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ブラックストライカー プロローグ



「着きました」
「・・・・・・ああ」

監視員に声をかけられ、レイブ・ローウェルは微睡みから醒める。
短く刈った茶髪に、端正でも醜くもない普通の顔立ち。少尉のまま何年も昇進が止まっている階級。
それなりに経験を積み、中級者ぐらいは自称できるパイロット技術。二十七という半端な年齢。
――――言ってしまえば、どこにでもいるようなノンネームドの兵士だ。レイブが、異星の巨大軍事国家『アムステラ神聖帝国』との戦争を今日まで生き延びてきたのは、運がよかったと言う他ない。

「引き渡し後の処遇に関しては当部隊の責任者に一任してありますので、質問等はそちらでお願いします」
「ああ・・・・・・」

レイブが苛立った顔をしているのは寝覚めが悪いからではない。十数分の事とはいえ、注意力を欠如させていた己の未熟さを悔やんでいるのだ。
今乗ってきたこの小型輸送機は、レイブが所属する軍隊のものではない。そもそも、地球で作られたものでさえない。鳥を模しているとはいえ、揚力とは別の原理で空を飛ぶ――――アムステラの乗り物だ。実際に輸送機にカテゴライズされるかどうかも不明である。

「俺はどうかしているな・・・・・・」

レイブを除いた乗員は、小銃を持った兵士が三名と操縦士がメインサブ含めて二名。当然だが、彼らはアムステラの人間だ。拘束具こそ付けられる事はなかったものの、おかしな真似をすれば容赦なく発砲するくらいの殺伐した空気を放っている。
いくら地球を半周する長旅であったとはいえ、そんな異常な状況の中で気を抜いてしまっては兵士失格である。レイブは自戒しながら、タラップを下りる間までに平時の緊張感を取り戻す。

「レイブ・ローウェル『元』少尉ですね。お待ちしておりました」
「お前か・・・・・・」

着いた先は――――輸送機同様、名も知らぬ小型空母だった。甲板の広さから察するに、人型兵器が五、六機は搭載できそうなスペースがある。
そして、そこで妖しげな笑みを浮かべる『案内人』の少年は知らない顔ではない。
ゼオード・ハイトマン。長い金髪にハーフフレームの眼鏡をかけた、少女と見まがいそうな容貌の持ち主だ。顔を合わせたのは今日で二回目だが、何かを企んでいるような爛々と光る目つきは忘れようがないくらい強い印象を残している。
もちろん、その不審さからレイブは毛ほども心を許していない。だが、ゼオードの誘いがレイブの心を揺さぶり、決意をさせたのもまた事実だ。
守るべき母星である地球を捨て、侵略者であるアムステラ側につくという決意を。

「アムステラ神聖帝国地球方面軍、非直轄部隊『狩闇(しゅあん)』仮設基地へようこそ・・・・・・とでも言っておきましょうか」
「そんなご大層な名前は必要ないだろう。あってもなくても構わない、使い捨ての急造部隊に」
「作戦指令自体はそれなりに上の方から届くんですよ、用途に反してね」
「俺には関係のないことだ・・・・・・」


僅かに目を険しくして、レイブはゼオードの後を追う。甲板の一角から階段を下れば、そこは狭い通路で――――目的地は、最奥部のゼオードの私室だった。
複数台のパソコンと、それに連なる無数のコードで埋め尽くされた空間。船室としては広い部類なのだろうが、実際に歩けるスペースはないに等しい。レイブは、ゼオードがデスクを漁る数分を直立姿勢のままで待つ。

「お待たせしてすみません・・・・・・・では資料をどうぞ。それを一読していただいて、何か質問があればお答えします。なければすぐに、具体的な任務の指示に移りますが・・・・・・」
「この紙束だけで全てが把握できるとは思えない、質問はいくらもさせてもらう」
「ほとんど回答拒否になるでしょうけどね」
「随分と適当なんだな・・・・・・」
「非正規部隊ですから」

