カラクリオー嘘外伝(爆)
−甘味処狂想曲−


ある夏の午後・・・うだる様な外の熱気とは無縁な、その店の中は一種の異空間と化していた。まぁいつもの事だが。
ココは、日本の某女子校前にある有名甘味処。放課後になると女学生達が集う一種の聖域である。しかしこの日、
その聖域が混沌の坩堝になろうとはその場に居る誰もが思っても居なかったろう。混沌を引き起こした当人達を含めて。

「シ〜ン!こっち、こっち!」
「ンッたく・・・何だよ。甘いもの食べるだけなら、いつもの店で良いじゃねぇか」
「何言ってんのよ!どうせ食べるんなら美味しいトコが良いじゃないの!」
「へいへい・・・判ったよ。ンな事の為に、この暑い中を延々と歩いてたのか?!
「何か言った?!」「いや、別に」

防具袋を吊した竹刀を肩に掛けた若い男女。
剣道の練習帰りらしいが、強引に誘われた者の常で『かったるいなぁ』オーラを漂わせた金髪の若者。
彼の名は荒沢シン。剣の達人にして剣王機の操縦者・・・とは言え、今はそんな気配を微塵も感じられない。
幼馴染のカナに(強引に)誘われた有名甘味処。だが彼は、そこに潜む恐怖に未だ、気付いて居なかった。

カラランッ♪

蒸し暑い午後の外気から逃れ、快適な店内に入ってホッとしたのも束の間。

(・・・ぐっ!な、何だ。このプレッシャーは?!)

店内に入ったシンに殺到する濃密な視線と気配!
見れば客は若い娘ばかり!そこへカップルで入って来た訳だから。しかもそれが金髪の凛々しい青年であれば尚更。
反応を想像するのは難くない。

結果、羨望と嫉妬と好奇心とが複雑に入り交じった視線と気配に晒される事になる。

カナはと言えば『自分の彼氏』がこれだけの反応を引き起こしたのだからご満悦。
しかしシンは、外気とは比較にならない灼熱地獄に叩き込まれた自分を感じていた。入って直ぐに店を出る訳にも行かず、
注文をしながらも(食い終わったらとっとと出よう)と考えるシンに対し、更なる試練が待ち受けて居た。

「相っ変わらず、人多いわね〜」
「それはそうでしょう。あの暗黒甘味王が御用達のお店ですから」
「・・・彼、今日は来るかしら?!」
(ゲッ!あの声は恭子さん!他の2人も一緒か・・・やばい、やばいよ!こんなトコ見られたら、後で何を言い触らされるやら・・・)

一人テンパって脂汗を流すシンをよそに、三人娘はシン達には気付かず、少し離れたテーブルに移る。
カナはと言えば、幸いフルーツパフェに没頭。シンと一緒に居るというだけで、他の事は見えてない風情である。

(た、助かったぁ・・・)

甘い。実に甘い。こういう時、雪崩れ式に事態が急変するのは良くある事である。
再び店の入口が開き、今度も3名の人影が雪崩れ込む。珍しい事に全員男だ。
しかし。シンの時とは違い、投げかけられる視線と気配は、困惑と幻滅と拒絶心に満ちていた。

「今日もご苦労だったな!まっ、ココで一服して行こうや」
(・・・ちょ、ちょっと待てっ!何で玄造親方が来るんだよ?!)
「お、親方・・・いや、その・・・」
「おごって貰うのは有り難いッスが・・・何故ココに?!」
(俺もそれは聞きたい!親方こんな店には来ないだろ?!普段は!)
「うちのかんなが『美味しい店だよ』って言ってたからな。今日は現場が近かったし、ついでに寄ってみた奴よ」
「さ、さいですか・・・」
「お嬢さんの推薦ッスか・・・アハハ・・・」
「おや?何でぇ。先客が居るじゃねぇか。よっ、元気にしてるか?!」

心臓が止まりそうなショックを受けたシンを尻目に、玄造達はやや引きつった顔を揃えた三人娘達の方へ移動する。
玄造達に気付かれなかった安堵の余り、テーブルに突っ伏すシン。

