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インド英雄伝説・上 『千年神話と詐欺聖女』



皮肉としか言いようがない。
かつて彼はガンダーラさえ動かせばインドは無敵になると主張し、
現在はガンダーラだけではどうにもならないと主張する。
かつて皆はガンダーラが動くはずないと言い、現在はガンダーラがいれば
何の問題もないと反論する。

「本当に皮肉としか言いようがないわ」

水中戦シミュレート室のプールの前で彼は小さく呟きため息を漏らす。
肩を落とすと同時に胸が大きく揺れた。

彼フェミリア・ハーゼンは今年で28歳になる、『生物学的には』男性である。
しかし、髪は腰まで伸び胸は大きく膨らみ、その外見では誰もが女性だと
判断するであろう。いや外見だけではない、父の手で物心つく前に去勢され
女性として育てられた彼は自分が男として生まれたという事実以外に
一切の男らしさから隔離されて生活してきた。故にその思考も女性そのものであり、
さらに戸籍にまで女性だと記されている。彼の正体を知るには着ている服を
下着まで全部脱がせるか、彼自身の口から真実を聞く事が必須だと言えよう。

フェミリアが女性として育てられたのには理由がある。
全ては彼に聖女を演じさせる為だった。
今から約千年前、インドの地に危機が訪れた時僧達の祈りに答え巨人が降臨し、
危機を消し去った。
これがインドの誰もが知っているガンダーラの伝説、実際その地には千年前に
寺院がたてられているし、その中にはガンダーラと呼ばれる巨大な仏像が
設置されてあった。ここまでならよくある伝承である。

問題はこの伝承をいい年こいた中年男が信じ続け、その男が当時インド軍部の
中心人物だった事、その男がフェミリアの父だった事。
先進諸国に対抗可能な兵器開発に追われる日々の間も、フェミリアの父
ライブ・ハーゼンはガンダーラの伝説を研究し続けた。そして彼は結論を出す。
ガンダーラの伝説は誇張無く全て真実であり、これこそがインド最大の兵器になると。
フェミリアが女として育てられ、インド有数の精神感応者の元で修行を積まされたのも
全てはガンダーラを寺院の飾りものから本当の守護者に変え、国有の兵器とする為。

結果は世界中の皆がご存じの通り。ガンダーラは確かに動いた。
そしてそのパイロットの名はサティ、フェミリアではない。

ライブの研究は一つだけ間違っていた。ガンダーラを動かす為には精神感応の力が必要
と考えフェミリアにその訓練を積ませたが、ガンダーラはサティの持つ純粋な祈りに
よって目覚めた。精神感応の力は別に必要無かったのである。

「そしてガンダーラの戦う姿を見た父は安らかに息を引き取ったのでした。
先に天国に旅立った師匠と共にインドを見守っているでしょう。めでたしめでたし
…と、言いたいんだけどね」

フェミリアは気付いてしまったのである。
ガンダーラに頼る結果他の兵器の開発が停滞しつつある事実。
そして、ガンダーラはその停滞分全てを埋める事は出来ないと。
彼は軍部に主張した。海岸線の市街を攻めてくる敵にはガンダーラは太刀打ちできないと、
そしてアムステラにはこちらに損害を与える事を主眼に置いて攻めてくる奴もいる事を。


「敵がインドに狙いを付け、指揮官がこちらの損害を与える為手段を選ばず、
雷切やウインドスラッシャーの救援が間に合わず、ガンダーラも到着に時間が掛る
ケース?戦争中に一回あるかどうかだ。そんなものに予算は回せない」

父と自分が犯した罪、ガンダーラを秘密裏に寺院から奪おうとした件で
失った信頼を取り戻すのは難しかった。フェミリアが何を言おうと軍部の人達は
「まーた詐欺聖女が何かせこい事たくらんでんじゃねーの?」と思うのも仕方がない。
それでも説得を続け何とか沿岸から攻めてくる機体と戦う為の試作機の製作まで
こぎつける事ができた。

「さあいくよラクシュミーΩ、今日から私はガンダーラにあこがれ続けた日々に
別れを告げ、ガンダーラと共に戦う第一歩を踏み出す」

フェミリアが乗り込んだ機体、後頭部から伸びる二本のホースが特徴的なそれは
精神感応機としては例を見ない小型の機体。
操縦者に才能と負担を強要する精神感応機が作られるのはそれぞれにハッキリとした
目的がある。オート制御がきかない兵装を自在に使う為というのが主な理由だ。
ある機体には100を越えるビット、ある機体には万能の活躍を見せるナノマシン、
そしてラクシュミーΩには水上移動を可能とするまでの機体自身のバランス性能が!!
…別にラクシュミーΩはショボくない。そう、適材適所なだけである。

「さあいくわよ」

両手からの放水を利用し軽量化された体をふわりと浮かびあがらせ
プールの水面に両足をつける。沈まずに水の上に立ち続ける姿、ガラス越しに
見ている研究者達から歓声が上がる。

「なんと、フェミリアの奴成功しおったぞ」
「ふむ、詐欺聖女のくせにやるではないか」
「ああ、彼は素晴らしい詐欺聖女だ」
「詐欺聖女!詐欺聖女!」

シミュレーション室の隣の部屋から溢れんばかりの詐欺聖女コール。
それを聞くやいなやフェミリアの脳波が乱れ出す。

「ちょっと皆さん、お静かにっ」
「詐欺聖女!あそーれ詐欺聖女!」
「詐欺聖女って言うなってんだろ!あっ、ヤバッ」

完全に制御を失った体をぐらりと傾かせ、ラクシュミーΩは後頭部から
プールの底へ沈んでいく。

「あーあ沈んだ」
「しょせん詐欺聖女か」
「あ、あんたらが余計な事言わなきゃ…ガボガボ、誰か引き挙げてくださーい…」

今から10年近く前、説得によるガンダーラ獲得に無理を感じていたハーゼン親子は
武力による奪取を企んでいた。直前でアクシデントが重なりその計画は実行され
なかったが、ガンダーラが動き出した後改心したフェミリアによって
その計画は全てを語られた。フェミリア以外の関係者は既にこの世になく、奪取計画も
未遂だった事、またライブが軍に多大に貢献をしていた事からこの件は不問にされた。

だが、事実が発表され寺院の僧達は大きなショックを受ける。というのも、
ガンダーラを渡すには至らなかったが彼らの中にはフェミリアを聖女と信じた者も
少なくは無かったのだ。聖女と崇めていたフェミリアの胸がシリコン製で
陰毛の下には男性機能を失ってはいるが小指程の(ピー)がある事を知らされてしまった
僧達は彼をこう呼んだ。『詐欺聖女』と。
そしてその呼称はガンダーラ起動後寺院と親密になった軍上層部にも伝わり、
からかい半分にしょっちゅう呼ばれ続けている。そして詐欺聖女と呼ばれる度
フェミリアは以前の自分を思い出し恥ずかしさのあまり悶絶するのだった。

『ラクシュミーΩ第一回シミュレート』
結果…水上歩行開始後10秒で転倒し戦闘続行不能。
実戦参加許可…もちろん不許可。

インドの歴史がまた一ページ



続く