渡されたのは、クリップで留めれた十枚にも満たない用紙の束だ。レイブでなくとも口答えしたくなるようなぞんざいな扱いである。もっとも、レイブ本人はすぐに気分を切り替えてじっくりと文章を目でなぞっていく。構成員数や所有兵器の詳細なデータがほとんど無いとはいえ、謎に包まれたアムステラという国家の一端を知ることができるというのは悪い気分ではない。先のことはともかく、今の心を落ち着かせるくらいの作用はあった。

「狩闇は・・・・・・」
「はい?」
「俺の予想よりも遥かに大規模で、それでいて臆病な集まりのようだな・・・・・・随分と活動も制限されているようだが」
「理念に反してでも、とにかく敵戦力排除に貢献する。今一番必要なことをやっているだけなのですが・・・・・・」

ゼオードはよほど本国の対応が気に入らないのか、拗ねたように呟く。

アムステラ神聖帝国は地球に限らず、他星侵略時には、攻撃目標を軍事拠点かその関連施設のみに限定し、クリーンな戦争を展開してきたらしい。
それは一重に、他文明など比較にもならない圧倒的戦力があっての事だ。
外堀を埋めずとも拠点破壊を遂行できる『操兵』のスペック。そして、一般市民の大半を生かしたまま支配・管理に移行できるほどの物量差、技術差。長い歴史の中でも、殲滅作戦は初期の領土拡大時に数度行ったのみだという。
ただ、今回の標的――――地球に対しては、その高潔な理念が逆効果に働いてしまっている。

「地球の技術レベルの高さはある程度調査済みで、侵略に要する期間も他星より長くなると予想されていました。しかし今は、長期どころか戦場は泥沼化。一進一退の膠着状態です。終わりが見えないと言ってもいい。地球側が開発した兵器の中には、操兵クラスどころか、それすら凌駕するものさえあります」
「K.G.Fを始めとした、オーバーテクノロジー由来の機体か・・・・・・」

ニュースや新聞で嫌と言うほど見かける青赤緑の三体の巨大ロボットを思い浮かべて、レイブは相槌を打つ。
レイブが軍隊に入った頃は、人型ロボットといえばまだ立った歩いたの時代だった。現行のマシンはほとんどが開戦以降、早くとも数年以内に開発が始まったものばかりだ。それで、ロボット開発一点に関しても地球より遥かに長い歴史を持つアムステラと戦えているという現状はレイブ達にしても予想外だった。いくら攻撃目標が絞られているとはいえ、マシン性能自体も徐々に追いつきつつあるからだ。
長いスパンで見ればアムステラに分があるのだろうが、今のやり方では、実際に勝利を収めるまでに多大な損害が出る事は確実だった。


「だというのに、軍部はまだ静観を決め込んでいる。いえ、戦力投入自体は徐々に質と数を増しているのですが、技術発展のレベルは地球側もかなり早い。正規軍が用意した各種遊撃部隊も随分手を焼いているようです」
「今更理念を覆すわけにもいかないだろうしな。大国の威信という奴か」
「それ以外にも、まぁ、上の思惑があるようなんですが・・・・・・どんな理由があろうと、侵略という最優先の目標が滞っていてはどうしようもありません。だから、非正規ながらもこうした攻撃部隊が作られたわけです」

ゼオードの蓋然的な物言いではよくわからなかったが、資料の数ページを要約すれば大体の事情は理解できた。

『狩闇』という組織を創設したのはアムステラ軍部の急進派。狂的とも言える愛国心、忠義を持つ彼らは、多数のシンパを掻き集め、いかなる手段を用いても戦略的破壊を遂行しようとしている。
そして同時に、構成員の地位と数に関わらずデメリットが多すぎることも指摘されていた。
軍に極秘で人員、兵器を用意するとなると周到極まりない準備が必要で――――同時に、存在が公になった場合のリスクが大きい。活動内容の露呈は軍部からの追求どころか、アムステラという国名に泥を塗る事にもなるのだ。そもそも、自国の兵器を用いる時点で隠蔽工作はほとんど不可能だろう。
そこでようやく、レイブは部隊の構成に納得がいく。

