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超鋼戦記カラクリオー外伝 −Marionette Princess− 

第三幕  ブラッド・レイン




 作戦開始時刻14:00。 

新型機のお披露目の時は来た。

一同に介した『教導団』のスタッフ達は、ベロニカの顔見世を兼ねて一人ずつ自己紹介を済ませる。

この基地に所属しているテストパイロットの数は10名。

いずれもローラン大佐が適性有りと認めた精鋭達である。


 整列したパイロット達のの中に、先ほどの少女リリィを発見し、ベロニカは大いに驚いた。

未だハイスクールの生徒の様な、あどけない少女でありながら、戦闘要員であったとは。

こちらと視線があって、嬉しそうにブンブンと手を振っている彼女の幼さを見る限り、とてもそうは見えない。


 ついでに、一番後ろに立って不貞腐れているゲバールを見て、先ほどあれだけ痛めつけたにも関わらず復活しているそのタフネスぶりに驚いたが、直ぐに興味を失った。


「おや? ゲバール君、どうしたのだね? その怪我は。いつもパイロットは自己管理をきっちり行えと言っておいた筈なのに」

 ローラン大佐のその問い掛けに、ゲバールはここぞとばかりに主張を始めた。


「大佐〜 聞いて下さいよ。そこにいるベロニカ中尉が、いきなり俺様を投げ飛ばして…」


「大佐。ドゥール=ゲバール少尉が、同隊員リリィ=マノン=シーニュ曹長に性的嫌がらせを行っている場面を目撃致しましたので、『指導』をさせて頂きました。

その際、逆上して暴力行為に出たもので、少々手荒な行為を行いました。報告、以上です」


 ベロニカは冷めた声で、彼の発言を遮る。

ローランは溜息を見せながら、さも面倒そうに応えた。


「またか。君、これで何度目かね? セクシャルハラスメントなどという下らない内容で、詰まらん諍いを起こすな。

モラルハザードだの何だの、研究を行う上で一切必要のない内容で上層部に注意を受けるのは好かんのだよ、僕は。

ゲバール君、以後自重すること。はい、この話題は以上ね」


「そ、そんな〜」

 ゲバールは不満の声を上げたが、却下された。

しかし、ある意味、ローランの無関心さに助けられたと言い換えても良い。
 
通常の軍規に照らし合わせても、謹慎処分を受けてもおかしくない行為を繰り返していたのだから。

ベロニカは、彼に罰則を与えるべきだと主張するか否か一瞬迷ったが、それはまたの機会にする事にした。

あれだけお灸を据えてもまだ犯罪まがいの行為を続けるようならば、仕方がない。その都度殴ってやろう、と決意しながら。




「さて、本題に入るとするか。諸君、モニターを見てくれたまえ」

 ローランの指し示した画面の中には、ロールアウトしたばかりの新型兵器と思しき機体が映し出されている。

「これがお披露目になるな。これが”FMX−DT001”、通称『コッペリオン』だ。」


「操り人形(コッペリオン)?」


「そう、パイロットの思うがままに動く操り人形、さ。

ベロニカ君、DTS(ダイレクトトレースシステム)を知っているかね?」


「『修斗』に組み込まれているシステムですね。操縦者の動きを忠実に再現する、という。元々、機兵を用いた格闘大会用に開発されたと聞き及んでおります」


「そうだ。あれは実に面白い代物でね。あのシステムが完成した時が、機械が最も人間の動きに近づいた瞬間だとも言える。

しかし、所詮はスポーツ用に開発されたシステム。機動性・運動性は向上したが、人の動きを再現する余りに耐久性は低下し、強力な銃火器を用いることが

出来なくなってしまった。物事は常に表裏一体。ままならぬものだ。

それに、かの『霊猴』は別格としても、搭乗者の身体能力にのみ完全に依存するというのは果たして有用な兵器と言えるのだろうか?

