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怪傑ミルット 第一話 『峠のイナヅマ』



ここは数多のカラクリオー並行世界の一つ、戦争も宇宙人の侵略もなく、というか
宇宙人なんて存在しない全員地球人設定の割と平和な世界。
商店街の片隅にある喫茶店チカーロは今日もガラガラだった。
時は夕暮れ、マスターのチカーロとウェイトレスのサーメットが少し早めの
閉店準備をしていた。

「今日も全然お客が来なかったわねえ。関係無い話だけど温泉編は正史だったわ」
「私この一週間掃除とゴミあさりしていたG退治しか記憶にないですよ。
それとは関係ないけれど温泉編がパラレルだと勝手に言った事をこの場でお詫びします」

ドゥンッ!という派手な着火音、その直後サーメットは右腕を押さえてうずくまり
苦痛に顔を歪ませる。チカーロ愛用の大型拳銃モデルのライターがサーメットの右肘を
炙ったからだ。

「ンギモヂイイイイイ!じゃなくってチカーロ様、意味無くファイアーするのはやめてください」
「サーメット、今回の炙りに意味が無いなんて何を言っているんですか。
ウチには客寄せが出来る綺麗どころは貴方しかいないんですから、この危機は全部貴方の
せいなのですよぉ。そんな自覚すら持てない子はそろそろクビにしてアクートさんに
ウェイトレス兼任してもらおうかしら」

チカーロの言葉を受けサーメットは数カ月後を妄想した。
(妄想シーンスタート)

「う〜、ご飯ご飯」
「課長、まだ見つからないんですの?」

休日のお昼を食べる所を探し歩く彼らはどこにでもいる会社員とOL。
しいて普通じゃない所を挙げるとしたらちょっと運がない事カナー。
名前は…サーメットの妄想シーンなので名前など無いのだが、これから酷い目に会う
フラグを立てる男女なので便宜上フラグマンとその後輩と呼ぶ事にしよう。
そんな訳でサーメット退職後の喫茶店チカーロにやって来たのだった。

「みた事ない店だな」
「じゃがバターありますかね?」
「流石に無いだろうけれど喫茶店だしジャガイモを使ったグラタンとかならありそうだな」
「じゃあ、ここにしましょうよ。もう私お腹ペコペコですのよ」
「本当にここにするのか?何か嫌なフラグが感じるんだがなあ」

物怖じしているフラグマンを引っ張り入店する後輩。
扉を開けると裸エプロンのアクートが出迎える。

「いらっしゃいませ、地獄にようこそだお客様ぁ」
「すみません、店間違えました」
「おおっと、逃がしはしねえぜ。てめえらが扉を閉めた瞬間、全ての出入り口をロックさせてもらったぜ」
「何それ怖いですわ」
「だから嫌なフラグがしているって言ったんだが」
「ヒャーハハハ!後悔してももう遅いぜぇ、本当に久しぶりにお客様だからなぁ
サービス全開でいってやらあ。料理が出来るまでの間、俺のケツ筋を見て待ってな!」

まだメニューすら渡さず、アクートは勝手に厨房に舞い戻り料理を作り始める。
捕らわれたフラグマン達が店内を見渡すと『都合によりメニューは地獄フルコース一品のみ』
の文字が飛び込んできた。
厨房ではまだ生きている巨大ムカデがまな板の上でのたうち回り、鍋では豚の生首が
煮られ、テーブルの上では度重なる赤字にヤケをおこしたチカーロがギターソロを
奏でながら頭をシェイクしていた。

「「ノォー!!」」
「ヒャハッ、たまんねえな!幸せな午後を楽しみにしていたカップルが驚愕と恐怖に
顔を歪ませる瞬間はよぉ!俺はこれが見たくてシェフをやってるんだ!それとは
関係ねえが、温泉編は正史だぜ!」

(妄想終了)

「駄目ですー!私をクビにしたらアクートさんにお店を私物化されて世紀末の酒場みたいに
なっちゃいますよ!」
「それはそれで面白そうね。とにかく、料理はアクートさん、仕入れと飾り付けは私、
経理はゲッツアーが、そして営業面での問題とG退治と清掃はサーメット、貴方の管轄でしょ」

