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インド英雄伝説2 2エピローグ  『ガンダーラ千年祭』


1・フェミリアとアンドレの答え合わせ

「さぁて、答え合わせといきましょうかねえ」

演習が終わり1時間後、食事休憩を終えたフェミリア達は約束通り答え合わせをする。

「ではフェミー、レディーファーストです。先にドゥー(君)から答えてもらいましょう」
「ええ、でも大体はわかっているんでしょ?」
「ウィ、放水以外の外からは見えない推力が存在していたのですね」
「正解、じゃあ実際に見てもらうわね」

アンドレをPG隊の搬入口に案内する。そこでは、整備長であるマニ・バーシャの
指揮で先程の演習の後片付けが行われている最中だった。

「マニ整備長、私の機体の両腕は?」
「ヂョードザッギガイジュウジダ(丁度さっき回収した)」
「見させてもらうわね」

搬入口からしばらく歩くと安置された両腕を発見。近づくと掌の構造がはっきりと確認できた。

「ほら、放水口に囲われてもう一つ穴があるでしょ?ここからの噴射に精神感応を使っているのよ」
「ほうビットシステムの応用ですか」

アンドレの言葉は言い得て妙だった。
ビットというのは本体から切り離した兵器を遠隔操作で操るシステム。
本体のそれとビットを同時にかつ別々に操作する必要から殆どの場合において
精神感応力を必要とするが、上手く操れば広範囲に変幻自在の可能とする。
対してラクシュミーΩのそれは精神感応による推力を本体に装着したものと言える。
(この説明で分からなかった人は『巨大な牌ビットに両足に乗せ水の上を歩く雀王機』を想像してください)


「では次は私の番ですね。フェミー、私がどうやってドゥー(君)のフェイントを
見切ったのか…、やはり実際に見てもらった方がいいでしょうね」

そう言い、今度はアンドレがフェミリアの前を歩く。
移動する事数分、飛鮫騎士団用に割かれたスペースに右足を接続する為に倒された
状態でグラニMが置かれてあった。

「アッキュエル(ようこそ)我がコックピットへ、整備士以外ではこの中に案内するのは
ドゥー(君)が初めてですよ」
「…はふ」

アンドレのグラニMの中に入ったフェミリアはその内装に驚愕し思わずため息をつく。
外装と裏切らず使っている計器のきらびやかである事は想定の範囲であった。
驚愕に値するのはその数である。操作に使うべきレバーやハンドルこそ他の量産機と
変わらないが、コックピットの正面にこれでもかというほどの液晶が埋め込まれて
いたのである。

「これが熱源探知センサー、そちらのが潜水中に使うソナー計器、そしてこれが
振動探知の―」
「凄い数と種類のセンサー類ね」
「ええ〜、なっ・んっ・せ!このアンドレはフランス一の空軍のコマンダン(指揮官)
でありながらグラニMの特性上、時としてフランス一の地上戦及び水中戦の
コマンダン(指揮官)でもなければならないのです。最大にして最高の部隊の全位置を
把握するのには最高の指揮官機が必要なのですよ」

自慢げに、本当に自慢げにアンドレは語る。確かにレーダー機器に関しては
オリジナルのグラニに匹敵するか超えているのかもしれないとフェミリアは思った。

「普段からこれ全部見て戦ってるの?」
「そんな面倒な事するわけないでしょう。アンドレがいつも使っている
のはこの正面のレーダーだけですよ」

座席の正面に位置する液晶画面は他のモニターよりひときわ大きく、これこそが
この、コクピットのメインセンサーだと主張していた。

「この画面にはですねぇ、他のセンサーで得た位置関係情報を統合したものが表示
されるんですよ。フェミー、ドゥー(君)のフェイントは初心者にしては素晴らしいもの
だった。しかし、我らが戦うべき敵アムステラには貴方以上のレベルの、それこそ
蝶の様に空を舞い全ての攻撃を避ける奴もいます。ドゥー(君)程度のフェイントが
見きれない様だったらこのセンサーには頼る価値など無いという事です」

