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White Knight

Chapter1



『拝啓、兄上様。御健勝でいられるでしょうか? 私は地球での任務に就いて二ヶ月ほどが過ぎました。白盾騎士団の一員として国教騎士の査察を中心に、それなりに忙しい毎日を送っています』


 アレス・ヘルストロームは今時わざわざ紙とペンで手紙を書いている。こういうことには形式を整えることで気持ちがこもる。それが師の教えであり彼もそう考えていた。


『……仕事の合間を縫って地球の事を学んでいますが、この星は緑豊かな美しい星です。アムステラに比べて後進だと言う人達もいますが、私はこの星とそこに住む人々にとても興味を抱けました。兄上にも戦いが落ち着いたら是非来ていただきたいと思います』


 それは本心からの文だった。彼が生まれた星、惑星バダシャは、水資源に乏しく、複数の民族が混在して水場の争いが絶えなかった。大小様々な国家が郡立したことは地球と似てもいる。故に、水の豊かな地球の有り様は羨ましくもある。


『……私はこの星がこれ以上の戦乱に包まれることが虚しく思えます。分を弁えぬこととは承知で、軍上層部には戦線の非拡大を上申してみようと思っています。国教会では“幻魔騎士団”の派遣も検討されてると聞き及んでいますが、これにも反対です』


 幻魔騎士団――その名はアムステラでは恐怖と侮蔑を込めて呼ばれる。国教会最強硬派である彼らは、強大な異教徒の元に派遣されては瓦礫と屍の山を築く。アムステラに対する人々からは殺戮の使者として、それを眺める人々からは狂った騎士団として見られている。
 彼らの行動はアレスの属する中庸派にとって悩みの種だった。だがここ数年、さすがに過激な闘争が問題視されてか、よほどの戦局でなければ派遣されることは無くなっている。さらにプラスな要素として、ヒルデガード皇女の存在が挙げられる。
 アムステラ神聖帝国の皇位継承者第一位のヒルデが登極すれば、聡明で知られる彼女のことである、アムステラは少なからぬ変化を生じることが期待される。国教会の過激派にも睨みを効かせてくれれば、幻魔騎士団の横暴に強い抑止が働くことだろう。アレスとしてはそれを望んでやまない。
 ただし、ヒルデが皇位を継ぐに当たっては、それを望ましく思わない者たちとの諍いが起こることも容易に想像できた。何も今に始まったことではない、有史以来権力の移行には争いが絶えぬものだ。それに彼女が皇位を継ぐのはまだまだ先のことになるであろうから、今から気に病んでも仕方がない。師匠にも「ハゲるぞ」とよく言われることを思い出し、アレスは苦笑した。


『地球の各地を訪ねるうちに、地球人のお知り合いも何人かできました。今日は赴任したての頃の出来事をお話したいと思います……』



 それはアレスが地球に来て間もない頃……


 二ヶ月前

PPPPPPPPPP!

 受信を知らせるアラームを聞いたクレイオは、素早く手を伸ばして受話器を取った。

「こちらアムステラ国教会・地球支部ですじゃ! お布施は1アムルから受け付けておりますじゃ!」
「はい?」
「地球の方のお布施も受け付けておりますじゃ!」
「クレイオ殿ですか? 白盾騎士団のアレス・ヘルストロームです」
「ああなんじゃ、アレス殿かぁ……」

 旧知の人間からの電話と分かってクレイオは軽く落胆した。

「地球での布教活動はいかがですか?」
「まだ誰も相手にしてくれないのじゃ。この番号もたまにイタズラ電話が掛かってくるだけで」
「そうですか……。しかし、何事も粘り強く続けることです、頑張ってください」
「ありがとなのじゃ」

 クレイオの関わる男性はそれほど多く無い。そんな中、アレスは敬虔な信徒としてクレイオの善き先輩のような人物だった。シアンは兄として無二の家族だが、教義のことなどには無関心なため、仕事方面の交わりはアレスのほうが深かったりする。

