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超鋼戦機カラクリオー異聞 四話



そこに在ったのは一機の機動兵器、銀を基調とした装甲を持ち、流麗なラインで纏められた芸術品の様な機動兵器が確かに在った。
ただ、この機体は何かのイベントで使用されるデモンストレーション用のダミーでは無く、その中身が最新鋭且つ敵側から流れてきた技術。
地球上の技術ではとても実現する事など出来ない技術を解析し、それを転用した物で構成された試作機――『光銀』と名付けられた機体。
全身の至る所に重力制御装置を搭載し、背部に備えられた四枚の大型重力波スラスターによる人知を超えた機動力を発揮できる機動兵器。
武器らしい物は携行しておらず、腕部に内蔵されている重力制御装置から指向性を持たせた重力波を照射する事で敵性体へ攻撃を行う。


「――――嗚呼、君は実に美しい。」


流麗な、女性的なフォルムに見える『光銀』を見上げ、恍惚の表情を浮かべながら白衣の男は呟く。

――かつてこの男は日本国防軍の技術仕官であり、国の防衛を一手に担う機動兵器の開発に関わっていたが、研究・開発を進めていく内に
その目的は亀裂が入ってしまうほどに歪み、国防の為の機体では無い、最高の性能と最高の攻撃力を備えた機体開発へとシフトして行った。
結果、己と己の考えに賛同したスタッフたちが求めた機動兵器は開発され、同機の最高スペックを発揮出来るような人形――強いて言えば
『生体コンピューター』とも言うべき青年を造りだし、後は実戦投入するだけとなった段階で……彼とスタッフは全員更迭されてしまう。
何年、冷たい牢屋と言う別荘にブチ込まれ、美味さとは無縁の臭い飯を喰わされ、一切の自由を奪われた所で過ごしたか!
長い間、鉄格子の部屋で過ごしたある日――突然牢屋から出され、日本国防軍の『お偉いさん』の一人と話し、機動兵器を造れと言われた。
……あの時、自分を牢屋に放り込んでおいて何を調子の良い事をと思ったが、潤沢な資金と十二分な研究施設に加え『帝国側の技術』――。
地球上のあらゆる技術体系とは違う未知の技術を知り、自分の物に出来ると知った彼はこれを承諾、短期間の間で『光銀』を造り出した。

聞く所、その『お偉いさん』は自分を抜きにして次期主力量産機の開発計画が始まった事に我慢ならないらしい。

聞けば聞くほど、日本国防軍の未来と大儀と言う言葉で着飾り、その実ただの逆恨みでしかない言い分に笑いが出そうになった。

滑稽極まりない愚物であるが、こうやって自分を解放し、制限も何も無い状態で大好きな機動兵器開発を行える状況を作ってくれたのだ。
『振り』だけでも彼の掲げる大層な理想、そして大きな器であると必死にアピールしている小さな器を満たし、心行くまで機体を作らせて貰う。
白衣の男――機動兵器の設計・開発に関する確かな能力を持ちながら、狂気に捕らわれた技術者・コウキ=ツシマは自分の娘が持つ鋼の肌。
銀色の装甲を愛しそうに優しく撫でながら、権力とプライドだけは一人前の将校を利用できるだけ利用する心積もりで居た。


「――ツシマ開発主任。」

「……おお、これはこれは司令官殿。この様な場所にようこそ。」

「社交辞令は良い。それより、この機体は何時から実戦投入できる?」

「そうですな、後一週間以内に私が開発しているAI、高性能且つ凄まじい演算能力を持った――」

「説明も良い。要は最低でも一週間以内に完成すると見て良いんだな?」

「その通りです。」


現れた基地の司令官に光銀の状況を伝えるツシマ。
最高の性能を持った機動兵器、その性能をフルスペックを発揮するにはパイロットが必要不可欠、と言う物では無い事を『あの時』に知った。
更に何であれ、人間と言うデバイスを扱えば何かと厄介な問題、倫理や安全性だとか、色々な制約が発生する為、コクピットは搭載されてない。
パーツが戦闘機動・行動に耐えれればそれで良い、態々、この娘に合わせたパイロットを苦労して用意する手間も時間も不要である。
後は頭部に設けられたAIポッドに高度な演算処理能力を持ち、自立行動が可能なAIを搭載すれば――己が夢見た究極の機動兵器は完成する。