ああ、とフェミリアは納得した。アンドレは自分の目でフェイントを見きったわけでは
なかったのだ。寧ろ己の目には一切頼らず、機体の性能で動きを追ったのだろう。
こちらのパターンを掴むまで耐える空戦型にしては頑丈な装甲とフェイントを
読み切る高性能のセンサー、それに加え最後に見せたナイフを構えてからの反応速度。
どうやら見た目以上に機体への労力の差があったようだ。
彼が勝ったのは自分以上に『努力』をしてきたからに他ならない。
彼は己の立場を最大限に利用し、常に最高のパフォーマンスを自らの機体に与えて来たのだろう。

(ぶっちゃけると『敵の中ボスとかで見るからにかませで能力低くても
HPと命中だけはやたら高い奴いるよねー』現象です)


「はあ、これじゃあ勝てないわけね」
「納得していただけましたか。それじゃあ予算の話に取りかかりましょうか。
約束通り融資からは―」
「待ってアンドレ」
「そちらも善戦しましたが約束は約束ですよ」
「約束を違える気はないわ。ただ、融資の中止についてもっといい方法を提案したいのよ」

フェミリアは鞄から数枚の書類を取り出す。
一番上の紙にはフェミリアの名前と実印、そして契約事項についての概要が書かれてある。

「アンドレ、ここに貴方の名前を書けば簡単に契約は成立するわ。
この契約により私の全財産は二人の共有のものとなり、贈与のさいに税金が発生する事も
なくなるの」

アンドレは書類に目を通す。確かにこの書類の文面に従うならアンドレはこれに
サインをするだけでフェミリアにこれまで行った融資を止める事も
全額取り戻す事もできる。だが、アンドレは目を通すだけでいつまでもサインをしようとはしない。

「アンドレどうしたの?この契約で貴方が損する事は何もないじゃない。
貴方ほどの人がみすみすこのチャンスを逃すというの?」
「フェミリア、確認していいですか」
「何?」
「この書類、婚姻届ですよね?」
「うん」「そぉい!」

フェミリアが首を縦に振ってからコンマ二秒で書類を縦に割くアンドレ。

「あ、あぶねぇーっ!危うく結婚する所でしたっ」
「ちょっと!その態度は無いんじゃないの。私の何がいけないって言うのよ」
「とりあえず時と場所が非常に悪いです!コックピットの外には人がいるのに
こんなプライベートな話はできません」

ハッチを開け、アンドレは逃げるようにコックピットを飛びだ―せなかった。
出入り口の目の前、グラニMの腹の部分にピンク色の防護服に全身を包んだ人物が
とうせんぼするように立っていた。

「あっちゃー、中に人が居ましたかー」
「スガタさんその格好どうしたの?」

後ろからのフェミリアの言葉でアンドレは目の前のピンクのモコモコがPG隊
現隊長のオードリー・スガタだと知った。

「ついさっきですねー、切れた足の溶接を始めちゃったんですよー。
ほら、向こうで音がしますよねー」

スガタに言われ耳を澄ますと確かに溶接の音が聞こえ、僅かながら熱も伝わって来る。
目を凝らすと足の辺りでピンクのモコモコ2号が溶接器具を持ち作業を続けている。
スガタはモコモコ2号に向かい手を振り、声をかけて状況を伝える。

「フラグマン中尉ー、中に人いましたー。中止できますかー?」
「今やめると足が曲がってくっついてしまいます、中止出来ないので
終わるまで待ってもらってください」
「だそうですー。申し訳ありませんが危険なので終わるまでコックピットで
待っていてくださいねー。幸い切断面がきれいだから30分もあれば終わりますよー」
「お、おいちょっと待て。私は外に出たいんですよ、と言うかフラグマン中尉何やって」
「では、若いお二人でごゆっくり」

ぐいぐいと押しこまれコックピットに戻される。開いたハッチはモコモコの手で閉じられ
その上にドスンと腰を下ろす音。溶接が終わるまでは二度とここは開かない。


「お帰り」
「フェミリア、嵌めましたね」
「本当は勝ち負けに関係なくラクシュミーΩのコックピットで仕掛ける予定
だったんだけどね。フラグマン中尉が良いタイミングで来てくれたから」