だったら集客効果の無い飾り付けやファッションは今すぐ止めてくださいと反論する
勇気はサーメットには無かった。そんな勇気があったらもっとマシな接客をしている。
こうして完全に責任を擦り付けられたサーメットはトボトボと帰宅したのだった。
もちろん、集客の策など思いつくはずはない。


そしてその夜―、

「いけー、狩村ぶっちぎれー!」
「差せ、差すんだヘンリー!今日はお前の勝ちに印刷代掛けているんだぞ!」

ギャラリーの声援と向かい風を浴びながら二台のバイクが激しいデッドヒートを繰り広げる。
そう、ここは峠、彼らは峠を根城とする走り屋達。彼らは月に何度かこうして峠最速を競うべくレースを続けていた。
そしてギャラリーの歓声を受け走っている二名、『雷切』の狩村宗茂と
『超音速の貴公子』ヘンリー=ウィリアム=クレイトンの両名こそが峠最速に
最も近い二人。レース事に互角の走りを続ける二名の人気は高く、彼らのどちらが
勝つかの掛けが成立している程である。

「今日は僕の勝ちのようですね、カリーム」
「…チッ」

最後のコーナーを一瞬早く曲がりきったヘンリーの言葉に狩村は舌打ちする。
残りの直線では最高速で勝るヘンリーのバイクを『人間技』では抜き返す事は出来ない。
ギャラリーも勝負の結末が予測され、歓声の半分は失望の声に変わって行く。
だが失望の声がさらに塗り替えられる事はこの場の誰も予想出来なかった。

「ひゅーほほほほ、ひゅーほほほほほ!」
「な、何だこの甲高い笑い声は!」
「あそこだ!今まさにゴールしようとしているヘンリーの頭の上だ!」


突如奇妙な笑い声と共にヘンリーの頭の上に現れた女性。
覆面で顔は分からないが闇夜にも映えるマントを風にたなびかせ、出るとこ出て
引っ込むとこは引っ込んだ女性も羨むナイスボディは若い美女である事を想像させる。

それにしてもそのボディライン以上に素晴らしいのは覆面の美女とヘンリーの
バランス感覚だ。直線とはいえ時速100キロオーバーのバイクを運転するドライバーの
頭の上に立ち笑いながらセクシーポーズ。『上と下のどちらかが常人ならば』間違いなく
転倒し双方とも大怪我をする所だ。

「月は東へ日は西へ、峠最速の座を奪いに来たのはこの怪傑ミルット!
さーって、今日もミルッと解決しちゃうわよん?」

ヒーロー風の名乗り口上が終わるピッタリのタイミングで謎の怪美女ミルットを
乗せたヘンリーはゴールした。狩村よりだいぶ遅れて。

「おい、何だあんた。ヘンリーの彼女か何かか?」

バイクから降りた狩村がミルットと名乗った女に質問する。
その声からは勝負を台無しにされた怒りが伝わって来ていた。
その怒りを右から左へと受け流すかのようにミルットはひょうひょうと応える。

「さっきの口上聞いてなかったかしら?私は怪傑ミルット、私が今足場にしている
ヘンリー君を倒し峠の最速を奪いに来た謎のお・ん・な。まあヘンリー君は私が
乗っかったショックでさっきから一言も喋らないけれど」
「とりあえずヘンリーから降りな、殴るのはそれからだ」
「あら女を殴るの?貴方も峠最速を名乗るなら…暴力なんて使わずレースで
私を屈服させてみなさい!」

あまりにも暴論、狩村がミルットの言う通りにする必要はどこにもない。
さっさと警察に通報するなりするのが正しい大人の対応だ。
(そうした場合、峠の皆もレースの件で警察から色々言われるだろうが)

「やれやれだぜ、レースを挑まれちゃあ断れねえな」

狩村は受けても丸損な挑発を真正面から受ける。それが走り屋であり、そして―

『グラップラー』であるッ!!!!!!!!!!!!!!!!

