Elegant Sword.2





ネスター

 弱い。ここ数ヶ月の戦績を鑑みるに、ランカスター隊は弱いと言わざるを得ない。ネスターは自分が副隊長として加わることになった部隊を、夜を徹して分析していた。では、その弱さの原因はどこにあるのか。
 エドウィン・ランカスターは、操兵パイロットとしての腕は中々のものだった。地球の戦線に加わる前に初陣は飾っており、経験不足は否めないが若手士官として落第生ではない。また、八旗兵と呼ばれる集団が常に側で戦ってきた。彼らは全員が近距離格闘の専門家で、しかも愚直なまでエドに忠誠を誓っている。陵鷹、絶璃といった操兵は、フランダル家謹製のもので、いずれも優良だった。
 他に、妙な執事たちの率いる"バトラー隊"なるものが存在するらしいが、彼は見たことが無い。その操兵は格納庫に無く、その兵士は基地内で見つからない。エドに聞いてみると、ピンチになったら現れるらしい。これは戦力としてカウントできない。
 過去の戦績を洗ってみても、フランダル艦隊が健在の間はその下で、アジアに猛威を振るっていた。だが、艦隊解散後は僅かな部下を引き連れ、小規模な部隊としての戦いを強いられている。その期間、勝ったり負けたりを繰り返している。それはいい。厳しい局面は彼らを鍛え上げていた。その証拠に、フランスでは音に聞くシャルル・ド・サンジェルマンを一度は破り、ベヌウ紛争では勝利に貢献した。
 思えばそれが転機だった。戦果を認められたエドは、上層部から大隊規模の部隊を任されたが、その多くが新兵を含む未熟な部隊だった。彼らと混じっては、陵鷹や八旗兵の戦闘力も足を引っ張られ、隊全体の力を発揮できずにいた。
 エド自身が自分だけの部隊を持つ経験に欠けていることも、大きな問題だった。今まで彼が率いる部隊は、フランダルの与える訓練済みのものばかりで、今の部隊とは比べようも無い。

 ならば、兵士たちを自分が鍛え、戦えるようにすれば、ランカスター隊は見違えるほど強くなるはずだ。ネスターは結論に至った。
 4時間ほど寝て、朝。ネスターはミーティングルームへと足を運ぶ。彼を交えた最初の部隊内会議が開かれることになっているのだ。扉を開くと、別部隊の兵士数人がカードに興じていた。彼らを容赦なく追い出すと、会議で提案する内容を書いたプリントを整理しつつ、他の者を待つ。
 最初にやって来たのは八旗兵たちだった。フランダル家の私兵。軍の統制に置かれない兵士をネスターはあまり好まないが、これからは共に戦う仲間だ。上手く折り合いを付けていかなければ。続いてエドが現れた。

「よう、俺様の新参謀。今日は頼むぜ」
「部隊の勝利に貢献できるよう努めさせていただきます」

 軽く挨拶を交わした後、エドは八旗兵一人一人に言葉をかけていく。そのとき、名前も呼んでいたが、ネスターには彼らマスクの集団をどう見分けているのか、見当もつかない。
 最後に集合時間いくらか過ぎた頃、分隊を率いる士官たちがぞろぞろと姿を現した。時間を守れない人間は鍋に入れてグツグツ煮てやりたい衝動に駆られるが、それはこれから正していけばいい。さあ、会議の始まりだ。

「隊長、こんな集まって今更何を話すんですか?」
「うむ、重要な議題がけっこうあるのだ」
「それは?」

 ネスターが最初に話すべき議題をこれと決めた時、エドはすでに口を開いていた。

「俺様の新部隊に名前をつけるのだ」
「名前……?」
「参謀を加えてから俺様たちは心機一転、精強な部隊になることを目指す。その節目として、何かカッコイイ名前を考えてくれ」

 アムステラ軍の部隊は指揮官の名前で呼ばれることが多い。有名なものではシャイラ隊、カスム隊、ステラ隊などがよく聞かれる名だ。それとは別に、漢字名を冠する部隊も数ある。影狼隊や毘沙門隊がそうだ。
 まあ名前を変えるぐらいのことは、口出しすることでもあるまい。ネスターは話の進展を見守ることにした。

