既に態勢(じゅんび)は整っていた。

広げられた両の腕。
大圧力を弾き返す為、『膨張させたかのように見せかけた その体駆(きんにく) 。 』


全ては『レスラーへの賛歌 その100』への布石であった。

共に能力を知り得た二人。
勝負は一撃で決まる。

どちらが切り札が上か・・・。

否(いいや)。


どっちかどれだけ『 強 い の か ! ? 』



時期に、答えの出るその問いは・・・。

鈍痛(いたみ)と深傷(きず)とで、彩(いろど)られる。





・・・・




○クロガネの賛歌・第3章 ー ギ ガ ン ト 破 壊 指 令  ー




 第3話「 レ ス ラ ー へ の 賛 歌 」




・・・・



・『 レ ス ラ ー へ の 賛 歌  』



 20世紀後半・・・。
 この世で最も『プロレス最強』の幻想(ファンタジー)が信仰された国・・・。


 『 日 本 国 』


 時は移り。
 現代に至った、今も尚・・・。

 その幻想(ファンタジー)を信じて止まない熱狂者(信者)の数は少なくない。


 ジ・ハンドレッド(本名・百文字 豪介)は、日本国が誇る希代のプロレスラー。
 だが、決して『表の世界に出る事の無い闘士(レスラー)。』

 何故なら・・・ッ!



「「「ハンドレェェェェェェェッド!!!」」」

「「「いひ!見て見ろよ、挑戦者の顔! 今にもゲロ吐きそぉー!! 」」」


「「「今日も聞かせてくれよ! ミチミチと、靭帯が捩じ切れて行く”音”をよぉぉおおおおおおお!!!! 」」」



 何故ならッ!

 彼の戦場(リング)は『地下プロレス』ッッ!!


 日の当らぬ闇社会・・・。
 血で血を洗う暗黒の中。

 百文字 豪介は、40年間『地下プロレスの王者(チャンプ)』として君臨し続けた。


 並み居る強者を『血の海(マット)』に沈めて・・・。





ガシィ!!(百文字が、敵者を掴んだ!)


ヒィ!!?(ゲロ吐きそうな敵者をもろともせず。)



グ・・・ッッ!!(敵者の背後・・・!!)




グ・・グググッッ!!(『腰に手を回し、剛力込めて、絞 り 締 め る っっっ !!!!』)






「「「で・出るぞ! レスラーへの賛歌 その7!!」」」


「「「”鉄人”ルー・テーズへと捧ぐる、岩石落としぃぃぃいいいいいいい!!!!」」」





グォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!(真後ろへ、ブリッジを組むかの如く、反 り て 返 る !!!! )




ドッッ ッ ッ ガァァァァ ァ ァ ア ア ア アアアアアア!!!!( 『 バ ッ ク ド ロ ッ プ 』であるッッッ!!!! )





   グ チィァアアア ア ア ・ ・ ・・・ッッ!! (その脳天を、カチ割られ・・・・ッ)




             敵 者 は、 絶 命 す る ッ ッ ッ ! ! !






