影狼隊徒然記【トラとうわばみの昔語り】前編


〜 ??? 〜

遠のきそうになる意識を無理矢理繋ぎ止めつつ、アルは霞む眼で周囲を見回した・・・その眼に映るは死屍累々・・・そして跋扈する『悪鬼』。
このまま甘美なる忘却の世界へ意識を飛ばしたいという誘惑を振り切って、掠れた声で仲間に声を掛ける。

「・・・みんな、まだいけるか?」
「流石にオイも限界が近いったい・・・」
「そうか。シャイラ様は・・・このままでは不味いな。ここは俺達で支えるしか無い! 持ち堪えるぞ、ガッツ! サイ! ・・・サイ?」
「・・・あかん」沈痛な顔をしたガッツが、眼を見開いたまま硬直しているサイを見て首を振る。

「・・・ぐはっ」またもや響く、断末魔の声。そしてその声をも喰い殺すかの様に響く『悪鬼』の笑い。

カチャカチャと硬質の物体がぶつかり合う音と共に、その『悪鬼』は近付いて来る。
先程の襲来はかろうじて凌いだものの、想像以上の破壊力。「もう次は無い・・・」アルとガッツの顔に絶望の色が刷かれる。

「さっきの話は聞いていたが、まさかここまでとは・・・」「堪らん性格やのぉ・・・」
「・・・あらっ? まだシャイラ少佐は寝てるし、サイはダウンか〜。残念っ!」

桜色に頬を染めた紅毛の『悪鬼』が、2人に微笑みかけつつ酒瓶を掲げた。

「でも、アンタらはまだ大丈夫そうね! 酒ならまだ沢山あるからさ! 遠慮しないでじゃんじゃん空けちゃってよ!」
(「・・・全然大丈夫じゃ無かばい!」「・・・遠慮なんかしてNeeeeッ!」)


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〜 アムステラ基地内通路・・・時は数十分ばかし前に遡る 〜

「おやっ? 珍しいでんなぁ。シャイラはんと三羽烏の皆はん、揃って私服でどこぞへお出かけでっか?」

と、真紅の髪に灰色の瞳をした若者が、朗らかに声を掛けて来た。

「何だ、グラナ中尉か」「おおっと、そういう堅っ苦しい呼び方は無しで頼んますわ」
「実は酒盛りに呼ばれとってのぉ! 暇やったら一緒に来んか?」「酒盛り・・・やっ、チトいや〜な思い出が。で、呼ばれたっちゅうと?」
「先日、ちょっと縁がありまして。影狼隊の慰安会に呼ばれ…」「…ちょっ、ちょっと待ちぃな! 影狼隊にゃあマイザー先輩がおるやろ?!」
「・・・は? イェン少尉の事か?! その彼女に誘われたんだが?」「あんさん達・・・命知らずもえぇとこやな・・・」

一気に蒼褪めた顔になったグラナが、シャイラと三羽烏にイェンの恐怖を語り始める。

「まだワイが新兵の頃、マイザー先輩も同じ隊に居たとよ。ワイより前から軍におったし、ちょい年上やけん、今も『先輩』と呼んどるがな」
「で、あんさん達も知っとると思うけど。あの人、かなり姉御肌な性格やろ? だから当時はえらい世話を焼いて貰うたとよ」

シャイラと三羽烏にも、イェンのそういった性分には思い当たる節があったので、うんうんと頷いて話の続きを促す。

「ほんでまぁ、ある日の事やけど。新兵達の歓迎会しようとかいう話になってな・・・それがその、何つぅかね・・・」
「後から聞いた話やけど、実は古参連中の一部に酔った勢いで色気も満たそうかという、浅ましい下心があったらしいんや」
「でまぁ、マイザー先輩もアレやけど一応はおなごやろ? 当然、真っ先にどんどん酒を勧められとったやけど・・・」

いつもは陽気なグラナが、片手で両こめかみを押さえつつ『話を続けるのが苦痛だ』といった風情で話を進める。

「最初はなぁ。『一杯どうぞ』『じゃあご返杯』の調子で進んどったんやけどな。そやけど、しばらくして皆も異変に気付いたんや・・・」
「マイザー先輩、酔っ払っとる癖に一向に酒を飲むペースが落ちへんのや。それどころか相手した奴の方が先に潰れよる始末でなぁ〜」
「飲むペースが落ちんのはまだしも、その相手にも『気を利かせて』どんどん酒を勧めるけん、酔い潰れる奴が続出や」

