あーるへナーガ! 後編


元犯罪者らの育成・観察・そして処分。それがオシリスがマミマミに与えた仕事だった。
前科者や債務者の掻き集めという異常な手段で結成されたO.M.S.、
ひと癖もふた癖もある彼らの中には素直に組織に従わない者も少なくは無かった。

貸し与えられた機体を売り逃げしようとする、組織内でもめ事を起こし同僚に暴力を振るう、
敵前逃亡する者、いつまでたっても5型はおろか強化スーツすら使いこなせない、
新入りの中からそういった輩を見つけ出し報告し、時には自らの手で処理していく。

この様な任務を与えられた彼女の愛機サントレッターが弱いはずが無かった。
軽やかにステップを踏みつつ装甲の裏側から次々と単発式の銃を取り出し戦うという
異端の戦術、これを初見でどうにかできるものなど少なくともO.M.S.に染まる事が
出来ず彼女に処分されていった半端野郎の中にはいなかった。

そしてマミマミは今回襲ってきたブラッククロスの敵にも自分が負けるとは微塵も思っていなかった。
ブラッククロスに属する人間とは人生の完全な敗者、O.M.S.の枠組みですら生きていく事が出来ない
救いがたき存在と同列あるいはそれ以下の連中である。

ならば、今自分を追いつめているのは本当にブラッククロスなのだろうか―!!


「多少は面白かったけれど…こんなもんかねぇ」

サントレッターに装備されていた80発の隠し拳銃、時にはフェイントを織り交ぜ、
時には何発も同時に、時にはライフルに変形させて放ったその全ての銃弾。
その全てが目の前のネオ・ペルセポネーの槍で切り落とされていた。

「運が悪かったわね。私が自分で言うのも何だけど…うん、
私って出会ったら負け確定イベントぐらいにすーっごく強いからね。
勝ちたかったら快王連れて来いってぐらいに鍛えてますから」
「そんな、こんなの絶対おかしいよ」

マミマミは二つの意味で怯えていた。一つはもちろん自分が相手にならないレベルだった事。
そしてもう一つ、マミマミはこの敵の戦い方を知っていた。
乗っている機体こそまるで違うが、この戦い方は大戦初期アジア方面で暴れまわっていた
敵の電撃部隊のエースが行っていた、あの―

「…でも、その奇襲部隊の女パイロットはナンバーグランの戦いで
こちらのパイロット、確か韓国軍の英雄と相打ちになって死んだはず。どういう事なの!?」
      
マミマミの疑問、それの答えはジャミングすら関係無い距離に近づいたグーチェ自身の口から
あっさりと伝えられた。

「へえー、まだそうなってるんだ」

そういう事である。
地球にとって極めて厄介な存在、ソロ活動で暴風となりうるアムステラの怪物の一人、未だ健在。
だがマミマミはその事実を他者に伝える事無くこの戦場から脱落する。

「じゃね、もうちょっと楽しみたかったけれどこんだけそちらが迎撃準備してたって事は
そろそろあいつらを助けないとヤバイっぽいし。ホラ、二人とも私ほど強く無いしさ」

そう言ってグーチェは槍を高速で振り回し何度も何度もサントレッターのボディに突き刺した。
何度も何度も。
やがて、血かオイルか肉片かモニター越しには判別できない物質が大穴の空いたサントレッターのボディを染め、
直立の為の命令を失った機体が真後ろへと倒れて行きその生涯を終えたのを確認すると
グーチェはその場を去った。先程言った通り、仲間の手助けへと向かう為に。

「あんたの敗因は二つ、相手が悪かった事、それから大きな間違いに最後まで気付かなかった事さ。
『サントレッター』だっけ?私が教えてもらったこの星の言葉に従うなら…
『サント』はイタリア語で『レッター』は英語だ!なんてね」


◇◇◇

「…やっかいだな」

聞こえるか聞こえないか、ゼダの呟きは隣で並走しているフェミリアにギリギリ拾えるぐらいだった。

「ゼダさん!マイクの音量は最大にして伝えたい事はハッキリと!この距離でもジャミングの所為で
移動しながらの音は聞こえづらいから!」
「すまん。で、だ。俺達の攻撃が敵に通じていない様に思える」

それについてはフェミリアも同感だった。
今二人はナーガをビームライフルで狙撃し逃走した侵入者を追いつつ攻撃を行っているのだが、
二人の遠距離攻撃が当たる寸前、敵機体が左腕を差し出すとその点を中心に半透明の膜が展開し
攻撃を弾いたのである。恐らくはビームシールドの類だろう。