「判った。このまま開発を急ぎ、光銀を実戦投入して私にその能力を見せて貰おう。」

「結構です。私が造った娘が司令官殿の予想を遥かに超えた物であることを証明しましょう。」


ツシマから説明を受けた司令官は踵を返し、彼の実験場と化している機動兵器格納庫を後にした。


「――やれやれ、プライドを保つって言うのも大変だこと。」


ツシマは溜息をつき、光銀のAI開発、その完成を急いだ。
総司令に言われたから、と言うのもあるだろうがそれ以上に我が娘を完全な姿にしなければならない――歪んだ、そして間違えた思考が彼を動かす。
自分が望む機動兵器を造れればそれで良い、それが約束されている間はあの無能な、プライドだけは人一倍ある総司令(笑)に従っても良い。
とりあえず、今は光銀の完成を急ぎ、実戦テストで総司令(笑)を満足させてやらなければ……。
再び溜息をつき、ツシマは光銀の頭脳とも言えるAIの構築作業へと戻った。




日本へと渡り、日本国防軍に伝わる剣術『日本軍刀術』を会得する為の手段を模索していた人形だが――妙案は浮ばない。
今でも一応ながら剣術は使えるのだが、それは真に自分が得た技術・業では無く、鬼刃を扱う上で付加価値として遺伝子に刻まれた情報である。
その情報をなぞっているだけでは『使い手』と対峙した時に全く通用しないと言う事はこの間の戦闘で思う存分に痛感した。
だからこそ、様々な流派の剣が情報として遺伝子に刻まれている中――自身を造った男のミスか、それとも意図的なのか判らないが、除外されていた
剣術である『日本軍刀術』を会得し、情報では無く『業』を体に刻み込んで己の物にしなければ――あの使い手、ミカヅキには届かないだろう。

その為に日本へと行かなければならないが……行くアテも無ければ足も無い。

鬼刃が健在であれば鬼刃で海を渡り、日本へ向かう事も出来るが……無断で鬼刃を使うとどうなるか、まして戦う事と引き換えに存在を許された自分。
そんな存在が許可無く勝手に機動兵器を乗り回し、あまつさえ日本へ向かったとかなれば――確実に処分、それもかなり大きな処分が下るだろう。
では鬼刃が修理中の間、日本へと渡って『日本軍刀術』を会得したいと申請した所で此処の司令官がソレを許可してくれるだろうか?

……答えは『NO』

この間、申請しに行ったら取り付く島も無い、言葉の集中爆撃によって断られたばかりだ。


「……どうした物か……。」

「何をさっきから不景気真っ最中のツラして、鬱オーラを振りまいてんだ?」

「――!?」


背後から声が聞こえ、振り向いてみれば――くたびれたワイシャツにスラックス、そして皺が目立つ白衣を着た主任が立っていた。
いきなり現れた主任に驚いている人形を尻目に、主任は椅子を蹴り上げ、鮮やかに空中散歩を楽しませた後、椅子の着地と同時に腰をかける。
『スタイリッシュ着席』と名付けられたこの業(?)を身につけるのに幾つの椅子を破壊してきた事か……と、過去を振り返りつつ――。
主任は懐から電気シェーバーを取り出し、無精髭を剃り始めた。


「…………。」

「あー……お前さんの鬼刃だが、一応、戦闘機動は取れるようには直した――が、それだけだ。
 本格的な戦闘は出来んな、やろうモンならフルボッコ確定、まぁ――こんな所だな。」

「あ、ありがとうございます。」

「流石俺、と言いたいが……面白くない!ええい、どっかから改造に使えそうなモンかっぱらって来い!」

「…………。」


電気シェーバーを懐に放り込んだ後、鬼刃を魔改造させろと叫び散らす主任を見てどう答えれば良いのか判らず、思考停止する。
鬼刃を戦闘可能な状態まで修理してくれた事は有り難いが、改造させろと言うのはどう言う事だろう……人物が人物なだけに不安を感じる。


