ソイツは円らな瞳をしていた。
前髪を垂らしたポニテとブッッとい首。

そいつは誰だ?そいつは“コブチ”。全長2mを誇る黒人男性である。

そのコブチが地球に降り立った。
地球に降り立つ・・・。それは彼が“宇宙人”である事を指し・・。

その目的は地球侵略。即ちアムステラ神聖帝国に雇われた傭兵である事を指し示している。


「此処が。」 (マッスルポージング ONE!)

「地球だ。」 (マッスルポージング TWO!)


ムキ!ムキキとマッスルポージングをかまし気分も上々のコブチに対し。

コブチを超える208cmの大男が現れる。

その主。その体躯の主は・・。
とても・・・。とても『青い男』であった。

先が鋭く。下に曲がった鼻を持ち。
青い外套を身に纏い。

静謐(せいひつ)を覚える、顔立ちをし。
年月(としつき)を感じる、皺(しわ)が刻み込まれ。

整った頭髪と。整った顎髭(あごひげ)と。

髪が青くて。顎髭(あごひげ)も青くて。

眉も青い。


その男の名を・・・。



『 鷲 鼻 の バ ト ゥ ロ 』。


コブチはバトゥロを見上げながらこう言う。

「貴様が此処の司令官か?」


バトゥロが答える。

「表向きは『ボギヂオ・クラケット大佐』が司令官だがな。」

「事実上、司令官であるのは、この私『鷲鼻のバトゥロ』だ。」


コブチがこう言う。

「ほう。事実上とな?」

バトゥロ。

「手柄の全ては『ボギヂオ・クラケット大佐』にモノになる。」

「私の手柄は、一部の将校のみに知れ渡り、決して公(おおやけ)になる事はない。」

コブチ。

「つまりは『影』と言う訳か。」

バトゥロ。

「そう『影』だ。」

コブチ。

「いずれにせよ、司令官である事には変わりない。」

「早速でスマンがメシを食わせてくれ。腹が減って構わぬ。」

バトゥロ。

「ああ、早速手配しよう。」

コブチ。

「MESHIYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!」


ドッドッドッドッドッド。

駆け足で向かうコブチ。

バトゥロは1人モノ思う。

「(狂剣客(クルイ・ケンキャク)に乗る者がどのような姿をしているかを既に知った。)」

「(その事柄は一言や、一概に語り切れるモノではない。)」

「(だが『ギガント破壊指令』。この指令に置いて私は、私自身がギガントを・・そして耐撃の百文字を倒す事を望んでいる。)」

「(ならば話をつけに行こう。決着を付けるのは、この『鷲鼻のバトゥロ』だ。)」





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○クロガネの賛歌・第4章


 ー ギ ガ ン ト 破 壊 指 令  ー  爆 熱 ! 巨 大 ロ ボ ッ ト 編



 第4話「 俺 は 強 く 生 き る ん だ ! 」





・・・・







コンコン。

アタッシュケース片手にバトゥロはドアをノックした。

すると。

「どうぞ。」

と女性の声が返って来る。


「・・!」

バトゥロは一瞬固まる。

「(声までも瓜二つとはな。)」

その声は姦計により、殺された愛娘『フランソワ・オーギュスタン』とソックリであった。

過(よぎ)るは思い出。数々の思い出。赤ん坊の頃から成人し軍人になり・・・。

・・・。そして姦計により殺された。

愛しきは我が娘、フランソワ・オーギュスタン。

溢れんばかりの万感。

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ガチャ。

バトゥロはドアを開く。

そして自分に言い聞かせる。

娘は死んだのだ。何を迷うか、鷲鼻のバトゥロ。

そして、こう言う。

「失礼する(エクスキュゼ ムワ)。」

「私は『鷲鼻のバトゥロ』。事実上の此処の司令官である。」


そう言い放ち。目の前の女性を見つめる。

似ている。写真で見るよりも遥かにソックリだ・・。

姿も仕草も我が娘フランソワ・オーギュスタンと生き写しだ・・・。

フッっとした瞬間、見入ってしまいそうなぐらい似ている。

しばしの沈黙。


そして女性が答える。

「話は聞いたよ。」


バトゥロが続ける。

「ああ、要件は“ギガント破壊指令”だ。」


女性も続ける。

「“ギガント破壊指令”・・。」

「俺がギガント28号と百文字(ハンドレッド)と呼ばれる、あの黒衣の大男を倒せって事。」