「ところで何か用事ですか?」
「ああ、そうでした。以前より各騎士団の活動について査察を行っていましたが、クレイオ隊について一つ確認したいことがありますので、明日伺いたいと思います」
「わかりましたのじゃ、時間を作っておきますじゃ」

 翌日、クレイオはシアンと一緒にアレスの訪問を受けた。
 アレスにとってシアンも知らぬ仲では無い。アムステラ外の出身であるアレスは、国教会でも外様としての扱いを少なからず受けている。一方シアンは、ディラードが見出したとはいえ、元々アムステラの反逆者である。古い慣習に縛られない意味で二人には共通する意識があるのかもしれない。

「こちらの資料ですがご覧ください」

 クレイオとシアンにクレイオ隊の物資目録を渡す。その中の赤いラインが引かれた箇所に二人は視線を注いだ。

「国教会から届けられた物資の一部が、“ニコニコハウス”なる謎の施設に供出されています。この施設と供出の目的について説明していただけますか?」

 言われたシアンは、厳しい目を丸くして資料に見入った。
 咄嗟に自体を推察したシアンはクレイオの耳元に囁く。

(おいクレイオ、これはまさか……)
(孤児院で食料が足りないというから少しばかり分けてあげたのじゃ)
(このアホ!)

 シアンの語気が強まる。

(補給された物を許可無く地球人にくれてやりゃ横流しになるだろうが!)
(……あ)

 クレイオの表情が今気づいたと言わんばかりに強張る。シアンは呆れつつ、この場をやり過ごす5つの言い訳を考えたが、どれも堅物のアレスを納得させるに自信が持てなかった。

「説明していただけますか?」
「あうあああうああ……」

 アレスは涼しい顔のまま、やや語気を強めて問うた。
 尊敬する先輩に尋ねられ、クレイオは絶えられなくなってか頭を下げた。

「こ、孤児院なのですじゃ……食料をあげてましたごごご、ごめんなさい……」

 ペコペコと頭を下げるクレイオを横目に、シアンは10のフォローの言葉を考えたが、彼の頭では「まあいいじゃん」レベルの物しか浮かばず、アレスに通じるとは思えなかった。
 クレイオが視線を上げるとそこには――

「とても善いことです(キラッ」

 アレスの輝かしい笑顔があった。

「査察ばかりでそこまで考えが至っていませんでした。そういうことは国教会上層部が率先して行うべきでした。まだ必要な物があれば何時でも上申してください、物資は出来る限り都合をつけます」



 クレイオの活動は国教会公認となった。



「クレイオ隊は問題無さそうですね。クレイオ殿もしっかりと務めているようで安心しました」
「まだまだ危なっかしいけどなあ」

 アムステラ軍の基地内を歩きながらアレスとシアンが話す。今日ほどではないが、ささやかな問題ごとならば日常茶飯事である。クレイオがまだ幼い頃からシアンはその火消しに回ることが多く、彼としては意外にも処世術を身につける結果となった。

「いえ、何だかんだでシアン殿の存在は大きいと思いますよ。あれぐらいの年頃の娘には、やはり家族の存在が欠かせませんから」
「家族か……」

 アレスの言葉にシアンは様々な思いを巡らす。そもそも、言ったアレス本人には身近な家族の存在が無いではないか……。両親とは物心付く前に死に別れ、唯一の肉親である兄とは疎遠だとシアンは聞いている。
 二人はそういうことを話す程度には親交があった。傍から見れば、君子を絵に書いたようなアレスとシアンとでは水と油に見えるが、この二人には壁というものが余り無い。加えてシアンには、アレスに一目置く要素があった。それは……。

「侵入者だー!!」
「!!」

 声がした方向へ二人は同時に駆け出す。



 基地内を巡察していたアムステラ軍のニルス少将。どこかで警戒の叫びが聞こえたかと思うと、彼の周りで警護の兵士がバタバタと倒れだした。丸裸同然になったニルスが見たのは、派手なマスクと軍服(?)に身を包んだ小太りの男だった。
 刺客だ。ニルスは最近、アムステラの軍人を闇討ちする謎の敵の噂を思い出し、己の迂闊さを後悔した。
 刺客が刀を抜いて跳びかかる!

