Rコロシアム 終章



          M州D市の某球場は普段の“静寂”と“平穏”が戻っていた。

                Rコロシアムは終幕したのだ。

             球場(スタジアム)にいた観客、来賓は既にいない。

             爆散した“機体の破片”…“焼け跡”が残り…

        辺りからは“死臭”…“火薬臭”…“ガソリン臭”が漂うのみであった。

             帰路につく人々の表情には“狂気”はなく…

               只々…『表世界の顔』に戻っていた。

                 理解(分か)ることは“満足”…

                “ 満 足 ” で あ る 。

              自らの思うがままにならないこの浮世…

                理不尽な競争、消費を煽られ

           絶対なる地位と名誉と富を得てしても残る『不満』。

             そして…地球とアムステラとの戦争が始まり。

              余計に世の中の“勝者”も“弱者”も

              『不安』と『恐怖』を毎日強制される。

                …それを解消するかの如く

            今まで以上に地位と名誉と富を得ようとする者…

            弱者を見下すことにより自らの安息をもたらす者…

              娯楽や美食に走ることで現実逃避する者…

           それでも『足りぬ幾人かの無責任な(狂った)人々』は

             “人の死”を観賞し“自らも狂う”ことで…

               やり場のない“不満”を解消した。

              一時的とはいえ彼らの足取りは軽かった。

               それは『人の哀愁』であろうか…?

                  それとも『悪意』か…










「ネメア(ヤツ)は怪物(モンスター)だった…」

移動中のリムジンの車内で語る男は“ノンクレジット”である。
その姿…既に“三葉虫(異形)”の体躯ではなく“人間”であった。
その隣には、大会主催者である科学者“R”が座っていた…

科学者“R”は静かに語る。

「当たり前である…彼奴は怪物(モンスター)。私が“簡易改造”を施した『代物』だからな。」

「但し…彼奴は『超人』を超えた『超人』とは成りえなかった。
 ……劉クリーチャーになりえる素材ではなかったのだ。」

そう語ると次に科学者“R”は冷たい声で“ノンクレジット”に向けて質問した。

「何故、直ぐに決着を付けなかった?
 『劉クリーチャー』に"変身(トランス)"したならば…直ぐに片づけられたハズだ。」

「手”を”抜”い”た”の”か”?」

その冷たい質問に“ノンクレジット”は無機質に答えた。

「科学者“R”と言えど…言葉に気を付けてもらいたい。」



                 「私は“全力”を出した。」

        「持っている『スキル』も…『作戦』も…『戦闘経験』も通用しなかった。」

               「ネメア(ヤツ)の強さ(タフネス)…」

                「“プロレス”というものに…」

                 「私は確かに“畏怖”し…」

                「そして“敬意”を持ったのだ。」

        「“プロレスは格闘技(マーシャルアーツ)を超えたものがあった”のだ。」



独白する“ノンクレジット”に科学者“R”は…

「…失礼した(I'm sorry)。」

と謝罪した。そして、続けざまに科学者“R”は言った。

「ならば…その“プロレス”に苦戦を強いる
 『戦闘修屠(バトルシューティング)』は……?」

「未だ『完成には至っていない』と。」

「…見直す時だと?」

「はい…死合(戦)って気付きました。
 “戦闘修屠(バトルシューティング)は、あらゆる格闘技、武術殺法の折中(キメラ)でしかない”。
 戦闘修屠(バトルシューティング)をただの総合殺法格闘技(ミックス・キルアーツ)にはしたくありません。」

「では、どうすると…?」

「戦闘修屠(バトルシューティング)の『独自性“オリジナル”』…
 『独自性“オリジナル”』を作り上げねばならぬと。」

「『独自性“オリジナル”』…
 成程…そうしなければ百文字(ジ・ハンドレッド)に勝つ格闘技を作り上げれぬか。」

暫しの沈黙の時が流れた。
未だ理想とするものへと近づくことは難しく…
宿敵“百文字”(その大きな壁)を超えようとすることは容易ではない。
『打倒百文字』を目指す科学者“R”も…
『理想とする格闘技殺法の完成』を目指す“ノンクレジット”も…
その悪意のある夢(山の頂)までの高さを再認識するのであった。



                  「“ノンクレジット”…」

                「否…“プリオ・ブランコ”よ。」

                 「人は限界を超えようとする…」

                「故に…進化するからこそ美しい。」

                「変わろうとするからこそ美しい。」

           「私は、君の様な強さを求める(山の頂を目指す)が為に…」

              「“人を辞める”貴公に敬意を持っている。」

          「分野は違うといえ…科学も格闘技も“求めるもの一つ”。」

                 「“昨日”よりは“今日”。」

                 「“今日”よりは“明日”。」

              「日進月歩に向上を目指し『進化』する…」

              「以下に“つまらぬこと”と失笑されても…」

                 「供に目指そうではないか。」

                  「 山 の 頂 に 。 」



        突然の“R”の言葉に“プリオ・ブランコ”は微かに笑い腕時計を眺めながら

            「早めに…社長のボディガード(副業)に戻らねばな。」

                   …と小さく呟いた。








― 某超大国 M州S市

“私”は手にしている資料を丁寧に…丁重に閉じた。
そこに書かれているものは“死闘”…或いは“狂気”…

人は言うであろう「正気の沙汰ではない。」と…
だが“私”…科学者“K”は科学者“R”を評価しよう。

その悪魔的な計画(プロジェクト)を…狂気の祭(Rコロシアム)を…
何故ならば『どの試(死)合も“R”の研究の犠牲(糧)となったから』だ。
彼らの死闘は一つとして“無駄”ではなかった。