「「「うひょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 歓声が沸き起こる。




「「「ミンチよりヒデェェエエエーーーー! クッパッパッパパァァアアアアーwwww」」」


 下品で。



「「「あのイタリアン、チョォーヘタレ! さしずめ、 ヘ タ リ ア ってっトコかぁー!!!??」」」


 下卑た。



「「「 ” オフサイド流フーリガン殺法 ” って触れ込みからして、怪しかったしなwwww 」」」


 下々々な狂声。



「「「っしても、強ぇーな、ハンドレッド!!」」」
「「「プロレス最強ゥ! 地下プロ知らねぇ奴等が、Kだとか、総合言ってる訳っしょ?」」」

「「「ああww 昭和の時代から、最強はプロレスラーって決まってるのにな、テラウケルwwwww」」」」




有象無象。
強者と弱者。

打ち倒し続ける日々の中・・・。


一人の”強者”と巡り合う。


その男は深い『憎しみ』に包まれていた。

恨みを晴らす為に『戦場(リング)』へと上がったのだ。




・・・・




「WOOFHOFHOOOー!!(ウーフォーフォォォオオオオオオー!!)」

歓喜の声が響き渡る。


「軽くやっただけでも、屋内は『響く』ズラ。」


深い憎しみに包まれた。
その『強者(おとこ)』から、発せられる歓喜の声である。



「こいがオラさの『アパッチの雄叫び』っちょ。」

その男の名『ヂェロニモ』。



「ハンドレッドだか、ハンドバックだか、知らねぇズラが・・・。」

”ワイアード・ヂェロニモ”と呼ばれる・・・。



「常人が吸う数倍の空気を、声帯を通して瞬時に吐きだしたこの『 アパッチの雄叫び 』を前にしたのならズラ・・・。」

ネイティブアメリカン(インディアン)。



「鼓膜ばやられて、視界がドロドロ。」

ワイアード・トマホーク・チョップ(鋼線の如き・マサカリ染みた・その手刀)を武器に・・・。



「頭ば『ボォーっ』として、もう抵抗すら出来ねぇズラよ。ズラズラズラっちょー!!!!!」

アメリカ地下プロレス界で、ブイブイ言わせた、シュートレスラーである。





百文字とのこの一戦(死合い)。

開戦の鐘(ゴング)が鳴るや否や、ヂェロニモは『ウララ』と雄叫びを挙げた。


文字通りの『耳をつんざく そ の 爆 音 』。



地下プロレス会場と言う、密閉空間。


誰もが、鼓膜をやられ・・・。

誰もが、酩酊(めいてい)をし・・・。

誰もが、ボォ・・と。


 虚空を見つめて、意識が外になった。





・。

事実。


・・・・。

百文字もまた・・・。




 ・・・・・・・・っっ。

 構えたまま『動けない!!』





「けどば・・・。」

ヂェロニモは続ける。


「オラの目的は、おはん(百文字)じゃねぇ・・・っ。」

ヂェロニモの眼尻が、鋭く尖(とが)る。




ギン!!(ヂェロニモが。)


ギィロ・・・!!(観客席に居る、白いタキシードのキザ男を睨みつける!!)





 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴゴゴゴ ゴゴゴ ゴゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ





「復讐ズラ・・・ッ!」

鋭く尖(とが)った。


「お前(め)さ・・・。」

ヂェロニモの眼尻から・・・。



涙が一滴(ひとしずく)、滴(したた)り落ちる。



「オラの妹ば・・っ。」

「『インディアンモノ、サイコォオオオ!!』って嬌声挙げながら・・・っっ、」



「 嬲(なぶ) っ た 挙 句 に 殺 し た な ァ ・ ・ ・ ッ ッ ッ  !  !  」





「許さねぇズラ。」


マットに落ちた、その涙は。


「復讐心を感じているズラ。」


音も立てずに、染みて乾く。





それは決別。



「HYaーHAAaーー!!(ヒィャーハアアァーーー!!)」





何に決し、何に別かれを告げるのか。



この時まで、費やした時間?

此処まで来るのに失った青春?



  ど れ で も な い っっ !!!




ド ド ド ド ド ドドドド ドドド ドド ド ド ド ド ド ド ド ド



(復讐ってぇのはッッ!!)


(自分の運命への『決着』を着ける為にあるッッ!!!)



「MAXの雄叫びッ!」


「『アパッチの断末魔』で、この会場の観客ごとッッ!!」




「 大 音 響 の 叫 び 声(シャウト)で、 叫 び 殺 し て や る ズ ラ ァァァ ア ア ア ーーーー ! ! ! ! 」





ドヨ・・ッ!!?(先の雄叫びで、耳が利かなくなった観客達は。)



ドヨドヨドヨ・・ ・ ッ ッ !!!? ( いきり立つ ヂェロニモ に、『恐怖』を覚えるッッ!!)





ヒュゥゥ ゥ ゥ ウ ウ ウ  ウ ウ ウ ウ(会場全ての空気を、吸い込むが如く・・・。)



スゥゥゥ ゥ ゥ ゥウ ウ ウ ウ ウ ウウ ウ ウ ウ(胸部を肥大させ、肺に空気を吸い集める『 ヂ ェ ロ ニ モ 』 。 )




グググ グググ ググ( 肥大していく『 胸 部 』 。 )




グッ(肥大。)



グッ(肥大し。)




   グ グ グ ッ ツ ツ  ! ! ! (臨界点に達するッッッ!!!!!)





