影狼隊徒然記【白い烏達との賭け】


〜アムステラ軍前線基地〜

空が茜色に染まりつつある夕刻、その空の彼方から十数機の操兵が轟音と共に基地に向かって降下して来る。
それらの機体はいずれも紫色の『羅甲』だが、その中央、羅甲達が護る様に取り囲む四枚羽根に長大な銃を持つ優美な機体は『紫艶蝶』
そして紫艶蝶が率いる紫色を基調とした操兵部隊といえば『シャイラ隊』。アムステラ軍が誇る精鋭揃いの空戦隊である。

「戦闘訓練終了!解散!」

操兵格納庫に凛とした女性士官の号令が響く。隊長の『シャイラ』少佐の声である。
弱冠24歳にして少佐の地位に居る事からも、彼女の並々ならぬ力量が伺われる。しかし、だからこそアムステラ本星から見れば辺境の地である
この地球に赴任してるというのは不思議な話である・・・その事実のみを単体で見れば、だが。

そして更に付け加えるならば。その名を轟かす存在は彼女だけでは無い。
齢72歳なれど、かつては『軍神』とも呼ばれ、格闘家の最高峰とも言える『快皇』の位をも持つ『テッシン』老。
数多の戦場にて『漆黒の悪魔』とも恐れられた、黒竜角を駆る戦闘の天才『ガミジン』など・・・。
いずれも、こんな辺境へと派遣するには惜しい人材ばかりである。

しかし、この辺境の地・地球方面侵略軍の総指揮官に任命されたのは『ヒルデガード・アムステラ』。アムステラ帝国の第一皇女である。
・・・そうなれば話は違う。先に挙げた綺羅星の如き面々が、ヒルデガードの格を裏付ける者として立ち上がって来るのだ。

だがその一方。この地球侵攻軍やそれに付随した来訪者には、元々辺境に飛ばされる様な要素を持つ連中が多々存在するのも事実である。
貧乏くじを引かされる下層民やはぐれ者、中央の眼が届かぬ場所で何かを企む、腹に一物抱えた面々。それに傭兵達などと実に様々。

「いよ〜ぉ、お疲れさん。ちょいと話があるんだが良いかな? シャイラ少佐」

そんな声を掛けて来たのは、一種の混成部隊である地球侵攻軍の裏面を体現したかの様な、無精ひげを掻きつつ欠伸を漏らす長身の男。
同時に、解散の号令を受けて整然と格納庫の出口に向かっていたシャイラ隊の隊員達が、一斉にこの声の出所へと顔を向ける。

「・・・? 影狼隊が私に何の用だ?」
「んっ? あぁいやいや、個人的な話でね。暇ァしてるもんで…」

そう長身の男が言いかけた瞬間。周囲に無音のざわめきが生じ、殺気を帯びた視線の集中砲火が彼に浴びせられる。
その、常人ならば思わず口篭ったであろう突発的プレッシャーを、どこ吹く風と気にも留めず、長身の男は科白を続ける。

「そこの三馬…羽烏を練習台としてお借りしても構わんですか? と、許可を貰っとこうと思いましてねェ〜」
「別に私は構わないが、お前達はどうだ?」

シャイラに水を向けられたのは、白い軍服に身を包んだ3人の若者。
ちなみにアムステラ軍で白い軍服を着用出来るのは、士官学校を優秀な成績で卒業した者のみ。すなわちエリートの証でもある。

「よかですたい! アルとサイはどうね?」そう返答したのは、腕っ節が強そうな大柄の若者。
「何か変な間が入ったのは気になりますが・・・僕も構いませんよ」そう受けるのは、眼鏡を掛けた沈着冷静で優男風な若者。
「俺も良いですよ。ガッツとサイも異存無しだし・・・で、これからやるかい?」と、3人の中でリーダー格らしい若者が、返事を締め括る。
「や〜、訓練でお疲れのトコ、悪ぃね。そうさな〜、メシ食った後にでもどうだい? 俺達もその頃集合するからさ」
「あぁ、良いぜ」「それでよかよ!」「いいですよ」