「向こうの攻撃はこちらに大ダメージ確実、対してこちらの攻撃はこの距離じゃあノーダメージね」
「おまけに俺達の機体は揃って燃費が悪い。このまま鬼ごっこしているうちに動けなくなるかもしれん」

ゼダのいう通りである。
彼が乗る黒のカラーリングの上に赤の鎧を纏ったファイアレッター。
フェミリアの乗るピンクのカラーリングに漆黒の面を持つラクシュミーΩ。
この二機に共通しているのは見た目が敵機体ぽい事と燃費の悪さ。
ラクシュミーΩは川や海あるいはタンクを搭載しているPGなどの水源があれば
半永久的に戦えるのだが、残念ながら二人が今戦っている模擬戦エリアには水場は存在しない。

「ホント、攻めるにしろ守るにしろ敵のビームがやっかい…ん?ビーム?そうだ」

何やら閃いたフェミリアはゼダに作戦を持ちかける。と言ってもそれは作戦としてはとても単純な
原始的な手段だった。

「ゼダさん、今から私がアイツにハイドロカノンを撃つからそれに続けて同じ位置に火球お願いできる?」
「おい、そんな事をしたら―」

ゼダは無駄であると反対しかける。彼の思う通り、ただでさえ残弾が限られているのに
水弾と火球を連続で打ち出せば双方が無駄になり、後に残るのは―

「―なるほど、試す価値はあるな」
「でしょ?それじゃあいくわよ!」


◇◇◇

R5強奪作戦の前日、リノアがブラッククロス大幹部エクスダーから聞かされた事実。
ブラッククロスが如何にしてオシリスの情報を知り得たのか。
その答えは余りにも酷かった。色んな意味で。

「ファファファ!リノアくん、オシリスの奴らは元軍人以外にも行き場の無くなった多重債務者や
罪人から才能ある者をを傭兵として雇っているのは御存知かな?」
「はい」
「そこでだ、まず我々は適当な会社をいくつもでっちあげ大羅系の操縦スキルのある若者を雇い入れた。
そして健康診断や飲み会と称して彼らの体内に受信機を埋め込む。
後はその会社を消してやれば路頭に迷う無自覚のスパイの完成という訳だよ!
そして先月、数百人のスパイの内の一人マルーという男が見事オシリスの傭兵組織O.M.S.に引きこまれた!」
「…残りの青年達はどうなったんですか?」
「ギャングとなりブラッククロス最下部に組み込まれたのが二割、野垂れ死にが確認されたのが五割、
故郷に帰ったか再就職出来たのが一割、受信機が無くなり詳細不明が一割、残りは未だに路頭に迷っておるわ!ファファファファ!」


何の覚悟も出来ないままキリングマシーンとなっていく若者を見ている事が出来なくて
アムステラを離れた自分が今、無垢な若者を犠牲にし笑っている外道と並んでいる。
何という皮肉だろう。

「リノアくん、そう嫌な顔をするな。我らブラッククロスは君らエリートと違って社会の負け組なのだ。
生まれ持った才能も人一倍頑張る事も出来ない奴らの集まりだ。普通の奴らと同じルールでは
勝算が無いからこういった手に遅かれ早かれ染まっていく事になる」
「…」
「我らと共闘するのならどうかそれを理解して欲しい。私のやっている事は確かに非道で頭の悪い手段なのだろう。
だが、そんな事をしてでも、そんな事しか思いつかなくとも、これがブラッククロスという組織なのだ。
私は犯罪に手を染めるしか生きる手段を持たない弱き同胞を救えるのならば喜んで世間から非難されようではないか」


顔を伏せそう語るエクスダー。リノアは彼を誤解していたのかもしれないと思った。
この男も人の上に立つ者として―

「なんてな、私は他者を救おうなんて一度も思った事なんてないわっ!」
「えっ」
「このエクスダーの行動原理は『無』!公園に砂のお城があれば蹴り壊し、婚約中のカップルがいれば引き裂く。
頑張っている奴らの努力を『無』にしてやる事こそが私の人生であり快楽であった!
私がブラッククロスの大幹部まで登りつめたのも、出世欲や使命感ではなくこの立場なら表世界のエリートから
路地裏の浮浪者まで平等に私の指先一つで全てが奪われるからだっ!ファファファファ、ファファファッファーッ!」

エクスダーは人の上に立つ者としての矜持など持ち合わせてはいなかった。
リノアは自分の最も嫌う人種が嬉しそうに語りかけてくるのを必死に耐えている。
ここでコイツ殴ったらブラッククロスとの関係も終わりだと言い聞かせて震える右手を押さえつける。

