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黒の兄弟 第6話


出撃予定時刻の6時間前、メキシコ支部リーダーのジョニー・アズマが
部下たちに最後の言葉を語りかけていた。


「出撃の前に皆に聞いて欲しい。俺達が戦うのは、自由の為でも大金の為でも無い。
アメリカに集まる地球連合を少しでも分散させる為、ただそれだけだ。
上から強制されたそれだけの理由、そんな理由の為に逃げずに残ってくれた
お前達にメキシコ支部のボスと幹部に代わり礼をする。ありがとう、そしてスマン」
「何を言ってるのですかアズマさん!」

頭を下げるアズマにバーテンダーをしていた男が空元気かもしれないが威勢よく声を飛ばす。

「ここに残っている皆は地下に逃げたボスの面の皮の為なんかじゃなく、
貴方に惹かれて残ったのですよ」
「そうですよ!どうせここで逃げて生き延びても行く場所が無いんだから最後まで付き合いますよ!」
「お、お前達…!うぉぉン、俺は本当にいい仲間を持ったぞ、これ程嬉しい事はない」

アズマは男泣きに泣き、メキシコ支部のメンバーは号令もなく
自然と円陣を組んで皆でオイオイと泣いていた。
そしてその様子を少し離れて見ていた部外者、二ラーシャも目に涙を貯めていた。

「イイハナシダナー、うっうー、あずにゃん立派になりやがって…」
「いい話なのは結構だけどさ」
「ぐすっ、チーン。なんだよグーチェ」
「私のタオルでハナ噛むなっての。昨日聞いた残存戦力より少なくない?」

出撃前の準備の為に集まっているメキシコ支部の人数はアズマ含め10数人。
昨日聞いた戦力として数えられる人数より5人ばかし少ない。

「その5人は戦力外のメンバーと一緒に避難したよ。
ボスの隠れているシェルターに入れてもらえればいいんだが…。
ところで兄貴、俺達の羅甲を見てくれ。こいつをどう思う?」
「凄く…ツギハギです…」
「ウホッ、いいニコイチ」
「アムステラ人が一人もいないのによく上手く直せたわね」

遠目にはわからないが、メキシコ支部の羅甲は複数の破損した羅甲の無事なパーツの
寄せ集めで出来ていた。

「と、いうわけで俺達の羅甲は俺のを含めオール中古、もちろん全機ノーマル機。
北米の支部の奴らやアムステラ人は俺達に何度も戦わせてきたくせに
人員も物資も送ってくれなくてこのザマさ。
兄貴達が来てくれて本当に助かるというかマジイロイロお願いします」
「はいはい」
「で、兄貴達の機体の性能とそれを元に布陣を皆で考え…ってオイ」

二ラーシャとアズマが話し込んでいる間にメキシコ支部の若者達がシンガポールから運ばれた
機体を見て、その異様な姿に騒ぎ立てていた。

「うっわー、すっげー!ニラーシャ様の機体下半身がねーぞ!」
「シンガポールの支部もアムステラから機体のパーツもらえていないんですか!?」
「こっちのは白っぽいのは虎煉機か?ロイヤルナイツさんがこんなの乗ってて大丈夫なんですか?」
「これにはショートランスが一杯収納されてるぜ!全部で10本はあるぞ!」
「デカァァァァイ!説明不要!鉄騎蜘蛛だぁ!」
「いや、よく見ろ、こいつ黒いぞ。鉄騎蜘蛛って白くなかったか」
「お前ら勝手に兄貴達の機体…!!!!!」

アズマの怒声は警告音でかき消された。
大型のモニターのスイッチが入り白髪黒肌の奇抜な格好をしたアムステラ人が映される。

『こちら北米にて行動中の特殊部隊隊長チカーロ中佐。メキシコの司令はいらっしゃるかしら?』
「お、俺、いや私です。チカーロ様」
『緊急事態です、レベンネを所持したウチの部下が現在メキシコ方面へと逃亡しています。
私は北米側から追うから、今すぐ出撃して部下の機体とレベンネを回収していただきたい』
「れ、れべんね?」
『詳しい事はそちらにいるリノア中佐に聞きなさい。それでは、素早い対応をお願いするわ』

