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White Knight

Chapter2



 東ヨーロッパの山岳地帯。生い茂る木々を蹴散らしながら、今日も地球人とアムステラ人の激闘が繰り広げられる。

 世界有数の企業オシリス社が抱える傭兵部隊、『O.M.S(Osiris Mercenary Service)』。その中でBクラスにランク付けされる小隊"レッドスネーク"がこの地に展開していた。肩に赤い蛇のエンブレムをあしらった6型が3機。彼らの眼前にはアムステラの操兵・羅甲が5機。既に互いを有効射程範囲に捉え、羅甲のマシンガンが散発的に弾丸をばら撒く。
 飛来する弾丸に木々がなぎ倒されていく。それでもレッドスネーク隊員は、シールドを構えて反撃する気配を見せなかった。

「もう少し引きつけろ!」

 6型を操縦するジーンが指図をした。

「もっと近づかないとお前の射撃なんて当たらないもんな」
「イリ、あまり言ってはいけませんよ」

 他の6型を操る二人、イリヤナとエトゥが言葉を交わす。イリヤナの言葉にジーンはむっとなった。彼の射撃は期待されていない。
 英国陸軍に所属していたジーンは、とある訓練で味方を誤射してしまい、以来射撃恐怖症に取り付かれていた。照準を合わせ、トリガーを絞る一連の動作が、腕がブレてまともに行えないのだ。
 それを補うために、ジーンの6型には巨大な近接戦闘用アームが装備されていた。常人ならば扱い難く嫌われる装備だが、彼は訓練を重ねて使いこなせるようにした。

 敵の弾丸がシールドを叩く。まだ距離が遠く、威力が弱い。指揮官のイブラヒムから間もなく指示が下るはず、それまでジーンを中心に堪える。

 途端にジャミングが強まった。敵羅甲部隊の側面に土煙が上がり、ゴテゴテと改造した108式戦車、通称"108ターボ"が突っ込んでくる。ミサイルと弾丸をまき散らしながら、羅甲の横っ面を叩き、そのまま高速で通りすぎて行った。

「今だ!!」

 ジーンはこの隙に突進し羅甲との距離を一挙に詰め、右腕の"シザースアーム"を振りかざす。高周波裁断兵器シザースアーム、対機動兵器用に開発されたハサミ型の武器が、羅甲の頭部を粉砕した。
 視界が奪われてもマシンガンを構え抵抗しようとする敵に、ジーンはシールドで殴りつけ、打ち倒し、止めに胴体部へ高周波ナイフを突き刺す。羅甲はそれで機能停止した。

「まず1機!」

 これが俺のファイトスタイルだっ。次の獲物を求めて周りを見回すと、エトゥが敵を一機仕留めていた。遊撃の位置にいた敵に対し、アサルトライフルで牽制、動きを止めた後、ジャミング効果を受けない有線ミサイルで敵を破壊していた。

(残るは3機か……!)

 数的不利は無くなったが、イニシアチブは使い果たしたと言っていい。一度体勢を立てなおして正面からぶつかれるようにすべきだろう。そういえばイリヤナはどうなったか、ジーンがイリヤナの6型を探すと、羅甲の生首が飛んできた。

 イリヤナは獲物のメイスで羅甲の頭部を破壊すると、軽くジャンプし、足を羅甲の肩に乗せた。その様をもう1機の羅甲が見ていたが、攻撃はできない。味方の羅甲に当たってしまう。それを計算づくのイリヤナは、羅甲の肩からジャンプして蹴倒し、そのままの勢いで次の羅甲へとメイスを振り下ろす。
 敵は戦斧でそれを受け止めた。そこまで予測していたのか、イリヤナの着地はバランス良く、逆に敵羅甲がよろける。即座、イリヤナの6型が再び跳ねて、6型にあんな機動ができるのか、というほどの回し蹴りで敵をすっとばした。
 転倒した羅甲に、ジーンが追撃を掛けようとしてやめた。案の定イリヤナが止めを刺しに行ったため、衝突しかねない勢いだった。味方との連携が考慮に入っていないのが難点である。
 その点エトゥは、この間にも残った最後の羅甲を射撃で牽制している。その羅甲も、引き返してきた108ターボの砲撃で粉砕されていた。

 一度の衝突で5機の羅甲を撃破したこの戦果。ジーンは隊長のイブラヒムに驚かされる。片足が無く、機動兵器の操縦ができないイブラヒムは、グエンという偏屈老人の108ターボに同乗し、そこから指揮をしている。その作戦は高い成功率を収め、二ヶ月前に結成されたばかりのレッドスネークがすでにBクラスに、このままいけばAクラスに昇格できる勢いだ。
 ジーンが舌を巻く相手はもう一人いる。イリヤナ、弱冠16歳の傭兵だが、歳不相応なスキルには隊員一同驚かされた。共に近接戦闘を得意とするジーンにはその技量の高さがよくわかる。
 イリヤナはイブラヒム隊長がどこからか拾ってきたらしく、イリヤナも隊長には強い信頼を寄せているようだ。だが始めのうちは人と話そうともせず生意気なガキという印象だった。