「名前ですか。隊長は何か考えがあるんですけい?」
「いくつか考えた。"エレガントファイターズ"というのはどうだ?」

 一同が静まった。八旗兵たちはどう反応したらいいか迷っているらしく、パンに視線を集めている。それにならって士官たちもパンを見つめた。

「ダメでしょう」

 パンが素っ気無く言う。

「うっ、ダメかよ……」
「ダサいです。そんな名前を聞いたら、敵からも味方からも侮られます」
「そうっすよ、その名前はちょっと」
「じゃあ"鷹の団"」
「どこの傭兵ですか」
「うーん、俺様の陵鷹が白いから"白鷹隊"にするか」
「まあまあカッコイイんじゃないですかね」

 その後、それぞれが思いついた部隊名を発表していく。その中で、"王子様大隊"などというバカな名が出ると、エドが食いついた。

「それだ、王子様!」
「少佐、それはちょっと……」
「何を言うネスター、俺様は地球人から『白き王子様』とか呼ばれ、恐れられたい!」
「どう呼ばれたいかは自由ですが、敵が少佐をそう呼ぶことは無いでしょう」
「じゃあ機体に書いておくか、王子様って」
「バカなこと言ってないで、このくだらない議論を早く終わらせてください」

 エドの表情が険しくなる。

「お前にとってはくだらないことかもしれないけど、俺様にはこだわりがあるのだ。いい名前をつけた馬はいい走りをするのだぞ」
「差し当たってこの駄馬たちに必要なのは、名前ではなく訓練でしょうに」
「駄馬? おいおい、俺様の部下たちのことか?」
「あんたも含めたこの体たらくどものことだ!」

 ネスターは、またやらかした。それからのことは記憶が飛び飛びで、何を喋ったか覚えていない。とにかくエドを黙らせ、怪訝顔の士官たちに怒声を向ける。
 訓練がなっていない、規律がなっていない、負け犬根性が染み付いている。そういったことを、一つずつ事例を挙げながら言い放つ。窓が開いていた。八旗兵がいなくなっている。だがそんなことはどうでもよかった。
 気づくと、エドを含めた一同は静かで従順になっていた。熱意が伝わったようだ、と考えたネスターは、全員に資料を配った。

「これは今月に行われた戦闘の内、当部隊が参加したもののデータです。見てください」

 今月の初め、敵基地に攻勢をかけた時、エドたちも加わったが、途中で分隊の一つが道に迷い、到着が遅れた。この戦いでは地球人のスーパーロボットによって味方に多大な被害が出た。エドたちも予定通りの進軍をしていれば、前線で危険に晒されていた可能性がある。

「この時はラッキーだったなあ」
「あなた方がいれば戦況が変わったかもしれないのに、まずそれですか」
「すいましぇん……」

 その次に起きた戦闘は、基地の防衛線だった。エドたちの守りについた部署には申し訳程度の敵が、牽制の攻撃を仕掛けてきた。エドたちはそれを蹴散らすため、基地から飛び出し、5kmに渡って追い回した。


「これは軽率に過ぎます。あなた方の任務は部署の守備だったのですよ」
「攻撃的防御ってことで勘弁してくれ、な」
「これが誘い出すための罠だったらどうするのですか?」
「ああ、そういう手があったか。今度試してみよう」

 三つ目の戦いは、地球軍の女性で構成された部隊に完全敗北した。

「女が相手だとつい興奮しちゃうんだ、ハハハ」

 反省の色が無いエドに呆れつつ、ネスターは次の資料を配った。

「これは私が考えた部隊再編案です」
「再編か。あんまり大きくいじるのはどうかと思うが」
「それは私も考えましたが、現状この部隊は、平均的に操兵を配置することで返って効率を悪くしています」

 空戦型羅甲、砲戦型羅甲、通常羅甲など、用途の異なる操兵を各分隊に同数配置してある。これは部隊ごとの戦力を平均にする効果はあったが、低い水準で平均を保ったところで意味は無い。

