荒野を裂くは鋼の閃光〜前編〜


〜某日某所 アムステラ軍 前線基地〜

作戦会議室。指揮官が戦闘報告書に目を通し、部下が待機する図は良くある光景だ。しかし、今日の光景はいつもと少し違う。

「・・・まさか、お前達までもが揃って墜とされたとはね。地球の連中も侮れないねぇ・・・それとも、お前達の腕が落ちたのか?!」

体のどこかに包帯や三角巾などを巻いた十数名の負傷兵達。彼らを前に、こう冷ややかに言い放ったのはシャイラ少佐。
アムステラ軍空戦機部隊のエースパイロットである。

「あ、あれは増援さえ来なければ、あの赤いのも倒せてたぜ!」
「おぅ。二度も同じ手が通用する思ったら大間違いたい!」

一部の兵士からは反論が飛ぶ・・・が、シャイラの冷たい一瞥が反論を封じ込める。

「ハッ、一人前なのは口だけかい?! 怪我はもう治りかけだろ? 明日にでも、そのたるんだ根性と技量を叩き直してやるから。覚悟しなっ!」

そう言うなり立ち去るシャイラ少佐。その背後で、口々に文句を言いながらも闘志を燃やす負傷兵達。
だが、興奮する仲間をよそに、一人の男が眼鏡を外しながら怪訝な表情で呟く。

「んっ?!・・・妙ですね。シャイラ様、居住エリアとは逆に曲がってる。・・・あちらは確か・・・格納庫エリア?! もしやっ!」

慌てて拭いていた眼鏡を掛け直すと、軽傷の仲間2人に短く囁きかける。直後、揃ってそそくさと何処かへ去った3人の姿があった。


〜数十分後 某所 アメリカ軍基地〜

「レーダーに未確認飛行物体捕捉! 対象は高速で接近中・・・データ照合完了。『紫の蝶』と思われます!」
「迎撃ミサイルはどうした!」
「発射完了。目標捕捉まで後5びょ・・・うそっ?! 全ミサイル、反応消滅しました!」
「何だと?!」
「第一防衛ライン、突破されました! 現在『紫の蝶』進行方向上の荒野には、迎撃部隊を配置中です」
「デストラクションは!」
「出撃準備完了です。(ピッ)こちら司令本部。デストラクション、応答願います」
「こちらデストラクション。いつでも出撃できるぜ!」
「了解。緊急発進!」

基地の発進口が開く。その奥にはカタパルトらしき平面の台上に乗った、真紅の機体。
そして次の瞬間、轟音と共に勢い良く発進口から飛び出して行った。

その頃、『紫の蝶』こと紫艶蝶は、アメリカ陸空軍と交戦中であった。
戦闘機と対空戦車の大軍。そして精巧な命中精度を誇るミサイル。時代が時代なら、たった一機の兵器を倒すには質・量共に充分すぎる構成なのだが、
余りにも相手が悪すぎた。ミサイルは全て狙撃・撃墜され、拡散ビームの雨が容易に戦闘機や戦車を無力化する。
それに追い打ちを掛けるかの様に、一般通信帯域から万国共通語の声が流れる。

「何だ。期待外れだねぇ! ・・・お前達が負ける確率を教えてやろうか。・・・100%だ!」

ズドムッ!

突然、紫艶蝶の周囲が揺れる。超長距離砲撃! 絶妙な操縦で直撃こそは免れたものの、かつて無いほど危険な攻撃であった。

「悪ぃが、闘志に火の付いた漢が居るんでね。その確率、そっくりそのまま返してやるぜ」

荒野の一角で舞い上がる砂塵。荒野を裂く砂塵の先端には、疾走する大型軍用キャリアー。その台座上では、9門の砲を構えたデストラクションが再び砲撃を加えようとしていた。
果たして、破滅の業火は冥府の蝶を打ち破る事が出来るのか?!