そう言いながらフェミリアは服を脱ぎ始める。

「…ッ、フェミリアっ何を」
「見れば分かるでしょ、時間も出来たし体の相性を確かめるのよ」

下着一枚を残したフェミリアの体がアンドレの目の前に映しだされる。

28年間誰も犯さず誰にも犯されず、ガンダーラに純潔を捧げる予定だった肉体。
残念ながら最愛のガンダーラは他の女(サティ)とくっついてしまい、
行き場を失った体はスガタの助言によって婚活へと走った。
しかし、戸籍上は女だが肉体は男性であるフェミリアと結婚したいという人物は中々
見つからなかった。
独身のまま20代を終えるのかと悲観に暮れていたその時、融資の話で久しぶりに
アンドレから連絡が来てこれがラストチャンスだと思ったのも無理は無い。

「ねえアンドレ、貴方は私の事を女として見てくれていたわよね。今もそう思ってる?」

にじりよるフェミリアに対し首をブンブンと縦に振って肯定するアンドレ。

「アンドレは私の体嫌い?この体を見て欲情できない?」
「嫌いじゃありませんよ。欲情できますとも」

フェミリアを否定しなかったのはハッチ越しにスガタが控えているからではない。
事実、フェミリアの裸体はアンドレにとってドストライクだった。
髪留が外され腰まで下ろされた黒髪、男性的な広い肩幅を目立たせない様に大きく
膨らませた胸、肉感的な太もも、無駄毛一本生えていない滑らかな手足、
その全てがアンドレの性を刺激してくる。ここでフェミリアを受け入れるのは
自分にとって良くない事だと分かっていても否定できない魅力がそこにあった。

アンドレは思いだす、フェミリアに社交界での生き方を教えたのは自分の父ヴァルル。
ならば、フェミリアが完全に自分好みの淑女に育つのは寧ろ必然である事。
目の前の逆らい難い魅力的な体に対し、アンドレはそれでも自らに宿る損得センサーを
フル稼働させ踏みとどまろうとする。既にパンティ一枚のフェミリアは自分に
もたれ掛かってきて手を出せば唇に触れるぐらいの距離にまで来ている。
不味い、とにかく不味い。何とかして自分とフェミリアを鎮める手段を今すぐに
考えないとなし崩しに結婚させられる。

「マ、マハンに怒られますよっ!こんな無理やりに事を運んでは!」

咄嗟にでた名前を聞きぴたりとフェミリアの動きが止まる。
フェミリアをフェミーと呼ぶように、マハンというのはフランス風に呼び直した
アンドレによるあだ名である。
ボン・マッハとネール・マッハ、フェミリアに精神感応の修行をつけた親子であり、
彼らもまたアンドレとは多少の付き合いがあった。
特にネール・マッハはアンドレと年が近い事もありあだ名で呼ぶ程度には親しくなっていた。

ヴァルルがフランスを出たのとほぼ同時期に消息不明となった彼女の名を出すと、
やはり思う事が色々あるのかフェミリアは恥ずかしげに俯いていそいそと服を着た。

「アンドレ、ごめんなさい。私どうかしていた」
「分かってくれればいいんですよ、ドゥー(君)とは友達でいたいですから」
「ネールか…、彼女が生きているとしたら今どうしてるだろうね」
「どこにいるにしろガンダーラが動いている事を喜んでるんじゃないですかぁ?
ドゥー(君)に負けず劣らずガンダーラしか目に入らない娘でしたからねぇ。
当時いたいけなエンファント(子供)だったこのアンドレの口説きがまるで通じない程にねぇ」
「それは単純にアンドレに魅力を感じなかったからだと思うわよ」
「言いますねえ」
「うふふ」

