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White Knight

Chapter3



 O.M.Sの駐屯地に機動兵器の残骸が運び込まれていく。今日の戦いは邪蠍蟲の乱入によって混乱し、地球側の兵器が多数犠牲になった。
 だがその中に、今のところイリヤナの6型が見当たらない。そのことがイリヤナの生存可能性をわずかに残していた。

「隊長、まだ戦闘は続いているんです、探しに行くなんて危険ですよ!」

 部下の捜索を主張するイブラヒムをエトゥが制止していた。アムステラの攻撃が激しく、O.M.Sの回収班も深入りできない状況だ。

「危険は承知の上だ。しかし」
「あいつなら、何だかんだでしぶとく生き延びてるかもしれませんよ。けど108ターボだけで今の戦場に出るのは無謀ですって。救難信号も出てない、アイツ自身も見を隠してるかもしれない、戦況が落ち着くまで待ちましょう」
「……」

 ジーンに宥められて、ようやくイブラヒムは捜索を断念した。
 イブラヒムは常に冷静沈着だが、イリヤナのことになると感情が顕れることが少なくない。二人には深い関係があるようだが、詮索する気はジーンに無い。O.M.Sに属する者には多かれ少なかれ、事情を抱えているものだ。

「死ぬなよボウズ……後味ワリィからな」





 6型が斜面に横たわっている。コクピットハッチは閉じられたままだ。アレスはパイロットの安否を確認するため近くまでやって来ていた。
 6型の胴体までよじ登ると、コクピットに歩み寄る。そこで違和感に気づいた。
 装甲表面に、足跡を拭きとったような痕跡がわずかに見られた。もう少し注意深く見てみると、ハッチの周りに糸が張り巡らされている。

(糸の先にあるのは……グレネード?)

 敵が捕縛に来ることを予期した簡易トラップだった。

(通常のグレネードでは味方にとっても危険になる。形状からして地球製のスタングレネードか)

 地球の兵器は研究を進めてある。アレスは姿勢を低くし、背後、コックピットと自身の対角線上にも注意を配る。コックピットのトラップを囮に別のトラップが巡らしてある可能性もあるからだ。幸い、今回はそこまでする時間が無かったようである。

(敵!)

 銃声。風を切る音。アレスは間一髪避け、6型の上から飛び降りた。




 トラップを見破られたため、物陰から拳銃で狙撃したが、それすらも手応えが無かった。敵はパイロットとしてだけでなく白兵戦でも優れているというのか。イリヤナは自分が危険な相手と殺し合いの領域に踏み込んだことに戦慄していた。
 狙撃ポイントからすぐに離れ、敵の位置を探る。

(どこだ?)

 瞬間、背筋に悪寒が走り、イリヤナは振り返る。そこにマントを纏い、髪をおさげにした男――アレスが立っていた。

(いつの間に!?)
「気配は絶っていたつもりでしたが」

 イリヤナは即座にトリガーを引き、銃弾がアレスへ放たれた。が、目にも留まらぬ速さで腕が振るわれると、銃弾はアレスの左手の中に収まっていた。

(手で掴んだ……!?)
「私に銃は通じません。降伏していただけませんか?」
「ちぃっ!」

 続けざまに二発発砲するが、今度は軽く身を捩っただけで避けられた。

「正確な射撃ですが、貴方は優しい。急所を狙ってませんね? それが分かれば軌道を読むのは難しくありません」

 アレスは硬直している相手を見据えた。ジャケットを羽織った体はやや小柄で、顔を見るといかにも歳若い。少年兵だろう。地球という戦場の現実、その一端を目の当たりにしてアレスは重い気持ちになった。

(拳銃でダメなら……!)

 諦めないイリヤナは、拳銃をアレスに投げつけ、その隙に腰にさしてあったサブマシンガンへ手を伸ばす。しかし、先刻のマシン戦でその手は読まれていた、拳銃を避けもせずアレスはイリヤナの懐に飛び込み、手にしていたサブマシンガンを左手で掴むと握りつぶしてしまった。

「どんな力してんだこのゴリラ!」
「ゴリラではありません、アレスと申します」
「聞いてねえ! でもきれいな顔にゴリラはゴメン!」

 最早格闘戦以外にない、イリヤナはパンチを見舞うが、アレスに取ってはそれ自体が隙だった。両手を伸ばして襟元を掴み、体を引き寄せ背負い投げむにゅん!

「んっ……!」
(えっ、むにゅ?)

 イリヤナが咄嗟に身を硬くすると、目の前でアレスは、前転側転バク転してから危険物を恐れるように後退りした。

(何だ今のアクロバティックな動きは……?)


目を丸くしたイリヤナの視界に、先程までの余裕が吹き飛んだ青年が映る。

「……失礼。女性の方でしたか」
「……よく言われる。女だからって気にすんな」

 アレスが触れたのはよく育った女の子の胸だった。アレスが相手にしていたのは、彼ではなく彼女だった。
 イリヤナが近づく。その分アレスは下がる。

(なんだコイツ……?)

 今ならばっ!――アレス目がけて跳躍しキック。これは左腕でガードされ、足に金属の壁でも蹴ったような衝撃が返り、イリヤナは完全にバランスを崩した。
 その隙を逃さずアレスはイリヤナの背後に回り、後ろから服を掴む。

(後ろからなら気にならない! 気にしない!!)

 グイッと引き倒そうとすると、腕に残ったのは軽い手応えと服だけ。そこには上半身ブラジャーだけのイリヤナがいた。
 背後へ向けてトラースキック! 