( 全 て を 劈( つ ん ざ ) け ッ ッ ! ! )



( ア  パ  ッ  チ  の  断  末  魔  ッッッッッ !!!!!!! )





その『刹那』であったッッ!!!!





(指先を揃えッ!!)


(敵者の喉元を『突き上げるッッ!!!』)




 ド ッ ッ ッ パ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア ー ー ーー ー !!!!! (この度は特別だッッ!!!)



    ・ ・ ボ  ッッ グリグリグリ グゥォォ オ オ オ オ ・・ ・ ・ ・ッッ! ! ! ! (その口に『捩じり入れてやろう!!!』)





         酩酊をしていた、百文字が『 気 を 取 り 戻 し た ぞ ォ ー ッッ !!!! 』



  刹那の地獄突きッ!!

  抜き手にて、ヂェロニモの口に、己の手を『ブチ込んだ 百 文 字 は ッッッ ! ! ! ! 』




  ガッ!!!(間髪入れずッ!)



    シィィィイイイイイイイイイイ!!!(ヂェロニモの口内ごと、アゴを掴む『百文字ッッ!!!』)




「レスラーへの賛歌 その8!」


「北斗の流星と呼ばれた、戦う国会議員へと!!」




グォォオオオ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オオンオンオンオンオ ンオ ン ン ン ン ォ オ オオ オ オ ! ! !



「 ワ シ は 、 こ の 『 G I A N T  S W I N G  』 を 捧 ぐる ゥゥウウウーーーー ッ ッ ! ! ! ! 」





・・・・



・『GIANT SWING(ジャイアント・スウィング)』



 仰向けの相手の両足首(または両膝)を脇の下に挟み込んでから抱え上げ、回転しながら相手を振り回す荒技。
 1950年代から1970年代にかけて活躍したアメリカのレスラー、ロニー・エチソンが創始者である。

 だが、数あるレスラーの中で、随一の使い手を挙げよ言われれば、ただ一人。

 高校教員にして、プロレスラー。
 国会議員にまで上り詰めた『馳 浩(はせ ひろし)』その人であると言えるだろう。


 毎試合の如くジャイアント・スウィングを行いっ! 保永昇男に25回転を仕掛け日本記録を更新するとっ!
 全盛期には30回転を超えっ! 遂には前人未到の『60回転』までをも達成をしたっっ!!

 引退試合では自身の年齢と同じ45回転を達成するっっ!!!

 氏が得意とする、裏投げやノーザンライト・スープレックスなどと比べ、決め技となる『必殺技(フィニッシュホールド)』 では無いものも・・。
 これ程、プロレスが持つ『エンターテイメント性』を表現した技は無いと 断 言 を す る っ ! !


 尚、この技をかけた際に自分の目を回さないようにするコツは、目線を回す方向とは逆にしながら回す事との事。

 これはバレエのフェッテ(爪先立ちの片足を軸に回転する)のコツと同じ原理である。





「少々変則ではあるが、GIANT SWINGだッッ!!!」


「貴様の口内ごと顎を掴みッ!」

「ワシの剛力で持って、振りまわし続ければッッ!!!」



「その肺に溜め込んだ空気を、声帯を通して吐きだす事は出来まいッッ!!!!」




「 『 ちぇりぃぃいいいぁぁぁあああ あ あ あ あ ああああ ーーーー ー ー ー ッ ッ ッ ! ! ! 』 」






グォォオオオ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オオンオンオンオンオ ンオ ン ン ン ン ォ オ オオ オ オ ! ! !


     剛力に任しッ! ヂェロニモをブン回し続ける『 百 文 字 ッッッ!!!! 』





回る回る地球が回るッッ!!


否(いいや)ッ!!

回っているのは地球だけでは無いッ!!


世界が回れば自分も回るッ!

回るが故に、回って回るッ!


全てが全てで回って回るッ!!


ああ・・・ッ!

世界は!地球は!宇宙は!!


こんなにも回っていたのか・・・ッッ!!!



回るっ。回るっ。回るっ。回るっ。


とても強い力だっ。

とても逆らえない力だっ。


そう・・・っ。


世界に支配されっ。

地球に支配されっ。

宇宙に支配されっ。


そして、コイツ(百文字)に支配をされる・・・ッッ!!