カラランッ♪

ビクゥッ!再び、シンの心臓が止まりかける。だが、入って来たのは黒いTシャツの若者。
その精悍な顔付きを見た他の客達から、シンの時に優るとも劣らない熱視線が浴びせられる。しかし彼は、そんな視線にも無関心。
クールに、ニヒルに席に着いて、メニューを真剣に検討し始めた・・・注文を終え、やがて運ばれて来たのは。
多種多様なパフェ!ケーキ!!シェイク!!!
周囲の驚きと好奇心の眼差しにも動じず、至福の表情で常人なら胸焼けしそうな量のデザートを平らげる青年。
ようやく立ち直ったシンも驚きの眼差しを投げかける一人であったが、まさかその青年がガミジンだとは気付く由も無かった。
まぁ、ガミジンも呆気に取られた顔で自分を見ているカップルの片割れが、シンだとは気付きもしてないのでおあいこだが。

「・・・うっわ〜。相っ変わらず凄い量よねぇ」
「本当に、幸せそうですねぇ」
「・・・何か、カワイイ」
「良い食べっぷりじゃないか。オイ、お前らも見習ったらどうだ?」
「いや、親方・・・」「無茶言わないで欲しいッス」

カラカラランッ!

突然、どやどやと入って来た男達。
ランニングシャツに角刈りのごつい若者と、赤いTシャツに半袖Gジャンを羽織った若者が左右から黒シャツの青年の肩を押さえたのである。
騒然となりかけた店内に、更に入って来た2名。一人は縦縞のシャツをピシッと着こなした眼鏡の若者。
もう一人は大半の客と同じ格好−つまりは、女子校の夏服を着た娘。しかしどう見ても高校生と言うより大学生以上じゃないか?!
いや、そりゃあ似合っちゃ居るんだが・・・。
とにかく、周囲が謎の展開に沈黙する中。その娘が腕組みして冷ややかな口調で黒髪の青年を詰問する。

「・・・貴様、こんな所で油を売って居たのか」
「お前に言われる筋合いは無いな。俺の時間をどう使おうと、俺の勝手だ」
「呼び出しにも出ないで言う台詞か?!それは。いい加減な奴め!」
「・・・あ。悪ぃな、携帯の電源が切れてたらしい。だがな、お前もいい加減だぞ?!」
「何っ?私の何処がいい加減だと言うのだ!」
「お前の服な・・・(ぼそぼそぼそ)
「・・・行くぞ!」

耳打ちを受けて周囲を見回した娘が突然、思いっ切り赤面して足音荒く出て行く。
そして黒シャツの青年の手を掴んだ若者2人も慌てて後に続く。
眼鏡の若者が取り残されて一瞬呆然となるが、「お騒がせしました」と周囲に謝りつつレシートを取ってレジへ。
金額を見て愕然とするものの、財布をカラにしつつも支払い、先行した4人を追って出て行った。

この後、シンがどうなったのかは御想像にお任せする・・・が、『こういう店には、もう二度と来るまい』と、シンは堅く心に誓ったらしい。

そして、アムステラの前線基地でも。

「貴様ら。事情はともかく、俺の至福の時を邪魔した罪は重いぞ?!」
(ちょ・・・完全に八つ当たりですよ、ソレ。デザート代を返して貰ったのは当たり前としても、そんな理不尽な?!)
「・・・お前達、よくも私に恥をかかせてくれたな?!」
(元々は隊長が「選ぶの面倒だから」って俺達に現地の服を用意させたのが原因でしょ?!)
(大体、アルが「この制服なんか、シャイラ隊長に似合ってるよな?!」とか言うたのが悪かったい・・・思わず萌えて賛成したおいも悪かけど)
「「後で戦闘訓練室に来い!」」

・・・その夜、戦闘訓練室にはシャイラ隊の三馬鹿・・・もとい、エリート三羽烏の悲鳴が響き渡ったという。

参考資料:とーますさんイラスト(下から3枚目)

End