「ごふっ!!!!!」

 アレスは腹筋に持てる全ての力を注いで受け止めるが、ダメージは禁じえない。
 イリヤナにとってはようやく得たクリーンヒットだ、この機を逃さずボディ、フック、アッパーとコンビネーションを叩き込む。

「へぶっげぷっ!!! ちょちょちょちょっと待ってください!!」
「何を!?」
「服着てください!!」

 アレスは顔を真赤にして、イリヤナが脱いだ服を突き返してきた。

「その隙にやろうってんだろ、いらねえよ」
「何言ってるんですか若い女の子がはしたない!!」
「お前何言って……」
「目のやり場に困るんですよ!」
「そ、そんなに嫌か? ちょっとショックだぞ……それともホモか?」
「ちちちちちち違います! 断じて!!」

 残像が出来るほどの高速首振りで否定するアレス。

「同性愛者ではありません。あと嫌というのではなく、魅力的です! じゃなくってだからちゃんと服を着てもらいたくて。私は聖職者です! 風俗の乱れは看過できないのです!」
「……あ、そう」

 かけるべき言葉が無いが、イリヤナはとりあえず服を受け取る。

「じゃあ服着るから、後でも向いてろよ。この隙に近寄ろうとするなよ」
「しません、そんな卑怯な真似は。速やかに着衣を整えてください」

 アレスの背後でちゃんと衣擦れの音がする。地面に物が落ちる音がしてから、ようやく声がかかった。

「よし、いいぞ」
「はい……って 何 で 裸 に な っ て ん で す か ぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 そこには一糸まとわぬ女の子の姿があった。下着も何もナッシン。

「美しい……はっ!」

 アレスは即座に回れ右して見ないようにする。直後、背中に鋭い蹴りが突き刺さった。
 転倒、だがすぐに体を起こし、目は瞑ったまま気配を探る。見てはいけない。相手のためにも目を開いてはいけない、それがアレスの矜持。
 そんなことはお構いなしにイリヤナの殴打が加えられる。相手の攻撃を気配だけで感知し、払い落とすアレスだが、伸ばした手がまた柔らかい物を触ってしまった。

「うんっ……」
「ハッ!!!!」

 イリヤナの何かを感じるような声と、手のぽにょっとした感触。アレスは完全に硬直し、おかげで容赦ない肘鉄を顔面に食らう。

「ぶふっ!!! 卑怯ですよ!」
「知るか童貞!」
「どうしてわかるんですか!?」
「誰でも分かるアホ!!」

 アレスのお下げを掴んだイリヤナは、そのまま頭部を引き寄せ、腕を回し、フロントチョークに! しかもわざと胸が当たるように絞める。

(☆;dえじょ9@^がごw!!!!!!)

 顔に触れる柔らかで温かい包みこむような感触がアレスの力を奪っていく。そしてこのままでは意識も奪われる。

(死ぬ!?)


護衛官としてこれほどまでに死を間近に感じたのはおそらく2,3回目だろうか。そして間違いなくもっとも情けない死に様となる。

(それだけはできない……! 私にはやらねばならないことが!!!)

 体内に残された酸素をフル活用し、相手の体に腕を回す。幸い体重は軽いようだ。そして繰り出すは無理な姿勢からのサイドスープレックス!

「なっ!?」
(これで……っ!?)

 アレスは落下点に岩の存在を感じ取ると、右腕に力を入れた。相手の体が宙で一瞬浮き、軌道がズレ、柔らかい草の上に落とされた。

(くっ!)

 無理な投げ技で腕に負担がかかったが、予測通り岩が地面から顔を出していた。ここに落とされていれば彼女は大怪我していたかもしれない。
 そのことにはイリヤナも気づき、二人の間には微妙な沈黙が流れる。

(塩送られちまったな、どうしよう……)
(もう捕虜にするの諦めて逃げようかな。いやいや断じてそれは)

 その時、上空を空戦型羅甲が通過して行った。突風に顔を叩かれ、二人はここが戦場であることを思い出す。
 空戦型羅甲は戦闘中だった。羅甲目がけてミサイルや銃弾が飛び交い、羅甲も反撃する。

「くっ、私の操兵を見つけてここまで来てしまったか?」

 このまま地上にいれば危険と考え、アレスは乗機の弥紗那を見る。で、彼女をどうするか。彼女の乗機はアレスとの戦闘で破壊されてしまったため、この場を離脱できない。コクピットに収まっていても的になるだけだ。
 考えているうちに、空中で羅甲が被弾し、破片が降り注ぐ。アレスの護衛官としての血が彼を動かした。イリヤナに駆け寄り、抱きかかえたまま跳躍。とっさのことにイリヤナの方が驚いていたが、第2、第3の破片の雨が降り注ぐ。

「飛びますよ!」
「えっおい!?」

 右腕が先程の投げで痛む。よって左腕一本で彼女を抱え上げると、肉体の感触など忘れ、崖に向けて飛び込む。直後、羅甲が撃墜され地に墜ち、爆炎が彼らの姿をかき消してしまった。






「う……ぐ……」

 体中を激痛が襲う。だがテロリストの爆弾で肉体を吹き飛ばされた時ほどではない。アレスはそれよりも、顔を覆う圧力に息苦しさを覚えた。顔に乗っかる何かが今も動いている。

(……何だろう?)
「ぐ……ん……あっ悪い!!」

 崖の底、草木の間でアレスは、女の子に椅子にされる自分を発見した。気がついたイリヤナはすぐにどけようとしたが。

「……私の遺体はこの星に埋葬してください」
「人のケツの下で死ぬなバカ!!」

 ゲシャッ!

 足蹴にされてアレスの意識は再び闇の底に沈み込んだ。薄れいく意識の中、ごめんなさいごめんなさいと連呼する声が聞こえたが、もう耳には入らない。


続く