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黒の兄弟 第1話


アジア幹部会議場、そのステージのホワイトボードに貼られた赤と青の用紙。
そこにはアムステラ戦争開始から今までの北米エリアでのブラッククロスの活躍
及び失敗が簡潔に纏められていた。

「見ての通りです。我等ブラッククロスの最高の知性であり、組織全体の共有財産である
Dr劉の脱走、そして完成していた彼の作品、『Rシリーズ』の喪失。
どちらもあってはならない失態であり、その責任は北米エリアのブラックロス各支部にあります」

若き幹部ニラーシャが簡潔に事実を告げると、アジア幹部会の面々はそうだそうだと怒りを露わにする。
今までブラッククロスの最大派閥として自分達に対して偉そうにして来た北米エリアの取り返しのつかない失態。
悪のカリスマである彼らが同志とはいえライバル部署の失態を庇う気などさらさらなく、
大声で歓声を上げるもの、怒りの雄叫びを響かせるもの、下品な笑いをするもの、
とにかく会場は悪のだみ声で一気に騒がしくなった。

「皆の者静粛に!」

だが、そのざわめきも議長の一喝で静まりかえる。
豪華な覆面で顔を隠した190センチ台の大男、今壇上で発表をしているニラーシャの養父にして
アジアエリアの統括者、大幹部エクスダーだった。
彼の言葉に従わない事などこの会場には『一人の例外を除いて』存在しない。

「…ファファファ、よし、静かになったな。ニラーシャ、続けなさい」
「はい、アジア各拠点の代表者の皆様、このまま北米エリアを無能どもに任せていいのでしょうか?
否、このままでは彼らはまた取り返しのつかない失敗を繰り返し組織を崩壊に近づけるでしょう!
故にここに私は提案します!ブラッククロスという組織の救済の為、そしてアジアが世界の中心となる為の
布石として北米エリアへの援軍を!」

ニラーシャはここから先に説明には無用となった二枚の用紙を外し、ホワイトボード一杯に
北アメリカ大陸とアジアを描き、矢印で人と物の流れを示す。

「今我々がすべき事、それは北米エリアの幹部達に文句を垂れる事ではありません。
最も得となる事、それは恩を売る事です!この度私ニラーシャが精鋭と共にアメリカへと向かい
米軍及び宿敵ブラッディウルフを撃破し、Rシリーズの奪還及び北米エリアとの地位の逆転を目指す事を
提案致します!賛成の方はご起立を!!」

ガタタタタッ!
待ってましたとばかりに椅子を跳ねとばしかねない勢いで、いや、一部の武闘派幹部は本当に椅子を
ぶっ飛ばしながら会場の9割が一斉に賛成の起立をした。その際に立ち上がる勢いで尻から射出された
椅子が警備員の頭部に直撃し全治半月の怪我を負ったがそれは彼らにとっては些細な事だった。

ニラーシャに賛同した幹部達は彼の勇気に感動して、あるいはアジアの地位の為に―などどいう事は無く、

(ぎっちょんちょ〜ん、あの若造が激戦区でおっ死んでくれたらブレーンを失った脳筋の
エクスダーは失脚もありうるぜ!そうしたら次のアジア大幹部は俺様かもなぁあ?)

(うふふふ、北米に恩を売る為に援軍を送るという所までは賛成ですわ。
でもブラッディウルフに奪われた機体、それを得るのは誰になるのかしらね?
坊やがアメリカで暴れてる間にこちらも裏工作を進めておきますわよ)

(ってか会議なげぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!早く帰って女だきてぇぇぇぇぇl!!!!!
メシ!オンナ!フロ!スイミン!ウンコーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

(はわはわわ、これ成立の流れッス!難しい事言ってたんでずっと寝てたから何言ってたか
わかんないッス。けど自分だけ立たなかったら怒られるッス多分!)

頭の中はこの通りである。皆、保身と物欲でしか動いていなかった。
だが、脳内がどうなってても起立は起立、賛成は賛成である。
こうして、シンガポールの幹部ニラーシャとその部下によるアメリカ支援はほぼ全員の、
会議の間ずっと愛用のナイフをいじって我関せずを貫いていた日本の幹部・蔵金芯太郎以外
全員の賛成をもって可決となった。



◇◇◇


「ぶわわわわーん!ごわがっだよニラーシャ!帰り道バニシュデスされると思っだー!(チーン)」
「俺の服で鼻かむなよ親父!」

先程までの威厳はどこへやら、アジア幹部会議終了後息子と共に帰路に着いたエクスダーは
覆面の上からでも分かるほどに涙と鼻水で顔面グチョグチョにして泣きわめいていた。

「だって芯ちゃん会議の最後起立してくれなかったんだもの。ひょっとしたら機嫌悪いのかと…」
「蔵金さんが自分以外の幹部の動向に興味持たないのはいつもの事じゃないの。そんなに怖いのかあの人?」
「む っ ち ゃ こ わ い!!」

日本には最強の基地KGF、そしてエリート空軍が存在しており、それへの対応が任されている
蔵金芯太郎の地位は他のアジア幹部よりも上の扱いとなっている。すなわちアジアのリーダーを名乗る
エクスダーとの力関係は微妙なものであり、それもエクスダーにとっての脅威の一つではあるのだが、
本当に恐ろしいのはそんな事ではない。

「うごごご…お前が生まれる前の話だから話しても理解できぬだろうが言うぞ。
芯ちゃんの亡き父上、蔵金馬黒さんに昔私は何度もスパーでフルボッコにされたんだ」


◇◇◇

時は今から50年前ェ!日本が地下プロレスリングのお話ィー!
リングの上には死体!死体!そして死体!!
果たしてこれはバトルロイヤルかはたまた団体戦かっ!
否ァァァァァァ、これは本番前の練習、そう、俗に言うスパーリングである!
敗者は死かそれに準ずる状態でなければリングを降りれないルールがある地下プロレスだが
練習に限っては負けても死ななくて結構!お客様もいないしネッ!!

