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黒の兄弟 第3話


リノアとグーチェが自己紹介のダメージから回復した後、シンガポールから来た精鋭たちは
アズマから北アメリカエリアの現状を聞いていた。

「まず、エル・マリアッチ。このメキシコの陸軍に所属するスーパーロボットで
個性的な見た目とは裏腹に穴の無い機体だ。パイロットは非常に好戦的な性格なので
こちらの方が大軍勢でも平気で突っ込んでくる。故に、アメリカまで向かうには
ほぼ100%コイツを倒すなり足どめするなりどうにかしないと進めないわけだ」
「ほーほー」
「それを何とかしてアメリカ南部に到着するだろ?すると、メキシコでのドンパチを知った
何でも屋が飛んで来るんだよ兄貴。御存知ブラッディウルフさ。
俺達が使うはずだったDr劉の傑作を駆りこっちを空からボッコボコにして来る。
対抗兵器?Dr劉がいない時点でそんなの作れないっつーの」
「つまり、アムステラに頼るか逃げ帰るしかないわけだわね」
「そーゆー事だよ兄貴。で、運よく主戦場に合流したとしよう。
さあ、いよいよデストラクションとそのパイロット、ブライアン・バーンズのいる米軍との勝負だ。
…多分、触れる事すらできずに全滅する。世界第二位の砲術者の名は伊達じゃない、つーか
アムステラからもらった機体も実戦経験値も北米エリアのメンバーより二枚は落ちる俺達が
行っても死ぬだけ。マジで死ぬだけ」
「うわーい、難易度ベリーハードって話じゃねーぞあずにゃん」
「イエーイ!」

(ここまでのまとめ)
・『第一関門エル・マリアッチ』遭遇率ほぼ百パーセント、その安定した活躍でメキシコ団員は死ぬ。
・『第二関門フェニックス&レイヴン』スピード&パワー。対応できずにメキシコ団員は死ぬ。
・『第三関門デストラクション』ゴールで待ちかまえる存在、メキシコ団員の人生もゴールする。
まー、多分辿り着く前にゴールしてる。
・『エクストラ・雷切&ウインドスラッシャー』モタモタしてると高確率でくる。早すぎて死ぬ。

「と、まあこんな奴らに素人同然の俺達メキシコ支部の生き残りが立ち向かうわけだよ兄貴!
行きたくないけどアメリカエリアの支部長達が出てきて戦えってい言うから仕方ないんだぜ!」
「お互いつらいわね、あずにゃん」
「ねー!」

酷過ぎる現状に笑いながらハイタッチするニラーシャとアズマにうんざりしつつ、
リノアはここまでの説明でごく自然にわき上がった疑問について聞く。

「ねえ、ニラーシャ。なんでメキシコに行く事にしたの?」
「え?」
「今の話聞くと、メキシコからアメリカの戦場に行くよりは
直接アメリカの支部に受け入れてもらった方がかなり楽だと思うんだけど」
「やっぱそうだよねー。頭のいいリノアさんならすぐ気付くと思ったわよ」

ニラーシャはリノアの問いにイエスと答える。
そして、それでもこうせざるを得なかった理由を続ける。

「でもさ、俺ってまだ完全にはアメリカエリアの人達に信頼されてないわけよ。
激戦区のここでお前らアジアの奴ら本当に戦えるのか、ちゃんと言う事聞くのかってな。
そこで、試金石としてメキシコの支部救援の任務が与えられたってわけだ」

ニラーシャは地下アジトの面々を一瞥し端から端まで確認していく。
リーダーのアズマ含め若い人間中心であり、人数もニラーシャ達より少し多い20人程度。

「見ての通り、今メキシコ支部はシャレですまない人材不足だ。
アムステラ戦争開始直後に上の方の人が金と麻薬持って地下シェルターに立てこもるわ、
ナンバーツー以下はメキシコ軍にことごとくやられるわ、今や俺より若く経験も少ないあずにゃんが
指揮しなきゃならねー状態だ」
「兄貴がきてくれなきゃ後一カ月足らずでこの支部は無くなっていただろうな。
今回の救援は俺としても非常にありがたかった」

それを聞き、グーチェが嫌そうな顔をしてニラーシャに問う。

「簡単に言うと私達ババを引かされたってわけだ」
「まあね。でもそう悪い事ばっかじゃないわけよ。このメキシコ支部のメンツは
アメリカエリアの支部と違いロクに戦闘できない、そしてあずにゃんは俺の『弟分』だ」
「で?」
「戦場での指揮判断が自由にできるってわけよ。なあ、あずにゃん」
「おう、書類上は兄貴達は俺の指揮下に入るわけだが、好きなように戦ってくれ。
つーか、俺達への指示もマジたのんますってもんよ」

ほーら悪い事ばっかじゃないだろと得意げな表情のニラーシャ。
リノア達はまだ納得は行かなかったがブラッククロス内部の事情については
オスカー将軍直属だった頃ならともかく、今の自分達が口出ししてどうにかなるものではない。

「まっ、取りあえずやらなきゃいけない目標がハッキリしてるだけで良しとしとくか」
「そうねグーチェ。ニラーシャ、確認するけどメキシコのスーパーロボット、『エル・マリアッチ』に勝利する。
あるいはメキシコ軍を壊滅させてからアメリカに向かうって事でいいのよね?」
「そうだな。それが第一目標って事で。俺達はメキシコ支部を軍に勝利させ、アメリカ南部での優位を築く。
そうして後方の不安要素を断って初めてアメリカ本土での勝負に参加させてもらえるって事で。
そんじゃ今日はかいさーん!さあさあ飯食ってねるぞ。あずにゃん、寝室を案内するのじゃー!」
「はいよっ、一番いい部屋用意しておいたぜ兄貴!」