【グラップラー】
原始への逆行かそれともミトコンドリアの反乱か、学者の結論は未だ出ていないが
ええい、学者風情がどうこう語ってんじゃねえ!それがグラップラー、現代の超人達なんだよ!
一見普通の人間と変わらない(一部例外あり)彼らは高い戦闘力と特殊能力を持ち合わせ、
その能力は一人一人個性はあるけれどどれも皆綺麗だねぇ!!
もといっ、能力の分野に応じてクラスで分類されている。
狩村のクラスは『ライダー』、直接戦闘力はそこそこだが運転技術がキチガイじみた
グラップラーだ!
なおっ、グラップラーの設定部分について一体さんと異なる部分もあるが、
この世界ではそういうものなのだ!


「言っておくがさっきの俺の走り(ラン)は人間としての勝負の走りだ。
仲間をコケにしまくった礼儀知らずには最初から全力でいかせてもらうぜ」

狩村がグラップラーとして戦うという宣言。
ギャラリー達からざわざわとつぶやきが漏れてくる。

「あーあ、自業自得だけどかわいそうに」
「あの女…負けるな。俺はカリームの勝ちに掛けるぜ」
「バカか黒木、どっちが勝つかなんて掛けにならんだろ」
「それもそーか、んじゃカリームが何秒先にゴールするかで」

ミルットの事をこれから屠殺されて肉屋に並ぶブタを見るかのような目で見る
ギャラリー。だが、ミルットはこの雰囲気に呑まれはせずそれどころか余裕すら
浮かべ狩村に語りかける。

「狩村宗茂、峠の走りに関しては相棒であるヘンリーと並びあるいはそれを超える
と評価される男、でもその走り―日本じゃ二番目ね」
「ほう、あんたの評価じゃヘンリーの方が上とでも?」

チッチッチッと指を振り、そして親指でクイッと自分を指すミルット。
その行為に狩村はさらに怒りを滾らせるが、ここではそれを発散せず間もなく始まる
レースに集中する。

「それではこの勝負のルールはこの僕、ヘンリーが説明させて頂きます。
レースに使うコースは先程の僕達が走っていた峠の下りコース。
体の一部が先にゴールした方が勝ちとなりますが、ガードレールにぶつかった時、
全身が道路から外れコースアウトした時、及び故意に相手に激突した時は反則負け。
カリームが勝てばミルットさんは今回の乱入を謝罪し僕達の決定に従う事、
ミルットさんが勝ったらお咎め無し、以上で問題はありませんね?」
「ええ、私が負けたらこの体を皆で好きにしていいわよん?」

そう言いミルットが体をくねらせるとギャラリーからは大歓声がヘンリーからは
鼻血が吹き出す。

「ヘンリー、お前は病院いっとけ」
「心配ご無用、僕だってグラップラーです。先ほど頭に乗られた時はちょっと首を痛め
ましたがもうダメージは残っていませんよ。なんなら僕も勝負に参加しましょうか?」
「いいからオメーは見ていろ」

顔を赤らめ止まらぬ鼻血をぬぐいもせず平然と言ってのけるヘンリーの参戦を狩村は
断固として拒否する。

「カリーム、僕が女性が相手だからって、近くで見ると意外と筋肉質でムッチリしてるけど
ロケットみたいなオッパイの持ち主でいい匂いのする女性が相手で温泉編が正史だからって
全力を出せないとでも―」
「出せない。俺の知るヘンリーはそういう奴だ。それに今回の勝負ゴールの判定が
任せられるのはお前ぐらいだからな。後、温泉編は関係ねー」

ヘンリーはその言葉の意味を理解するのに数瞬を必要とした。
そして、気付く。グラップラーである自分の動体視力での判定を必要とするほどに
接戦となる可能性を狩村は危惧している事を。

「―分かりました、この勝負きっちり見届けます」

かくして舞台は整った。狩村はバイクを走らせ、ミルットは徒歩でスタート地点へと向かう。

「そーいやあんた、バイクは?」
「ふふっ、私にはそんなもの必要ないのよ。ミルット・フーット!」

ミルットの膝が割れそこから鉄骨とスプリングが現れる。
両足がグンッと一気に伸びていき、バイクに乗った狩村を遥かに見降ろす程までに変化した。
頭の高さは3メートル以上はあるだろうか。

