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『バケモノのシッポ』。偶然知ってしまったあの日からシャオラは『それ』を、自分が心血を注いできた組織の裏切りともとれる行為を、
皮肉を込めてそう呼んでいた。

蝶は色鮮やかに宙を舞い、そして華々しくその命を散らす。・・・しかし全ては後へ続くものたちへのせめてもの道とならんがため。



「ジン・・・妹を頼む。」

エースといえどいつもいつでも生還できるとは限らない。かつて戦場において死を覚悟した場面は幾度となくあったし、またそれが軍のため、ひいてはアムステラのためになるのであれば安いものだと彼女は思っていた。眼前でめちゃめちゃな数値を主張してひたすら確実な死を告げる計器類も、こうなってはうるさいだけの警戒音も、とうの昔に覚悟が決まっている彼女の焦燥感を煽る事はもはや叶わなかった。

「いつか・・・いつかそのシッポ!引きずり出してやるからねッッ!!!!」

やがて資源衛星の内側に予め用意されていた悪意は、まるで太陽のように神々しく燃え盛り、全てを飲み込み、何も残さなかった。
ただ一匹の「悪魔」の悲しみの咆哮を除いては。

『ハーデスの逆鱗』。当時既に構想が練られていたアムステラの地球侵攻作戦に先駆け、拠点および資源衛星のひとつとして計画されていた冥王星付近の衛星においておこったアムステラ史上最も多くの犠牲者を出した事故の名称。また『冥王の悲劇』とも呼ばれる。

衛星の開発を進める中で何者かの侵略を受け、占拠された衛星を奪還すべく展開されたミッション中に開発を半端に遮られた衛星の内部機関が暴走、爆発炎上する。たまたまアムステラ軍の主力部隊のほとんどが付近に集中して駐屯していた事、侵略が全く予想外の出来事であった事、加えて侵略者がアンノウンであった事などの偶然が重なったため、対応に焦ったアムステラ本星は攻撃部隊に対し過剰に出動を要請。

結果、集結主力部隊の殆どが壊滅。史上最悪の悲劇となる。軍事国家として名の知れたアムステラに対し、武力で接触しようとする集団が
個人のものであるとは到底考えられず、突発的な事故ではなくアムステラに敵対する勢力のいずれかが計画的に起こしたテロ行為という説が
最も有力だが、その真相は未だ明らかにされていない。

また被害者の数以上に職務に殉じた軍人の多くは「蝶」と異名をとるシャオラ中佐を初め、歴戦の勇者や英雄と呼ばれる人物が多く含まれており、対応を誤った軍幹部数名は責任を取って辞職したものの国家的な損失としてあまりにも有名。

「蝶」のシャオラ。黒幕の存在に気が付き、口封じのために抹殺される。しかし本当に彼女は死んでしまったのだろうか。
生きて一矢報いる事はなかったのか。ガミジンが真実に触れる少し前、はからずもアムステラきってのエースの意地が爆発する。



〜紫の蝶シャオラ編〜『その蝶、色鮮やかに宙を舞い』


生きてる。シャオラが目を開けたとき、まだ彼女には感覚が残っていた。コクピットに座っていたのだ。特機とはいえ特別な防御機構の無い絶影が(後の紫艶蝶の前身となるこの機体は、やはり高速戦闘に主眼を置いているのでむしろ装甲は薄い部類に入る)あれほどの爆発に巻き込まれながら、膨大な熱量に耐え切ったのはまさに奇跡としか言いようが無かった。周囲には見るも無残な機械の残骸が散らばっていて、事件の思わず目を
背けたくなるような凄まじさを物語っていた。自分の頭に浮かんだ恐怖を祓いながら半信半疑で絶影を操作してみる。
操作用のパネルがイカレてしまっているのでなんともいえないが、背面のブースター数基、右腕、死穿砲、コクピット部分周辺はなんとか稼動しているようだ。しかし・・・

「帰艦は・・・出来ないわね。」

ため息をつくシャオラ。自分がどれくらいの間気を失っていたかはわからないが、エネルギーはほとんど底をついているだろう。なにより今回の事は事故などでは決してない事にシャオラは気が付いていた。これは「抹殺」なのだと。