必要な事だけを一方的に述べ、こちらからの質問には答えないまま通信は切断された。
こちらから返信を試みるも、既に移動中なのだろう。チカーロに通信を繋げる事は出来なかった。

「リノアさんレベンネって一体」
「ずっと地球で働いていたからわからなかったけど私って中佐待遇のままだったんだ」
「もう少し階級下がってると思ってたんだけどね。銀虎のデータ送ったのが効いてるのかな」
「リノアさんっ!レベンネ!」
「あっ、ごめんなさい。レベンネ、よりによってレベンネか…。レベンネっていうのは…」

リノアは眉を曲げて実に困ったという表情で額にヒエピタを貼る。
まるでレベンネの意味が分からずこれからでっち上げなければならないといった表情だと
一瞬二ラーシャは考えたがチカーロが「リノア中佐に聞け」と言った以上それはないだろうと
己の考えを打ち消した。

時間を惜しんだリノアはレベンネについて必要な点を抜き出して語りだした。
それは地球人からすれば想像もつかない恐ろしい兵器、人が住む大地を溶かし海を作り出す弾。
個人が持ち運べる大きさがあれば一国を滅ぼすには十分な量であり、
それを使う事はアムステラにとっても本意ではない。
正しい手段を用いないと完全な破壊力での発動はしないが、レベンネを積んでいる操兵が
被弾し爆発することによる誤作動でもメキシコの大地の半分が海になるぐらいの事はありえる。

「以上です、よってこれより我々はチカーロ中佐の部隊と協力し、
アメリカ側からメキシコに向かっている機体を回収しなければなりません」
「とんでもない話だな。だが俺達はかまわねーよ。危険じゃない戦場なんてないし、
どっちにしろ今日は出撃させられるはずだったんだ」
「ありがとうございます、アズマ。では、装備の確認の後出撃を!
この作戦はレベンネが関わっているので指揮は―」
「リノア中佐にということですね。聞いたか!今日は俺でも兄貴でもなく
アムステラのお方が直々に指揮をしてくれるんだぜ、これ程心強いことは無い!」
「それって俺の指揮能力がリノアより下だと言いたいのかあずにゃんよお」
「二ラーシャ、馬鹿な事いってないであんたも幻狼の確認してきな!」

◇◇◇

「20程度の起動マシンの移動を確認、北上してアメリカ国境方面へ向かってるね」

飛鮫騎士団に捕捉されたのはアジトからメキシコ支部のメンバーと二ラーシャ達が
出撃してから僅か10分足らずだった。

「ふむ、こいつはラッキーフラグだな」
「どういうことさフラグマン」
「もし奴らがメキシコ軍事基地強襲や市街攻撃に向かっていたならば間違いなく
我々はメキシコ陸軍と共闘するフラグになっていただろう」
「…つまりどういうことさフラグマン中尉?」

理解の遅いレックスの反応にフラグマンは心の中でため息をついた。
フラグマンの目から見てレックス・バガーノは軍人として一人前からは程遠い男だった。
妹のレナスは(性格に目をつぶれば)ギリギリ及第点だが、
レックスは射撃は狙ったところに当てることができず、装備の点検も一人ではできない。
この間のPG隊との模擬戦では命令無視の敵前逃亡までやらかしている。
本人曰くフェンシングの腕はかなりの自慢なのだそうだが少なくともグラニMに乗せるべき
基準に達していないのは確かである。と、いうか彼にはもっと相応しい機体が他にあるのではないだろうか。

だが、それでも彼には適正の全く無い機体が与えられ飛鮫騎士団の一員でいられるのは
彼の父、ペーター・バガーノがフランス空軍の英雄だからである。
ペーターの現役時代の撃墜スコアは同世代中第14位。英雄と呼ぶにはやや不足気味な順位だが
彼が司令部に移る年齢の頃にはどういうわけか彼より上の空軍パイロットがみーんな
死ぬなり消えるなりしてしまい、その結果『ヴァルルの女の趣味すら知らないただの荷物持ち』
程度の田舎者に過ぎなかったその男は『ヴァルルの右腕でありフランス空軍英雄乱立世代の最後の生き残り』
という本人の実力以上の評価を得るに至ったのだった。
それでいいのかフランス空軍。

