遠き星にて


久しく出会わなかった強敵との出会い。

その老兵は、時の流が澱んでいくのを感じていた。


あれとヤッたときも・・・・

あれとヤッたときも・・・・

撃墜されたときはいつもそうだ・・・

アドレナリンの分泌によるこの 時を手にしたような 感覚。

生身での戦いならば今でも誰にも引けを取らないが、彼自身の動きを体現する技術がアムステラにはなかった。

機械繰りに置いてもその腕前は誰しもが認めるところではあったが、テッシンが己が身を鍛えたように、
機械を操ることに修練を重ねた若きエース二人には適わないでいた。


ああ、そう言えば・・・  生身の対決でただ一人、それを感じさせた・・・
今や行方不明となっているあの方は・・・



今頃になって、何故?

ふとよぎった思い出に意識を奪われたテッシンであったが即座に現実に意識を戻す。




しかし、その刹那が命取りであった。



被弾、システムオールレッド −−− 即ち被撃墜。

その身に受ける衝撃と響く爆音。

意識が遠のいていくなか、唯一の心残り − 忠する姫を案じ・・・また、才気溢れる姫ならば大丈夫だろうと言う奇妙な安堵感に
包まれながら自らの死を受け入れ、静かに目を閉じた。


テッシンは世界が闇と静寂に包まれるのを感じた。否、テッシンの世界は闇と静寂に押しつぶされた。





タタタタタタタタタタ


規則正しく鳴る物音がテッシンの意識を呼び覚ます。

生きていたのか・・・?生きていればまた奉公が出来る。
忠義に厚いその男は即座に目を開き辺りを見渡す。

そして、いや、しかし、テッシンは自分が死んだのだと理解した。

死後の世界 などと言うものは考えもしなかったが、そこはもはやある筈のない、彼がかつて居を構えた住処であり、
また窓から覗く風景は、修練を重ねた場所そのものだったからだ。



再び聞こえてくる音。

タタタタタ   ジャッ   ジャッ

音、音、音、そして熱気。

澱みない包丁の音、激しく弾ける油の音、リズム溢れる鍋を返す音、そして何よりも料理の命、炎。
それは、テッシンが師と出会った光景その物であった。


戻る  〜続く〜