ウルトラマサイ 第5話


ここは完成したばかりのレゼルヴェ国大型ホテルの一室。
革命以前は白人専用の高級ホテルとして使われる予定だったそれは、
最上階を除いてパイロット候補試験を受けに来た民間人の宿泊場所として使われていた。

そして、最上階の一室では今回の試験補助の為に集められたメンバーの一部、
レゼルヴェとは現時点で無関係で平等な判断を下せる他国の人間、
PG隊とオシリスの傭兵が今日の面接について語り合っていた。

「どうも、クレオパトラです」
「「ズッコー」」

年長の女性が明らかに間違った自己紹介をし、部下の二人がコケる。
ただ一人アナンドはオシリスジョークについていけず何してるんだあんたらといった目で
三人を見ていた。

(アナンド、早くコケて!)
(お願いします)
(何言ってるんだよお前ら)
(この人これやらないと話始めないよ。マミマミさんとは別の意味でめんどくさい女よ)
(マルー、お前何言ってるんだよ)
(アナンドさんお願いします。ここでコケとかないとこの後が長いんです)
(わーったよ)

マルーともう一人の必死の呟きを聞きアナンドもずっこける。
彼女が15分かかる持ちネタに移行しようとする直前だった。

「…よっし今日も大爆笑。ネイ、マルー、アナンド、もう話始めていいかな?」
「はい」
「うん」
「へーいへーい」

集まった若い男達を仕切るはO.M.SランクCチーム『ワイルドカード』のリーダー、ジュン・G。
本部長のS‐ジョンと名前が微妙に似ているが特に接点は無い。


「率直に言うわね。この国に来ておばさんすっごくビックリしました。
よっぽどの人以外は面接はパスさせるって話だったけどそのよっぽどの人が20人はいたと思うの。
ネイ、えっと、この試験の受験者は何人ぐらいだっけ」
「999人ですね」
「と、言うことはふるい落とす気の無かった面接で全体の2%もアホの子がいたって事になるのね。
いや〜レゼルヴェ凄いね、まあ、その分素質ありそうなのも何人かいたけどね」

アラフォーのジュンの言葉に三人の10代は心の中で同意する。
彼らは今日一日それぞれ200もしくは300の受験者の面接に立ち会ったのだが、
別々に面接をしていた彼らの所全てに問題外も原石と思える存在も転がっていた。

「と、いうわけで今日のテーマはこれ!」

ジュンがホワイトボードに『私の見た脱落濃厚者と注目株』とテーマを書き込む。

「言い出しっぺの私から行くわね。私は1〜300番までの面接担当だったんだけど…」

その夜、四人は面接で会った様々な変人について語り合った。

「ルイヌーヴォーの馬鹿やろう!」と叫んで面接官を殴って逃げようとした白人男。
突然服を脱ぎだし、レゼルヴェ高官の愛人希望を訴えた女性ダンサー。
小便を乱射し、最後は自分の顔に浴びせたテロリスト。
隠しカメラでニコ生実況しようとした冷かしの黒人男性。
特技はイオナズンと最後まで真顔で言った東洋人。
携帯ゲームのレアカードが欲しいとマルーに詰め寄った元レゼルヴェ軍人。
入室と共に空中三回転捻りを決めようとして机の角に頭をぶつけて病院送りになったアスリート。
動物の死体を持ち込み、電撃で復活させるパフォーマンスをして見事室内を肉片まみれにしたマッドドクター。


「…色んな奴集まりすぎッスヨ…こいつらが本試験に来てない事をバクシーシするっス」
「でも、期待できそうなのもいたよ。マルーが見た中では464番の男がそう。
謎武装持ち込みできたムチャウ・ザイネンというモヒカンよ」
「おばさんの見た中じゃ3番のアーティ・ウーマと165番の鎌瀬犬一が良さそうだったわ。
どっちもおばさん好みの10代男子ってのもプラスポイントなのよね」
「名前は忘れましたけど600番台に一人経験者がいましたね」
「俺が見たのじゃ断然999番!締めを飾るのはスゲー奴だったというおなじみの展開だったぜ」

それぞれが思い思いの合格候補を挙げて夜は更けていった。

◇◇◇

(受験生の皆さんに連絡します。15分後第一時試験を開始します。
受験番号付きバッヂを胸に付けて一階食堂に集まって下さい。
くり返します、15分後に第一次試験を開始します。受験番号―)

朝6時、1000人近い受験者を集めたホテル内にアナウンスが響きわたる。
無論、ムチャウ達461〜465組の部屋にもその声は聞こえていた。
集団面接の時の5人毎に200の部屋が割り振られているのだ。

「おーい、お前ら起きとるかー?」

既に目を覚ましておりベッドの4人に声をかけるのは受験番号465番の男、
ノルウェー出身の元船員を名乗るウォルテガ。
トレードマークのバイキングヘルムを被った50近い男のダミ声で皆が目を覚ます。
4人の中で最初に目を覚ましたバッドが返事をする。