「・・・出たね、赤いの! どれだけの腕前か、見せてみなっ!」
「んっ、女なのか?! だが、たとえ女相手だろうと。このブライアン、容赦せん!」
「ハンッ! 女だからどうした? 貴様よりは強いぞ!」

先に火を噴いたのは死穿砲。高出力のビームが瞬時にデストラクションを襲うが、そのビームは軽く横滑りした軍用キャリアーの端を掠っただけに留まった。

「失せろ、メス猫!」

怒号一閃。デストラクションの砲が火蓋を切る。

ダァム! ダァム! ダム! ダァム! ダァム! ダム!

今回の砲撃は9門の砲を斉射するのでは無い。一度に3門ずつ発射し、発射後のタイムラグを次の3門を放つ事により打消している。
間断無く発射される砲火は、目標を瞬時に粉砕しても当然の砲撃である・・・並の目標が相手ならば。

しかし。マッハ3を超える機動力を持つ紫艶蝶には、着弾するまでにタイムラグが発生する実弾兵器を避ける事など、児戯にも等しい技であった。
(フンッ、腕は悪くないけどね。この程度の砲撃に当たる紫艶蝶じゃあない。だけど・・・何故、この間合いで仕掛ける?)

最小限の動きで回避しつつ、再び死穿砲がデストラクションを狙う。だが、炸裂する砲弾を回避しつつの砲撃は、微妙にその狙いを狂わせていた。
(なるほどねぇ。少しのぶれで狙いが大きく狂う間合い、か。しかも、こう離れてると拡散モードじゃ届かない。つまり9対1って訳かい)

ダァム!

(・・・だけどね。もう見切った! 精確すぎて単調なんだよっ、その砲撃は!)
華麗に攻撃を避ける紫艶蝶。既に砲撃が当たる気配は微塵も無い。
(次で仕留める・・・終わりだよ、赤いの)

ダァム!

一方、既に砲撃が見切られたと悟るデストラクション。焦りを感じてもおかしくないこの局面で・・・ブライアンは、ニヤリとほくそ笑んで居た。
(この女・・・墜落(おち)たっ!)

一撃必中の射撃体勢に入る紫艶蝶。次の砲撃を避けた後の射撃補正も既に考慮済み。これで、デストラクションも終わりかっ?!
(・・・妙だ、単調すぎる。何かおかしい・・・ッ?!)
その刹那。デストラクションの中央にある砲門が、紫艶蝶を指し示した。
(まずいっ!!)シャイラの本能が、理屈抜きに危険を告げる。

ダム!  ヒュッ!

デストラクションの切り札。それは、初弾速・マッハ9を誇る電磁誘導砲。今までの弾幕は囮。全ては、この一撃を必殺とする為の仕掛けであった!
そして今。死穿砲のビームと、電磁誘導砲の弾が交錯する!

「チッ!」

異口同音に発した舌打ち。
デストラクションは左肩を貫かれ、その衝撃でキャリアーから転落する。だが、とっさに回避した紫艶蝶も完全には避け切れず、左腰に被弾する。

「あれを避けやがるかっ! 痛い相打ちだぜっ!」
「左脚部機能低下・・・構うか! 足なんか飾りだ!」

再び、死穿砲を構える紫艶蝶。倒れたままのデストラクションには、その攻撃を避ける術は無いと言って良い。

「やってくれるね・・・だが、次で終わりだ」
「・・・へっ、そいつはどうかな?!」
「フンッ、負け惜しみは見苦しいぞ?!」
「あのな? 俺は別にシングルマッチと言った覚えは無ぇぜ?!」

その言葉が終わるか終わらぬかの内に、紫艶蝶を目がけて殺到する蒼い疾風。ウインドスラッシャーだ!
その超音速が生み出すソニックブームを、文字通り蝶の様に避ける紫艶蝶。

「それでは一つ、お手合わせ願いましょうか」

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