「クッヒッヒ!どうした、今日のスパーは終わりだぜぇ!さあ、こんな所で寝てないで
帰ってオネンネしちゃいなよ!」

そう言い放つは、リングに唯一直立し君臨するのは偉大なる地下プロレスの最強にして最低の王者、
蔵金馬黒のリングでの姿、ブラックゴールドである!!

「おやぁ〜、まぁたやっちまったなあ!」

そう、ここに集められた若手ファイターは全員ブラックゴールドとのスパーで死亡していたのである!
ブラックゴールドは全く悪びれる様子もなく!

PI(携帯を取り出し、)

トゥゥゥントゥゥゥルン(番号をプッシュして電話をかける。)

プッ(そしてこう言う。)

「あ〜もしもし、俺だよ俺。また仕事を作ってやったぜぇ〜い」

「アジア各地から集めてもらった練習生だけど一日で全部ぶっ殺しちまったぜ!」

「や〜っぱ貧乏人は骨が弱くていけねえなあ。んじゃ片付けておいてくれよなっ…お?」


ピクリ(倒れている死体…いや死体と思っていたモノの一つが動き出す)

「まだ死ぬな私…ケアルガ!お願いレイズ!眼をさませフェニックスの尾、エスナ!」

自分自身を鼓舞しながら青覆面を血に染めた若手レスラーが一人、
ロープにもたれかかりながらもゆっくりと立ち上がろうとしている。

「うごご…」

だが、完全に立ち上がる事なくロープに片腕をかけたまま動かなくなった。


ギィ…(静かに扉を開け回収係が入ってくる)

「ブラックゴールド様、死体回収に参りました。…あれは?生きている様ですが」
「おい、アイツはどこの構成員だ?」

回収係は若手レスラーのパンツを引っ張り、裏に刺繍された名前を確認し答えた。

「こいつは自称エクスダー、年齢は推定20代前半、韓国出身で無戸籍のチンピラです」
「そっちの方の支部にこいつの正団員の席を用意してやれ、こいつは中々根性あるぜぇ〜
一回で壊すのはもったいないぐらいにはなぁ〜」

辛うじて意識を保っていたエクスダーはその言葉に今日は生きて帰れるのだと嬉しさ半分、
そしてこの後も何度もブラックゴールドに呼ばれては殺されそうになるのだと恐怖半分、
黒服の回収係に運ばれている間感情を爆発させずっと泣いていた。

◇◇◇

「そして、幹部である彼に気にいられた私は韓国で地位を築き上げたが、
数か月に一度スパーに呼び出され、何回も殺されかけた」
「ふーん」
「ふーん、て!本当に怖かったんだぞ!馬黒さんは機嫌がよければノリノリで弱者を殺し
機嫌が悪ければ弱者に八つ当たりして殺し、恐怖を感じればそれを排除する為に
自分がもっと強くなる事で強者を殺す!そんな人だったのだ」
「じゃあどうやって10数回にわたるスパーで生き延びたんんだよ親父は」
「初めの一回は他の仲間がいたので彼らを肉の壁にして、2回目以降は
ひたすらローキックとボディブロー、クリンチやスウェーで焦らし続けつつ
怒らせないように適度に前に出ながらスタミナを奪って練習時間を乗りきっていたのだ
それはまさに皮と肉と骨を切らせて命だけは守るという接待スパーだったな。
結局、自分の足で帰れた事は一度もなく、回収係の人にはお世話になりっぱなしだった」

ニラーシャの知るエクスダーはどんな状況でも派手な闘いを好みかつ来る敵は拒まない男である。
その養父が基礎に忠実に丁寧な守りで乗りきるという状況を想像してニラーシャはようやく
芯太郎の父がどれ程の人間かを少しだけ理解した。

「あー、分かった。芯太郎さんはその馬黒の教えに忠実に生きてきた存在だ。
だから親父はいつ過去の再現がされるかと怖がっていると」
「ああ、だからな、なるべく早く帰って来てくれ。お前がおらんと不安でたまらんのだ。
他の幹部や地球軍がいくら来ようともこの肉体で暗殺に耐えて見せよう。
が、もし、芯ちゃんがこれを気に私を脅かそうとするならば…うごごごごご」
「わーった!わかったからもう自分のアジト帰れって!弱気な所誰にも見せんなよ!」
「う、うむ」

寂しそうな背中を見送り、ニラーシャは以降の事を考える。
既に北米の方にも援軍を受け入れる話しは通っており、明日にはリノアとグーチェ、
そして彼女ら二人に鍛えられたシンガポールのブラッククロス兵達はニラーシャと共に飛行機で
メキシコに発進し、そこの支部と合流後北上してアムステラと米軍の戦場へと向かう手筈になっている。

「明後日にはメキシコ、5日後にはアメリカか。さーて、待っててね。俺の『弟』」


最後に意味深な事を呟き、ニラーシャは眠る為に自室へと向かう。
果たしてメキシコ、あるいはアメリカで出会うであろうニラーシャの弟とはどんな人物なのか?
そして、それは本当に弟なのか?それは…次回以降のお楽しみである!!


(続く)