対決!秘剣vs妖拳〜その4〜



「ふっ、ふふ・・・何て奴だ。声からするとまだ成長途中のガキなのにな・・・」

隊長は頬に冷汗が流れるのを感じつつ、何故だか口に笑みが浮かぶのを止める事は出来なかった。
その両指での操作から紡ぎ出される複雑怪奇な腕の動きに加えて、絶妙な足捌きによる巧みな位置取りにより、自他共に認める強さを誇る妖爪鬼。
並の相手ならば。初手の不意打ちだけで十中八九、勝負は決まっていた筈。だが、

「既に、我が攻撃を見切っていると来た。こいつ、何処まで強くなるのだ?!」


一方、その対象である剣王機/シンも、普通ならば戸惑う筈の状態に居た。

「また、この感覚だ・・・だけどよ、今までよりもハッキリしてるぜ」

シンは、自分の感覚・・・いや、存在自体が広がって居るのを体感していた。
操縦桿を握ってる筈の両腕に剣を握った感触があり、ペダルを踏んで居る筈の足は大地を踏みしめて居た。脛辺りが熱いのは、機動用スラスターの感触だろう。
自分の肉体は確かに剣王機を操作している。だが、自分の心臓が動いてるのを普段意識しないのと同様、『操作している』という感覚は既に無くなって居た。

「何故こうなってるのかって、判らないけどよ。余計な事を考えてる暇は無いっ!昔、有名な格闘家もこう言ってるな・・・『考えるな、感じるんだ』ってよ!」

シンの耳・・・いや、脳裏に恭子さんの声が響く。眼前に居る赤銅色の奴の弱点は液状金属を制御するジェネレーター。これが喉元の下辺り。
コックピットは鳩尾に当たる部分にあると推測されるそうだ。
そして今、使おうと思っている剣技には強烈な踏み込みが必要だ。
ここへ移動するまでにスラスターを酷使したのだが、剣技に必要な爆発的な加速を生み出せるか?

「だが、脚から伝わるこの『熱』の感じなら・・・『行ける』っ! しっかりと脚はためられてるぞっ!!」


そしてまた、動けぬながらも闘志を捨てぬ者達が。

「正直、あいつらを倒すには私達は力不足ね」
「はい・・・と言って良いものですかね?!」
「否定してよ、馬鹿」
「まぁ、機体が動かなければ・・・手の出し様も無いですけどね」
「・・・そちらの受信装置の調子はどう?」
「えぇ、大丈夫ですよ。ですが・・・こういう状況でなのが残念」
「・・・口がお上手ね」


その間にも、剣王機は妖爪鬼の双爪と水鋼獣の拳を弾き、避け続けて居る。
水鋼獣のゲル状拳も、繰り出す動作を見切った以上はもう、脅威では無いが・・・しかし水鋼獣もまだ、切り札を握っていたのである。

「お前の技量は判った。だが、コレならどうだ?!」

そう言うなり、水鋼獣が両拳を打ち合わせる。すると、両腕の液状金属が集まって巨大な塊となる!

「受けてみるかっ?! 大玉!」

巨大な玉が打ち出される! 受けるのは間違い無く自殺行為。だが、避ける為には大きく動かねばならず、その隙を逃す妖爪鬼ではあるまい。

「・・・何っ?!」

大玉と剣王機の間に割り込む白銀の影・・・ダイアンサスだ!
行動不能なダイアンサス。しかし、槍と盾に仕込まれたバーニアがその機体を牽引したのである。
そこへ大玉が直撃! 装甲の隙間から液状金属が潜り込んで瞬時に機体内部を浸食・・・そして破壊した!

「今だっ! 喰らえっ、颶風剣(ぐふうけん)っ!!」

一陣の疾風と化した剣王機が、砕け散ったダイアンサスの爆風を斬り裂いた!
最大瞬速マッハ2を超えるフルブーストで一気に水鋼獣に肉薄! 薙ぎ上げた刃は縦一文字に水鋼獣を斬り裂き、しかもその勢いは止まらない!!

「ば、馬鹿な・・・」

シンの剣技とエネルギーブレードの出力、そしてスラスターの推力とが合わさった一太刀は、液状金属の鎧ですら断ち割る威力を持って居たのである。
コックピット前面を切り裂かれ、更に食い込んだ刃でジェネレーターを真っ二つにされた水鋼獣はその鎧を失い、骨格だけの姿で地に倒れ伏した。


「・・・上手く行った様ね」
「えぇ。良いタイミングでした」

一方、サントスパーダのコックピット。フェルディナンド神父と、裸体に神父から渡された上着を羽織って居るソニアが居た。
ダイアンサスの特長は、本体よりその槍と盾、そしてパイロット・ソニアに価値がある点である。故に槍と盾には自動帰還装置が組み込まれてる。
(今のダイアンサス特攻の後、槍と盾はそのまま戦線離脱している)
ソニア自身はと言うと、転送装置で近くの僚機(この場合はサントスパーダ)に転送をされるのである。
ただ、この転送装置の問題点は、転送距離が短い事と、有機物のみしか転送出来ない事であるが・・・。


剣王機は、水鋼獣を斬った勢いのまま中空を舞う。他の者はこの絶技にただ呆然とするだけだったが、流石は隊長。
瞬時に気を取り直し、頭上を通り過ぎた剣王機に対して突きを繰り出す。
その長い腕だからこそ届く攻撃。しかも剣王機はまだ空中。その一撃を受け止める事は出来ない筈。しかし!

「疾風剣っ!」

振り向きざまに振り抜いたエネルギーブレードから、そのエネルギーが刃となって飛び、妖爪鬼の突きを弾く。
だが、急所を貫かれるのは避けたものの、爪が片脚をかすめ、スラスターが傷付いてしまった。
脚の動き自体には影響してないが、もうスラスターによる高速機動は無理だろう。

「まさか、ここまでやるとはな・・・だが、貴様も今度こそ終わりだ」

待機していた黒い6機が、着地した剣王機を包囲する様に周囲を回りだす。
夕陽も落ち、既に夜・・・星も見えぬ闇夜・・・しかも、包囲した6機から薄墨の様な霧がにじみ出す。

「・・・どうだ? もう、我等の位置は見えまい?!」

事実、剣王機の視覚センサーですら、もう7機の位置が確認出来ない。あの闇色のボディは、闇夜と黒い薄霧の中に溶け込んだかの様である。
しかし、それならば相手も見えにくい条件は一緒・・・ッ?!

「そして気付いて居るか? 貴様の位置は、我等には一目瞭然」

そう。剣王機の武器・エネルギーブレードの輝きが、闇を貫いて居るのである。かと言って、その輝きを消せば剣王機の武器は無くなる。

「陣は二重、三重に張って置くものだ。この陣まで使わせたのは誉めてやるがな」
「・・・早すぎるぜ」  
「なに?」
「誉めるのは、早すぎるって言ってんだよ!」

シンがそう叫ぶと同時に、剣王機が持つ輝きが二条になった。結合したエネルギーブレードを2本にして、二刀流の構えに入った様だ。

「・・・来な。一文字流の真髄、見せてやるぜ」


参考資料:解説・ダイアンサス


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