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黒の兄弟 第2話


「どんな敵でもかめへんわ〜、正義の拳が唸りをあげる〜、
go!ガメラファミリー! 今必殺の相打ち気味カ・ウ・ン・ター」
「いいぞー、ひゅーひゅー!」

ブラッククロス団員の歌う『ガメラファミリー勝利のテーマ』が終わり、
カラオケマシーンが採点を始める。

(カシャカシャカシャ…チーン!86点です)

「よっしゃ、最高点!」
「次俺ね、曲は『秒殺戦士グロックナマン』で」

メキシコに向かうブラッククロスシンガポール支部精鋭御一行、
彼らは組織所有の飛行機の中でカラオケを楽しんでいた。

「ハイル!ハイル!リングに入る!ハイル!ハイル!間合いに入る!
俺は冷酷バトルロイド〜、その名もその名もグロックナマン〜」
「なー、ニラーシャも参加しなよ。あんたこういうの好きだろ?」
「んー、今はちょっと」

団員達がノリノリの中、リーダーであるニラーシャは我関せずという態度をとり、
先程から指で自分の顔全体をパチパチと叩いている。女性が基礎化粧をする時と似た動きだが
一体何をしているのだろうか。グーチェもそれが気になった。

「あんた何してんの?飛行機乗ってからずっと自分の顔指先で叩いてばっかで」
「ひ・み・つ。メキシコ付く頃にはわかるわよ。そういやさ、グーチェはカラオケ参加しないの?
お前だってこういうの好きだろ?」
「…地球の歌なんてしらないんだよ私達は」
「あ、そうか、悪い」

見ると、リノアは採点結果のメモを取りグーチェはニラーシャにつきっきりでカラオケの方には
時折視線を向ける程度である。
移動中はカラオケがあるから他のレクリエーションはいらないと思っていたが肝心の二人を退屈
させてしまった事に気付きニラーシャは反省。彼女達を楽しませる為の案を考え、
―閃いた。

「そだ、アメリカでの任務終わったら、三人で修斗ファイトショー見に行かない?
ちょうど今の時期、ガメラ勝毅メインのイベントがニューヨークで行われてるのよ」
「しゅうとふぁいと…?」
「そ、競技用機動マシンの格闘大会。まあニューヨークで開かれるのはガチじゃなくて
文字通りのショーの意味合いが強いけどね。今あいつらが歌ってるカラオケの曲の元ネタは
大抵が修斗ファイターの応援歌(公式・非公式問わず)だからそれ見れば帰りの飛行機は
皆で歌えるだろ?」

ニラーシャはズボンのポケットを探り、4つに折られたパンフレットを見せる。
パンフレットの表紙には開催日時と簡単な地図、そして中央に対戦組み合わせと
ファイターの写真がのせられていた。

第一戦、女対決ドロンコマッチ
『遠隔操作で鉄人パンチだ受付嬢、ルシオネー・サンダーバード
        対
円環より蘇りしワキガ、マミッタ・マミッタ』

第二戦、水陸対決シノバズ風ポンドマッチ
『古池やオレがとびこむ水の音、アトランタ・ゲッパー
       対
新技マジ凄いから見てけよ、ヂート・モンローウォーク』

セミファイナル、電流爆破イライラ棒これが出来たら百万円スペシャルマッチ
『ここのスペースに宣伝したい企業募集中、車ならガネーシャ土建は大羅マン
          対
しゃがみ大パンツ!ここでインド人を右に、ザンギュラ・タシカミテミーロ』

ファイナル、タッグマッチ通常ルール45分一本勝負
『シュートボクシング界の問題児・どーんなもんじゃーい!ガメラ勝毅
天より二物を与えられし美の拳士、アルギルダス
       対
億の借金を背負う傭兵、マルー・ロディム
対戦相手よりもウチの嫁の方が怖い、ベルン・スガタ』


「どう?どう?面白そうだろ?」
「いいよ、向こうでの仕事無事に終わったらな…あれ?」

返事をしたその時グーチェは視界に入ったニラーシャの顔に違和感を感じた。
彼の顔はこんな風だっただろうか。自分の知るニラーシャより顔が丸く見えるのは
飛行機の高度のせいではない。

「ニラーシャ、顔おかしくない?」
「いや…いつも通りのかわいこちゃんだぜ」
「私じゃなくってあんたの顔…わわっ」

そう言ってる間にもニラーシャの顔はゆっくりと変形している。
顔全体の色素が薄くなり黒目は赤色に近づいている。
女言葉混じりの喋り方とは違い男性的だった顔立ちは中性的なものへとシフトしていく。