「我こそはゲルマン忍者の末裔・シュバッふぇぼ!!」

 振りかぶった刃はニルスに届かず。刺客は横から割って入った“白い影に”打ち倒されていた。

「貴官は!?」
「白盾騎士団のアレスと申します。お怪我はありませんか少将?」

 十数秒後、遅れてシアンがやってきた時には刺客は完全に捕縛されていた。
 シアンはアレスの行動の速さに舌を巻く。シアンとて足の早い方であるが、アレスの反応、判断、俊敏さが合わさった鎮圧劇にまるで追いつけなかった。

(さすが“聖なる盾”の異名を取る護衛官だぜ……)

 思いは基地の将兵たちも同じのようで、ニルスを始め多くの人々がアレスに賞賛の声をかけていた。
 その脇で……地面にうつ伏せで転がされた刺客の男は、一目につかないように体をよじらせる。

(ククク……さっきの邪魔には驚かされたが……甘いぞ! これぞゲルマン忍法縄抜けの……)



 ドカッ!!!!!!!


 後頭部を襲う途端の衝撃に刺客は意識を失いかけた。踏みつけている。誰かが自分の頭をサッカーボールのように踏みつけている。そして声が投げかけられる。

「バカどもが目を離しちまってよーぉ、このカス手錠外すつもりじゃね? しっかり見てろよなぁ」

 刺客の頭をグリグリ踏みつけながらごちるこの男……毒針と呼ばれ忌み嫌われる男・アクート!
 刺客は頭上で銃の撃鉄を起こす音が聞こえた。刺客の背筋に脂汗が滲む。

「逃げられるぐれぇなら今殺っちまったほうがいいよな? つーことで脳漿ぶちまけな!!」
「――――!!!」


 ドゥンッ! ダァンッ!!



 放たれた二発の銃弾は……地面を穿つに終わっていた。

「彼はもう無力です。命まで奪う必要はありません」

 そこには銃口をそらしたアレスと、煽りを受けて尻餅を突いたアクートの姿があった。
 驚いた表情でアレスを見ていたアクート。その表情が徐々に歪み、苦々しい目でアレスを睨みつける。




「最後のは良くなかったな……」
「何がですかシアン殿?」
「アクートだよ」

 休憩室でシアンがアレスに言う。アクートの悪評は国教騎士たる彼らも十分に知るところだった。シアンも問題児として扱われているが、アクートのそれは比較にならない。

「あいつすげぇ睨んでたぜ、終わった後も。しばらくは顔を合わせないようにしたほうがいいぞ」
「私は間違ったことをしたつもりはありません。彼も、あの刺客が再び襲ってくることを警戒してやったことなのでしょう、理解しています。彼も私の考えを理解してくれることを願いますよ」

 いや無理だろ。シアンは呆気に取られた。少し前にアクートと同じ基地に駐留してから、シアンは彼に関する悪評が概ね事実と違わないことを認識し、極力関わらないようにしていた。もっとも彼自身、積極的に他人と交わる性分では無いが。
 アクートも危険だが、アレスの潔白ぶりも火に油を注ぎそうだとシアンは思う。この世にこれほど質の悪い組み合わせがあるだろうか?

(こいつを仕事に押し込めるか、どこかに連れていくほうが波風が立たなさそうだな)

 クレイオの後見を務めた経験が今後の行動を弾きだす。だがシアンの気苦労を他所に、翌日アレスは、補給部隊の護衛に自ら名乗りでて出撃してしまった。



 そこで予想もしない事件が起こるとも知らずに……。


続く