「――さて、鬼刃については一旦、おいといて……。」

「はい。」

「お前さん、さっきは何で鬱オーラを振りまいてたの?オッサンが話聞いてやるぜ、鬼刃魔改造の権利と引き換えに。」

「…………。」

「お前さん、ボキャブラリーが足らんなぁ。若いし、中々のイケメンで、声もグリリバな兄ちゃんなのに、それじゃモテんぞ?
 ……仕方ない、今度俺が秘蔵のお笑いDVDを貸してやっから、それを見て勉強するように――っと、話をそらすな!」

(話を脱線させたのはそっちだろうに……。)


鬱オーラが途絶えた代わりに今度はカオス空間が形成される。
機動兵器の戦闘では類稀な能力を発揮し、身体能力に優れ、生身での白兵戦能力も高い人形だが――主任の前では赤子同然だった。
自分にとって未知の分野についての一方的マシンガントーク、矢次に吐き出される言葉の銃弾に圧倒され、成す術が無い。


「で、お前さんは何で鬱オーラを振りまいてたのさ?オッサンに話してみな。」

「しかし――。」

「総司令がやかましいってか?大丈夫だ、問題ない。一番悩んでいる問題を頼む。」


……恐らく、何らかの元ネタがあるのだろう事は理解できたが、それ以上の事について突っ込むのは止めておこうと人形は思う。
主任のネタをスルーし、人形は今、自分が成すべき事、それに対する問題について主任へと話した。
自分の遺伝子内に刻まれている剣術の情報だけでは限界がある事、真の『使い手』には一切通用しない事、己自身が強くなる必要がある事。
その為に日本軍刀術を会得し、遺伝子では無く己の体に『業』として刻み込みたい事を話し、ついでに総司令に断られた事も付け加える。


「なるほど――総司令がOK出さないから、途方に暮れていたと?」

「……はい。」

「ふむ、押して駄目なら――引いてみるか。」

「……は?」

「何、戦い方は一通りじゃない。直接戦闘でも、情報戦でも、だ。覚えておく様に。」

「は、はぁ……。」


そう言って手をひらひらと振りながら去っていく主任を見て、人形は首を傾げていた。



人形の話を聞いた主任はそのまま総司令の部屋へと向かい、まるで気の合う友人の家に遊びに来た感覚で扉を開き、中へ入った。
……訝しげな表情を浮かべている総司令本人を無視し、吹き溜まり、スラム街とも形容すべき基地に相応しくない豪華な調度品が並ぶ中にある
コーヒーメーカーからコーヒーを注ぎ、スティックシュガー三本、ミルク二個分放り込み、迅速にかき混ぜた後、ソファに腰掛けて――。


「今更、貴様の態度には驚かんが、遠慮と言う言葉を知らんのか?」

「鬼刃が立てた戦果の一部を此処の基地の人間にちったぁ回してくれるなら、考え直しますがね?」

「――まぁ、良い。何の用だ?」

「なに、ちょっとした提案とお願いがありましてね。」

「貴様だから取り繕う必要も無い。だから率直に聞く。
 私の手柄になりそうならば話を聞こう、それ以外ならば即刻立ち去れ。」

「相変わらずの成果主義と言うか、悪い上官の典型と言うか……ド直球で言ってくる、その姿勢は評価しますよ。」


コーヒーを飲みつつ、お茶請けにある高級菓子を食べつつ(※勝手に)主任は一枚の書類を司令へと投げ渡す。
……これが普通の部隊であるなら、考えられない事なのだろうが、ここは治外法権であり、総司令のほうも慣れたと言うか『毒された』
クルクルと回転しながら飛んでくる書類を鮮やかに受け取り、何を思う訳でもなく書類を眺め――。