「キモッ!何起こってんだよお前の顔!」
「いやー、向こうじゃあアジア以上に『春南龍』って有名なのよ。
これから大規模な共同戦線がある以上外出の機会もあるだろうし…顔変えた方がいいなって」
「おーい、皆ー、ウチのボスのニラーシャさんの顔がおもろい事なってるよー」

カラオケに夢中な団員に顔の変化を教え、奇妙な思いを共有する事を目論む。
だが、グーチェの予想とは裏腹に団員達の反応は一名を除いて淡泊だった。

「ニラーシャ…その顔どうなってるの!?」
「あ、ニラーシャ様、顔戻したんですか?」
「さっきまでの顔の方がかっこ良かったのに」
「こっちの顔だと朴のモノマネ出来ませんね」
「俺は男前な顔もこっちのくぁいい系の顔もありだと思うなー」

口をあんぐりと開けグーチェの期待通りの反応をしたのはリノアのみ。
残りの面々、つまり地球人のブラッククロス団員の皆はニラーシャの顔の変化を日常として捕えていた。

「おい、どういう事だよ。色々聞きたい事はあるが…、んーと、まずは…」

グーチェは何から聞こうかしばし考え、そして問い詰めた。

「なんで顔変えたかはさっき聞いたしな…、どうやって顔変えたんだよお前」
「どうやってって、こうだよ」

さっきと同じ様に顔を指で叩いて見せる。

「ヒアルロン酸をエラや鼻に注入して顔の彫りを調節する。
神経毒で皺を伸ばし、あるいは皺を作り口角をアゲサゲして笑顔の印象操作。
肌や首筋は整形しても実年齢が出やすいからここは化粧でカバー。な、簡単だろ?」
「私は整形の知識なんて無いが、道具も無しに短時間でそんな手術できるわけないのは分かるぞ。
どんな手を使ったんだよ」
「こんな手ー、ハイご注目」

ニラーシャがグーチェの目の前に右手を持っていき開いて見せる。
何の変哲もない手だし、メスや注射器も握られていない。

「ワン、ツー…スリー!」

(シャキン!)

「うわっっっ!」

指の腹から画鋲程の長さの針が飛び出したのを見てグーチェは驚き飛び退く。

「お、お前サイボーグだったのか!!」
「俺は生身だっての。これぐらいの長さの針なら、訓練すれば誰でも皮膚に押し込んで
指の筋肉使って出し入れぐらいできるぜ。俺がロシアの大将殺した凶器どうやって持ち込み
どうやって使用したか考えれば答えはすぐでるじゃない」
「ここで唐突に一年前の伏線消化!?いや、にしても普通は薬とか打った直後って
もっと肌が腫れたりするもんじゃないの?」
「それは普通の医者の仕事。俺はブラッククロスの幹部だぜ?これぐらいの特技はあって当然だろ」
「それって自慢なのか?それとも自虐なのか?」
「…正直ちょっと自虐かも」

ニラーシャはブラッククロス幹部の面々を思い浮かべながら悲しみに沈んだ。
裸マントのエクスダーが比較的マシに見える程に色モノな一部の幹部、自分もいずれ彼らの様に
めっさ濃い見た目になってしまうのかもしれないと。

◇◇◇

【一方その頃韓国では】

「うごごご…これは一体!?」

自らのアジトに帰って来たエクスダーが目にしたのは破壊の跡だった。
門を守る部下も、アジトに所せましと並べた美術品も、全てが原型を失っていた。
だが、それだけでは無い、ガード達の顔にはご丁寧に上海蟹が乗せられている。

「この蟹は…こんな事するのは奴ぐらいか」

アジトの奥へと走るエクスダー。目指すは最深部、ラスボスっぽい部屋が欲しいと
建築家に無理を言って作らせた玉座の間。

階段を下り、秘密のボタンを押し、隠し通路を抜け、途中のオメガと神龍はスルー。
天上にプラネタリウムのごとく星空を描いた玉座の間の中央、
エクスダーの思い描いていた通りの男がそこにいた。