それから30分、二人は一切の打算も無く童心に帰り昔の事を色々と語りあった。

「…家財も使用人も失ったその貴族のみじめさと言ったら!!」
「今のお勧めはレゼルヴェの国債ね。一見ハイリスクだけどほぼ確実に短期間のリターンが予想されるわ」

こらお前ら、本心から他人を見下すのとか金策が好きなのか。
せっかく地の文で良い話にしようとしてるんだし、そこはもっとこう家族の話とか
仲間の話しとけよ。

溶接が終わりハッチが開けられた時、スガタが見た二人は妙にスッキリした顔をしていた。

「フェミリアさん…やる事やったんですか?」
「うん、久方ぶりに出すもの出したって所ね」
「フェミー!!誤解を招く事言わないでください!」

今日ここでフェミリアと話ができた事、そして戦いを通じてお互いの近況を僅かながら
理解出来た事それだけでも今回の演習の価値は十分にあったとアンドレは感じ、

「すみません、団長が中にいたとは知らず溶接を始めてしまって…。
ところでどうしてフェミリアさんと一緒にこんな所に?」

モコモコ姿のまま頭を下げるフラグマンを思いっきり殴りつけながら戻っていった。

後日、約束通りアンドレのPG隊に対する融資は止められ、その代わりに一枚の
書状が送られてきた。

『PG隊諸君へ
諸君の先日の戦いは後方支援隊とは思えぬ程に見事であった。
諸君らの奮戦に敬意を表し飛鮫騎士団は諸君らを対等の関係として扱いたい。
なので我らに依存せず自分達で使うものは自分達で買ってもらいたい。
今後は、この書状により貸し借り無しでの我等の友好を示す。
飛鮫騎士団 団長アンドレ・ボンヴジュターヌより信愛を込めて』

カレーピラフは今も食堂のメニューにある。
結局あの勝負はアンドレとフェミリアどっちがここの金を出すかというだけのもの
だったと隊員が知ったのは友好の書状が隊内に貼りだされてからの事だった。


2.適材適所

フラグマンは修理の終わったグラニMを見上げる。
アンドレのゴールドフレームもバガーノ兄妹のも完全な状態で修理され、いよいよ残すは
自分の下半身がバラバラになった機体だ。

「フラグマン中尉、コレ多分最後のパーツっす」
「凄いな、まさかこんなに早く全部揃えるなんて」

演習地に拡散したフラグマン機のパーツを拾ってきたアナンドに対し
素直に感心し感謝するフラグマン。彼の経験上からもこの速さは異例の事だった。

「確か、アナンド君だったかな?君にはいくら感謝しても足りないな」
「いやー、それほどでも…あるかもしれませんね」

演習後バラバラになったフラグマン機の下半身は10以上のパーツに別れ湖底に
沈んでしまい、パーツ不足で修理不能になると思われていた。
帰国予定の明日の朝までに湖底に散らばったパーツをサルベージするなんて
とても無理な話である。だが、全ての下半身パーツはアナンドの乗るピンクガネーシャ
によってまるで落ちた場所が分かっているかのようにいとも簡単に引き上げられた。

「何でか知らないけれど俺昔っから落し物とかよく拾うんですよ。
このバクシーシ的な運と頑丈な体が俺のとりえでして」
「健康と運、何とも羨ましいな。せめて自分にも君の半分はそれがあればいいんだが」
「フラグマン中尉も大変なんですね」
「ちょっと聞いてくれるかい?」
「俺でよければ」

後日アナンドはいい社会勉強をしたとこの日の事を振り返る。
この時彼は中間管理職の愚痴の長さなんて考えもしていなかったのだ。

「思い返せば飛鮫騎士団に入る前から碌なことが無かった」
「ほうほう」

二人で機体の修理をしながらアナンドはフラグマンの愚痴の相手をする。

「昔の俺は長い下働きの経験から、新人の研修に立ちあう事が多かったんだが
新人というのは常識知らずばかりで手を焼いた。中でも一番酷かったのは
今から5〜6年前の奴だ」
「ふんふん」
「その新人は何と言うか軍人として以前に人として色々とおかしい、
まあぶっちゃけて言えば変人でな」


「その後輩、どこでどう噂が流れ俺が陰口を叩いた事を知れ渡るフラグがあるか
わからんから仮名で言う事にしよう。そのG君は俺が知る中でもぶっちぎり最低最悪の
変態だった。俺が個人的に彼が気に入らないとかじゃなく良く採用試験通ったものだと
いうレベルの変態、老若男女が認める問題児だった」
「ふんふん」

(1時間経過)