「なるほど、地球人の離反者を大量登用しているのはカモフラージュのためか。地球人が、地球の兵器で、地球の拠点を侵略する。『本当の意味での狩闇』、つまりアムステラ人であるお前達は情報・兵器調達という後方支援に徹し、手柄だけを得ると・・・・・・」
「汚い、なんて言いませんよね?あなたは・・・・・・いえ、ここにいる地球人全員は、選んで狩闇に入ったわけですから」
「・・・・・・無論だ。むしろ感謝すらしている」

鉄面皮の表情はそのままに、レイブの言葉は少しだけ沸き立っていた。
そうなのだ。
戦後の利権や安寧を求めてアムステラに属するというのなら、狩闇という選択肢は最も愚かな部類に入る。自身に手柄が入ることはほとんどなく、むしろ他人の踏み台にされるだけ。しかも事前に『その部分』だけはしっかり提示されている。まともな人間であれば、『ブラッククロス』や『バックベアード』といった、しっかりした親アムステラの組織に属することを選ぶだろう。

しかしそれでも、人が――――レイブが狩闇を選ぶ理由はあった。
狩闇の隊員となった者はすぐに、容赦なく、地球の拠点攻撃に参加させられる。死ぬまで何度でもだ。つまり、地球の軍・組織への怨恨で戦う者には最適の場所なのだ。


「常人には理解しがたい感覚だろうな。復讐を遂げるためとはいえ・・・・・・自身の命を『駒』として、本来の敵に差し出すというのは」
「そうでしょうね・・・・・・ですが、最も効率よく扱っている事に間違いはありません。通常、低レベルな反抗勢力として無駄に命を散らしていく復讐者の方々を・・・・・・一組織としてまとめあげ、軍組織レベルでの高度なバックアップの下、統制の取れた作戦行動を取らせているのですから」
「ああ・・・・・・」

ゼオードや、その上にいる者からすれば狩闇の入隊者はこの上ないカモだろう。ただ同然で手に入れた戦力でそれなりの戦果を挙げる。そして用が済んだ兵士は切り捨ててしまえばいい。
ただ、狩闇は利用することを最初から公言している。その一点だけで、国連や自国の軍への行き場のない怒りを滾らせている者には十分だった。兵士として戦うに際し、最も必要な要素――――覚悟を得られるからだ。レイブはだからこそ、ここへ来た。

「命をかける・・・・・・いや、捨てることに躊躇いはない。だが約束は守ってもらうぞ。そちらの都合はあるだろうが、完成までには必ず――――」
「ええ。安心して下さい・・・・・・国連が極秘開発を行っている『あの機体』の撃破ミッションには、何が何でも参加させてあげます。あなたの私怨以上に、正規軍すらも危険視する程のマシンですからね、アレは」

ゼオードは目を細めて笑う。それが何を意味しているのかはレイブにとってはどうでもいい事だった。
全てを投げ打ってでも消し去りたい、仇敵を――――この手で破壊する機会を与えてくれるというなら文句は欠片もない。資料の最後に書かれた、長々とした規約の全てを読み終えたレイブはゆっくりと顔を上げる。

「返事は、聞くまでもないみたいですね」
「ああ・・・・・・今更引き返す気など更々無い。今の俺は『あの機体』への憎しみだけで生きている。復讐に全身全霊をかけなければ、死んでいるのと同じだ」
「わかりました、では・・・・・・」

ゼオードは、予め作ってあった厚い磁気カードをレイブに渡す。地球の物とは随分規格が違う、隊員章だ。

「レイブ・ローウェルさん。あなたを、臨時監督官ゼオード・ハイトマンの名において、アムステラ神聖帝国地球方面軍、非直轄部隊『狩闇』の隊員に任命します。お互いの夢を叶えるために、是非とも頑張りましょう」
「ああ・・・・・・」
初めて見る、笑み以外のゼオードの表情をレイブは境界線と定める。敵味方という立場だけではなく、まともな人間としての境界線として。
そして今はもう、線を越えた向こう側だ。

おそらく短いであろう、レイブ第二の人生はこうして幕を開けた。



続く