それは繊細な音色であった。
それは事細かな調べであった。
レゼルヴェ国内・・・。
とある軍事施設の・・・。
ー その一室
ピシィ・・・ッ!
金属音が静かに響く・・・。
それは『刃物』が、ひび割れた音。
東洋のセキ、西洋のゾーリンゲン。
刃物の街と誉れ高い『岐阜県・関市』の刀匠が鍛えし・・・。
この『匕首(小刀)』。
20数年前のあの日・・・。
『柳生月心斎』の立ち会いの元、行われた・・・。
・『 日本防衛軍空軍長官 ・ 柳生 月心斎 』
『 大蛇 毒砲 (おろち どっぽ) 』との、 『 Fist or Twist ( 拳 か、関節技 か・・?) 』
・『 大蛇流空手継承者 ・ 大蛇 毒砲 』
あの日も、今日(こんにち)のような闇夜であった。
あの日も、『レディ』は、待ち続けていた。
誰に言われた訳でもない。
誰に頼まれた訳でもない。
「敗北が許されないのは、私とて同(おんな)じ事。」
「貴方が死す時は、この私も死す時よ。」
レディは、正座をする。
レディは、神妙に目前を見据える・・・。
「この私に腹を掻っ捌く真似をさせたら、死んでも恨んで嫌味を言い続けてやるわ。 百文字(ハンドレッド)。」
レディは、そう呟くと・・・。
レディは、じっと待ち続けた・・・。
永遠とも思える・・・。
静寂の瞬間(とき)を・・・。
幾度も幾度も、繰り返しながら・・・・。
レディは、じっと待ち続けた・・・。
・・・・・(待ち続けるは、一室。)
ギィ・・・(開かれるは、その扉。)
帰還をした巨身は、鮮血に塗れていた。
百文字は、毒砲の右目を抉(えぐ)り潰すと同時に、脳に損傷を与えた。
毒砲は、必殺の六波返し(ろっぱがえし)にて、百文字の頭蓋骨の縫合を外した。
共に脳が損傷(こわ)れ・・・。
ただ肉体(にく)のみが、敵者を欲し。
餓えた狼の如く、互いを壊し合った。
・・・だが、勝負は付かなかった。
しかし、こうして『愛する者』の元へと帰ってきた。
そこに言葉は要らなかった。
それだけで、十分であったのだから・・・。
あの日、あの時と同(おんな)じ様に・・・。
悲壮な決意で、待つはレディ・・・。
レディは、ひび割れた『匕首(小刀)』を見つめる。
ス・・・ッ(レディは、静かに立ち上がると・・・。)
タッ!(そのまま部屋を出て、駆け出したっ。)
タッ! タッ! タッ! タッ! タッ! タッ! (向う、その先は・・・。)
・『 QX団製多目的ヘリコプター ・ ド ニ ゼ ッ テ ィ G T − 1 8 』
レゼルヴェ国が一日革命『コマンタレヴ・ラプソディ』等で、レディが搭乗をした『レディ・ミィラの愛用ヘリ』である。
一見、非武装の一般ヘリコプターだが、高性能の内蔵機器が搭載されたその性能は『多目的ヘリコプター』の名に相応しい。
トッ!(レディは、ドニゼッティGT−18に飛び乗ると・・・)
バルルルルルルルルル ル ル ル ル ル ル ル ゥルルル ゥゥ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウーーーーーーー!!!
闇の夜空へ、消えていった・・・。
・・・・
○クロガネの賛歌・第3章 ー ギ ガ ン ト 破 壊 指 令 ー
第5話「 暗 中 、 死 す る は 、 黒 衣 か 青 (せい) か ? 」
・・・・
ゴ ” ッ ” ッ ” ヴ ” ァ ” ァ ” ア ” ア ” ア ” ア ” ア ” ア ” ア ” ン ” ン ” ン ” ン ” ! ” ! ”
真 っ 向 ッ !
真 正 面 ッ ! !
真 衝 突 ッ ! ! !
四次元の大拳撃とッ!!
超音震の斬手撃ッッ!!
大圧力と超振動・・・ッ!!
破壊のベクトルは大きく異なるが・・・・ッッ!!
そ の 大 威 力 ッ ! 双 璧 同 等 ( そ う へ き ど う と ) ッ ッ ! !
対(つい)為す、壊力(かいりょく)、引かず譲らずッッ!!
衝突対峙しッ!! 万力(ばんりょく)が、圧(へ)し合うッッ!!!
耐撃の百文字・・・ッ!
そして、鷲鼻のバトゥロッッ!!
共に・・・ッ!!
その驚異を悟り合い・・・ッ!!
そ し て 、 互 い に 理 解 を し た ・ ・ ・ ッ ッ ! !
決 戦 (しょうぶ) は ッ ! こ の 一 撃 に て ッ ッ ! !
勝 者 敗 者 を 分 か ち て 、 決 す る ッ ッ ッ ! ! ! !
・・・・
ゾクリーーーーッ!
戦慄が疾(はし)るッ!
ゾクリーーーーッ!
戦慄が背を疾(はし)るッ!