「ぎっちょ〜ん、待ってたぜ三下韓国野郎」
「やはりお前か、上海支部責任者、蟹装甲の王(ワン)」

体は蟹で出来ていた。両手はハサミで頭は蟹兜、服の代わりに蟹を模した鎧に身を包んでいる。
足が少ないのと、人間の顔がある事以外はそいつの見た目は完全に蟹だった。

「てめぇの息子がアメリカで死に、同時にてめぇもここで謎の襲撃者に蟹殺される。
そうするとどうだ?俺様がアジアのボスになるのよ〜ぎっちょ〜ん」
「私が死んでも次のボスは芯ちゃんではないのか?」
「あいつが後10年早く生まれていればそうだろうよ。だが、今はエリアのボスになるのは多少若すぎる」
「ナルホド、お前にとってニラーシャがアメリカに行ったこの隙が昇格の最後のチャンスというわけか。
だが、私を殺したければ爆弾や毒で暗殺すれば良かったのではないかな」
「ぎっちょ〜ん、爆弾なんかでてめぇが死ぬかよ!それに、てめぇは前々から俺様が
直々に蟹殺してやりたかったのよ!喰らえ!」

突如、ワンは両腕のハサミを前に向ける。パカッという音と共にハサミが開き、
そっから閃光がエクスダーに向かって発射された。

「上海蟹ビィィィィム!!!!」
「なにぃ!?」

上海蟹はハサミからビームを撃たない。それは蟹を愛さないエクスダーの勝手な思い込みだった。
爆弾での暗殺を相手が否定したばかりである事も加わり、エクスダーはこれから格闘戦が始まるものだとばかり思っていた。
故にこの一撃はかわせない。


「やったか?」

このタイミング見事フラグを立てるワン。つまりやってないのである。
案の定、ビーム直撃により発生した蒸気が晴れるとそこには五体満足のエクスダーが。
かわせはしなかった、だが、そもそもかわす必要は彼には無かった。

「さっき自分で『爆弾じゃあお前倒せなさそう』といったくせにいきなりこれか。
残念だったな。ファファファ、噂に違わず、私にはこんなものは効かん!」
「ケッ、原理は知らんが不気味な野郎だぜ。それじゃあ、俺様直々に蟹殺してやるぜぇ!
上海蟹ジャァァンプ!」

ワンの体が一瞬で上空に跳ねあがる。蟹と化し強化された肉体による跳躍でエクスダーの
真上を取り、そこから踏みつけの体勢へと移行する。

「上海蟹ジャンプかーらーーの、上海蟹エレファントプレェェェス!」
「ぐっ!」

慌ててエクスダーが飛び退き、一瞬遅れてワンが足から着地する。
ズボォォォ!床に敷かれた赤絨毯を床ごとぶち抜きワンの下半身が埋まり
地震でも起きたかのように部屋内が大きく揺れる。

エレファントプレス―、象の名を冠したこの技は踏み込みと同時に気の力を足から地面に伝え
巨象が踏みつけたかのごとき衝撃を地面に与える技。通常は地面を揺らす事で相手に動揺を与えたり
足場の悪い場所で真っ直ぐに突きを放つ為の踏み込みの技術だが―

「ぎっちょちょ〜ん、恐ろしかろう。エクスダーよこれが上海蟹と一体となった俺様の力!
郷土愛の果てに辿り着きし膂力!直撃していれば間違いなく蟹死してたはずだぜ」
「本当に象並の破壊力の踏みつけにするとはな。思い込みとは恐ろしいものだ」
「韓国らしさの欠片も無いテメェは俺様の攻撃に耐えられるはずも無い、
テメェも頭にキムチでも乗せていればもっと強くなれただろうによぉ。
さあっ、続きを楽しもうじゃねえか」

ワンは両手を床に置き、埋まった下半身を引っ張り出そうと力を込め、
力を込め―
力を込め―
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ちからこめー

「両手がハサミなうえ、蟹鎧で間接の可動域が少ないせいで上手く抜けだせねえ」
「ほう」

見下ろすエクスダー。ワンはこの瞬間格闘での撃破を諦め、命乞いにシフトする事にした。
眉を八の字に曲げ首を上下にペコペコ動かし己の蟹パワー全てを込めこびへつらう。

「い、いゃあ〜ただの冗談だよ。30年の付き合いのあるお前を殺そうなんて
本気で考えるわけないだろぉ〜」
「三下韓国野郎って言ったよな」
「と、取り消す!今日行った悪口は全部もう二度と言わない!韓国サイコー!」
「部下と美術品たくさん壊したな」
「足りなくなった部下はウチから出す!美術品もコピーを送る!床も直させる!
俺様の金とコネを全部自由に使ってもいい!だ、だからっここから引っ張り出してくれっ」
「ファファファ、どうしようかな〜」

腕を組み余裕の表情のエクスダー。それもその筈、ワンがエクスダーのアジトを襲撃して
ケンカを売るのはこれで5回目である。そしてワンは覚えてはいないが、
いっつもこの部屋で床に埋まって決着しているのだ。