「・・・っ?!」

突然、悪寒を感じた。パイロットの勘という奴だろう。メインカメラがやられてしまっているので望遠に限界があり、よく確認できないが、
自分と残骸が流れ着いてデブリのようになっている一帯の端に動くものを発見した。まぎれもなくスーパーロボットである。追っ手が掛かった。
シャオラは最小限の動きで近くの残骸に身を隠し、死穿砲を掴む。
もしかしたら生き残りかもしれず、いずれにせよこちらからコンタクトは無用であるとはいえ、むやみに攻撃して命を奪うわけには行かない。
それに今の絶影は戦闘力の大半を失っているのだ。余計な戦いは避けるに越した事は無い。頼むから気が付かないでくれ。
シャオラはすがるような思いで祈った。徐々に接近してくるロボット。あたりを警戒しながらゆっくりと移動している。
やはり何かを探っているように見える。追っ手。文字がビジョンとなって脳裏を横切る。
近くまで来た機体はもはや壊れたカメラでもはっきりと確認できた。兵装は軽く、右手にビームライフルを装備し、左腕には腕に鎧のように纏わせるタイプのシールド。背面バックパックから近接格闘用の武器と思しき兵装の柄が見える。頭部にはアンテナだと思しき二本の角。
量産型のようにも見えるが、白を基調にところどころ青いパーツを使った機体はどこか威厳がある。アムステラの機体のデザインとはかなり趣が異なるが、どこかで見たような気もする機体だ。おそらくは強い。
だんだん操縦桿が汗でじとじとしてくるのが分かる。気が付くな。そのまま行ってくれ・・・。ロボットが自分の隠れる残骸の付近を通り過ぎ、ほっとした刹那、シャオラは自分の運命を呪った。絶影のまわりを浮遊していた残骸が絶影の融けてなくなった四肢にぶつかる瞬間をはっきりと見たのだ。

「運の悪いっ!」

もはやこれまでと覚悟したシャオラは瞬時に絶影を反転させ、残骸の陰から飛び出した。反転させる瞬間、剥きだしになった絶影の回路に残骸が接触し、バチバチッと派手な音と供に閃光を放つのが見えた。気が付く敵機。しかし今ならまだ相手は反転中。先に射撃体勢に入れる絶影に一瞬だけ分がある。

「当って!!」

敵機はこれ以上ないという速さで絶影に反応する。相当な使い手なのだろう。絶影の不意打ちを見抜き、反転した時点で機体にひねりを加えて初撃を
回避しつつ、絶影に照準を合わせる。『後の先』、つまり銃撃版カウンターを狙ったのだ。しかしそれは一流のガンマンであれば高等テクとして当たり前にそうするだろう。シャオラだって相手の立場ならそうするだろうし、また何度もそういう相手とは戦ってきた。
だがシャオラは毎回そんな「先に動けば負け」の戦いを『先の先』で制してきた。何故だろうか。クイック&ファイヤである。彼女が編み出したこの早撃ちの真髄は、ライフルの連射上限に達しない限り、タイムラグほぼ0の連続攻撃を可能にする。
相手がいかに『後の先』を取ろうとも、シャオラが『先の先』『先』『先の後』と切れ間無く連射を行える以上、むしろ無闇にカウンターを狙い、モーションを取るのは自分から隙を提供するのに等しい。
獲った。シャオラは確信と同時に後悔した。結局相手を無意味に殺してしまったのだから。

「えっ?!」

信じられない事が起こった。カウンターを取るかと思われた敵機は銃を引き、寸でのところで上体をさらにひねり、左腕を弾き飛ばされながらも二撃目も
かわしたのだ。最初から自分の『後の先』よりも速い絶影の二撃目があることを考慮に入れておかない限り、これは不可能な動きだ。
まさかクイック&ファイヤを初見で見切ったというのか。二撃目を放った時点で勝利を確信していたシャオラは、相手の信じがたい技量に対する動揺も
手伝って三撃目が一瞬遅れた。これが命取りとなった。三撃目が放たれる頃には既に敵機は間合いに入っていて、反応の遅れた死穿砲を思い切り虚空に
蹴りとばす。堪らず反動で受けるシャオラ。

「あうっ」

すかさずコクピットにライフルを突きつける敵機。

「答えろ。所属と番号。」

「アムステラ軍特務部隊所属・・・」

その時シャオラは耳を疑った。相手がフッと笑ったような声が聞こえたからだ。

「の、シャオラ隊長ですね?」

「えっ?!」

「お久しぶりです」

その声は確かに聞き覚えのある声だった。



「すいません。カウンターに入った時点で絶影だとわかったんですが、なにぶんこちらの判別をまだお互い無傷な状態のまましてもらうのは難しいな、
と思いまして。」

目の前のこの男。R・クロウディア。以前、別の星系攻略の際にまだ少年だった彼と彼の仲間と剣を交えた事があった。ひょんなことからガミジンとシャオラは彼とは顔をあわせており、少し付き合いがあったのだ。結局、その後シャオラたちは攻略戦線からは外れたので敵ながら心配していたのだが、
彼らの活躍もあってアムステラは攻略は不可能と判断し、同盟関係となったと聞いていた。あの時はやたら無口で無感情なだけ子だと思っていたのに
どうやらそうでもないらしい。