バトゥロ。

「その通り。新兵の君に重荷を背負わせる事になる。」


女性。

「だが悪い話じゃない。」

「俺はドッグメェン隊長の仇を討ちたいと思っている。それが適うなら願ったりだ。」

「あんた達、アムステラ軍人への不信感は強いまんまだけど・・・。」

「前に進まなきゃと思っている。『俺は今を強く生きて行きたい』。」


バトゥロ。

「・・・・・ッ。」


バトゥロはまたハッとする。

強く生きる。それもまた、フランソワの口癖であったからだ。

口癖。いいや、それだけじゃない。喋り方そのままフランソワとソックリであった。

私は娘に“フランソワ”と言う男の子の名前授け。娘はその名に恥じず強く育った。

自分の事を「俺」と言うトコロも似ている。

彼女が育った星は男女の口調と、男女を指し示す一人称や三人称に・・。

一切の違いの無い星と聞き及んでいる。


だからと言えばそれまでだが。

余りにも似過ぎている。


似過ぎれば似過ぎる程、その残酷な死が頭を過(よぎ)る。

娘と重ね合わせてしまう自分が居る。

それではいけないと思いつつも、抗えない自分が居る。


そして彼女が願う『仇討ち』に手助けをしたくなってくる。

見上げたモノではないか。自分が大切するモノの為に戦うと言う事。

それは敬意に値する事だ。手助けをし、その悲願を達成させてやりたい。


それと同じ位・・・。

百文字と戦わせてはならないと言う気持ちも込み上げてくる。誰がどう見ても格が違うからだ。

来るべくギガント破壊指令に『必勝の策』を授けると言えど、百戦錬磨の百文字相手に何処まで食い下がれるかと言えば甚だ疑問だからである。


何よりも、百文字との決着は私自身が付ける事を望んでいる。

それは。男には、ハッキリさせねばならぬ事があると言う事であるからだ。

男には、避けては通れぬ『 道 』があると言う事であるからだ。

ドクトル・ベイベー様に食い下がってでも望んだ『 百 文 字 と の 決 着 』。


早々と譲れる訳がない・・・!!




故にバトゥロはこう言う。

「このケースを見て欲しい。」


ガチャ。バトゥロはアタッシュケースを開く。

その中にはギッシリと詰まった「札束」が入っていた。即ちは大金。


バトゥロは続ける。

「女1人が生きて行くと言う事に、何一つ不自由のない位の大金だ。」

「除隊して、1人の女として生きて行きたまえ。」

「ギガント28号は・・・。耐撃の百文字(ジ・ハンドレッド)は私が倒す。」

「それが終生のライバルとして私が持つ『宿命』だからだ。」

・・・・

・・・

・・



沈黙。

空気が張り詰める。

考えている。お互いがお互いを。

その金額が誠意を示している。

その言葉が決着を望んでいる事を指し示している。


どうする?

どうする??

どうする???


女性は・・。


「・・・・。」


首を振り。

こう言い放った。

「バトゥロさん。アンタのしてくれた事はとても有難いよ・・・。」

「けど此処で逃げたら駄目だよ。大金持って此処で生きるってのも大変な事だけれど。」

「大切な事に目を瞑ったまま生きて行く事を良しとは出来ない。」


そしてこう言う。

「俺はアンタを押しのけてでも、ギガント28号を打ち倒したい。」

「百文字(ハンドレッド)がアンタにとって、終生のライバルと言うのなら・・・。」

「俺にとって百文字(ハンドレッド)は、超えなければならない巨壁だよ・・・。」

「譲れない。俺は戦う事を望みます。」


そう聞いた鷲鼻のバトゥロは。

「失礼する(エクスキュゼ ムワ)。」

上半身に纏っているモノを脱ぎ捨てた。

その姿は、鋼鉄と生身の合いの子。

醜い姿を晒し、そしてこう言う。

「ギガント破壊指令は君を『サイボーグ化』しなければ、為し得る事は出来ない。」

「それもただのサイボーグでは無い。」

「誰の目にも見えなくなる可能性を秘めた“銀装隠密型(メタルハイド・タイプ)”のサイボーグになる事だ。」


バトゥロは振り絞る様に言い放つ。

「思いなおしてはくれぬか?君は人で無くなるのだぞ・・!」

「人が人として為し得る幸せを投げ捨ててまで、超えねばならないモノに立ち向かう事だけが勇気じゃない。」

「そうだ。真正面を向いて生きる事だけが素晴らしい事ではない。例え目を逸らそうとも精一杯生き続ける事に生の喜びがある。」


サイボーグ化・・。

これぞ『打倒!百文字』への必勝の策!!