◇◇◇

その夜、簡単な作戦会議が行われ食事の後各自が寝室に案内された後、
アズマの部屋を訪れるものがいた。

「ノックしてもしもーしっと、あずにゃんさんいる?」

ドアが開き大きなあくびをしながらアズマが顔を出す。

「ふぁぁあああ、オラー!」
「今すぐそのケツをしまえ」
「ん、確かアムステラの…ごめん名前どっちだっけ」
「私はグーチェだ。戦闘教育担当の方」
「ああ、悪い。で、俺に何の用?デートならいつでもオッケーだぜ」
「断じて違う。あんたに聞きたい事が会って来たんだ」
「お偉いアムステラの軍人さんの尋問タイムってか?…にしては一人で来たのがおかしいな」

アズマは彼女が何の用で来たのか首を捻り推理する。

「便秘と時差ボケには砂糖たっぷりのコーヒーが―」
「違う!ニラーシャの事聞きに来たのっ!」
「ああ、そんな事か。みんな寝てるしとりあえず俺の部屋に入って」

アズマは自分はベッドに腰掛け、グーチェに椅子を勧める。

「そこ座って」
「ん」
「あんた兄貴の何を知りたいんだい?」
「とりあえずそっちの知ってる事は全部。私は正直言ってあの男の事が未だよくわからないんだ
奴が何を考えているのか…本人に直接聞くわけにもいかないしな」
「兄貴のミステリアスな魅力は俺なんてとても及ばないからな。あんたはそこにホレたわけだ」
「…なっ!!」

顔を真っ赤にしてグーチェは硬直する。今までニラーシャをそういう風に意識した事は無かった、
そう思ってはいたが、自分と友人の命を救ってくれた異性であり1年近くの付き合いのある相手だ。
オスカーの事を引きずっているリノアとは違い、彼氏いない歴=年齢の自分がニラーシャに抱く
複雑な感情、それは他人が少し揺さぶるだけでこうも動揺を与えるものだった。

「あら…まさか図星?」
「ち、違う…のかな。こういう気持ち初めてだからどうもよくわからないんだけれど」
「わー、グーチェさんこの年で恋した事ないんだ、かーわーいーいー、よーしあずにゃん応援しちゃうぞー」
「おいっ!!」
「す、すまん!兄貴の話だったな。グーチェさんの事は気にいったから俺の知ってる範囲で何でも答えるよ」

アズマはえへんと咳払いしてからニラーシャについて語りだす。

「えー、まず兄貴がアメリカで生まれさせられた事は知ってるよな。
その頃、いずれブラッククロスから抜ける事が決まっていた薬物研究者がいて―」
「ちょっとまて、ニラーシャってアメリカと日本かぶれの韓国生まれじゃないのか」
「え?」

二人の間に気まずい沈黙が流れる。

「さっきの話は聞かなかった事で」
「俺の知ってる事は何でも言うって言ったばかりだろ」
「だって1年近く兄貴と一緒にいてその程度しか知らないって事はあんたと兄貴は絶対脈無しじゃねーか!
兄貴が心許してない相手に本当の事言ったら俺が兄貴に殺されるよ」
「アッハハハ、そうかーそうかー、私はニラーシャと脈無しかー」

がっしりとアズマの頭を掴みアイアンクローでギリギリと締めあげる。

「選んでいいよ、今ここで黙って死ぬか、ニラーシャにバレるまでは生きるか」
「グーチェさん、お、怒ってる?」
「オコッテナイデスヨーモトモトニラーシャコトナンテナントモオモッテナインダカラネー」
「痛い!痛い!痛い!しゃ、喋ります!喋らせて下さいー、でも条件があるっ」

肉体言語(せっとく)完了。
グーチェはアイアンクローを解き、穏やかな会話を再開する。

「悪いね、ニラーシャの事を教えてくれるなんて。それで条件と言うのは?」
「俺の方もあんたの事を知っておきたい。あんた自身の事について一つだけ聞いていいかな?」
「いいとも!さあ何を聞きたいの?あ、アムステラの内部事情に関わるのはナシでな」
「多分そこまで突っ込んだ話じゃねーよ。俺が聞きたいのはさ…」

少しためらい、そしてアズマは覚悟を決めた。

「その、ククッ、『ロイヤルナイツ六魔人(笑)』ってアメリカの方にいるアムステラ人に
聞いたんだけどグーチェさんってその一人なんだろ?」
「…え?」

再度気まずい沈黙が流れた。
とりあえず目の前の笑った本人にアイアンクロー再始動。

「なんで私達のグループ名に(笑)が付いてるんだよ」
「言ったのは俺じゃないってー!やたら丸っこい少年が通信で
『あのロイヤルナイツ六魔人(笑)の二人が来るんだってなあ。
あいつら心がガラスみたいに繊細だから丁重に扱ってやりなよギャハハハ』って」
「ウドラン君か!アッハッハ、おかげでアメリカに行かなきゃならない理由が一つ増えたよ」
「アイアンクロー止めてー!」

ロイヤルナイツ六魔人、それが結成されたのはアムステラ戦争開始とほぼ同時、
リノアとグーチェが地球へ行く事になったまさにその時である。


(続く)