「空戦型羅甲を集めて機動力重視の部隊を、砲戦型を集めて火力重視の部隊を、適性にあったパイロットを選んで編成します」
「俺は空飛ぶほうがいいんだけど」
「黙れ」

 文句を言った士官の一人に叱声を浴びせると、関係ない他の者までもが怯えた様子だ。

「次は強化訓練のメニューです。近日、敵の攻勢が予想されているため時間は少ないですが、二週間ほど訓練に集中する期間を頂きました。有効活用しましょう」

 午後から特訓が始まった。とは言っても、短期間で身につけられる技術などはたかが知れている。今は基本的な動きや、操兵での集団行動に慣れる必要があるので、その点を重点的に鍛えるメニューを組んだ。
 まず、操兵で編隊を組んで、走り回った。速度を合わせ、体形を崩さずに移動する訓練だ。指示通り動けなかった者にはペナルティーとして腹筋や腕立て伏せなどが科せられる。これに慣れてくると、次は各部隊が、移動しながら前後を入れ替え、右に左にポジションを代える。
 エドは常に先頭に立つ。陵鷹は修理中なため指揮官用羅甲に乗り、ネスターの合図に合わせて指揮を執る。実戦では、エド自身がこの合図を出すことになる。
 操兵の移動は、そう簡単にはいかなかった。砲戦型羅甲のレール砲に他の羅甲が引っかかり、転ぶ。ドミノ式に、転ぶ。この訓練を上手くこなしていたのは八旗兵だけだった。
 次第にペナルティーが加算され、八旗兵を除く隊員はみんな、腹筋、腕立て伏せ、スクワット等、各500回ずつを超えてしまった。かわいそうなのでこれ以上は加算しないことにする。
 一週間が経過してから、訓練用の模造武器を用いて、実戦訓練に移った。集団戦では、個々の戦闘力が飛びぬけていても100%勝てるわけではない。特に弱いものは、集団戦法を徹底させて勝率を上げることが問われる。
 その点、八旗兵は一人一人が優れた武人であるだけでなく、チームワークも洗練されている。彼らがいい見本となるだろう。

「八門禁鎖の陣!!」
「この陣に飛び込むと死ぬ!!」

 ダメだ。今の隊員たちには真似できないし、しても意味がない。彼らには連携の基本から叩き込むほうがいい。
 あっという間に二週間が過ぎ、前線は慌しくなってきていた。ランカスター隊も戦いに加わることとなり、最前線へと移動していく。その作業も、行程も、統制が強まっただけでいくらか素早くなっている。

「俺様の兵隊が整然と動くようになったぜ」

 エドが嬉しそうに言った。元々兵士としての訓練を受けた者たちだけに、秩序を与えてやれば、それらしくはなる。問題は敵を倒せるかだ。



 基地から離れた駐屯地で軍議が開かれた。エドとネスターも出席を許されている。といっても、発言することは無い。地球軍が接近しているのを迎撃するため、担当部署と作戦の概要を伝えられるだけの軍議だった。

「敵は三つの軍用路から侵攻して来ます。我々が担当するのはその東側、山岳地帯です」

 立体映像投影機に映し出された作戦図で説明する。

「敵の規模はそれほど大きくありません。おそらく、こちらの出方を伺うのが目的だろうというのが、上層部の判断です。私もそう思います。これを撃退するのが我々の任務です」
「詳しいことは参謀に任せてある。新生ランカスター隊の力を見せてやろうぜ!」
「オウ!」
「我が部隊は、少し遠いですがこの地点まで前進します」

 ネスターが山間の一点を示す。

「ここならば機動兵器は広く展開できません。ここに防御陣を布いて迎え撃ちます」
「我々八旗兵は待つのは不得手だが」

 パンが口を挟んだ。八旗兵の絶璃は接近戦用の武器しかない。

「八旗兵は別行動を取ってもらいます」
「別行動だと?」
「山中に間道があるので、そこを通って、敵の側面に出てください。普通の操兵なら通るのに不便な道ですが、絶璃の走破性能ならば可能です。ランカスター少佐の本隊は持ち場を死守して、八旗兵が到着した頃合に一斉攻撃をかけましょう」

 本隊はまだ難しい作戦を実行できない。対して八旗兵は、この山岳戦で力を発揮できるようにして、長所を殺さない。これが今出来うる最善手だろうとネスターは考える。
 パンはネスターの作戦に熱心な賛成は示さなかったが、頷いて承諾してくれた。おそらく、手並みを見ようと考えているのだろう。