「ファファファ、ところで何故私が君だけを呼んでこんな事言ったと思うかね?
君を壊したくなったからだよ。アムステラのオスカー将軍に大切にされてきたその体を
思う存分凌辱してみたくなった。さあ、私に抱かれてくれ、ただ私の一時の楽しみのみの為に!」
「死ねー!」
「カ、カメェー!」

ベッド下から慌ててニラーシャとグーチェが出てきて「ごめんリノア!これドッキリだから!」
「ストーップストーップ!っつーかやり過ぎだ親父、自業自得だわよ」と止めるまでマウントパンチは続いた。


(と、いう事があって私達はR5とついでにナーガの強奪もしくは破壊を少数精鋭で、
具体的にはグーチェとニラーシャと私で実行する事にしたんだけど)

・ジャミングで味方と連絡がとれない(予想内)
・突然の襲撃に即座に対応するO.M.S.(まあそれぐらいは想定してた)
・修斗がバリバリ音たてて破れて中から名称不明のバイオレッター亜種(なあにこれえ)
・ナーガのコンテナからラクシュミーΩ(ばんなそかな)

「こいつら私達の襲撃を読んでたってレベルじゃないわよ!むしろ私達が来なきゃ凄いガッカリってレベルの準備じゃない!
エクスダーさん!あんたの外道な策モロバレですよ!」

モニターを両手でバシバシ叩きながらリノアは誰にも届かない文句をシャウトする。

「…因果応報なのかもね」

リノアは1年前ロシアで実行した策を思い出す。あの時は羅甲をオートパイロットで放置して戦力がある偽装をした。
そして今回、戦力が無いという偽装で自分が酷い目に合っている。

「っと危ない!!」

ギィン!
ビームシールドを展開し、何度目かの攻撃を弾き飛ばす。
相手の有効射程よりも遠くから撃って来たであろうそれはビームに阻まれ本体にはノーダメージに終わる。
そしてバック走で逃げながらビームライフルで反撃をする。
リノアが乗る『銀虎』は新型ビーム装備の試作品で全身を固めている。
実弾や実体剣装備と比較し、初期費用こそかさむものの軽量・高射程・高威力・低燃費と良い事ずくめの装備、
加えてロイヤルナイツであるリノアの腕前が合わさればこのまま逃げ続けて相手の有効射程の一歩外から
逃げつつ攻撃し続ける事が可能である。

「このままならなんとか出来そうね。…攻撃が途絶えた?」

もしかしてエネルギー切れなのかとリノアは思った。
炎と水の違いはあれど、どちらの機体も内臓武器を射撃に使用している割には外見が人型である。
タンク型や重装型でなく、それがビーム兵器でないのならば内臓武器の弾数はどうしても限られる。
(もっともタンク型及び重装型では逃げる銀虎に追いすがる事がそもそも出来なかっただろう)

だが、リノアの想像は外れだった様だ。敵の残弾が残りいくつかは分からないがまだ0では無かった様だ。
ラクシュミーΩの右手から水弾が飛んでくる。
これまでの射撃よりも若干遅く、そして大型の水弾。そしてその直後、ファイアレッターの火球が
発射され水弾に追いつく。

「まさかっ!」

ボシュウウウウウウウウウ!!!!!!!!!
水弾は一瞬で蒸発し熱蒸気を含んだ風が銀虎を襲う。
百数十度の熱蒸気、無論こんなものでは銀虎の装甲には何の影響も及ぼさない。
だが―、

「狙いは私のビーム兵装の無力化か!!」

ビーム兵器は実弾兵器に比べ熱に弱い。発動毎に正しく排熱機構が働かないと数度連続使用しただけで
エラーが発生し、最悪パーツの融解もありうる。無論、実弾系も使用毎に熱が加わるのは同じだが
ビームのそれは実弾系の比では無い。実際銀虎のテスト段階ではリノアもこのビームの弱点克服に苦戦し
排熱パーツの改良には何度も注文を繰り返している。

瞬く間に警告音が連続発生、ビームライフル・ビームソード・ビームシールド、全てのビーム装備が
高熱の為冷却が必要とリノアに告げる。

「くっ!」

銀虎の移動をバック走から通常移動に切り替え、距離を離し冷却の為の時間を稼ごうとする。
だが、瞬間的に襲いかかる炎とは違い機体に纏わり付いた熱蒸気は温度こそそれ程高くは無いものの
中々熱を逃がさせてくれない。そしてさらに後方から迫る熱蒸気の風。
リノアの対応の変化から戦法が有効だと判断した二人が残りの水と炎を惜しみ無くぶち込んで来たのだ。
たちまち機体の帯びる熱はビーム兵器の限界点に達し、銀虎に付属していた兵装はその全てが当分の間使用不能となる。

逃げ続ける銀虎を見てもうビームライフルは無いと判断したのだろう。
ファイアレッターはその身を赤く光らせ、ラクシュミーΩは両手からの水圧で飛翔し一気に距離を詰める。
恐らくはどちらも瞬間的な高機動、それは銀虎に追いつき一撃を与えるには十分。
そして、銀虎にはこの二人とインファイトする為の武装など与えられてはいなかった―!!