〜基地の食堂〜

「・・・バドスのおっさん、一体何ば考えちょるんかね?」肉に齧り付きながら、ガッツが疑問を投げかける。
「先日の威圧偵察の件とかが堪えてるんじゃ無いですか? 強敵が現れて、危機感を覚えたとか」上品にスープを飲みつつ、サイが答える。
「でもアレだ。確かそのうち一機はシャイラ隊長に墜とされた『とんがり帽子』だろ?」アルがフォークを掲げて指摘する。
「だけどよ、『とんがり帽子』ってそんなに強いのか? それと、さっきおっさん『俺達』とか言ってたよな? 他は…」アルの科白の続きが…
「『とんがり帽子』なら、私に本気を出させた相手だ。それと、一緒に来るとすれば多分、イェン少尉だろう」横合いからの声に遮られる。

彼らの近くに座って食事をしていたシャイラが、聞くとはなしに聞こえた彼らの会話に参加したのだ。
・・・いや。『彼らの近くに』という表現は正確では無いか。『彼らが』シャイラの『近くに』陣取っているのだから。
シャイラの真横、及び真正面という位置は、水面下での壮絶な牽制合戦によって空席と化すが、それ以外のポイントは三羽烏を筆頭とした
シャイラ隊の面々に占領されるのが常であった。

「それやったら『紅の毒蛾』とかいう通り名ば聞いた事あるばい。近接戦が得意らしかね」
「バドスさんも普段はアレですが、腕は立ちますよ。何と言っても、あの禍風を乗りこなしてますからね」
「そうだな、手応えは充分ありそうだ。みんな、油断は禁物だぜ!」「おうよ!」「もちろん!」
「フッ・・・期待してるぞ」



〜戦闘シミュレーション室〜

食事を終えた三羽烏とシャイラ、それと手の空いている他の隊員達がぞろぞろとシミュレーション室に詰め掛ける。
先に到着して機器の調整をしているのは、三羽烏を呼び出した影狼隊のバドス。その隣に居るのは、『紅の毒蛾』ことイェン・マイザー。
そしてもう一人。『水鋼獣』の乗り手であるルカスの3名である。

観戦者が来るだろうと当込んでたらしいバドスは、無造作にシャイラ隊の2名ばかりをシミュレーターの調整係に任命し、三羽烏に向き直る。

「よ〜、わざわざあんがとさん。まず空戦の形式なんだが、3on3の形式でやらせて貰おうか」
「3対3って事は、俺達とあんた、イェン少尉、それと・・・ルカスだっけか。確か雲殻にも乗ってたよな?」
「そうそ。だがなぁ、流石におめ〜らとガチでやるのはきちぃんでね、ちょいとハンデをくれや。要塞攻防戦で、防衛側させて貰えっか?」
「・・・あぁ、良いぜ」サイとガッツから目配せの同意を受けて、アルが答える。
「有難てぇ! これで勝った!」
「コラ待てや、おっさん!」「聞き捨てなりませんね・・・しかも、『勝てる』じゃなくて『勝った』、ですか?」
「いやホラ・・・やるからには勝ちたいってのは人情だろ? なっ? なっ?」
「それじゃあ何か?! 今の条件だったら俺達に勝てるって言うのか?」
「ん〜っ? 何なら賭けても良いぜ。そうさな〜、一人頭3,000アムル程でどうよ?」

バドスの不穏当な発言に怒気を発する三羽烏だが、その源であるバドスはぬけぬけと賭けの話を持ち出す。

「それでよかばい!」「ちょっとガッツ?!」
「・・・良いだろう、受けよう」「アルまでっ!」
「安い挑発だが、敢えて乗ってやるぜ。そんなに俺達の本気を見たいのなら、白服の実力を見せてやろうじゃないか、なぁ?」
「そう来なくっちゃな。どうも最近、俺ぁ腕が鈍った気がしててねぇ〜。少し磨き直してやらなきゃならねぇ」

そう言い放ったバドスは、この展開を呆れ顔で見てたイェンと、不安げな表情を浮かべているルカスをちょいちょいと手招きする。

「さてっと、ルール面とご褒美の話は済んだ事だし。作戦会議としゃれ込もうか」
「・・・相っ変わらずえげつないね、兄貴」「・・・良いんですか? あんな大口叩いた上、賭けまでして」
「な〜に言ってやがる・・・戦闘だろうが! 模擬戦だけで済ますってならまだしも・・・! 一旦賭けに乗ったなら、戦闘だろうがっ・・・!」
「それもそうよね〜。それじゃ、賭け金を分捕る算段でもしよっか!」「ちょっ、ちょっと?! イェンさんまでっ!」
「まぁいいから、いいから」「どっちみち後には引けね〜よ。おめ〜にも活躍して貰うから、覚悟しとけや」「・・・はい」