彼女本人は知る由も無いが、彼女には『超人間(ギガント・バディ)』になりうる素質があった。

故に無理矢理、軍に引き入れた。ただでさえ少ない“精神感応能力者”の中でも、千人に『一人』と言う、余りにも“稀有な”『 適 合 性 』。

そしてオレグレイの覚醒から知り得る「困難に抗う事」により目覚める『 超 意 識 』。

普通の人間は、視覚・味覚・聴覚・嗅覚・触覚の五感と、霊感や超能力とも言われる第六感の、6つの感覚があるが、

超人間はその先。言わば『 セ ブ ン セ ン シ ズ 』とでも言うべき、潜在された能力『 第 七 感 』 。

その力を持ってして『狂剣客(クルイ・ケンキャク)』を操ればギガント28号にも勝ち得るかも知れない。


だが、その代償は余りにも重い・・・。

人間でなくなると言う事。人間である事の幸せを哀しみを人生を・・・。

そ の 全 て を 捨 て る の だ 。

軽いハズがない。軽いワケもない。



女性は一筋の汗を掻き。

少し間を置いて・・・。


そしてこう言う。


「逃げられません。」

「無理矢理、軍人にされ精一杯着いていこうとやって来たこの1年だ。」

「仲間達は全員死んだ。本来、俺も死んでいたハズだった。だのに隊長が俺を突き飛ばして俺だけが生き残った。」

「あの日ギガント28号と百文字(ハンドレッド)と呼ばれる男に出会った事により、俺の運命は決定づけられたんだ。」

「後生です。バトゥロさん。俺は強く生きるんだ。」

「俺をサイボーグにして下さい!そしてあのギガント28号と戦わせて下さい!!」


・・・・。

・・・。

・・。

・。


永遠とも思える一瞬の時が流れ・・・。

バトゥロは答える。

「解った。」

「君にサイボーグ手術を施そう。」

そう言い放った。

状況こそ違うが、あの時もそうだったな。

バトゥロはフランソワを思い出す。

娘が軍人になると言ったその時、私は反対をした。

だが娘は言い放った。強く生きたいからと言い放った。

そして、娘はこう続けた。

親父が何故ボクシングを引退したか俺は知っている。


あれは14の時だった。
セコンドで父バトゥロの応援をしている最中。
血気に逸る挑戦者は、散々父を罵倒した挙句に、
不意に赤コーナー、セコンドの私に近付いて、こう言った。


「ヘーイ!ビチビチィビィーッチ!」
「今からテメェの親父をキャンバスに沈めて、俺がチャンプでイットーショーだ!!」

「テメェにゃあ特別、祝賀会のストリッパーやらせてやんよ、
 メーンイヴェントだぜ!ウヒィィイイヨォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


捲し立てるように罵声を浴びせかけ・・。


「ギィヤァーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ………Peッ!!」


散々嘲(あざわ)らった挙句に、顔面にツバを吐きつけて来たのだ。
私は、ショックでただただ固まった。


カァアア〜〜〜ン!


気が付くとゴングが鳴っていた。


それは・・凄惨な試合となった。
ゴングが鳴るや否や、肉がグラブで打ち抜かれる音が木霊し続ける・・。


それは今まで聞いた事も無いような強い打撃音であった。


それは今まで聞いた事も無いような強い打撃音であった。


それは今まで聞いた事も無いような強い打撃音であった。



そして・・・カンカンカンカァ〜〜〜〜〜ン!!



10秒もしない内に試合は決着した。
挑戦者は『肋骨』が、8本『粉砕骨折』をし、呼吸すら困難状態であると言う。


そしてこの試合を理由に父はリングを降りた。
『(我を忘れた)私はボクサーとして相応しくない』との事だった。


いいや。・・違う。
原因は明白じゃあないか。



私が・・。
私があの時、傷ついた顔をしてしまったから・・・。


・・『強く生きよう』。


この時、私はその言葉の意味を理解した気がする、
それはこの世の残酷に立ち向かう為に必要な事だからだ。


そして・・!『大切な何か』を失わないその為にであるからだ!!!

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そう。それは大切な何か・・。

誰であろうと『大切な何か』の為に今を生きている。

それを無碍に取り払う事が出来ようか。

バトゥロはこう言う。

「ではすぐにも取りかかろう。」

「私に着いてきてくれ。」


女性は答える。

「はい!」

と。

そして今日この日・・。

また人ならざる存在が誕生した。







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 ・・・続く。