「今日は腕が震えなかったんだなジーン」
「うるせっ」

 ジーンとも軽口をたたき合う程度には打ち解けてきた。だが相変わらず生意気なままだ。

「周囲に敵性反応ありません」

 エトゥが冷静に辺りを索敵していた。ジーンとイリヤナが言い合うのをエトゥが宥める、という関係になっている。
 エトゥは人当たりが良く常に冷静だが、故郷でマフィアを十数人殺害した過去を持つというから人は何をしでかすか分からない。いずれもO.M.Sに入隊するような人間がマトモな人生を歩んでなどいないだろうが。

「隊長どうします?」
「まだ敵の後続がいるはずだ。マトモにぶつかるより後退するぞ」
「了解」

 引き際もいい。ジーンたちは異議も挟まずその場を後にしようとした。


「なあ、本当に敵の反応は無いのか?」

 イリヤナが口を挟んだ。

「だとよ、どうなんだジイさん?」
「俺の108には反応無いぜ。もっともジャミングがかかってるがな」
「エトゥは?」
「最大望遠でも敵影は確認できません」


「それでも何か、嫌な予感がするんだ……」

 イリヤナはたまに感で物を言い出す癖がある。それも良い、悪いと曖昧なことばかりだが、この言葉にイブラヒムが反応した。

「早めにこの場を離れる」
「どうしたんで隊長? まあいいですがね」

 ジーンも動き出そうとしたその時、僅かな振動。
 彼らの目の前で地面が盛り上がると、その中から奇怪な物体が姿を現す……!



「ヒィーハッハッハッハッ!! こんなところにウジムシ発見んんんん!!」

 アムステラ軍少佐・アクートその人である。

「ちっとばかしムシャクシャしてるからよぉぉ、お前ら楽に死ねねぇぞぉ!」

 ムカデ野郎か!? 地球軍の間で「ムカデかサソリのようなマシン」と囁かれる機体がある。"悪魔"や"紫の蝶"、"毒蛾"と姿形から名がつく者たちの中でもタチの悪い相手、それがこの邪蠍蟲(ジャカツキ)である。

「各員、散れ! 集中砲火を浴びせろ!!」

 イブラヒムの号令で一気に動き出す。が、邪蠍蟲の体は変則的に動いたかと思うと、地中に潜り、下方からジーンの6型を襲った。
 シールドごと左腕が持って行かれる。辛くも逃れたが次に同じ攻撃は防げない。エトゥが砲撃を加えるが、邪蠍蟲は悠々と胸部のレーザー砲で報復した。

「ウジムシが鳴いてんじゃねぇよっ、俺に聴かせるのは悲鳴だけで十分だぜぇぇ!!」

 たちまちエトゥの6型が破壊される。手足をレーザーで撃ち抜かれ転倒し、脱出装置が作動した。投げ出されるエトゥ。しかしこの戦場で生身を晒すことは極度に危険だった。

(ヤバいぜこいつは……)

 ふわふわと傭兵として生きてきたが、この時ばかりはジーンの心が凍りついた。アムステラの特機との力の差がここまでとは。
 せめて若いイリヤナぐらいは生き残らないかな。ふとそんな考えが浮かんだが、彼の思いに反してイリヤナが邪蠍蟲へ跳びかかる。

「このクソが!」
「あぁん?」

 虫でも払うように邪蠍蟲の腕が振るわれたが、イリヤナはそれを盾で巧みにいなすと、肩口にメイスを直撃させた。

「ゴミが死ねよ!」

 アクートが反撃に次々と刃を振るうが、イリヤナは軽快な足捌きでそれをかわす。

「どうした俺はここだぞ、図体だけのイ○ポ野郎! 付いて来れないのか!?」
「てめぇ機体から引きずりだしてからなぶり殺しにしてやるぁ!!」

 邪蠍蟲の攻撃が激しくなると、イリヤナは背を向け逃げに徹し、レッドスネーク隊から引き離されて行った。

「あいつ……囮になったのか?」

 ジーンは後退しながら二人の行く先を見ていた。今ならば逃げられる。だがここでアイツ一人を置いていいのか?
 思考は動き出した戦場に流される形となった。付近に地球・アムステラ両軍の増援が現れ、レッドスネーク隊は後退を余儀なくされる。


「あの野郎どこいきやがった!? チックショウいらつくぜぇぇっ!!!!!」

 しばらくしてアクートは標的を見失った。辺りには割って入った地球軍兵器の残骸が打ち捨てられている。
 イリヤナは地形を利用して敵の目を逸らした隙に、岩山の隙間に機体を隠していた。もし邪蠍蟲が近づいてきても、あの巨体ではここまで入ってこれない。もし辺り一帯を無差別に掘り返すような無謀な敵なら、好きにさせておけばいい。まだ近くに地球軍はいるのだ。