こうして、三羽烏vs影狼隊の3名によるシミュレーション空戦が始まった。

三羽烏の乗機はいずれも紫色の羅甲・空戦カスタム。一般兵の乗る空戦型羅甲とは違い、エースに相応しい高性能を誇る機体である。
武装は高火力のレールガンと、中距離迎撃用のマシンガン。そして近接戦用の剣と、ミサイルの直撃ですら防ぐ黒銅鋼の大盾。
戦い方としては、主にガッツが先陣を切り、サイは狙撃で援護。そしてリーダー格のアルが戦局に応じて対応するというもの。
その彼ら三人が編み出した連携攻撃・トリニティ・コンビネーションの洗礼を受けた者は、まず間違い無く撃墜されるだろう。

それに相対するのは、まずはバドスの乗機である斬空一式改・禍風。
脚部をロケットブースター化し、強力な重力制御装置を搭載した特殊戦機。主武装は多連装ミサイル、フロートマイン、そしてビットである。
武装の関係上、中間距離での戦闘を得意とするが、重力制御装置を使った特殊機動等も侮りがたい。
この操兵、本来は人間型なのだが、手足の形状の関係で腹ばい状態が基本姿勢となる。

次にイェンの斬空二式・忌影。
禍風とは異なり、近接高速戦向けの仕様。武装は連装ミサイル、拡散ビームキャノン、そして両腕のヒートクローである。
特にその機動力を活かしたマニューバ・残影機動はイェンの得意技でもあり、ドッグファイトにおいては猛威を振るう。

最後にルカスが搭乗する雲殻。
これも汎用機とはいえ、第二世代操兵である故に高性能。武装は両肩の大出力ビーム砲・轟雷砲と、そのビームを増幅反射する偏鏡符である。
後方支援タイプの大型浮遊砲戦機なので、機動力こそ低いが鉄壁の防御力と多彩な攻撃性能を誇る。


まず、影狼隊の3機は自軍の要塞上空に待機状態で配置。三羽烏は遠く離れた、要塞から射程圏外となる位置に配置された。
しかし三羽烏が驚いた事に、影狼隊の3機は模擬戦の開始早々いきなり、彼らの方へと全速力で向かって来たのだ。
当然、移動力の差が如実に出る。ずば抜けて速いのが禍風。間を開けつつも追う忌影。更に後方から必死に追いすがる鈍重な雲殻。
どう見ても、個別撃破して下さい・・・とでもいう様な間の抜けた機動なの、だが・・・?!

「・・・阿呆か、おっさん? 近付いたトコをトリニティ・コンビネーションで仕舞いやないか。そやばってん…」
「…速すぎますね。いくら瞬間停止が出来るとはいえ、あれでは近接間合いに入っ…まさか?!」
「おっさんの狙いは多分それだ! 全員迎撃! それでも接近するなら、散開する!」「おうよっ!」「了解!」

三羽烏が各々レールガンを構え、真っ向から迫る禍風を狙ってほぼ同時に攻撃する。3名の狙いと発射タイミングは微妙にずらしてあるのだ。
それによって、敵が多少の回避をしようとも動きに合わせて照準を補正、確実に的を捉えるのである・・・が、禍風の機動はその上を行った。
初弾が発射された刹那、まるで見えない巨人の足に蹴飛ばされたかの様に『真横』へと高速移動したのである!
その予測不能な機動を3人が目で追った瞬間、今度は腹でも蹴飛ばされたかの様に斜め上前方へと弾け飛ぶ禍風。

「何なぁ! ありゃあ!」「やはり近付いて来る!」「散開っ!」

三羽烏は連携攻撃が可能な密集状態をあえて解除し、分散する。定石とは言い難い行動だが、相手が定石外れだから仕方が無いとも言える。
彼らが恐れたのは『フリー・フォール』。禍風の強力な重力制御装置による特殊効果の一つで、重力制御を阻害する力場を発生させる機能。
この力場内に居る操兵などは文字通り、自由落下する鉄塊と化すのだ・・・力場の中心に居る禍風も含めて。
従って、禍風単体だけならそう怖くない。しかし後方から近付く雲殻の射程に入れば、轟雷砲の良い的と化す訳である・・・。