ゾクリーーーーッ!
甘い戦慄が、背を疾(はし)り抜けるッ!
ゾクリーーーーッ!
背のうぶ毛が、ゾワゾワと立ち上がり・・・ッ!
ゾクリーーーーッ!
甘い戦慄が、背を疾(はし)り抜けるッ!
ゾクリーーーーッ!
ゾクリーーーーッ!
ゾクリーーーーッ!
ゾクリーーーーッ!
幾度もッ!幾度もッ!幾度もッ!幾度もッ!
ゾクリーーーーッ!
疾(はし)っては抜ける『甘美な戦慄』ッッ!!
ピシィーーーーッ!!
互いの皮膚がひび割れてッ!
ジョボゥーーーーッ!!
互いの体液(油)が、滲(にじ)み漏れッ!
ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ!
超技が圧(へ)し合う、鈍音(どんおん)が響いてッ!
ズッッッッォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
衝突が『衝撃波』を生み出す最中(さなか)と言うのにッッ!!
ゾ ク リ ーー ー ー ッッ!!!
両者の甘い戦慄は、止まる事を知らなかったッッ!!
「 「 『 『 ちぇりぃぃいいいぁぁぁあああ あ あ あ あ ああああ ーーーー ー ー ー ッ ッ ッ ! ! ! 』 』 」 」
両者は呼応しッ! 叫んで吠えたッッ!!
・・・・
麻痺をしているのだろうか・・・?
両者の感覚は・・?
否(いいや)ーーーー。
そうでは無い。
この高密度の空間・・・っ。
麻痺した感覚で、乗り切れるヤワな空間じゃない・・っ。
乗り越えていける、ナマっちょろい空間じゃあない・・っ。
ーーーー そ れ は 、 高 揚 を 、 し て い る の だ っ っ 。
溶岩(マグマ)の如き、粘着(ぬば)って、燃焼(もえ)る、『 強靭(つよ)い モ ノ 』が、こんこんと溢れ出てくるっっ。
それは、肉体に属する力なのであろうか・・?
それとも、精神に属する力なのであろうか・・?
その両方(どちら)とでも、いうべきであるのだろうか・・?
ーーーー 形容する事すら、ままならないっ。 『 強靭(つよ)い チ カ ラ 』が、迸(ほとばし)っているッッ!!!
この高密度の空間ッ!!
今、溢れ出ているモノッ!
今、迸(ほとばし)っているモノッ!
今、張り詰めているモノを、失った者から、この空間から『脱落』をしていくッッ!!
今、滾(たぎ)らせているモノを、消失した方から、この空間から『消えて』ゆくのだッッッ!!!
・・・・
恐るべき斬手撃だ、耐撃のっ!
畏るべき大拳撃だ、鷲鼻のッ!
だがな、耐撃の百文字っ!
だが、鷲鼻のバトゥロッ!
私は壱歩たりとて、貴殿に譲るつもりはないっ!
ワシは壱歩たりとも、貴様から引くつもりはないッ!
貴殿もそうであろう、耐撃の百文字っ!
貴様もそうであろう、鷲鼻のバトゥロッ!
なぁ、耐撃の・・・っ!
なぁ、鷲鼻の・・・ッ!
憎しみをバネにするのなら、するが良い・・・っ!
哀しみをバネにするのなら、するがいい・・・ッ!
恨みをバネにするのなら、するが良い・・・っ!!
嘆きをバネにするのなら、するがいい・・・ッ!!
ーーーー 今 ッ ! こ の 瞬 間 (とき) ッ ッ ! !
燃 や せ る モ ノ が ッ ッ ! ! ど れ だ け あ る か だ ッ ッ ッ ! ! ! ! ーーーー
「 「 『 『 さ ぁ っ ッ ! い よ い よ 決 戦 ! 幕 っ ッ ! ! 下 ろ す 時 っっッッ !!!! 』 』 」 」
ゴッ!
超技が圧(へ)し合う。
ゴッ! ゴッ!
その鈍音(どんおん)。
グゴ・・・ッッ!!!
鈍音(おと)が変化(か)わった。
「死ぬ気か、耐撃の・・・ッッ!!」
バトゥロが呻くっ!
「貴様は、相違(ちが)うのか・・・? 鷲鼻のバトゥロッッ!!!」
百文字が吐き捨てるッッ!!
ィィィィ ィ ィ ィ イ イ イ(百文字が『 サイボーグ能力ッ! 』)
イ イ イ イ イ イ イ イ イ(『 超聴力 』の源ッ! 超振動を伴う『 超 ッ ! 音 ッッ !! 波 ッッッ !!! 』)
ビッッッシィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!! ( 百文字から、破滅の音 が す る ッッ!!! )
強靭な体躯を誇るッ! 『耐撃の百文字」と言えどもッッ!!
更なる超音波を発生させッ! 過度の『超振動』を受け続ければ・・・ッ!
崩れ落ちる事ッ! これ 必 然 ッ ッ ! !
百文字が咆哮(ほえ)るッッ!!!