“私”は“R”の所業を“尊敬”している。『狂信者』と言ってもよい。
いや…“仲間意識”があるのかもしれない。
“私”も世間的には認められなかった『科学者』だったからだ。

世間は理解(わか)っているようで、理解(わか)っていないのだ。
他人がしない事をするからこそ“素晴らしい”事を…それが“進化”の元である事を。
エジソンもアインシュタインも“他人がしない事を成し遂げた”からこそ『評価』されるのだ。

“R”の研究である『人造人間の開発及び、死者蘇生の研究』は
常”識”あ”る”知”識”人”に批判され…或いは嘲笑され…または嫌悪され…

“他人がしない事を成し遂げようとしても”『評価』はされなかった。

そのような扱いを受けても科学者“R”は研究を止めようとはしなかった。
そこに在るものは『強い意志』と『常軌を逸した狂気』。

“私”は信じている。“R”の研究は『必ず成功する』と。
だが…志半ばで“R”は『斃れた』のだ。それが残念でならない。

この研究室には“R”が研究してきた資料が膨大な数がある。
そうだ“私”は受け継ぐのだ。

“R”の『遺志』を…『研究』を…

この研究が成功すれば人々は我々を『評価』するハズである。
道徳的には問題あることでも…それにより“喜ぶ人はいる”からだ。
所詮、世間は『結果』しか見ないのだ。

………………。

“センチメンタル”が過ぎた。
それでは…最後に『生き残りし選手達』の“その後”を紹介しよう。
資料の最後には、簡略にこう記述されていた。



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レオポルド・ジェラン(『Gladiator フリー競技』チャンピオン)
50歳 国籍:フランス

母国フランスに帰り“Gladiator”を引退。
後進の育成に努めるが、獅子吼流のジャガーと名乗る免許皆伝拳士と戦い敗北。
その際、かなりの深手を負った模様で左目を失明する。

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デーニッツ(傭兵)
30歳 国籍:アムステラ神聖帝国

“O社お抱えの傭兵隊”の勧誘を受けたが、只々静かに微笑するのみであった。

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ゼダ(ハワイアン拳法“カジュケンボ”)
24歳 国籍:アメリカ

“Aランク”チーム『イフリート』の部隊長となる。
O社幹部である『キグナス』のお気に入りのようであるが…

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花岡 冬之進(不殺拳)
29歳 国籍:日本

川口組の追手から逃れる為『草川 夏之進』と名を改める。
ロサンゼルスにて道場を開き、中々の評判を得ている。
その裏で“バトルシューティング研究チーム”に顔を出し『精妙なる拳技』を教授している。

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セオドア・"フィッシャーキャッツ"・ヒル(MMA)
29歳 国籍:アメリカ

試(死)合にて、重度のドランカーとなり『再起不能』。
科学者“R”に改造を施され、“戦闘訓練用の肉人形”と化す。

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“ノンクレジット”こと『プリオ・ブランコ』(バトルシューティング)
年齢不詳 国籍:アメリカ

バトルシューティング研究チームの代表として、日夜研鑽を重ね続ける。

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― M州S市・『O社』

某大企業『O社』の社長室では、科学者“K”と“D”社長が対峙していた。
“D”社長は物静かに語る。

「採取すると?」

科学者“K”は答えた。

「ええ…“細胞の一部”を。髪でも皮膚でもどこでも…」

「『あの子』の“細胞”を取ってどうするのだ。」

「“ 実 験 ”するのですよ。」

科学者“K”の言葉に“D”社長は、何時もの老紳士然とした口調とは違った『怒気を帯びた声』で言った。

「ジ゛ョ゛ー゛ク゛を゛言゛っ゛て゛い゛る゛の゛か゛ね゛?」

科学者“K”は臆する事なく『訳』を説明した。

「“お孫さんに再び合わせてあげる”のですよ。」

“D”社長は、椅子をくるりと後ろに向き窓の外を見ながら言った。

「…クローン人間はいらぬぞ。私が望むのは“死者蘇生”だ。」

科学者“K”は直ぐさま答えた。

「その“死者蘇生”の前準備ですよ。」

「“ヒューマクルス”が完成できるかどうかの。」

“D”社長は“ヒューマクルス”の言葉に反応する。

「“ヒューマクルス”…何かねそれは?」

科学者“K”は静かに熱弁を振るう。

「“R”が残した『理論だけの産物』…
 『人間の細胞と人工的に作られた細胞を混ぜ合わせた生命体』のこと。
 但し完成するには“適合する人の細胞”でなければなりません。」

「何故そのようなものを…」

「『死者蘇生の鍵』となるからです。」

『死者蘇生の鍵』…その言葉を聞いて“D”社長は若干表情が変わった。

「ッ!!」

「しかし…所詮は『理論だけの産物』。
 成功するかどうかは分かりませんし、適合するかも分かりません。
 ただ…“やってみなくては分からない”。“やるだけの意義はある”。」

“D”社長は、科学者“K”のプレゼンテーションを聞いて判断をした。



                   そ れ は …

             「好きにしたまえ。あの子の為ならば…」



科学者“K”はニヤリとしながら言った。

「それでは、ティータイムにでもしましょうか。“いい芋羊羹”が手に入ったんですよ。」





― Rコロシアム・『完』