「やれやれだぜ、それでヘンリーの頭に飛び乗ったってわけか」
「納得がいったかしら?」
「…やれやれだぜ」


バイク対徒歩のサイボーグという異種格闘技、走り屋の一人が出した合図により
二人は同時にスタートした。
スタートは同時だったが徐々に狩村がリードしていく。非常に長いストライドで
走るミルットは確かに早かったが、それでもバイクの速さには及ばない。

「何でえ、あの女やっぱり口だけじゃねえか。最初のコーナー前でもう10メートル以上
は離されているぜ」

ゴールで待つギャラリーの一人が峠を見上げ率直な感想を述べる。

「走り屋としてはペーペーの俺だってあれには勝てるってんなああああ!!!!!」

男の軽口は言い終わる頃には驚愕のそれに変わっていた。
最初のヘアピンコーナーを抜けた時、ミルットは狩村の前を走っていたのだ。
何の奇術かとギャラリーは目を白黒させる。ただ一人、ヘンリーだけはその正体に
いち早く気付く。

「恐らくショートカットしたんですね」
「何―、どういう事なんじゃヘンリー!知っておるのかーっ」
「そのまんまの意味ですよ。種も仕掛けも民明書房も無く彼女はあの長い足をさらに
伸ばしコーナーをまたいだのだと推測できます」
「…反則じゃね?ソレ」

ギャラリーの呟きはもっともである。追い抜かれた本人である狩村もまた同じ考えだった。
二つ目のコーナーまでの直線で追いつき頭上のミルットに文句を言う。

「あんた、恥ずかしくないのか」
「何が?私は『道路から全身が出ていない』し、『ガードレールにも触れていない』。
ルールを守って正しく走ってるわ。悔しかったら小細工ごとふっ飛ばしてみなさいな」

プッチ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!!!!!!!!!!!!
狩村がついに切れた!日本一の走り屋を自称しておきながら走り屋としても
グラップラーとしても卑劣な行為と挑発を繰り返すミルットに対してついに切れた!

「いいぜ、てめーが俺を怒らせたいんなら…とことんまでやってやるぜ!」

狩村は大きく息を吸い、

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

怒声と共に一気に吐き出す!!
その瞬間狩村とバイクがミルットの視界から消え去った!

「っ!?どこに消えたというの?ミルット・アーイ!」

ミルットの両目が光を発し前方を照らす。だが狩村は前方にもいない。
もちろん後方や上に移動するなどはこの勝負の展開上ありえない。

「まさか下っ?」

居た。ミルットの走っている場所から遥か下、コーナー数個分先を全力で下る狩村が
小さく視界に映った。急ぎ道路をまたぎ追いつこうとするものの、

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァツ!」

オラオラという掛け声と共に再びかき消え、峠のさらに下部に現れる。
まるで時を止めて移動しているかの様だ。

「これが彼のグラップラー能力…?」


狩村の再度の優勢、グラップラーではないギャラリー達にとっては状況こそ不明だが
リードしている事実と勝てそうな雰囲気は十分に伝わって来る。
ゴール周辺では再び狩村勝利のムードに包まれていた。

「うっひょー、狩村の奴むっちゃ速え!つーか俺グラップラーとしての狩村の
走り(ラン)初めてみたんだけど、マジどーなってるんだよあれは!?」
「あれこそカリームの能力、『オラオララッシュ』です」
「何―!しっておるのかヘンリー!」

今度こそ能力説明が必要なシーンである。ならば解説せねばなるまい。

【オラオララッシュ】
ライダーのクラスのグラップラー狩村宗茂の能力。
「オラオラ」の叫びと共に乗り物のギアを限界以上に上げ続け爆発的な加速を生む。
1オラにつき1段のギアが上がるので4速から「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァツ!」と叫べば
14速にまでギアチェンジした状態になり、並走していた相手から見て消えたかのように
見える程のスピードを得る。