「ワシは何としても貴様を倒しッ!」
「不倶戴天はアムステラッ!」
「そしてドクトル・ベイベーを『 討 ち 滅 ぼ し て く れ る ぞ ッ ! 鷲 鼻 の バ ト ゥ ロ ッ ッ ッ ッ ッ ! ! ! 』 」
ビキィ! ビキィ! ビキィ!(徐々に・・・ッ!)
ビキィ! ビキィ! ビキィ!(それでも確実にッッ!!)
ビキィ! ビキィ! ビキィ!(崩れ落ちてゆく『 耐撃の百文字 』 ッッ !!! )
バトゥロが咆哮(こたえ)るッッ!!!
「ならば、耐撃の・・・っ!」
「私も己の身を顧みず・・・っ。超加速を行うとしよう・・・・っっ!!」
「 『 加 速 装 ォ ォ オオ オ 置 ッ ッ ! ! ! ! ! 』 」
ーーードォ ン ! !
ーーそれは・・・っ!
ーーー正に、錯交した時機(タイミング)であったっっ!!
グ ッ ッ ッ ツツ ツツツ ツツ ツ ツ
ギャア アア ア ア ア ア ア ー ー ー ァ ァ ァ ァ ァ
ァンアンアンアンアンァンアン ァ ン ァ ン ァ ンア ン ア ン アンァンアンアンァ
ゴッッッッガァァアアァァァァアアアア ア ア ア ア ア ア ア アーーー ー ッ ッ ! ! ! !
轟音鳴り響くっ!!
両者、共に、吹きて、飛ばされるっっ!!!
「ぬかった・・・ッ!」
百文字は認めた。
「体駆内に超音波を発している以上・・ッ! 超聴力は死んでいたのだ・・・ッッ!!」
己のミスを。
「下げる頭(こうべ)は、幾らでもあるが・・・っ!」
バトゥロは認めている。
「果たして貴公に許してもらえるか・・っっ!!」
己の過(あやま)ちを。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴゴゴゴ ゴゴゴ ゴゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
さも天空から、振り降ろされたかの如くの・・・。
ーーー 大 鈍 器 ッッ !!!!!
全長45m。
体重460t。
三日の後。
その深夜。
マドモワゼル平原にて、23の刻(23時)ギガントを待ち受けると果たし状に記述(しる)された・・・っっ!!!
失 わ れ た 命 の 尊 厳 を 守 る 者 ッッッ !!!!!
ド ド ド ド ド ドドドド ドドド ドド ド ド ド ド ド ド ド ド
「無粋は承知している・・っ。」
「だがっ!」
「俺には、お前に与えなければならない『 報 い 』があるっっ!!!!」
「Mr.ハンドレッド っっ !!!! 」
「お前の相手は・・・っっ!!」
「この俺と、そして、この『 ク ル イ ・ ケ ン ・ キ ャ ク 』 だ っ っ っ ! ! ! ! 」
クルイ・ケン・キャクがその拳ッッ!!!
大地に叩きつけッ! 両者を吹き飛ばしたッッ!!!
そして、その操者こそ・・・ッッ!!
ーーー 「名無しの新兵(ルーキー)」 ーーー
「勝負は三日の後だ、ハンドレッドっ!!」
「白か黒か・・っ! マドモワゼル平原にて、ハッキリとつけてやるっっ!!」
クルイ・ケン・キャクは、転がっている『鷲鼻のバトゥロ』を拾い上げると・・・・。
ズッッドォォオオ オ オ オ ー ー ー ゥ ゥゥゥ ! ! ! (跳躍っ! 轟音と共に、去りて消えた・・・・っっ。)
・・・・
暗闇。
そして。
耳が痛い程の・・・。
『 静 寂 』
このまま、闇に溶けて。
何もかも無くなってしまいそうな、この『暗黒』。
あのまま続行(つづ)けていれば、どうなっていたのであろうか・・・?
否(いいや)。
もし。であるとか・・・。
もしもと言った事を・・・。
論じたトコロで、何の意味など無い。
百文字は、動けない。
油(ガソリン)が滲み流れ・・・。
光を失った眼光、か細く・・・。
ただ・・・。横たわって・・・。
ピクリたりとて・・・。
動く事など出来やしない・・・。
聞きたくもない、金切り声が脳に響く。
(チミは、知っていたハズでちゅ・・・。)
(人は、『やり遂げなければならない事』があるよりも・・。)
(『 今、自分に一体 何 が 出来るのか? 』と言う時にこちょ・・・。)
(『 強 く 成 長 で き る の で ち ゅ ・・・ 。 』)
金切り声は続ける。
(君は、勝負を急いだ。)
(そう。『やり遂げなければならない事』がある為に。)
(徐々に。それでも確実にその体駆が崩れ落ちていた君は・・・。)
(バトゥロの更なる超加速に。 『 耐えうる事が出来なかったでちょう・・・。 』 )
そして金切り声は、答えを言い放つ。
(君は・・・。)
( 敗北したのでちゅよ、 ハ ン ド レ ッ ド ・ ・ ・・ ッッッ ! ! ! ! )
百文字は答えない。
百文字は・・・。
動けない。
ーーーーーー
・・・続く。