決戦兵器には成り得たとしても、戦術兵器としては極めて不安定な代物なんだよ、あれは」

 ベロニカはその言葉に相槌を打つ。

いかに凄まじいポテンシャルを秘めた機体でも、それを引き出すことの出来る操者がいなければ宝の持ち腐れである、ということ。

そして機体の性能を100%以上引き出すことを可能とするパイロットの絶対数は、世界各国を探しても極めて稀である。

一体のスーパーロボットを作る為の費用も馬鹿にならないが、一人の兵を達人級の腕前にまで育てるのも決して簡単な事では無いのだ。


「だが、このコッペリオンは、その両者にも成り得る可能性を有している。

通常機動兵器の骨格にDTSを組み込み、簡易的にではあるが銃火器の使用をも同時に使用することを可能とした。

そして装甲を削らずに高機動戦闘を行うことを成功させた。

ある程度までならば誰にでも操縦でき、そして搭乗者の技量によっては決戦兵器と成り得る機体。

これぞ機兵と人間の真の融合。僕の研究の一つの終着点だよ。

まさに数多の尊い犠牲、屍の山の上に成り立つ一つの結晶、か…ふふふふふふ」

 
 熱を帯びたローランの口調と狂気すら帯びた瞳。

今の彼は『マッドサイエンティスト』と、そう呼ぶに相応しい貌をしている。

ベロニカは彼のその表情を見て、背筋に寒気が走るのを感じていた。

この人は果たして、これまで機兵と人間の間に如何なる違いを持って接していたのだろうか? と。

全てはこの男に取っては等価値…否、場合によっては搭乗者の命すらも、機体の一部として…


 彼女はそう思い立ち、慌てて首を横に振る。

彼は敗戦後の自分を拾ってくれた恩人でもあり、有能な指揮官でもあるのだ。

自らの研究への過大な愛情は科学者の性だ。それは彼の人間性を貶めるものでは決して無い、と自分に言い聞かせながら。


「では大佐。運用訓練は如何なる方法で実施致しますか?」


「戦闘シミュレーターを用いた模擬戦闘だ。…とは言っても、唯の戦争ゲームもどきじゃあない。

私が独自に組み上げた『教導団』特製のハイパーリアルシミュレーション筐体さ。

実戦さながらの緊張感と、本物と寸分狂わぬ機体性能の再現が味わえるぞ」


 誇らしげに語り続けるローランの言葉を遮ったのは、間延びしたリリィの声。


「あー、あの無駄にリアルな…?」


「無駄!? 無駄とは何かね!? 失敬な。雲の動きから雨粒の一つ一つ、そこに棲む生態系の各種全てに至るまで完全にシミュレートした究極の代物だぞ?