「というわけです」
「すげえ!レースにおいては無敵の能力じゃないか。へへっ、あの女を自由に出来る
と思ったらヨダレとシークレットペニスがとまらないぜ、ずびびっ!」

狩村の勝利を確信し、ミルットを好きにする権利に唾を飲むギャラリー。
だが、彼の能力を誰よりも理解し信頼しているはずのヘンリーの顔は暗かった。

「どうしたよヘンリー?」
「杞憂だといいのですが―」

ヘンリーの不安、それはオラオララッシュの欠点についての事だった。
直接狩村から聞いたわけではないが、過去数度本気の彼と戦った経験から
ヘンリーは一見無敵に見えるオラオララッシュの弱点を看過していた。

「僕との勝負でもカリームが能力を使うのは峠の後半からでした。
しかし今の彼は序盤から能力を連発しています」
「え?つまり、えーとどーゆー事だ」
「超加速を続ければ風圧が彼を襲い、コーナーでは普段以上のハンドル制御を
必要とします。彼の限界がどれほどかは分かりませんが、今の彼はかなり無理を
しているのかもしれません」


ヘンリーの心配、果たしてその予感は当たるのか。

「オラオラオラオラオラオラ!」

峠を下る狩村にはヘンリーの言葉は届かない。心配など無用とばかりに飛ばし続ける。
またもや消え、ミルットの遥か先に現れる。限界まで足を伸ばしミルットは必死で
追いすがるが、ショートカットで差を詰めたかと思ったら次の瞬間には100メートル以上差をつけられる。

「ミルット・アァァム!」

最早見た目を取り繕っている余裕などない、両腕も目一杯伸ばし尺取り虫の様な体勢で
峠を落ちるようにしてミルットはショートカットし続ける。

「ふうっ、ふうっ、追いつけたけど流石に限界ね…でもそろそろ貴方も」
「やれやれだぜ、怒らせ続けて俺の消耗を狙ってたんならそりゃあ残念だ。
俺の怒りがこの程度で収まるとでも思ってるのか?」

ミルットを振り返る狩村の顔色からは疲労など微塵も感じられなかった。

「嘘でしょ?そろそろ限界が来るはずよ」
「たった一つのシンプルな答えだ。テメーは俺を怒らせた」

狩村は大きく息を吸い、これまでの怒り全てを込めハンドルを握りしめ、

「ゴールまで一気に行かせてもらうぜ」
「いやぁ、ダメもう持たない!壊れちゃうわ!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

ミルットの哀願をだが断るとばかりに狩村は能力を使用し加速する。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

瞬く間に距離を離し、尚も速度は留まる所を知らない。
途中急カーブをいくつも迎えたものの、この峠で何百回も走って来た狩村は
難なく全コーナーをクリアーしていく。

「オラオラオラオラオラ―」

最後の直線、そこで異変が発生した。叫び続けているのにバイクの動きが重くなっていく。
やがてゴール手前で数十メートルで完全に停止してしまった。
状況を飲み込めず狩村もギャラリーも完全に固まっている。
やがてミルットが追いつき勝負は決した。

「だからいったでしょ、それ以上は壊れちゃうって。そのバイクがね」
「やれやれだぜ、ハナから狙いは俺じゃなくこっちだったってわけか」
「スタート地点に行く時の動きで気付いたのよ。貴方のバイク、エンジン内の
シリンダーの一つがだいぶ痛んでいたわ。普通の運転なら問題ないレベルだったけどね。
貴方風に言うならたった一つのシンプルな答え、私は貴方を怒らせたってとこかしら?」
「…外から見ただけで良く気付くもんだな。その体といいあんた『マシーナリー』か?」
「ご名答?」

『マシーナリー』
機械の操作に精通したグラップラー。あらゆる電子機器の力を引き出しあるいは
その力を押さえつける事ができ、彼ら自身もサイボーグ化している者が多い。
ミルットの様に上級者なら機械を一目見ただけでそのコンディションを知る事もできる。
最大出力ではライダーに劣り、道具に頼らない純粋ストライカーとの勝負では
相性最悪ではあるもののその万能性は敵にするとかなり嫌らしい。


