荒野を裂くは鋼の閃光〜後編〜


(あぁは言ったものの・・・厄介な相手ですね。ここで僕が打てる手は、と)

目まぐるしい高速機動でドッグファイトを繰り広げる、ウインドスラッシャーと紫艶蝶。
最高速度に限れば戦闘機形態のウインドスラッシャーに分があるが、小回りに関しては紫艶蝶に軍配が上がる。
かといって人型形態だと攻撃範囲と小回りは向上するものの、今度は速度面で大きく見劣りする様になる。

(紫の蝶は、言ってみればクィーン。攻略するにはナイトが適してるけど・・・)

ヘンリーの脳裏に、紫艶蝶に撃墜されたフェルグスの映像が浮かぶ。

(単体では無理、と。ましてやビショップだけでは範囲も被るから・・・)

その時、視界の端に赤い機体が立ち上がって砲を構えた姿をちらりと捉えた。

(でも、ルークと組合わせれば。後はどうやって詰めるか、ですね)

ピピッ!

突然、警告音が鳴る。レーダーを見ると、未確認飛行物体が3機。

「・・・敵の増援みたいですね」
「おい本部ッ! レーダー網担当者共の目は節穴か?!」
「未確認機はステルス機能を使用して、高々空を低速飛行で侵入した模様です!観測データの解析完了。機体は敵の空戦型汎用機(羅甲)の模様。
現時点では、その3機以外の侵入は認められません!」

(敵ボーンを3つ追加って処ですか・・・でも、これはチャンスだ!)

更に激しさを増すドッグファイト。だが突然、ウインドスラッシャーが紫艶蝶に無防備な背を向けて、人型のまま羅甲の方へ向かう。

「何っ?! ・・・貴様っ! 舐めるなぁ!!

一瞬の油断が死を招くドッグファイト中、余りにも人を舐めきった機動を取るウインドスラッシャーに怒りの死穿砲が向けられる・・・が、しかし。

「チィッ!!」

突如、轟音が鳴り響く。その刹那、紫艶蝶が死穿砲を撃たずに急上昇。見ると、紫艶蝶の右下の羽が砕け散っている。

ウインドスラッシャーの仕掛けた罠。それは、自分が隙を見せる事で地上に居るデストラクションに砲撃のチャンスを与える事。
そして、たとえそこで撃たれていたにせよ、その射線の延長上には3機の羅甲が居たのである。

「くっ! 味な真似をっ!!」

ウインドスラッシャーが羅甲と交戦状態に入ったのを瞬時に確認しつつ、背後のデストラクションに向き直る紫艶蝶。
そのまま右方−デストラクションの左側を取る様に旋回しつつ急降下を掛ける。

「奴め・・・俺の死角を衝いてきやがる」


先の相打ちで損傷したデストラクションの左部砲門。紫艶蝶はその死角を保持したまま、一気にデストラクションの左真横に着地。死穿砲を突きつける。
デストラクションはと言えば、砲身の位置と長さが災いして紫艶蝶に砲口を向ける事が出来ない。

「・・・貴様達の強さは判った。だが、もう終わりだ」
「おっと、撃つなよ。そいつにゃさっきの一撃で傷を入れた。暴発するぜ?!」

一瞬、死穿砲に目を向けるシャイラ。その一瞥に隙は無いし、油断もしていない。
しかし、ブライアンの取った行動は彼女の理解を超えるものであった。

「イットウショーッ!!」

突然、謎の掛け声と共に砲と一体化した右腕を高々と振り上げるデストラクション。
シャイラの誤算は、なまじ冷静だったが故にその言動の意味を考えてしまった事。
左脚部と右下の羽が損傷してる事で、通常よりも機体の反応が鈍かった事。
そして砲撃が来ると思ってた分、振り下ろされた砲塔への反応が遅れた事である。

バキャッ!