「では少佐」
「おう、出発だ!」

 各隊がそれぞれの持ち場へ移動を開始した。ネスターは、操兵を扱えないため、少し下がったところで装甲車からサポートを行う。戦況の変化に合わせて善後策を練ることも重要な役割だ。彼の下には前線と後方拠点の両方から情報が流れてくる。通信は良好。ジャミングはまだ薄い。

「少佐、友軍は敵と接触を始めたようです」
「そうか。おっ、こっちも何か来たみたいだぜ」
「敵ですか?」
「ああ、きやがった!」

 緊張が走る。自分の指導した部隊は果たして勝てるだろうか。エドの統率と八旗兵の活躍が鍵を握っている。

「おや、あれは……」



 エドたちの眼前に地球の機動兵器が姿を現す。地には戦車、歩兵。空にはヘリ。こんなものが操兵に適うはずも無く、彼らは近づいてこない。本命はその後だ。来る。10機前後の高熱源体が。
 A-72。女性だけで編成された、というかこの間ボロクソに負けた敵だ。

「ヒョウッ、隊長またあの娘たちですよ!」
「もしかして俺たちに会いに来てくれたのかい!?」
「あらぁ、聞き覚えのある下品な声ね」

 通信機から軽蔑したような声が聞こえてくる。

「確かに、貴方たちとまた会うかもしれないとは思っていましたよ。ちゃんと迎え撃つ用意も万端にしてね!」

 見てみると、彼女たちの機体は前に見たときより遥かに重装備だった。
 直後、激しい砲撃が山肌を穿った。最初からクライマックスな衝撃が彼らを包み込む。パンたち八旗兵が戦場に着いたとき、視界に入るのは味方の操兵のスクラップだけだった。


「私があれだけ準備を整えたのに、半時も持ちこたえられないとは、あんた方は何をしていたのですか!?」

 エドの襟を掴んで頭を激しくシェイクする。エドはうなだれたまま抵抗もしない。敵が本腰を入れていなかったから、逃げ帰ることも出来た。兵士たちもしぶとくみんな生還している。だが、これが大掛かりな侵攻だったらと思うと、思わずぞっとする。

「その、強いんだよ、あの娘たち……」
「そしてあんたらは弱い、この上なく! だから守りやすい地形を選んだのにそれも生かすことができないなんて」
「貧乳なんだ……」
「は?」
「いや、もしかしたら、まな板なのかもしれない。なあ、そういう女の子お前はどうよ?」

 エドが何故か真面目な表情で尋ねてくる。この状況でこの内容の問いをすることがどれだけ相手を舐めた行為か分かっていないようだが、真剣な眼差しを逸らす気は、どうしてか湧かなかった。

「では持論を申し上げます」
「うん」
「人間の乳房は、四足歩行から直立に進化した人類が、繁殖の際、雄の目を惹き付けるために大きく、魅力的に膨らんだと言われています。その論法ですと、胸のサイズが小さい方は魅力が欠けることになり、そこに趣向を見出す男は、一種の倒錯だと思います」
「……お前とは共に語れないようだな」
「ですが、女性の価値は外見だけではないとも、私は思います。むしろ大きいだの小さいだの、それだけで語ろうとする男は性根が小さい、と」
「ふん、生意気言いやがる」
「私の努力を踏みにじっておきながら、そういう態度に出ますか」