「で、その男は今もまだ生きて軍人をしているんだよ。信じられるか?」
「へーへー」
「上司に受けがいいわけでなし、実力があるわけでも無し、セクハラの件数数知れず、
当然戦場では団体行動も取れない。仮に各国の男子パイロットを集めて女湯を覗く
ミッションを行った場合、命令無視して暴走しようとしたところを殴り倒されそうな
彼は未だ戦死もせずクビにもならずのうのうと生き続けている」
「みゅーみゅー」

飽きた。流石に1時間も同じ人物についての話をされると飽きるというものだ。
ループするうんざりする話に相槌を適当に返し修理の最後の仕上げをする。
グラニM用の補修材がここには無い為、ツギハギ部分が丸出しで一発被弾すれば
またバラバラになりそうな状態だが帰国する分には十分な仕上がりと言える。
少なくともアナンドが直せる分は全てやった。

「フラグマン中尉、終わったっすよ」
「ああ。でG君のその後だがとあるテスト部隊に実験動物代わりに…」

不味い、話が終わらない。もうG君の話が嫌になっていたアナンドは何とか逃げ出そうと
口実を考えるが、今日のアナンドは修理が終わり次第自由時間だという事はフラグマンも
知っている。アナンドはただバクシーシするしかなかった。

(神さま仏さまガンダーラさま、俺をここから脱出させて―)

「ナンダゴノデキドーナンバ!(何だこの適当なんは!)」

救いの神は整備長マニ・バーシャの姿で降臨した。

「オレガヤリナオズガラデデゲ(俺がやり直すから出てけ)」
「あ、はいスンマセン。じゃっフラグマン中尉、俺はこれで」
「ああ…、アナンド君すまないな修理だけでなく愚痴にも付き合ってもらって」

第三者が来た事で冷静になり自分のやっていた事に気付いたのだろうか、
フラグマンはバツが悪そうな顔をして自分がアナンドを引きとめていた事を詫びる。
アナンドはフラグマンに礼を返し出ていった。

「いや、格好悪い所を見られてしまいましたね。若者に愚痴を聞かせて引かれてしまうなんて」
「ヒヒヒ、ドジドリャミンナゾーナル(年をとりゃあみんなそうなる)」

マニは人型機体修理用の工具を取り出しアナンドの補修した部位を点検していく。
どうやら彼はアナンドを助けに来たのではなく、本当に修理の確認にきたのだと
フラグマンは気付く。

「オンガグガゲデイイガ(音楽かけていいか)?」
「どうぞ」

マニは一旦機体から離れ、倉庫内のスピーカーのスイッチを押しに行く。
スイッチがオンになると同時にフラグマンの耳に聞きなれた曲が聞こえて来た。

「『仏心(ほとけこころ)』ですね。フェミリア・ハーゼンが軍人になる前に
歌っていた曲の一つだ。いやあ懐かしい」
「オメエモズキガ(お前も好きか)」
「はい、今日出会った凛々しい彼女も素敵でしたが慰安歌手として軍に歌を
届けていた頃の彼女は最高ですよ。『夢見る聖女じゃいられない』や『タージマハル心中』
『彼女と私の寺院』も良い歌でしたよね。部下や上司の手前、普通に接していました
けれどサイン貰っとけば良かった」
「オメエドバイイザゲガノメゾウダゼ(お前とは良い酒が飲めそうだぜ)」

地球連合にまだ3型すらなく人類が羅甲に対して負けの歴史を歩み続けていた頃、
聖女を目指していたフェミリアは自己の人気を高めるが為にこの状況を利用した。
勝ち目の無い戦いに赴く兵士達を対象とした慰安の歌を出し、時代のニーズに
マッチしたそれらの歌は当時の軍人達の間でかなりのヒットを飛ばしたのだ。
これもまたフェミリアのあまり思い出したくない過去の一つである。

ちなみにフェミリアが自分の性別を公式にカミングアウトした時一般人や
30歳以下の軍人の反応は「ふーん」という程度だったが、直撃世代には
それなりのショックを与え、そして特に大ダメージを負った二人がいた。