デストラクションのラリアットを、とっさに立てた死穿砲で受け止めた紫艶蝶。かろうじて転倒は免れるが、死穿砲はくの字に折れ曲がった。
再び腕を振り上げるデストラクションに、紫艶蝶は一杯に伸ばした左腕一本で死穿砲を発射。
当然、暴発して紫艶蝶の左肘から先とデストラクションの右足が砕け散る。転倒するデストラクションを尻目に飛翔する紫艶蝶。

その頃、ウインドスラッシャーは3機の空戦型羅甲と交戦中だった。だが3機の連携プレイに悩まされつつも、その動きを読んでいたヘンリー。

(次にこう来て、こう・・・よし。後5手でチェック・メイトッ!)

「退くよっ!」

(くっ、手が遅かった! 次、クィーンに打つ手は・・・何っ?!)

左腕の無い紫艶蝶を確認した瞬間、とっさに攻撃するウインドスラッシャー。
しかし、想像を超える高速機動で目前まで接近され、意外な攻撃−右の蹴りがウインドスラッシャーの顔面を捉える。
互いにバランスを崩して墜落するが、ほどなく復帰。だが、センサーを破壊されたウインドスラッシャーには、戦場を離脱する4機を追う能力はもう残っていなかった。

「・・・痛み分け、ですね。でも、まさか高速機動中に肉弾戦を挑んで来るとは」
「あいつ、凄ぇ判断力だぜ。躊躇いもせず腕1本、犠牲にしやがった」


一方、前線基地に戻ったシャイラは浮かない顔をしていた。
口では部下達を叱責したものの、彼らの実力も充分承知していたから、今回の交戦が痛み分けに終わったのも(想像以上に被害を受けたとはいえ)納得はできた。
戦闘データも収集済みで、これを分析すれば、今回の様な失敗を再び繰り返さずに済むだろう。だが、しかし・・・

「判らんっ! 一体、何故あそこで『一等賞』などと叫ばねばならんのだ?!」

シャイラが腹立ち紛れに呟いた一言。本人は別に誰かに聞かせるつもりで言った訳では無いのだが、別名『シャイラ親衛隊(ファンクラブ)』と呼ばれる
彼女の部下達がその呟きを聞き落とす筈が無かった。もっとも、その意味が判る者はたった3名。
だが、彼らにも何故なのかは判らない筈なのだ・・・が?!

「シャイラ様っ! あれなら俺に心当たりがありますたい!」
「・・・何っ! それは本当か?!」

そう発言した角刈りの男・ガッツに、ずいっと顔を近づけるシャイラ。
密着状態で見つめられ、陶然となるガッツ。羨望と嫉妬に満ちた視線を浴びせる他の部下達。そんな状況を一顧だにせず、シャイラは更に問い詰める。

「どうした?! 呆けてないで、続きを言いな!」
「ぅ・・・ういっす! 先日、敵地で情報収集した際に奴らが使う格闘技を収録した情報媒体を入手したとですが、それに似た様な状況があったっす!」
「すぐに見せなっ、それを!」

そう言うなり、ガッツの手を掴んでズンズンとその居室へ向かうシャイラ。
もちろん、その背後でガッツに対する羨望と怨嗟の声が湧き上がってる事などは全く気付いて居ない。

そして、ガッツの部屋で始まるプロレスのビデオ鑑賞・・・1時間経過

「何だ? この大袈裟な動きは?!」

2時間・・・

「予告してから攻撃だと? それなのに何故、避けないのだ?!」

3時間・・・

「・・・あの〜、シャイラ様?」
「やかましいっ!」

4時間・・・5時間・・・

数本のプロレスビデオを何度も見返すシャイラ。
何となくプロレスの鑑賞法を理解すると同時に、自分が『一等賞』の意味を深読みしすぎた事が判って来る。
そう理解すると、ふつふつと遣り場のない憤りが湧いて来て・・・

・・・次の日、いつもに増して厳しい訓練を強いられたシャイラ隊の面々。
そして彼らの怒りは、過酷な訓練を強いたシャイラにでは無く、その原因を作った(らしい?!)ガッツに向けられたのであった。


作者注)デストラクションの両腕は砲と一体化してます。このエピを書いた当初はそれに気付かず、普通の腕として書いていた次第。
    (現在は、砲塔の腕として書き直して居ます)

The End