「・・・? それの何処がそんなに怖いのだ?」「判っちょらんね、シャイラはん!」悲鳴じみた声でシャイラの疑問を打ち消すグラナ。

「あのな、あの押しの強い『世話焼き』な性格が歯止め無しで暴走しとるんやで? 本人にその気がのうても、強引なのは変わらんって」
「眼が据わったら更に酷くなってなぁ。寝てる奴を叩き起こすわ、吐く奴が出ても『おなか空っぽになったなら、まだ飲めるわね』とか・・・」
「何じゃ、そりゃ・・・」「・・・それはまた。相当酷い話ですね」「マジかよ、おい・・・」
「そういう訳やから、あんさん達も早々に切り上げた方が良いで・・・」「忠告、感謝する」

そう言ってそそくさと立ち去るグラナを見送りつつ、シャイラと三羽烏は顔を見合わせる。

「・・・どげんする?」「だからと言って今更、止める訳にもいきませんしね・・・」「そうだよ、な・・・」
「まぁ、いきなり呑み過ぎなければ大丈夫だろう。酒は程々に抑えて引き上げるタイミングを図ろう」

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「・・・それがこの有様だよ!」脳裏に浮かんだ回想に、セルフツッコミを入れるアル。

まずはシャイラが「口当たりが良いから」と言われて渡されたカクテルの味を気に入ったのか、つい呑み過ぎてコテッと寝てしまう始末。
今にして思えば、あれはどうやら口当たりが良くても、アルコール度数の高いカクテルだった様だ。
次いで三羽烏達も、イェンが盛んに勧めて来る酒を断りきれずに杯を重ね、4〜5杯目辺りでもう、サイの眼が虚ろに。

ただ問題なのは『イェンも彼らに勧めたものを同様に呑んでる』のである。しかも彼らとだけでは無く、影狼隊の連中とも呑み合った上でだ。
そのイェンの背後には、影狼隊の連中の屍(いや、別に死んでないけど)がゴロゴロと・・・って、あれっ?

「な、なぁ・・・そういやバドスのおっさんはどうした?」今気付いた事実が、飲酒刑の執行猶予になる事を期待したアルが尋ねる。
「えっ? あぁ、兄貴ね・・・それならいつも通りよ。あっちの隅っこで酒瓶を山ほど抱え込んでるわ」
「何・・・だと?!」「酒瓶を山ほど・・・やて?!」それを聞いたアルとガッツの顔が引き攣る。
「ん〜っ、そうねぇ。そう言われてみれば、兄貴に酒を独り占めされてるのも癪に障るわね。それじゃっ、行こ行こっ!」

非常に良い笑顔でそう言い放ったイェンは、嫌がるアルとガッツの腕を酔っ払いの怪力で掴み、強引にバドスの処へと向かう。
酔い潰れたシャイラと、ついでにサイからイェンを引き離すのに成功したとはいえ・・・アルとガッツの運命や如何に?!

そのバドスはと言うと。背後には酒瓶の山を確保して、目の前に色々な酒が入った小さなグラスを十数個並べて、悦に入っていた。

「・・・ふむん。こいつもなかなかイケるな。この香りといい、コクといい・・・んむっ?!」が、近付くイェン達を見て目を剥く。
「兄貴〜っ。そっちにも良い酒がありそうじゃない! ・・・どれどれ?」近付いたイェンは早速、グラスの一つを取って酒を飲み干す。

その瞬間。酔っ払ってる癖に今まで元気に動き回っていたイェンの動きが止まる。『何が起きたんだ?』と顔を見合わせるアルとガッツ。
彼らの視線はバドスの背後にある酒瓶に移り・・・なるほど。そこにある蒸留酒は、いずれもアルコール度数の極めて高いものばかり。
アムステラ人である彼らには読めない文字もあったが、その瓶にはラム酒とか、ウォッカとか、テキーラなどのラベルが貼られていた。

