割ぐらいで俺みたいな大人が出来るわけよ。俺の近所にも昔スク水の似合う
大学生のニーチャンがいたんだがその人は研究員になってからのストレスと
フランスの美味いご飯食べまくった結果30歳ぐらいで普通のチビオヤジになっていた。
まっ、要は生まれよりも鍛え方と食事さ。
スク水は昔、日本からの物資支援で届いたのがきっかけで故郷で肌着として使われ
女子幼児用と教えられた頃には全てが手遅れだった。最近は若い奴は着なくなったけど
今でも村の長老なんかは恥ずかしがること無く着用し、若い奴らにその良さを教えている。


・あのベアトナンロンが後の韓国の英雄だなんてネタにしていた身としては
信じられない、本当に同一人物ですか?(同人作家、日本)
ま た そ の 話 か よ。そりゃ、この業界にいた頃はガチムチレスラーに押し倒され
レイプ目してばっかりだったけど、スガタの先輩は本当に強かったんだぜ?
素手の勝負でスガタの嫁に8割勝てるぐらいだったと言えば怖さ伝わるか?
あの人がガキにボロ負けしたといってもそのガキが今や誰もが知る地球最強の拳士、
戦った相手が悪かったんだよ。



【女神のマミマミ固め】

・今手元にはオシリスから支給されたコメとタダで貰ったトリカワがある。おかずが足りない。
今夜、マミマミさんの脇をおかずにしていいですか(傭兵、ベトナム)
コラッ!公共電波になんてもの送ってるのよ!というかおかずの意味分かってないでしょ。
いいわ、今夜私の部屋でちゃんとしたおかずと大人の男女のマナーについて教えてあげる。

・本物のダイナマイトボディなマミマミさんから見てベアトナンロンはどんな感じですか。
私の採点ではマミマミさんの3倍は可憐。まあ所詮偽物の女、私には及ばないけど(受付、アメリカ)
喧嘩売ってるわね。私に喧嘩売ってるでしょ受付のおねーさん。
でも、今週ベアトナンロンネタ多いわね。スガタさん心当たりある?
え?前回の放送が春南龍追悼一周年企画だった?それなら彼のリングにいた期間の話が
オハガキで来るのも頷けるわ。


チャーララララーチャーララーラララー

「…凄い漢だ」

ゲスト二人のオハガキコーナーも終了。
いつもは僕が次回予告と近日行われる試合の見どころを語って終わるのだが
今日は15分拡大スペシャル、いつもは持って来ない原稿が三人分机に運ばれて
CMが明ける。

「という訳で、残り15分。本日のラジオで三人全員の話題に上がった拙の先輩。
ラッキーなことに当時の映像をオシリス受付のおねーさんが持ってきたぞ、…凄い女だ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」

読み上げた僕含め三人の驚きの声がハモる。

「わー、観たいなー」
「ちょ、ちょっと待ってスタッフ!俺嫌な予感しかしないんだけど」
「拙も拙も!よし多数決によりこのコーナーは中止、マミマミさんには残念だが」
「多数決で決めるの?だったら」

マミマミさんが視線を右に移す。透明なガラスの向こう、スタッフとギャラリー満面の笑顔で
観たいコール。

みーせーろ!みーせーろ!みーせーろ!

「む、無効だ。一般人の意見など100票集まったところで我らの1票にも満たぬ」
「よく言ったスガタ!」
「あ、ギャラリーの中にピンクの服着たミドリ髪の女性が」
「VTRスタート!」
「裏切ったなスガタ!」
「何とでも言え、僕は、拙は帰宅後殺されずに済む方を選んだまでよ」

ラジオブースの廊下側の壁にはめ込まれたテレビの電源が入り全員に見える大画面に
昔の映像が映し出される。

「赤コーナー、キックボクシング界の新星、マァァァァァク・クーィィィーン!!!」

修斗ではなく生身で入場する、顔にピエロ風のメークをしたアメリカ系と思われるファイター。
そうだ、僕達のデビュー当時、タニヤマさんに会う前はこうやって等身大のリングで戦ってたっけ。

「青コーナー、異色の女装系ファイター三人組み、魔女連盟ィィィィィィィィ!!!!」

日曜朝のアニメ曲に合わせてドレス姿の三人が入ってくる。

「わらわの名はベアトナンロン、現代を生きる魔女アメリカインディアンの毒薬使いの写し身である」
「キャー素敵ー、腰つきたまんねー!」

ビデオの歓声とマミマミさんの黄色い声が一致。
確かに生まれてくる性別間違えたんじゃないかってほどの女っぷりだ。
僕自身映像見ていて騙されそうになったけれど、対戦相手との体格差を見てやっぱり男だなと再確認する。
そういえば、今更だけど何で先輩はアメリカのインディアンなんてチョイスしたんだろう。
普通魔女といえばまずヨーロッパ、あるいは先輩の故郷の韓国を選ぶべき。
などという僕の小さな疑問は残り二人のリングインで吹き飛ばされる。

「あ、あうあう、僕は青の魔女ベルンシュガー。日本の巫女さんなのです」

顔を下に向け裏声でモジモジしながら名乗る当時の僕。

「そして私はインドの秘境から来た魔女ラムダアトラ!
二人の属性がグーとチョキとするなら私はチョキすら通じない超パー!
そう、私は最強に超パーの魔女なんだからね!」

腰に手を当て高笑いするのは衣装と口調以外今と全く変わらないゲッパー。

「み、見るなー!拙の黒歴史を見るなー!」

本心である。これを見るまでは、戻れるなら過去に戻りたいと思ったたが
これは今以上に恥ずかしい。なまじ一人だけどう見ても男な分、悪目立ちしており
ギャラリーやマミマミさんの関心もいつしかここにいない先輩ではなく
今とのギャップが激しい僕へとシフトしていた。

ヤダー、気持ちワルーイ、クスクスクス

「見るなー見るなー!」

両手を一杯に広げグルグル回転しジャンプしてジムとプロテインで肥大化させた上半身で
画面を隠そうとするが高級な大画面は簡単には隠しきれない。

「ゲッパー、手伝わぬか!」
「いや、改めて見ると俺今だってスク水のおっさんだからこれ見てもあんまり恥ずかしくないわ」
「この裏切りものー!」
「先に裏切ったのはそっちだろ」

こうして、僕のラジオ番組はとんだ赤っ恥で終了した。
しかもインドにこの放送を録画したビデオが送られ妻が10回以上見返し
爆笑するのだが、この時僕はそんな事伝えられてなかったのである。


チャーララララーチャーララーラララー

「…凄い漢だ」

(続く)