「さっ、引っ張り出してやるから今日は帰れ」
「うおおおん、ありがってえありがってえ。こんな事した俺様にこの優しさ、お前こそアジアの帝王だぜ。
…お?俺様はどんな事しにここに来たんだっけ?」
「ニラーシャが出ていってさみしいから二人で蟹雑炊食べようって話だっただろ?」
「ぎっちょ〜ん、何いってやがる、飯ならおととい食べたばっかだぜ」

肩を貸してやりエクスダーは大きくため息を付く。

(ますます記憶力が悪化している…、ファファファ年だから仕方ないか)

今日の事もこの男はいつか忘れ、またアジトに乗り込んでくるのだろう。
自分の支配体制を維持するのには便利な道化だがそろそろ引退してもらった方がいいだろうか。
そう考えながらエクスダーはワンをブラッククロス経営の病院に送ってやった。


◇◇◇

「はーるばるきたぜメキシコ〜っと」

飛行機に乗る前から10歳程若返ったニラーシャは1段高くなった声で酒場の階段を降りる。
それにつづいてブラッククロスの団員(もちろんここでは皆素顔)が2列になって続き、
最後尾を不安げにリノアとグーチェが歩いていく。

「いらっしゃいませ、団体様ですね。ご注文は?」

カウンター越しにヒゲ面のバーテンが声をかけてくる。

「…カポエラ」
「はい、かしこまりました。シンガポールからの団体様こちらへご案内いたします」

合い言葉を確認したバーテンに連れられさらに地下へと進む。
突きあたりに大きな鉄の扉。

「では私はこれで」

バーテンは上の酒場へと戻って行き、ニラーシャ一行が残された。

「んじゃ、開けるよ」

ニラーシャが扉を開く。と、

「オラー!」

男のお尻があった。

「…」

無言で扉を閉めるニラーシャ。
一回深呼吸してもう一度扉を開ける。

「オラオラー!」

パンツ一丁で尻を向ける男がいた。そのパンツすら半分以上降ろしこちらに尻を見せつけている。
もう少し下げれば大変なものまで見えそうなぐらいのずりおろし具合である。

「…」

再度無言で扉を閉めるニラーシャ。

「どけ、次は私が開ける」

グーチェが前に出て左手で取っ手を引っ張る。

「オラー!オラー!オラー!」

黒いツンツン頭、パンツ一丁裸足の男がこちらに尻を向けパンツを連続でアゲサゲしている。

「死ねー!」

グーチェが右手に隠し持っていた銛を尻男に投げつける。割れ目にスーっと銛が入り込んでいった。

「はぅあ!!」

ズボシュという音と共に白眼を剥き尻を出しながら倒れ伏す尻男。

「あずにゃーん!何するんだよグーチェ!二人で一生懸命考えたお出迎え芸だったのに!」
「やっぱグルかてめーら!独身女性に生でなんつーもんみせるんだよ!
リノアなんてまだお前の整形のショック抜けきってない所にあんなの見せつけられ気絶してるぞ!」
「だからってお前の力で本気で銛投げはねーだろ!大丈夫かあずにゃん!あずにゃーん!」

幸い銛の先端は外されており、男の尻の割れ目に突き刺さったのは先の丸い木の棒だった。
気絶したのも刺さった痛みよりは深く突き刺さったビジュアル的なショックが理由である。
数分後、両陣営気絶者が目を覚ました所で改めて自己紹介する。

「ようこそお嬢さんがたとオマケ。ここがメキシコのブラッククロス、そして俺がボスの
ジョニー・東(あずま)だ。春…じゃない、ニラーシャの兄貴からあずにゃんと呼ばれてるから
お前らも気軽にそう呼んでくれよっ」
「…」
「ん?どうした?」
「い、いやっ、何でも無い。シンガポールで戦術指南と指揮官をやっているグーチェとリノアだ。よろしく」

グーチェはメキシコの連中に聞こえない様にリノアの耳元で呟く。

「なあリノア、やっぱブラッククロスの幹部ってさ…(ヒソヒソ)」
「うん、変な人ばっか…(ヒソヒソ)」

そんな事言う二人だが、良く考えるとアムステラの上層部もレッドスーツを着込んだアフリカのあの人とか
これからアメリカで合流するだろうヒゲのあの人と吸血のあの人とか色々濃かった。

「あー、頭痛い」
「グーチェ、冷えピタ使う?」


(続く)