「あっ、あれは!」「サイ、どげんしたね…ッ!」「…あれが紅のッ!」

結果的に禍風に気を取られた3人を正気に戻したのは、紅色の残像を曳きつつ接近してくる忌影。
その高速機動は、空戦に関して目の肥えた3人をも瞠目させるに足る技量を秘めていた。

「彼女の狙いは…僕ですね」「おいが迎撃…」「いえ、そこは遠い。僕が倒します!」
「禍風は俺が倒す! ガッツ、雲殻を頼む!」「任せんしゃい!」

サイ機は冷静にレールガンを構え、急速に接近してくる紅色の帯を見つめる。もう少しで忌影の攻撃範囲に入る筈…

「ですが、そこで終わりです。…狙い撃つッ!」レールガンから閃光が奔り、紅色の帯を貫いた。

アル機は頭上に陣取る異形の機体・禍風を見上げ、武装をマシンガンと盾に持ち替える。

「もう仕掛けてやがるな、おっさん・・・上等だぜっ!」次の瞬間、アル機の周囲で爆発が起き、ビーム光が乱舞する。

ガッツ機は脚の無い大型砲戦機・雲殻に向かう。当たれば只では済まない高出力ビームが側面や死角からも飛来するが・・・

「当たらなきゃ、どうって事なかったい!」ガッツ機は大胆、かつ緻密な動きで雲殻との間合いをぐんぐんと詰めてゆく。



・・・ズバッ!! 紅色の影が紫色の機体の脇をすり抜け、銃身を断ち切られたレールガンがくるくると舞いながら落ちてゆく。

「僕の銃撃をここまで避けるとは・・・流石ですね」武器をマシンガンに持ち直しつつ、サイが思わず感嘆の声を上げる。
「・・・冗談きついね。左腕に直撃よ?」数箇所被弾している忌影だが、左前腕はレールガンの直撃を受け、半ばまで失せている。
「でもね・・・次で決めるっ!!」

一声叫ぶと共に、再び残影機動を行うイェン。だが、その機動は直線!! 残った右腕を突き出し、羅甲の胸板を貫く一閃を放つ。
対するサイは、マシンガン程度ではこの残影機動の勢いは止まらないと判断し、素早く剣に持ち替え。こちらも電光石火の突きを放つ。

ドシュッ!!・・・。

「相討ち・・・ですが・・・」一閃の応酬と共にすれ違い、背後に居るイェンに向かってサイが呟く。
「・・・でも、アンタは有るものを失い、アタシは無いものを失った・・・」サイの呟きを受け、イェンが背中越しに応える。

忌影は、半分残っていた左腕を完全に失っている・・・いや、『失った』のではない。『切り離した』のだ。
その左腕の残骸は、羅甲が持つ剣に文字通りの田楽刺しとされている。しかし羅甲の左上腕は、忌影のヒートクローに深々と抉られていた。
握力を失った羅甲の左手が緩み、ぽとり、とマシンガンが落ちてゆく・・・。


ズバババババ・・・ッ!! 四方八方、上下左右から乱れ飛ぶミサイルやビーム光の中を紫の羅甲は飛翔する。
自分が禍風の仕掛けた罠の渦中に居る事は承知の上。だが、攻撃を全方向に配しているなら。罠の一箇所を集中して食い破れば良い。
黒銅鋼の盾で前面をカバーし、盾の範囲外から来るミサイルなどをマシンガンで迎撃しつつ、後方から来る攻撃に追いつかれない様に進む。
その作戦は当たったかにみえたが、構えた盾に触れたのは浮遊機雷・フロートマイン!

「ッ!!」その瞬間、何を思ったのか。アルはフロートマインの爆風に逆らわず、元来た方へと大きく吹き戻される。

ドドドドドドッッ!! 次の瞬間、アルの目の前でビーム光の乱舞とミサイルの束が交錯し、爆発する。

「今の爆発、無理に踏み留まっていたら・・・」アルは冷や汗を拭う。
「・・・良い的だったんだがよぉ〜。俺が本気で『デス・トラップ』仕掛けてんのに、ここまで凌ぐたぁ流石だねぇ〜」とバドスが感心する。
「それじゃあ感心させついでに、墜としてやるぜ!」と、アルが吼える。

バドスが仕掛ける『デス・トラップ』の猛攻を掻い潜り、剣を振るえば届こうかという近接間合いに羅甲が詰め寄る。

「さぁ覚悟しな、おっさん」
「覚悟はしてるぜ・・・ところで、おめ〜はどこに落ちたい?」

バドスが奇妙な質問を放つと同時に、アルは違和感を覚える。この重圧はまさか・・・『フリー・フォール』っ!!