「ふあー、年寄りは朝早いですね」
「お前らが日が変わるまで自分らの夢語り合って夜ふかししとるからだぞ。
後15分で試験だと言っておった、いい加減おきんかい」
「後15分?ならもうちょっとゆっくりしても大丈夫ですかね?」
「アナウンス聞こえたのは10分ぐらい前だが」
「お前らすぐ起きろー!!!」

時間に間に合うかギリギリだと告げられ完全に目を覚ますバッド。
しかし、他のメンツはまだ夢見心地だった。

「クスリ…目覚めの一発…」

うつ伏せになったまま、枕元で手を動かしイケナイクスリを探す462番ブブラカ。

「この服頭が通らないぞ、どうなってるんだ昨日は入ったのに!」

頭頂部だけを襟元から出して服が入らないと主張する464番ムチャウ。

「服がでっかくなっちゃたみょん!こんなんじゃ外に出れないみょん!」

袖をプランプランさせ、シャツの裾を踏み転ぶ461番ジュダ。

流石は高級ホテルとして作られた施設、マサイの戦士とスラム住民には
生まれてこの方感じたことの無い寝心地を与え睡眠効果は抜群だ!
後ジュダは普通にサボリ癖だ!
バッドは仕事でたまに都市の宿に泊まった事があるからなんとか起きれたんだ!

「おきんか、お主らー!!」

ズガシュ!「痛い!」

ズガシュ!「痛いみょん!」

ズガシュ!「マサイ!」

眠くて動けない三人はバイキングヘルムヘッドバットで目が覚めた。

「ほら、そこのでかいのと小さいのは自分の服と交換せんか」
「フッ、この私がいない間にレゼルヴェのテストもレベルが上がったものだな」
「最初からこの難易度か、これは気が抜けないな」
「俺、ゼッタイ、パイロットなる、これからの試験でこのミス、取り戻す」
「大丈夫だぜ!お前らなら…いける!!」
「まだ試験は始まってもおらんわー!寧ろもう終わりそうじゃー!」

これが年長者だったけど心は若手なブブラカに代わる、皆から一歩引いたツッコミ親父の誕生の瞬間だった。
薬中ニートとマサイの戦士、共通した弱点は分単位のスケジュールを組めない事と贅沢への耐性が無い事。
思わぬ弱点が発覚したが、幸いにも同室の最後の一人が普通の社会人経験者だった為試験にはギリギリ間に合った。

ムチャウ達5人が指定のテーブルに着いた直後、食堂のテレビのスイッチが入る。
そこには一次試験の種目が記されていた。


『一次試験内容:美味しいカツ丼を作れ』

ざわ…ざわ…
食堂内に受験生の呟きが漏れる。人種年齢性別は違えど口に出すのは全て同じ内容。
すなわち、「この試験内容間違えてるんじゃねーの」である。

(失礼致しました、ただいま食堂のテレビに映されてる内容に不備がありましたので
画面が切り替わるまでしばらくお待ち下さい)

試験官側からの訂正にホッとする一同。パイロットになりに来たのに
最初からカツ丼作れなんて言われてどうしようかと思っていたが杞憂に終わりそうだ。
果たして最初のテストは運動系か筆記系か、受験生約1000人、いや、面接で24人強制退場になり
この試験に寝坊して参加出来なかったのが80人弱だから約900人の目が切り替わった画面に一斉に向く。


『一次試験内容:美味しいカツ丼を作りやがれウヒョヒョウ!』


「なるほどなー、これがレゼルヴェ式ってやつかーって同じだー!」
「結局カツ丼じゃねーかー!」
「ふざけるのは顔だけにしやがれー!」

各テーブルからブーイングの嵐。だが、それも意には介さず冷静な試験官ボイスが再度響きわたる。

(お静かに、確かにこの試験は一見パイロットとは関係ありませんが外部からの協力者の
プロのパイロット経験者方が考案したモノですからこの試験には必ず意味があるのです)
「ホンマかー?」
(ホンマやー、せやから文句は考えた人に言ってやー。ではルールを説明します。
今からそれぞれのテーブルにカツ丼と作り方を書いたマニュアルが支給されます。
皆さんはカツ丼が配られてから厨房で同じ物を作り、出入口で待機している試験官に
完成品を持っていって下さい。制限時間はカツ丼とマニュアルが全員に届いてから6時間。
カツ丼を提出するか試験を危険するまではこの食堂と厨房とトイレ以外に行く事は禁止します。
なお、この一次試験はチームで挑む事となりますのでテーブルの5人で協力してカツ丼を1杯
完成させてください)

試験官アナウンスの真ん中辺りからムチャウは予感していた。
自分の通って来た出入口を見ると、割り箸片手にトレンチコートの男性がデスクでスタンバっていた。
間違いなく、自分を取り調べたあの人である。で、あるならば―
自分達のテーブルに配られたカツ丼に恐る恐る口を付ける。

「これ、昨日食べたやつだ。あの後ろで待ってる人が昨日俺の目の前で作ったカツ丼だ」


マサイの青年ムチャウ・ザイネン24歳、完全中立のはずの試験で幸運にも
彼は大幅なアドバンテージを得た。この状況を利用して無事突破出来るのか、
そして次からはマトモな試験が待ってるのか。
全てはまだカツの中、出来立ての丼は熱い。

(続く)