「これでっ…終わりね!濁流の剣!」

フェミリアは濁流の剣を振りかざし―――――――それは銀虎には届かなかった。
ラクシュミーΩの頭部を槍が掠める。ファイアレッターが割って入らなければ面を割られていただろう。

「負けを認めましょう、ブラッククロスのリノアは貴方達の連携に敗北した」

銀虎が構える槍、それは銀虎のフォルムとは微妙に不釣り合いな、だが実体を持つその槍は
底知れぬ威厳に満ちている様に映った。

「ここからはロイヤルナイツ六魔人『魔性のリノア』が相手をしよう」


◇◇◇

機動マシンには『アームブレード類』という呼称で分類されている武器がある。
シザースハンド等通常の剣とは違い、手首から肘までに装着し使用する刀剣類がそれだ。
R5に使われているブレード兼用のシールドも一応はそれに該当する。
アームブレード類は斬りあいに使う為の剣というよりは片手に余裕があり付けられるなら付けておこうという
消極的な目的で装備される事が多く、相手の突進を防ぐため、あるいは特殊なバリア持ちの敵への使用、
砲弾やビームが切れた時に仕方なくコレ、といった使用が主。

言わばサブウェポン、よっぽどの事が無い限りアームブレード類を使って斬り込むというパイロットは皆無と言っていい。
もしインファイト適正が高い新人パイロットが「マルーはアームブレードで戦いたいよ!」と言えば間違いなく
こう返されるだろう。
「片手剣以下の間合いと強度の武器で戦ってどうする、どうしてもいうなら軌道の似た曲刀にしとけ」と。

だが、ここに例外が存在する。
オードリー・スガタ元中尉。
完全なる人型量産機の原型であるプロトスリーにてアームブレードで戦闘していた彼女は
言わばアームブレード戦闘術の開祖。事実、DTS(ダイレクト・トレース・システム)無しの機体が
アームブレードを振るう時、腕の振り下ろしから足運びに至るまでの一連の動きは
プロトスリーで得られたモーションデータが参考になっている部分が大きい。
つまり、スガタこそが世界で唯一量産機のアームブレードモーションに自らの戦闘術をシンクロし、
通常の剣と同等程度に扱えるパイロットなのである!!
仮に地球中のパイロット全員を5型に乗せアームブレード一つでバトルロイヤルしたならば、
最も勝率が高いのは剣王機の少年でも無くイタリアの神父でも無く彼女であると断定できる。
(5型の操縦に慣れ出したらそうとも限らないが)

まあ、それがどうしたって言われたら困る。RPGで言えば攻撃力15のロングソードが市場に出回っているのに
攻撃力8のカッターナイフ装備時に攻撃力+5されるスキルが何の役に立つのだという話である。
こんな能力が役に立つ状況なんて…


「この動き…まさかスガタかぁ!?」

なんとこの状況で役に立っていた。技能の有用性という意味で無くスガタという個人を認識させる意味でだが。
初めて乗ったハズのR5のシールドブレードを自分の腕の様に自在に扱う戦いぶりを見て、
ニラーシャはそのパイロットの正体に気付いた。気付いてしまった。

「てっきりトシカワちゃん辺りだと思ったんだけどよぉ。何だってアイツがここに」

ビームガンも当たらずファランクスも通じず、シールドブレードのみで戦い味方を待つR5。
優勢なのは明らかにニラーシャの乗る幻狼。
しかし、ここでニラーシャの決断が鈍る。

「聞いてねえぞ…、お前とこんな所で出会うなんて」
「??何を言ってるんですかー!?ブラッククロスにもスガタの名は知れ渡ってるんですかー」
「やっべえー」

ナーガ生産の為に工場増設する事の見返りとしてR5のテストパイロットにスガタが
レンタルされる事はダリップとフェミリアが盗聴を防ぐために走りながらの約束でのみ
交わされた情報。そして、マルーは残念ながらR5のパイロットとは直接会話してはいない。
ジャミングランチャー発射の時にはその声を通信にてマルーは聞いていはいたのだが、
その時には既にニラーシャ達は突入を開始していた。