 やや語気を強めると、エドはすぐに肩を震わせ、伺うようにこちらを見てきた。

「その、すまんかった……」
「ふう、もうけっこうです。後は司令部がどう評価を下すかを待ちましょう」

 ネスターはそれ以上何も言わずに、一人で基地に帰投した。残されたエドたちは、みなばつが悪そうに撤収の用意を進める。ちなみにパンたちは呆れてとっくの昔に帰った。



 この地域の攻防は一進一退を繰り返している。最近も謎のスーパーロボットに一部隊が壊滅させられる惨状を味わい、アムステラ軍司令部は辛酸を舐めさせられている。
 そこで、司令部は状況打開のために、地球のスーパーロボットを撃破する必要を認めた。ネスターは、この情報を耳に入れると、早速エドに志願するよう勧めた。ランカスター隊は先日の敗退により、またも評価が下がり、今後の処遇も検討されている。だが、フランダル中将の甥が指揮する部隊を奪うことにはいささか抵抗があるようだ。
 そこにつけいる。地球のやっかいな敵を倒すためにランカスター隊をぶつけるよう、エドは司令部に懇願した。司令部としては再度チャンスを与えた上で、成功すれば儲けもの、失敗すれば公然とランカスター隊を解散できる状態が成立した。
 この策は当たった。すぐにエドへ、地球の特機を撃退するよう任務が下る。ネスターとしてもこのほうがやりやすい。広大な戦場で、多くの不確定要素を相手にやきもきするより、たった一つ限られた敵に対し、対策を練ってぶつかるほうがいい。特にランカスター隊の兵士たちには、小さな戦闘を使って経験を積ませるのが得策だ。

「首は繋がったようだな」
「ですが、次が最後のチャンスと思ったほうがいいでしょう」
「そ、そうだな……」

 この連敗はさすがに堪えたようだ。作戦会議の場は暗い空気に――

「それで、その特機っていうのはどんな奴ですかね?」
「羅甲10機が一片に倒されたらしいぜ、こええ、こええ」
「けどそれを倒せば俺たちの株もうなぎのぼりだな!」
「そういうことだ。次はやってやろうぜ!」

 まったく萎縮していなかった。この兵士たちは、いくら負けてもけろっとしていられる点が、唯一の長所と言える。加えて武門に連なる男爵に率いられるということを喜んでいるようだ。エドは部下が平民だろうと貴族だろうと、分け隔てなく――誰にでも馴れ馴れしいと言い換えられるが――接することが、兵士に好印象を与えている。本人が自由で、部下にもある程度自由な行動を許している。なのでこの部隊は、結束だけは固い。
 この限られた長所をどれだけ伸ばせるかが鍵だ。これから地球の特機追討作戦が始まる中でどれだけのことができるか、ネスターは新たな問題に立ち向かうこととなった。
 この時までは、それがネスターの使命のはずだった。




 東ヨーロッパの山岳地帯、その奥地に国連軍の兵器開発基地がひっそりと、人目を憚るように佇んでいる。彼らはそこを目指して、ギリギリ舗装された道を進む。擬装したシャッターが開き、数台のトレーラーが中に吸い込まれていく。しばらく進むと、リフトで地下へと誘われる。地表に見えているのは僅かな家屋だけで、重要な施設は厚い岩盤の下、深い闇の底に、そいつらはいた。
 地下格納庫には開発中の新型ロボットが数体置かれていた。それ以外にも、まだ運用に至らないロボットのパーツや兵器も、ハンガーに固定してある。ここではアムステラの侵略に対抗するため、日夜、新たな兵器の開発が行われていた。
 トレーラーから降りた男が、取次ぎ相手を探して辺りを見回すと、一人の研究員が眼に入った。まだ若い。腰まで届く長髪が目立つ、淫らな色気のある研究員だ。白衣を着ているがその下は、胸元、太ももの大きく露出した服を着ている。

「おい、この荷物はどこに運べばいいんだ?」
「荷物、ああ、あたしの愛娘の改造パーツかしら」
「さあな。俺たちは何が入っているのか知らないよ」
「もう不親切ね。いいわ、第三倉庫のほうに運んでおいて」

 男は荷物を言われたとおり運ぶため、トレーラーに歩み寄った。その途中、ハンガーに固定されているロボットが気になった。地球で普及している人型兵器の6型と比べ、一回り大きい。そう思わせるのは、そのロボットが肩や背中に武器か、装飾品か、判別できないが大げさなパーツがいくつも付けられているからだった。そして目を凝らしてみると、そのロボットの装甲にいくつも傷が付いていることに気づく。

「このロボットはもう戦っているのかい?」
「あら、あたしの娘が気になるの?」

 妖しい研究員の関わったロボだと分かり、男は少し後悔した。どうにも話しにくい相手だから。

「目の付け所がいいわ、あなた。この娘はいいわよ、これから最終調整を行えば、アムステラのお猿さんたちをみんな虜にできるのだから」

 研究員はフフフと笑い声を漏らした。そうすると、一層妖しさが増すようだった。男は思い出す。数日前、この地域でアムステラ軍を完膚なきまでに打ち破ったロボットがあるという噂を。
 暗い地下に笑声がこだまする。機械音が暗く沈む。暗く。暗く。



<続く>