「隊長無事かな……」

 仲間たちのことが気にかかるが、今は体を休め、落ち着いたら原隊に合流を目指すことにした。





「面目ありませんヘルストローム卿。護衛を依頼しておいてこの様とは」

 アムステラの将校がアレスに謝罪する。アレスは気にしないよう笑顔で返した。
 物資を輸送していた小型輸送艇の一隊は、折悪く地球軍との戦闘に巻き込まれそうになり、予定の進路を外れて迂回する道を選んだ。だが途中、輸送艇の一機がエンジントラブルを起こし、戦域外で停止、修理を終わらせたところだった。
 その間にも戦局は変化し、近くまで地球の機動兵器が近づいてきている。アレスはそれに付きっ切りで護衛を務めていた。
 アレスが駆る操兵は、アムステラ国教会が独自に開発した第三世代型汎用量産操兵・弥紗那。絢雨や雷殻のような突出した性能は無いが、環境を選ばずバランスに優れ、オプションパーツの換装によって様々な任務に対応することができる。

「急いで基地に向かいましょう」

 促されて輸送艇が飛び立ち、基地へ進路を取る。敵に奇襲される可能性はあるが、山間の強行路を選んで進んだ。
 ――突然前方に地球の機動兵器が現れた。

「待ち伏せか!?」
「こんなところにアムステラ!?」

 現れた6型のパイロット――撤退しようとしていたイリヤナが、咄嗟に銃を構える。
 対してアレスは機体を輸送艇の前に割り込ませる。発砲。対応が遅れた護衛の羅甲2機が、イリヤナの放ったアサルトライフルを受けて損傷した。
 アレスは機体背部に装備している電磁フィールド発生装置を作動させ、機体もろとも巨大な盾とした。展開されたフィールドに銃弾が弾かれるのを見たイリヤナは、元々攻撃する意志が無いためバックジャンプで距離をとる。

「輸送艇を非難させてください!」

 輸送部隊へ言うやいなや、アレスは敵へ肉薄し接近戦に持ち込んだ。敵を足止めしているうちに輸送艇を逃がすべきと判断したためだ。
 もしかしたらこの6型は囮で、護衛の操兵を引きつけ、別働隊が輸送艇を襲う作戦かもしれない。なので、残るのは自分一人のほうがいい。それも早めに敵を破り、素早く護衛に戻るのがベスト。
 抜き放ったビームソードでアレスは斬りかかる。地球人にとっては珍しいビーム兵器に、イリヤナはすぐ危険を感じ、まともに打ち合うことを諦めた。ひたすら下がり続け、相手の間合いに入らない。

(いい読みです……)

 だがまだアレスには余裕があった。敵を逃げるに任せると、ビームライフルに持ち替えて狙撃の構え。
 それを見たイリヤナは、咄嗟にシールドを円盤のようにして投げつけた。

「くっ!」

 トリガーを引く。一射、同時にシールドがライフルを弾き飛ばす。
 放たれた光条は6型の右腕を貫いた。持っていたメイスを落としそうになったが、そこは左腕で掬い上げ、すぐに迎撃できるよう身構える。

(このパイロット、できる……)
(機体のパワーが違う……長続きしないぞ)

 剣とメイスで対峙した二人は、互いに動かないまま相手の動向を見守った。どちらにとっても不都合な状況だが、敵の狙いが読みきれない以上迂闊には動けない。

『長引けば不利……!』

 そう思った二人は、手に持つ獲物に一念を込めると、ほぼ同時に地を蹴った。
 敵が迫る。イリヤナははやや早く構え、武器を振るう。遠い――その意図を読み取ったアレスは、スラスターを吹かして機体を捻った。
 6型の腕が途中でメイスを放し、一瞬前まで弥紗那の居た空間を貫く。

(読まれたが……!)

 ここまではイリヤナも予測していた。すぐに同じ腕で高周波ナイフを抜き取る。その時には弥紗那がすでに至近距離へ踏み込んでいた。
 瞬速で振りぬかれる光の剣。それを、イリヤナは仰け反って避け、逆に蹴りを一発入れ逃れる。

(今のをかわす!?)

 驚愕するアレスだったが、決着はその直後に訪れた。
 接地した6型の脚部が過負荷に耐え切れずひしゃげてしまったのだ。

「整備不良が!?」

 原因は自身の無茶な足技にあるのだが。6型は数歩後退した後にバランスを失い、山の斜面を転がり落ちて行った。



「パイロットは無事でしょうか……」

 機体中枢に与えたダメージは少ないはずだが、地球の機体がどれほどの耐久力を持つかアレスにはわからない。しばらく様子を見ていたが反応が無いため、アレスは機体を降りて直接確かめに行くことにした。

(護衛の任務もあるけれど、できれば戦場で死者は出したくありませんし)

 殺さずの信条があるわけではないが、彼とて聖職者である。
 斜面の緩やかな箇所を探し、乗機を座らせると、アレスは6型に近づいていく。


 日は中天にかかり、暑い日差しが照りつける。


続く