(ビークール…ビークール落ちつけよ春南龍、いや違う!落ちつけニラーシャ!
俺は何を動揺しているんだ、アイツはもう結婚までしていて子供も産んでいる他人だろうがっ。
最後に一緒にいたのは一年ぐらい前のロシア、最後に裸を見たのに至っては4年か5年も前に
酔っぱらってお互いのケツの皺を数えあった時、、そーいやあの後俺が
「実家がヤクザだから一緒にはなれない」って別れ話したのがアイツとブライアンに
クロスボンバーくらった初めての時だったけか―いやいやいやいやいやいや!
思いでに浸ってどうするてーの!そうだ、こういう時は関係ない事を考えるのが一番だわ。
俺の宴会芸のモノマネシリーズ、今の所チョー先輩が大人気だけどそろそろ下火になる前に
新しいネタ用意なー誰がいいかなー、そうだ、朴(パク)とかいけるんじゃね?
アイツ顔も喋り方も俺に似てイケメンだし、うん、新ネタは朴のマネでいくか。
今はマイナー選手だけどこないだORGOGLIOに参戦したって朴のタニマチが言ってたし
モノマネが完成する頃にはテレビで有名になってるだろ。よーし、ちょっと練習してみるぞー。
「三連チヂミパンチ!」いける、このモノマネ手ごたえバッチリだ。後は朴がメジャーになれば
爆笑間違い無しだわ)

「「何やってんのよニラーシャァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」」
「はひ?あ、グーチェか。それにリノアも」
「『はひ?』じゃない、助けに来てみればお前ボッコボコじゃない!」
「何言ってるんだ、後ひと押しで倒せるまで追いつめてるっての」

ニラーシャは自分の機体を確認する。右腕は指が三本斬り落とされ、左腕はスラスターが煙を噴き単独での飛行も危うい。
胴体にはR5の歯こぼれだらけのブレードがシールドごと突き立てられていた。
ゲームで言えば『幻狼HP2600/14500』ってなぐらいの損傷である。

「うっわやっべ!何時の間にこーなってんだ、ちくしょー、うっおー!」
「私が着いた時には棒立ちのアンタにR5がとっついて20回ぐらいブレードでザックザックやられてたんだよ。
驚きたいのはこっちだよ、何してたの!」
「回想と妄想」
「するな!」
「すまん、そ、そうだ。お前らがR5の相手してくれよ。今日は俺ちょっとハラの具合が…。な?
3対1なら楽勝だろっ」
「ニラーシャ…残念ながら3対3なんだけど」

リノアがそう言うと同時、銀虎の後方の茂みをかきわけ、ファイアレッターとラクシュミーΩが姿を現す。
ニラーシャは半壊している自機、ビームライフルではなく何故か槍を装備している銀虎、
外見上問題無いネオ・ペルセポネー、再度ビームガンを構えるR5、戦力不明の2機を順番に眺め、
結論を下す。

「帰るぞ、もうジャミングも切れるだろうし、ここは敵の陣地だ。こいつらに勝てるかも怪しいのに
時間が経てば増援も来る。その前に撤退撤退っと」
「ニラーシャ…後で何があったか聞かせてもらうからね」
「おーこわ。あーあ、R5に搭載されている制御システムが手に入れば俺達の機体も
さらに強くできるはずだったんだけどな」

胸部に刺さったシールドを引き抜き、幻狼は胴体と両腕がバラバラに飛び右腕にネオ・ペルセポネーを
左腕に銀虎を吊るす様にして去っていった。
飛行が不安定な左腕に向かってR5が数度のビームを発射し、ガクガクと左右に傾いていたが結局落とす事は出来ずに終わった。

「残念、逃げられてしまいましたかー」
「スガタさん、大丈夫だった?」

フェミリアがラクシュミーΩでスガタに駆け寄る。

「一時はどうなるかと思ったんですけどー、途中から急に相手の動きが悪くなったんですよー。
お腹でも痛かったんですかねー」
「体調不良か、マシンのトラブルという事なら十分ありえるな」

ゼダはそう言い、ブレードで斬り落とされた幻狼の指を示す。

「切断面から見て俺のファイアレッターと同じ人工筋肉が使われているのだろう。
サイズも見た目もデタラメだがあの足無しも俺のと同じバイオレッター派生だ」
「つまり?」
「今ブラッククロスにはバイオレッター系の技術を再現できる科学者はいないはず、
それなのにあんな変則的な機体を作ったのならば突然ガタがきてもおかしくはない」
「若いのに詳しいですねー」
「ま、まあ、俺の言ったのは雇い主(キグナス)の受け売りなんだけどな」

少し照れながらゼダはそう補足した。


エピローグに続く