「なん・・・だと?」
「答えは聞いて無ぇ・・・このまま、真っ逆さまだ」

そのまま石ころの様に墜落してゆく2機・・・程なく、仲良く地上に激突する音が響いた。


一方、実力差の激しい2人の対決である。変則的な方向から高出力ビームを放てる雲殻ではあるが、高速機動する目標に対しては分が悪い。
ましてや、空戦のエース相手に対して攻撃を命中させようというのは、玩具の水鉄砲で雀を撃ち落とそうとするのにも等しい難業。
しかしガッツは、そんな絶対的優位の立場であるにも関わらず、内心舌を巻いていた。

「(こいつ良い根性しとるわ・・・おいがこんだけ攻撃ば叩き込んじょるのに、怯みもせんと立ち向かってきよる)」

確かに雲殻の防御力は高い。だがエース相手に持ち堪えるには、それだけでは不足。乗り手の力量が無ければ、疾うの昔に撃墜されてただろう。

「(そろそろ残弾も気にせにゃならんし・・・ここは一気に!)」ガッツの羅甲が剣を構えて、一気に距離を詰める。

轟雷砲が何発か発射されるが、既に見切っている。問題無…ッ?! 雲殻も、『近寄って来ている』だと?
一気に突撃した羅甲の剣が、雲殻の胴体に深々と突き刺さる。かろうじて急所は外してる様だが、それでもじきに機能停止に陥るだろう深手。
その時、雲殻の狙いにも気付く。周囲に浮いた偏鏡符が全部、羅甲と雲殻に向けて構えられているのだ!

カッッ!! 無音の閃光が迸ると共に放たれたのは、全方位からの拡散ビーム! それが雲殻自身をも巻き込んで羅甲を襲う!
拡散する分威力は落ちるとはいえ、それでも直撃すれば装甲を灼き、機体を焦がす!!

「・・・足りんったい、それじゃ」とガッツが呟く。

羅甲は黒銅鋼の盾を背負い、身を縮めて雲殻の懐に入る様にして、拡散ビームの大半を凌いだのである。

「ほんま、えぇ根性しちょる! そやけど、もう仕舞いや!」羅甲が雲殻に深々と突き刺さった剣を抜こうと踏ん張る。
「これでいい・・・自分に出来る事は果たせました」ルカスが静かに呟くと共に、剣をがっちり掴んだまま、糸の切れた凧の様に墜落する雲殻。
「・・・まさか? あいつ剣を奪う為だけに・・・ッ?! しもたっ!!」先ほどの拡散ビームが、マシンガンの機関部をも灼いていたのだ。

これで残る武器はレールガンだけ・・・呆然としたまま、それを構えるガッツの耳に届く叫び!

「ガッツ! 忌影が!」「…何じゃとっ!」

振り向いたガッツの眼に映ったのは、紅色の影が振り下ろす鉤爪。
無意識にそれに向けてレールガンを放つのと、鉤爪がレールガンに振り下ろされたのはほぼ同時!

バギッ!! 同時に砕け散ったのはレールガン、そして忌影の右前腕。

「お見事! ・・・だけど悪いね。勝ちは頂いたわよ」快活なイェンの声が、両腕を失った忌影から発せられる。
「何じゃてっ? まだ勝負は…」ガッツの反論が勢いを失う。
「いえ・・・してやられましたね」サイが溜息混じりに結論付ける。

影狼隊側で残るのは、両腕を失った忌影のみ。ミサイルは残ってるだろうが、戦闘力が激減してるのは言うまでもない。
しかし三羽烏側も、腕を串刺ししたままの剣しか持たない、隻腕のサイ機。装甲が灼けた程度の損傷しかないが、丸腰のガッツ機。
そして忘れてはならない。これが『要塞攻防戦』だという事を。如何に操兵といえど、剣一本で要塞を陥とすのは無茶な話である。



「・・・ほらよ、賭け金」三羽烏で集めた金を、アルが仏頂面で影狼隊の3人に配る。
それをニヤニヤしながら受け取るバドス、笑顔で受け取るイェン、済まなそうに恐縮して受け取るルカス。
そしてイェンは、笑顔のままシャイラに向き直ってこう言う。

「シャイラ少佐、良かったらアタシと手合わせして貰えないかな・・・」


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