「・・・ぷっは〜! きっつぅ〜っ・・・もう一杯!」しかし恐るべし、イェン。すぐにその強烈な刺激から立ち直った。
「もうやらん! おめ〜のペースで飲まれたら、俺の分が無くなる!」と、にべもなく断るバドス。
「ちぇっ。それなら・・・彼らにもこの酒を呑ませたいんだけど、構わないわよね!」
(「構うわ、ボケェェ〜!」「こっちに振るな、アホォォ〜!」「「・・・って、待てよ?」」)

腹の中で罵りの言葉を放つのと同時に、ふと『良い考えが閃いた』アルとガッツが顔を見合わせる。

(「なぁアル・・・流石にこの酒なら酔い潰せるんやないか?」「そうだな。コレを呑ませて潰せば、被害は抑えられる・・・」)

その時、バドスがチョイチョイ、と2人を手招き。そのまま顔を寄せてボソボソと小声で告げる。

「忠告するぜ・・・イェンの奴ァ後2回、変身を残して居る。それがどういう意味だか判るか?」
「・・・何やて?」「まだ先があるって言うのか?!」
「今はまだ『ほろ酔い』だ。次の段階、赤い酔眼の『悪酔い』だとこの3倍は強引になる。最終状態の『酒乱』になったら、俺も止めきれん」

即座に自分達の『閃き』が浅はかだったと気付かされ、愕然とするアルとガッツ。それと同時に手渡されるショットグラス・・・いや? 違う。

「大きかグラスやね…」「…中身も酒じゃないな」「・・・やれやれ。来るのが少し遅かった様だな」彼らの背後から第三の男の声が。
「おやっ、もう仕事は終わったんで?」「隊長ぉ〜。隊長の分もまだまだ残ってますよぉ〜」

気が付くとその場に居たのは、影狼隊の隊長。同じく遅れて到着したルカスは、先に潰れた連中を運び出す作業に黙々と従事している。
その惨状を、軽く肩を竦めて黙殺しつつ隊長は言う。

「バドス。お前、相変わらず自前で酒を持ち込んでるのか。ここへ転属した頃からちっとも変わらんな」
「そりゃあね。普通の酒じゃあ、俺を満足させてくれねぇもんでねぇ〜」
「・・・あっ、それで思い出したけど兄貴。以前から気になってたんだけどさ。何で空軍から影狼隊に移ったの?」

そのイェンの言葉を受けたバドスは、手にしたショットグラスの酒を一息に飲み干してから、こう言った。

「そうさな・・・ありゃあもう、6〜7年ほど前になるのか。『斬空』が開発されて、しばらく経った頃だなぁ・・・」

そんな回想をしつつ、今度は琥珀色の酒が入ったショットグラスを手に取り、まずは香りを楽しむバドス。

「特殊部隊由来の『斬空』は、陸戦機から派生した『羅甲』と違って、始めから『空戦を目的として』造られた機体なのは知ってるな」
「その中でも、空戦機独自の機能を開発する為の試金石として製造されたのが、俺の乗機になった実験機・『禍風』さ。だがなぁ・・・」

「・・・問題は、その『禍風』を乗りこなせるテストパイロットが居なかった事だ」と、バドスの科白を受けた隊長が続ける。
「禍風に搭載してある重力制御装置の操作が非常に困難でな。操縦と重力制御を両立出来るだけの腕を持つ者が居なかった」
「そこで当時、エースパイロットの一人だったバドスの適正を見込んで、テストパイロットになって貰った訳だ・・・それが異動の理由だな」

「へぇ〜、そういう経緯があったんだ」「そりゃ凄かね」「オッサン、やるもんだなぁ」イェン、ガッツ、アルが口々に感心する中で・・・
(「・・・だがよぉ、理由はもう一つあったんだぜ・・・」)バドスは心の中で微苦笑を浮かべていた。
(「『禍風』は操縦者にとっても危険な機体だからよ。そんなのを操縦させて『本物のエース』を失う危険を冒す訳にはいかねぇのさ」)

「・・・そしてあれは、禍風の機動テストも一通り終わった後だったか。お前は図らずも、実戦テストまで満点で済ませてくれたな」
「ハハッ。大袈裟すぎますぜ? ありゃあ高々ヒコーキが十数機と操兵も2〜3機程度でしょうに」
「フッ・・・良く言う。我が騙し技、お前から学んだ処も大なのだぞ」「そりゃ〜、単に隊長の根性が捻くれてるだけでしょうが」