「さてと、私の勝ちだから―」
「ああ、今日から峠の最速はあんただ」
「いや、いらないからそんな称号」

手をパタパタと振り拒否するミルット。

「じゃあテメーは結局何しに来たんだよ」
「君達に挑戦しに来た、それは事実。真実については想像にお任せするわ、
その方がミステリアスで素敵でしょ?じゃあまたね」

マントをひらりと翻しミルットは口上を唱えながら手足を伸ばし道路をまたぎながら
夜の闇へと消えていく。

「月は東に日は西に、峠の戦い終えし美女は正体不明の怪傑ミルット!
喫茶店チカーロを愛する謎の女はクールに去る!」

残された狩村とギャラリー達はただただ呆然とするしかなかった。

「…ヘンリー、喫茶店チカーロってどこだ」
「僕に聞かれても」



次の日の朝、サーメットが出勤すると店の前に50人近くのいかつい顔の男達が並んでいた。
先頭にいる帽子の男からは特に強烈な気迫を感じる。

「チカーロ様、この店ついに取り立てですか!?」
「何言ってるのよ、開店待ちのお客様に決まってるじゃない」
「かいて、まち?」

この店に採用されて以来聞いた事の無い単語を並べられたサーメットは理解が
追いつかずフリーズする。

「ぼーっとしてないで外で待っている人達に注文聞いてきなさいな。
今日のお勧めを言うのを忘れないようにね。それが終わったらG退治。
今日は念入りに駆除しておきなさい」
「は、はいっチカーロ様!サーメット行って参ります!」

メモを手にし慌てて入り口に出ていく。

「い、いらしゃんせ〜。開店前にご注文お伺いよろしいでしょうか?
えっと今日のお勧めは『ドラドラのビックリ鍋』ですぅ」
「それ51人前頼む、残りは席についてから追加するぜ」
「あ、ありがとうございー」
「ちょっと待った」

注文を聞き戻ろうとしたサーメットの手を取り、強引に引き止められる。

「な、何でしょうか?」
「ふーむ」

じろじろと目踏みする様に帽子の男に上から下まで見つめられる。
やがて彼はすぐ後ろ、2番目に並んでいる金髪の美青年に振り返り聞いた。

「ヘンリー、どうだ?」
「髪を下ろしてモノクロ画面にすれば結構似ている気もしますが、別人ですね。
色んな所のボリュームが微妙に不足していますし、彼女はもっと堂々としてました」

何だかけなされている気がしてサーメットは少しむっとする。

「あ、あの開店準備がありますので」
「ああ、悪いなねーちゃん。知り合いかと思ったが人違いだったぜ。
一応名前を聞いていいか?」
「サーメット=ミルノート。ニックネームはミルです。ではこれで」
「ミルノート、ミルット、ミルノート…うーむ」

サーメットが店内に戻った後も帽子の男は顎に手を当て開店まで何やら考え続けていた。
この時サーメットはまだ自分を取りまく事件が次々起こる事など知るはずは無かった。
そして峠から来た客にこっそり混じって茶髪の美人サイボーグが鍋をつつきながら
自分を観察していた事にも気付けなかった。
彼女はこの時、ただ喫茶店に『らしさ』が訪れた幸せを受け入れるのに精一杯だった。



『次回予告』

「なるほど、そのツラの皮の厚さとてつもないわね。でもその厚顔ぶり
―日本じゃあ二番目ね」
ミルットは不敵に笑う。

「ほほう、では一番は?」
ミルットはチッチッチと指を振り、クィッと親指で自分を示す。

「貴方が日本一だと、ははあなるほど。そんな事言われたら受けて立つしかないじゃないですか」

???はミルットの挑発にのり厚顔ぶり日本一を決める戦いにのってしまう。
果たしてその正体は?多分分かるはずないだろーしカラクリオーファンなら
あまりの改変ぶりにブチ切れ99%のキャスティングだ!

次回怪傑ミルット第二話「ガンダーラ教の聖女」 ご期待ください!



続く