運命だっ。

運命だっ。

運命だっ。

運命だっ。



” ウ ン メ イ  ”  ダ  ァ ァァ  ・・・・・ ッッ!!!














「ガ・・・」(ヂェロニモが呻く。)


「・・・・ァ。」(力無く、呻く。)


「・・・・・・・a。」(さながら。)


「・・・・・・・・aaa。」(現代社会。世界の荒波の中。)


「・・・・・・・・・・・aaa・・aaァ・・・ッ。」(苦心し生きてく『我々のように』・・・ッ。)




  グゥオオオオオ!!! (百文字は、更に強く回転をするッッ!!!)




「そして、異国の戦士よッ!」




「貴様はッ!」


 『 悲しみを秘めた 戦 士 である ッッ!! 』 」



「貴様はッ!


 『 貴様は悲しみを糧にした 戦 士 で あ る ッッ!! 』 」



「今から、貴様の・・・ッ!」


「命(すべて) を  強  奪( う ば ) う  が ・・・・ ッッッ!!!!」




「貴様が望んで止まなかったッ!!」


「貴様が望んだ『運命への決着をッッ!!!』」




「『 こ の 度 、 ワ シ が  叶 え て や ろ う  ッ ッ ッ  ! ! ! ! !  』 」





 グゥゥウウウウウン!!(最後の一回転ッ!)


   ウォォオオオオオオオオオオ!!!!(剛力終着、遠心力となりてッッ!!!)




ゴォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!(観客席、目掛けてッ!!)




    ヂェロニモを、ブン投げッ! 放り飛ばしたぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!





・・・・



 ォオオオオオオ!!!(放り飛ばされる、その最中。)



   ォォォオオオオオオ!!!(ヂェロニモは目視をする。)




己が飛ばされる。


その先は。




ォォォォオオオオオオオ!!(己の妹を嬲り殺したッ!)



    オオオオオオオオオオオオ!!!(白いタキシードのキザ男ッッ!!)



ヂェロニモは、去来をするっ。


己の胸に、去来をするっ。


何よりもっ!

何よりもっっ!!


何よりも強くっっっ!!!




『 思 い 出(いもうと)  沢  山(おもいで) 、 去 来 を す る ッ ッ ッ ッ ッ ! ! !  』




(ケンカばっかでっ!)


(ウザイウザイと思えて仕方の無かったっ!!)



(『オラの妹』っっ!!)



(けれど、あんな形で殺された時ッッ!!!)



(オラはその『ウザかったその事柄一つ一つがッッ!!!』)




(『 掛 け 替 え の 無 い 、 タ カ ラ モ ノ の 数 々 で あ る 事 を 思 い 知 っ た ッッッ!!!! 』 )




「 『 ウ ラ ラ ラ ァァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ! ! ! ! 』 」(ヂェロニモは叫び声を挙げるッッ!!)







    ドッッ ッッ ッ パ ァ ァァ ァ ァ ァ ァア アアアアア ア ア ア ア ア ア アアア ア ア ア ア ン ン ンン ン ! ! ! !





破裂音がした。


そして次の瞬間。


真赤な液体と・・・。

千切れて、爆(は)ぜた無数の肉片が飛び散って。


  霧散をする・・・。




ネイティブ・アメリカン。

『ワイアード・ヂェロニモ』と呼ばれる男は・・・。


  もう其処には『存在しなかった。』



そして、彼が憎んで止まなかった・・・。


白いタキシードもキザ男もまた・・・。





  ー ワイアード・ヂェロニモ 男 年齢26

    必殺技 アパッチの雄叫び、そして『アパッチの断末魔』。



           ・・・ ・ ・ ・ ・ 『  死 亡 。 』





・・・・



静寂。

どよめきすらも起こらない。


百文字は・・。


静かに口を開く。



「異国の戦士よ・・・。」


「この地下プロレス(闇の世界)・・・。」


「貴様のような。」

「誇り高き戦士と『死合えた事』を賛歌する・・・。」



「貴様に尊敬の念を持ちて・・・。」



「『 レ ス ラ ー へ の 賛 歌  そ の  1 0 0  』 。 」



「貴様の為に、捧げるとしよう。」


「その名も・・・。」



「 『  ハ  ン  ド  レ  ッ  ド  ・  ヂ  ェ  ロ  ニ  モ  ン   』  」







ーーーーーー



・・・続く。