含み笑いしながら酒を呷る隊長とバドスを交互に見つつ、酒を呑むよりも話を聴く方に集中しだしたイェンが地団太を踏む。

「ったくも〜っ! 2人して思い出に浸ってないで、アタシ達にも話して下さいよ!」
「だ、そうだ。期待に応えてやったらどうだ?」「へいへい・・・そんじゃま、そのツイて無ぇ奴らの話だけどよ・・・」


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〜 6年ほど前、とある辺境惑星にあるアムステラ軍前線基地 〜

「・・・フン。他の連中はココで力加減を間違えてるんだな・・・っと!」ガクッ、ギュインッ!!

晴天の下、基地の上空で深緑色の操兵が単機で空を舞っていた。だが、その機動は普通では絶対に有り得ない動きであった。

「・・・音速で飛行中に直角に曲がるだなんて。ここまで出来るとは思いませんでしたよ」モニターを見つつ、呆れた様に作業服の男が言った。
「だが、理論上は可能だったのだろう? あの男にはそれが出来たというだけの事だ」と、隣に居た軍服姿の若者がそれに応える。
「そうは言いますがね。重力制御装置の加減を間違えると、一発でペチャンコですよ? よくもまぁあんな危険な機動を・・・」
「奴は己の腕を信じている。そしてあの機体と、整備したお前達の事もな。その信頼に身を任せて操縦してるのさ」
「そんな理由で?! ・・・まるで博打じゃないですか!」「エースパイロットというのは、一流の賭博師でもあるからな」

彼らがそんな会話をしている間も、その操兵は縦横に空を切り裂いていた。

「それにしても、最大爆装だというのにあれだけ軽快に動けるのは流石だな」
「えぇ。あの状態でも、脚部ブースターの性能だけで最大戦速を叩き出せますからねぇ」「・・・ほぅ」
「重力制御装置だって、重量級の操兵・・・そうですねぇ。例えば『吾亦紅』辺りでも1〜2機程度は掴んで飛べるんじゃないですかね」
「・・・主に帝都でのみ配備されている最新機種というのに、良く知ってるな」「えぇまぁ。この部隊に居るが故の習い性って奴です」

「・・・むっ?!」突然、軍服の若者が雑音の聞こえた通信装置に注意を向け、即座に広域モニターを操作して状況を把握する。

「若隊長? どうしました?!」「これは敵だな。どうやら、基地へ物資を運ぶ輸送機が狙われた様だ」「何ですって?!」

『隊長』と呼ばれた若者は、驚く整備士にはそれ以上構わず、基地内通信でこの基地の司令官を呼び出してこう告げる。

「輸送機を襲撃する敵性勢力を発見した。だが、これは我が影狼隊で対処する。基地の部隊は臨戦態勢のまま待機させてくれ」

それだけ伝えると、今度は外部通信へと切り替える。

「そちらでも状況は確認できたな? バドス、『禍風』で敵性勢力の撃退を命じる。その機体性能なら、単機でも強襲は可能な筈だ」
「了解・・・やれやれ、ツイて無ぇ〜。ほんっと、ツイて無ぇ奴等・・・」そんなボヤキ節と共に通信が切れ、禍風は空の彼方へと消えた。

「『ツイて無ぇ〜』・・・ってちょっと! 本当に大丈夫なんですか、あの男?!」
「・・・フフッ、大丈夫さ。奴は本気で手柄を独り占めする気らしい。だからツイて無い『奴等』と言ってたろう?」

そんな会話を知ってか知らずか。禍風のコックピットに居るバドスは独り言を呟いていた。

「輸送機を襲撃してる連中は、まず飛行機が主だろうな・・・後は空戦操兵が数機ってとこか? だが、そっちはそう多くないだろうさ」
「操兵がマトモに空飛びゃ、飛行機が勝るのは速度だけになってくるがよ・・・それもコイツに掛かりゃ、ご愁傷様って奴だよなぁ〜」

そう。そもそも、操兵などの人間型機動兵器の形状では、宇宙ならともかく大気圏内を飛ぶのは難しい事である。まして空戦など言うに及ばず。
しかしその概念を変えたのが、機体周囲の空間に干渉して機動時の重圧を緩和・相殺する重力制御装置及び、その簡易版の重力緩和装置。
これらの装置により、航空力学的に不合理な形状である人型機体ですら、高速で飛行出来る様になったのである。