そんなわけで、上層部から猛プッシュされているレックスに対して
庶民のフラグマンは強く出れないのだ。だからこういう時は少し口を閉じ解決策を待つ。

「お兄って本当に馬鹿ね」

解決策レナス・バガーノ登場。妹がレックスにダメだしする分にはフラグマンは上層部にいびられずに済む。

「メキシコ陸軍は4型から7型までの混成部隊。必然的に進軍速度は7型に合わせられる事になるわ。
そしてメキシコ空軍戦力は米軍から特価で譲られて来た旧型空戦機のみ。
それじゃあここで問題です。今から出発して最初にブラッククロスに挑める部隊は?」
「うーん、アメリカ南部空軍の最新機部隊か?」
「私達飛鮫騎士団ですわよっ!」
「バカだなーレナス。俺達が最初に挑んだら危ないじゃないか。相手が弱った所を襲わないと」
「だーかーら、今回の敵はとっくに弱りきっていて出てきたところを潰すだけのボーナスゲームだって
ちょっと前に話したでしょう!お兄聞いてなかったの!?」
「ちょっと前?ああ、その時は俺アンドレ様と電話してた。アメリカのパーティーって本当に
チェリーパイとミートパイが出てくるってさ」
「ハァ…もういいわ。行きますわよ」
「ま、待ってくれよレナス〜」

出撃に向かったバガーノ兄妹の背中を見つめフラグマンはホッとする。
今日は自分に危害が及ばなかったと。
その縮こまった背中をポンと叩くものがいた。
三人の様子を見つめていた部外者、レクサンである。

「同志よ、我らも行こうではないか」
「は、はい。いや、すみませんね。見苦しいモノを見せてしまって」
「そうだな、年も階級も下の男に注意もできんお前は実に醜かったぞ。
婿にしたいという言葉を撤回したいぐらいにはな」
「ハッ、…え、自分がでありますか?」
「他に誰がいるというのだ?」

(あの兄妹です。兄は無能で妹は無慈悲なあの兄妹です。俺はもう限界です)
そんな事はフラグマンに言えるはずもなく、ただうなだれるしかなかった。

「それに対し、レックス。あの男は一味も二味も違うな。
妹がアレだから不安だったが流石はフランスの英雄の血を引く男」
「は?」
「会う前から期待してはいたが、こうして間近で見るとやはりいい男ではないか。
是非っ、婿に欲しい!」

レクサンのキメ台詞が炸裂した。だが、フラグマンやレナスの時と目の輝きが段違い、
おまけに背景にバラの花まで背負っている。
本気と書いてマジである。

「恋は盲目と言う奴か」

移動しながらフラグマンは誰にも聞こえない様に小さく呟いた。


◇◇◇

アメリカとの国境を目指し動き出したブラッククロス、
それを追う飛鮫の別働隊。
彼らがお互いに気づいたのは同時。
そして、異常に気づいたのも同時だった。

「敵機体、羅甲が13、それと識別不可が4!
足無しでデストラクションぐらいのが空中にプカプカ浮いてて、
地上には黒い鉄騎っぽいのとデータに無い人型が2!
フラグマン中尉どーゆー事ですの!?」
「じ、自分に言われても!ええい、既にメキシコ軍も米軍もこっちには気づいているはずだ。
これで逃げたらアンドレ様に何言われるかわからん!」

「ボス、メキシコ軍じゃありません!グラニM3機とグラニ系のアンノウン1機です!」
「くそっ、なんだってヨーロッパの最新機体が俺達をいじめに来るんだよ!
空からミサイル打たれたらこのボロ羅甲じゃ対応できねえぞ」
「落ち着いて下さい、計算外の戦力だがあれぐらいなら大丈夫。
このまま空中から仕掛けてきたら二ラーシャの幻狼で、もし地上に降りてきたら
私達―いや、コレは本命にとっておかないと」

そう言い、リノアはシンガポールから連れてきたリノア達以外の全員が乗りこんでいる
黒い鉄騎蜘蛛を見てウインクする。

「もし、地上に降りてきたならあの『黒鉄蜘蛛(くろがねぐも)』が相手をします」


(続く)