機体の性能は勿論のこと、搭乗者の感覚も痛覚以外は完全に…」


「酔うんですよね〜、アレ。背景が実物以上にリアルすぎて。大佐はそーゆーのにだけは凝り性なんですから。もうちょっと他の事に時間使ってくださいよ〜」


「…」


 自分の情熱に水を差されたローランは、やや肩を落とした様子でブツブツと何やら呟いている。
どうやらクールダウンしたようだ。

「…物事の価値の解らん娘だ、全く。ふん、まあいいさ。

とにかく模擬戦闘を開始する。

ベロニカ君。ダイレクトトレース対応のパイロットスーツを着てシミュレーターに入りたまえ」


そう言って手渡されたパイロットスーツを見て、ベロニカは愕然として声を上げる。


「あの、大佐…これを着るんですか?」

「ん? 何か問題でも?」

「いや、その、露出度とか…胸元開きすぎですし、何かピッチリしすぎてて落ち着かないというか…」

「ああ、DTS用のスーツはそういうものだ。極力肌に密着させなければいけないんだよ。

あと余計な布地は出来る限りカット。良いじゃないか、きっと似合うぞ。君がそれを着ることによって兵の士気も上がって一石二鳥だ」


 極めてどうでも良い議題であるかの様に、ベロニカの抗議は却下された。

隊員達の方を見れば、皆一様にニヤニヤと、彼女がそれを着る事を期待している様な表情を浮かべている。

とりわけ、リリィの鼻息が荒い。

唯一人、ゲバールのみが冷めた表情で何やら呟いていた。


「けっ、カマトトぶってんじゃねえよ、牛チチ女が。

20歳過ぎた女の体になんてこれっぽっちも興味ねえっつーの。

お前はアレだ。初老だ。ババァだ。

やっぱ女の子はこう、大きすぎず小さすぎず、適度な凹凸を…ああ、リリィちゃんのその麗しいボディを早くこの俺様が性的な意味でEat You! ハァハァ…」


 次の瞬間、飛来したハイヒールの先端が眉間に突き刺さり、噴水の様に血飛沫が舞う。

ゲバールは「ひでぶっ」と謎の叫び声を上げて、自らの血の海に沈んだ。


*****


 降り立った荒野の風景に、ベロニカは思わず感嘆の声を漏らす。

リアル過ぎる。確かにこれはシミュレーターの粋を軽く超えている。


「ベロニカ君。どうかね? 私の究極のシミュレーターの感想は?」

 得意気な口調でローランが通信を入れてくる。

「はあ、凄いですね…凄いとしか言いようが無いですが、よりリアリティのある模擬戦闘を行う上では非常に意義のあるものかと」

 それを聞いてローランは子供のようにはしゃいで見せた。

「そうかそうか、そうだろう。君が物事の価値の解る人間で助かったよ。

さて、現段階で何か不都合は無いかね?」


「強いて言えば、このスーツのウェスト周りがやや苦しいくらいでしょうか? …あっ、ちょっと、モニターには映さないで下さい!」


「むう? そうか? おかしいな。そのスーツは君の自己申告の通りのサイズでこしらえたものなのだが… 計り直すかね?」


「い、いえ! このままで結構です!」


「うむ。それは結構。下らないことに時間を取りたくは無いからな。

それでは模擬戦闘を開始する。手始めに…そうだな、対『羅甲』5体のシミュレートから行って見るか。

ベロニカ君、5分で殲滅。いけるかね?」


 目の前にアムステラ軍の機動兵器、羅甲が次々に出現する。

ベロニカは乾いた唇を舌で潤し、不敵な笑みを浮かべた。


「3分頂ければ…十分です。さあ、開始の号令を!」


「宜しい。Ready? …GO! 」


開始と同時に最も近くに居た羅甲に強烈な突きを放つ。

為す術も無く頭部を吹き飛ばされ、崩れ落ちる敵機。


「まずは1つ! 中々良いぞ。忠実にこちらの動きをトレースしている!」

 続けざまに、こちらに向けて銃撃を放とうとする羅甲に狙いをつけ、ワイヤーに連動したパンチを放つ。

敵機は引き金を引くまもなく、その強烈な衝撃をその身に受け、パーツを四散させながら後方へと吹っ飛んだ。


「2つ目! パワーも十分。さあ、銃火器の使用は…」

 2機目が銃撃を放つと同時に戦斧を抜いて襲い掛かってきた羅甲に、内蔵型マシンガンを向け、迎撃する。

ガガガッと鈍い音を立てながら、羅甲の動きが止まる。主要な間接部を全て打ち抜かれた為だ。

そのまま地に膝を付き、爆散する3機目。


「3つ! このディスクで行うのだったな」

 ベロニカは両腕に装着されたディスクを一瞥し、出撃前にマニュアルで見た使い方を反芻する。


「そうだ、ベロニカ君。その端末ディスクがコッペリオンの操作のキモと言っても良い…おっと」


「構いません、そのまま説明し続けてください。聞きながら、戦いながら覚えます」


 戦闘に横槍を入れるが如く始まった、ローランの講釈の続きを促す。

準備期間は極めて短かった。だがそれが良い。

この緊張感の中で、体に操作を叩き込む。

必要なことは全て、戦場の血が沸き立つような昂揚と、死と隣り合わせの恐怖感の中で覚えてきた。

その位のスパルタが…自分には最も適している!

机の前でゆったりと座し、椅子を尻で磨きつつ受ける講義で、一体何が学べると言うのか?


「ディスクで行える事は大きく上げて三つ。一つは銃火器の使用。二つ、エネルギーフィールド発生装置の調整」

 ローランの声を聞きながら、ベロニカは右手のディスクに対応したキィを素早く打ち込む。

それと同時に、コッペリオンの右腕より広がったビームフィールドが、盾の如く機体を包む。

羅甲から放たれた無反動砲が、それに弾かれて飛び散った。


「そうだ、良いぞ。そしてこのフィールドは収束させることも、エネルギーを蓄えて砲撃として放つことも出来る」

 コッペリオンの右腕のシールドが、形を変えて収束し、細く長く伸びるエネルギーの剣となった。

その剣にて、砲撃を放った羅甲が一刀両断されて崩れ落ちる。


「『溜め撃ち』等という悠長な攻撃方法は性に合わんな。さあ、次でラスト!」


「三つ目の使用法。これまでに登録したモーションデータを記録し、オートでそれを組み合わせた連続技を放つことが出来る。

対応したコードを打ち込み給え、ベロニカ君」


 ベロニカがディスクに連続技シークエンスを打ち込む。

次の瞬間。左腕を包むように形成された攻勢フィールドを纏ったまま、5対目の羅甲の胴体を貫く強烈なる一撃が放たれる。

『ピンポイントバリアパンチ』 コッペリオンの持つ攻撃方法の中で最も素早く、そして強烈な突進力を誇る攻撃である。

だが、この怒涛の連続攻撃はここで終わりはしない。

そのまま打ち抜いた羅甲を上空に高く放り投げ…右腕に形成していた収束ソードで切り裂く恐るべき神業!


 羅甲の潤滑油とも言うべきマシンオイルが、切り裂かれた衝撃で溢れ出し…ベロニカの駆るコッペリオンにまるで血の雨のように降り注いだ。


「…終幕だ。タイムは如何か? 大佐」

 敵機の『返り血』をその身に浴びたまま、冷淡に呟くベロニカ。


 その様相を目の当たりにし、ローランは歓喜とも恐怖とも付かぬ振えを覚えた。

『鮮血の』ベロニカ。よもやここまでの逸材であったとは。


「2分52秒… 素晴らしい。実に素晴らしいぞベロニカ君。ふふふ…ははは…」


 模擬戦の最中には相応しくない、ローラン=ド=アトレーユの勘に障る笑い声が、作戦室一杯に響きわたった。



続く