「おー、見えてきたきた。2機の空戦操兵で輸送機の着地を誘導、他の戦闘機編隊は威嚇ってとこかい? ・・・そんじゃま」

そう言うなり、音速を突破する禍風。そのまま輸送機の前方を横切る事で、2機の操兵へ超音速によって発生する衝撃波が叩き付けられる。
その突発的な衝撃波(ソニックブーム)は重力緩和装置でも吸収しきれず、操兵達は体勢を崩す。

「んでまぁ、コイツがトドメだ」一気に通り抜けた後、禍風は減速して浮遊砲台(リモートビット)を放出し、巡航速度で離脱する。

禍風が飛び去った背後では、輸送機の前方に居た操兵達が成す術も無く、浮遊砲台の砲撃を受けて墜落してゆく。
その電光石火の早業に、略奪は失敗したと悟る戦闘機群。だが、無防備に背を向けて悠々と飛び去る単機を逃す気は無い。

「・・・おーおー、カモの群れがおいでなすった。で、ミサイル発射と。うん、定石。定石」

背後から十数発のミサイル群に追われながら、呑気に呟くバドス。

「忌影みてぇな機動が出来りゃ、振り切りながら迎撃も出来るがよぉ。俺はもーちょい楽をさせて貰うか・・・よっと!」

その言葉と共に。禍風は信じられない機動を行った。何と『後方に向けて超音速で』進路を取ったのである!
そのまま禍風へ向かうミサイル群の隙間へと突っ込み、 ミサイルの方向転換や、近接信管の作動をも許さぬ速度ですり抜ける。
『・・・そんな馬鹿な!』これが、禍風を追う戦闘機乗りが抱いた感想であった。追っていた奴がそのままの体勢で逆走してくるとは!

「ほーら。カモ射ち一丁上がりっ、と」ソニックブームで乱れた戦闘機群の中央で『並んで飛行しながら』左右に居る戦闘機を撃墜する禍風。

戦闘機には構造上、真横に対する兵装というものが無い。そんな余剰なものを付ける位なら、速度を調整して正面に敵を捉えれば良いのだから。
ところが、禍風は戦闘機に勝る速度で並走できる上、腕を動かす事で横方向への攻撃手段を持つ。故に、この後の展開は一方的だった。

「敵さんは全機撃墜した。これより帰還するぜぇ〜」「了解。ご苦労だった」


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「・・・っとまぁ。それ以来だな、俺が禍風を愛機にしてんのはよ。っつーか、俺もかねてから疑問があるんだけどよぉ?」
「へぇっ? 何よ」
「禍風も初期の頃よりは操作性が向上したのになぁ? 何で俺以外の乗り手が出ねーんだ?」
「・・・バドス、それは本気で言ってるのか?」「あのねぇ・・・そんなの出る訳無いじゃない」

バドスの疑問に、即座に総ツッコミが入る。答える元気が無いアルとガッツの顔にも、『お前は何を言っているんだ』という表情が浮かぶ。

「お、おいぃっ?! おめーら揃って何よ? その反応は」
「お前が最初に言った通り、禍風は『実験機』だからな。我が影狼隊でならともかく、実戦で使える局面が限られるのは仕方あるまい?」
「数ば揃えても、あんまし役に立たんけん・・・」「習熟期間の割には、どうにも使い道がなぁ・・・」
「つまり中途半端っていうか・・・変?」
「おっ、お前らぁぁぁ〜〜〜ッ!!!」

皆からのあんまりな返答に、ヤケ酒を数杯かっ喰らうバドス。

「・・・えぇクソッ! 話変えるぞっ!」「だっ、だったらそうだな! イェン、あんた何で空戦がそんなに上手くなったんだ?」

バドスの話題替え提案を受けて、即座にアルが反応する。今の回想中、イェンが一度も酒を勧めなかった事に気付いたのだ。
ならば話を振り続けて居れば、いずれは酔いも醒めるというもの。今はそれに賭けるしかない!

「・・・えっ、今度はアタシ? う〜ん、どこから話したものかしらね・・・」


TO BE CONTINUED・・・