軍曹時代、山ほどの死亡フラグを彼女の歌で乗りきっていたフラグマンは
男だったと知った瞬間血を吐き、奥さんに内緒でフェミリア公認のファンサイトまで
立ちあげていたマニはショックで血涙を流しながらパソコンを窓から投げ捨てた。

その日、フェミリアファンクラブ会員ナンバー一桁同士の会話は非常に弾み、
マニは喉の痛みも忘れ久方ぶりに長時間喋り続けた。


3.祭りの中で

ガンダーラ千年祭。
インド辺境のとある寺院で数十年前から行われている御神体の誕生後1000年を
祝う祭り。なんせ場所が場所でマイナーだっただけにいつ1000年目に到達したかが
あやふやだった為、僧達の小銭稼ぎ目的を伴い毎年細々と行われていたそれは
ガンダーラの目覚めによって結構メジャーな祭りとなった。
同時に、ガンダーラが目覚めた年をちょうど1000年目って事にしとけという流れになり、
また、来年以降も千年祭という名目で毎年やっていこうという取り決めになった。

そんなわけでPG隊基地の近辺でも夜になるとガンダーラ千年祭りの名目で
様々な出店が開かれていた。

PG隊に入る前は針金細工の販売や大道芸で参加経験のあるアナンドは、
客として来て見るとまた随分違うもんだと気付く。
正隊員になった後の初任給も入った事だし仕事も終わった。
今日はここでパーッと散財して行こうと出店を見まわすと的当て屋の方で
素っ頓狂な声を上げる金髪の二人が見えた。バガーノ兄妹である。

「お兄、パジェロ!パジェロ!」
「うおおおおー!」

レックスの投げるゴムボールはゆっくりと山なりに飛び、的からかなり離れた地点に
落ちた。

「「おっしーい!」」
「いや、全然惜しくねーよ。つーか現役の軍人がその遠投能力ってのはどうなんだと」

思わずツッコまずには居られなかった。
当然二人には気付かれ、レナスは後ろから声を掛けたのが演習で自分達の相手になった
内の一人である事を知ると途端に顔を膨らませ文句を言ってきた。

「突然失礼ですわよ、このチビゴリラ。庶民なら私達に敬語で話しかけなさい」
「あん?誰がゴリラだ」
「PG隊も大変ですわねえ、下水工事や町の見回りだけでなくゴリラの餌やりまで
やらなきゃならないなんて」
「やめろよレナス」

ゴムボール全部を的に届かせずに消費し終えたレックスがレナスに注意する。

「妹が失礼な事を言ってすまないね。まぁ軍人同士仲良くしようか。
俺はフランス空軍の英雄バガーノ男爵の息子で将来は順調に行けば
アンドレ様の右腕になる予定だけどオフの間は敬語とか無しで話してくれよ」
「お兄、今日の演習中泣きながら軍辞めるって言ってませんでしたっけ?」
「な、何言ってるんだレナス?今日の勝負で最高の戦果を出した俺がやめるわけないだろ?」

確かに結果を見ればラクシュミーΩから逃れ2機のPGを撃破し妹の盾となった
レックスは良く働いた様に見える。そして戦闘経験の乏しいアナンドには彼の実力の
真贋を見極める事など出来なかった。
ひょっとしたらこの男ボンクラのフリをした大物なのかもしれない。
もちろん本当にボンクラかもしれない。

「まあ、そんなわけでヨロシク。妹は口が悪いが照れているだけだから」
「お兄!私はお兄と違って庶民に媚びる気はありませんわよ」
「ほら庶民の食べ物じゃがバターだぞ」
「はぁう!」

ここに来るまでにどこかの出店で買ったものなのだろう。
じゃがバターの欠片が刺さったフォークを口に入れられた途端、レナスの目が
トロンとなり恍惚の微笑みを浮かべる。

「と、トレビア〜ンですわ〜」

頬をとろけさせヨダレを流し感嘆するレナスを見てアナンドは思った。
ジャガイモ食べて大人しくなるお前の方がよっぽどゴリラに近いんじゃないかと。

こうして今日もインドの夜は更けていく。そしてまた朝を迎えるのである。
インドの歴史がまた一ページ。


インド英雄伝説2・完