「その話は良いわ。結果、私も助けてもらったし、君の判断はベストだったと思うもの。」

クロウディアに保護されて一ヶ月がたった。ハーデスによって身体が受けたダメージは並一通りではなく、シャオラはつい先日になってやっと話せる
までに回復した。あの日、なにやら軍艦のような艦に通されたが、その時からずっと彼の服装は彼のもといた星系のそれではない。自分の裁量で怪我人をホイホイ連れこめる艦にあって、彼の星系の服装ではないとすれば、これは潜入などの任務ではないだろうし、軍と関わりがない行動ならこうもおおっぴらに彼が軍艦に乗れはしないはすだ。

「クロウ。ところでそのかっこ、何?」

「あぁ言ってませんでしたっけ?今、俺、地球にいるんです。ていうかこの艦、今地球に向ってるんですよ。」

「地球に?」

「何故?って顔してますね。」

意味あり気に言うクロウディア。彼の父と地球との間に浅からぬ因縁があるのはシャオラも知っていた。英雄と呼ばれながら母星を裏切り地球側についたと聞いている。彼は父の汚名をそそぐため幼い日からその人生を軍に捧げていたはずだ。しかし今ではその彼も地球に居るという。
分からない事が多すぎた。

「アムステラも地球侵攻を開始するとか。」

不意に声のトーンが下がった。

「あくまでも推測なんですが、中佐。アムステラの地球侵攻に何か疑問点をお感じになられませんでしたか?」

どこか遠くを見つめるようにクロウディアは語り始めた。自分もまた母星の地球侵攻に関してシャオラと同じ『核心』を掴んでしまった事。
母星を妄信するあまりその暴走を止めるべく地球に走った父を全く信じようとしなかった事。そしてアムステラもまた同じ悪意を抱えている事。
アムステラに潜入した際に『ハーデスの手帳』なる悲劇のスケジュールを見つけたこと。そしてそこにシャオラの名前があったこと。
全ては仕組まれていた事だったという事実。
そして彼等は地球のためにアムステラと戦っている事。実際、この一ヶ月この船は幾度と無くアムステラの攻撃を受けていた。殺されかかってもなお、
信じられないシャオラを嘲笑うかのように母星の狂気は幾度となく牙をまざまざと見せ付けていたのだ。

「・・・それを信じろって言うの?」

「いいえ。ですが信じるに値するだけの根拠は既にお持ちのはずです。」

「そうね。」

力なく答えるシャオラ。分かっててはいても信じたくない事もあるのだ。クロウディもそれを知ってか言葉を継がなかった。

「敵襲!総員第一種警戒態勢!繰り返す!第一種警戒態勢!!戦闘員は配置についてください!!」

鳴り響く警報。ここ最近、襲撃が多い。クルーの口ぶりからまたアムステラからだと分かるとやるせなくて思わず目を逸らしてしまう。

「中佐?」

「・・・出るわ。私も」

再びクロウディアを見据えたシャオラの目には迷いは無かった。



「ゼフィラード、シャオラ機、出ます!!!」


アムステラ地球侵攻作戦開始まであと三年。(シャオラ編 完)



オマケ(補足)
絶影
前の設定にも出ていた通り、アムステラ製のシャオラ専用機。紫艶蝶の前身ではあるものの『蝶』の意匠は施されていない。おそらくシャイラが紫艶蝶を作るに当って、姉を偲んで蝶にしたと思われる。真・絶影はシャオラがハーデスに見舞われた時点で完成度65%まで来ていたが、シャオラがアムステラの軍人ではなくなったため建造計画を凍結。絶影はシャオラが↓に乗り換えた事、またシャオラ撃墜とするため、ハーデスの現場付近にさらにバラバラに破壊して廃棄した。

ゼフィラード
R製ガンダム。ゼフィラードはジェミナスがモデルになっていて、原作では大破した後で機動力を上げるオプションを追加。V−2と名前を変える。
最終決戦前にクロウディアの能力(長くなる上、カラクリオーと全く関係ないので説明省略)によって無尽蔵のエネルギーを発揮できるようになり、その圧倒的なエネルギー量を使った決戦兵器を装備したV−3にバージョンUPするが、機体がエネルギーに耐え切れず、ラスボスと刺し違えてしまう。
(区別のため初期ゼフィラードはV−1と呼ぶ。ちなみにV−1はクロウディアの乗るものを含めて三機ある設定)
このエピソードでは最初にクロウディアが乗っていた機体、最後にシャオラが乗っている機体がV−1にあたり、絶影を使わなかったのは正体を隠す為。

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