「――富士基地で行われる次期主力量産機開発計画、そのテストパイロットとして人形を派遣すると言う事か。」

「言っちゃナンですが、あの兄ちゃんの技量はかなりのモンだから、邪魔にはならんでしょう。」

「そう言えば奴は日本に行きたがっていた様だが?」

「鬼刃の完全修理が終わるまでの間、休暇代わりに行かせてやったらどうですよ?」


次期主力量産機開発計画に人形を参加させる、その意義を総司令へ説明する主任。
鬼刃での戦闘力を見る限り、人形は卓越した機動兵器操縦技術を備えており、テストパイロットとして派遣すれば成果を挙げてくれるだろう。
それは総司令の評価につながり、計画の完遂が早くなれば更に評価は倍プッシュ(?)となり、ついでに人形の要求も対応できる。
悪い事は無い、それどころか良い事ばかりである……と、露骨に言わず、総司令の喰いつきそうな単語を所々に隠しつつ、一気にまくし立てた。


「――貴様の言い分は理解した。」

「ご理解頂き、感謝してますよ。」

「早速、国連上層部と日本国防軍に連絡を取り、人形を富士基地へと派遣するように手配する。」

「それじゃ、そんなナイスな総司令に手土産をあげよう。
 今、趣味で――失礼、現在の航空戦力は可変機が殆どだが、可変機と言うのは整備性も悪けりゃ、何よりコストが高い。
 そこでだ、俺は十分な攻撃力とコスト面を考慮した新型の戦闘機、そして戦場の情報を網羅する偵察機も設計中でっせ。」

「貴様の造る物、と言う所にやや疑問と不安が残るが設計が終了した段階でプレゼンテーションを行え。
 私を納得させる物であれば開発費をくれてやる。」

「Yes My Load、俺の造る物に抜かりが無い事をとくと御覧にいれよう。」









総司令の説得に成功した主任は自身の端末を立ち上げ、鬼刃の改造――では無く、修理プランを見ながら一方で違う物。
新型戦闘機ならびに偵察機の設計図を見ながら呟く、これからもハードワークが続くなぁ、体は大丈夫かいな、と。
普段ならば『大丈夫だ、問題ない』で済ませる所だが、調子に乗った思考が『うっかりと』総司令に新型戦闘機を設計してます。
とか言っちゃったモンだから、暇つぶし程度で作ってた物を本気で設計し直さなければならないハメになってしまった。
己の浅はかさが愚かしい、と思うが言っちゃった物は仕方ない、どうにかしなければならない。
今更、さっきの話は無しでヨロシク!なんて言おう物なら大目玉間違い無し、言葉の絨毯爆撃で精神が焼け野原になるだろう。

嗚呼、エラいこと口走ったなぁ――と、後悔しても遅い。

とりあえず、自ら墓穴を掘って増やしてしまった仕事に泣きつつ、設計図を広げて戦闘機・偵察機の手直しを行う。
『真面目にふざける』をモットーとして自由に設計を行うのが主任流ではあるが、自ら掘った墓穴によって真面目な物を造る
ハメになってしまったのは余りに皮肉が利きすぎている――最も、その辺りは『自爆乙』とでも言うしか無いだろうが……。

しかし、やると言ったからにはあの司令官殿の目に適う戦闘機・偵察機を造り上げなければならない。

帝国軍の機動兵器に『勝てる戦闘機』を造る、そんな思考で設計した物を徹底的に見直し始め、強化すべき所は強化する。
無駄と思う部分は排除し、少しでも強く、少しでもコストを抑えた戦闘機を造り上げなければならない。
逆に偵察機に関しては少々割高になってしまうのは仕方が無い、遥か遠方の敵機の情報を得て、味方機に情報を転送すると言う
大任を帯びているから、少しでも生存性を高め、少しでも精度の高い情報を得られるように造らなければならない。


「ふー……性能だけ良くても駄目、コストが高くても駄目、弱いのはもっと駄目……難儀極まりねぇな……トホホ……。」


どうやら、主任のハードワークは本格的に幕を開けたようだった……。









超鋼戦機カラクリオー異聞  第四話  了



続く